シェフィールド便り(2)市内の公共交通事情

   西川伸一  * 投書で闘う人々の会『語るシス』第2号(1998年8月)掲載

 私はクルマを運転しない。免許がないから運転できないし、また免許をとる意思もない。というわけで、公共交通機関のお世話になることになる。イギリスもクルマ社会で、テレビをつければクルマのCMばかり。とはいえ、どっこい公共交通機関もがんばってるな、というのがシェフィールドに暮らして4カ月の感想である。

 市内の公共交通機関には、トラム(TRAM;路面電車)と路線バスの二つがある。鉄道もあるが駅間が長く、料金も高いため、日常的な近距離頻繁移動の手段には使われていないようだ。

 さて、シェフィールドのトラムは正しくはスーパートラムという。なぜ「スーパー」かというと、第二次大戦前からあったトラムが1960年に廃止され、94年3月に復活したためである。1930年代から50年代まで、市内にはトラム網がはりめぐらされていた。しかし、1951年に市議会がトラムからバスへの漸次転換を決め、9年後に全廃されてしまった。

 残念ながら、この復活の経緯については、手元に資料がない。いずれにせよ、現在ではスーパートラムが3系統で活躍している。路面電車が街中を走ってる風景が私は好きだ。ちなみに、シェフィールドから急行列車で西へ1時間ほどのマンチェスターにもメトロリンク(METROLINK)という名の新型の路面電車が運行されている。路面電車再評価の流れの現れか。

 次にバスであるが、これは驚くほど系統数が多い。100以上は優にあろう。もちろん頻度は系統ごとにまちまちだが、私が市中心部に出るのに利用するものは日中10分おき、大学から市中心部へは日中「EVERY FEW MINITES」と便利がいい。料金は乗車時に運転手に行き先を告げ前払いで支払う。私の場合、市中心部へは10分ほどの乗車で70ペンス(約170円)である。日本と同様に、自分が降りるバス停に近づいたらボタンを押すシステムだが、「次は○○」式の車内アナウンスはない。静かでいい。が、はじめていく場所には困ってしまう。目的地に着いたら知らせてくれるよう、運転手に頼むしかない。

 列車もそうだが、バスもまず確実に座れる。人が立っているバスを見つけるのがむつかしいくらいだ。むしろ、ガラガラのバスをよく見かけるので、これで経営は大丈夫なのか、と余計な心配をしてしまう。あるイギリス人の話だと、こちらでは着席輸送が当たり前で、立たせたまま乗客を運ぶという発想がないのだそうだ。バスが2階建てなのもこれでわかった気がした。いかに大勢を詰め込むか、ではなく、いかに多くの人々を座らせるか、なのである。バスのみならず、トラムも列車も、日本の通勤電車のようなロングシートやつり革(つまり、詰め込み大量輸送を前提としたもの)は、ドア付近に少しみられる程度である。

 ところで、日常の買い物は郊外の大型スーパーで済ませている。そこまでは、そのスーパーが走らせている無料巡回バスを利用している。乗客はもちろんクルマの運転ができない人々で、小さな子連れのお母さんやお年寄りが主である。巡回路線にはRESIDENTIAL CARE HOME(あえて訳せば「老人ホーム」か)が多いため、さながらシルバーバスのようだ。

 それにあわせてバスも低床式になっている。私にとって、ベビーカーでそのまま乗り込めるので大いに助かる。通常だと、乗る前に小銭を用意し、赤ん坊を抱き上げ、ベビーカーをたたみ、どっこいしょと乗り込まざるを得ない。これと比べると、なんと快適なことか。

 というわけで、遠距離「痛」勤とは無縁の毎日を送っている。あとは天気と食べ物がもっとなんとかなればなあ。

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