私の問題意識〜内閣法制局という役所に目を

   西川伸一  * 『QUEST』第1号(1995年5月)掲載

 昨年話題となった経済小説に榊東行『三本の矢』(早川書房)がある。大蔵省を舞台に政官財の「鉄の三角形」がサスペンス仕立てで描かれ、読む者を飽きさせない。「さかき・とうこう」とはもちろんペンネームで、筆者は大蔵省の現役キャリア官僚。彼は準主人公のエリート官僚に次のように語らせている。

 「交通事故で毎年何人の方が亡くなられるか、君は知っているか?・・日本だけで年一万人くらいだ。・・殺人や災害と違って・・車による通行を明日からいっさい禁じれば、交通事故は簡単に根絶できる。」(同書下巻、303-304頁)

 「明日から全面禁止」はともかく、この状況を変えるにはどうすればいいのか。クルマを大胆に規制する政策を行うことだ。そして、政策は法律にすることで効き目をもつ。「自粛」ではたかがしれていよう。

 問題は法律づくりである。現在1700本近い法律がわが国に存在している。これら既存の法律と矛盾せずに作成することなど、とても素人の手に負えない。内閣法制局や議院法制局という法のプロに頼ることになる。

 とくに内閣法制局は各省庁が起草する法案をすべて審査する。承認されなければ、法案は先に進まない。政策展開において拒否権を握っているといっていい。

 「内閣法制局──一般にはほとんど知られていない小さな政府機関であるが、その役割・権限は絶大である。・・政策立案の季節になると、主計官僚は法制局に出向き・・政策や法案を通してもらおうとする。」(同書下巻、96頁)

 現状の打開を具体的につめていくといかなるハードルがあるのか。それを知る必要を私は強く感じている。


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