『電車男』を耽読した正月休み・その2

   西川伸一  * 『政経論叢』第73巻 第5・6号(2005年3月)編集後記

今年の正月休みは、「今世紀最強の純愛物語」として爆発的に売れている『電車男』(新潮社)を読んで初笑いを楽しんだ。年齢=彼女いない歴の22歳のオタク青年がインターネットの掲示板に恋の指南を求め、「仲間たち」の熱血(?)指導のもと、ついに彼女をゲットするというストーリー。

掲示板上のことゆえ、「電車男」も「仲間たち」もお互いの本名はおろか、顔や素性も一切わからない。そんな赤の他人のために「仲間たち」が知恵を絞って必死に書き込みをする様が、たまらなくおかしい。そして、彼らは「電車男」のデート結果の書き込みに「キター」とすぐに応じて、「次の一手」をいっしょに考えてやるのである。

書き込み特有の言葉づかいは、辞書がほしくなるほど「進化」している。「濡れ」とは「俺」のこと、「乙」は「お疲れさま」、「もちつけ」は「落ち着け」など。

「互助」の精神といい独自の言語といい、掲示板には固有の文化をもつ「公共空間」がすでに形成されているのではないか。「便所の落書き」との評もあるが、このパワーは軽視できない。インターネットへの情報発信が求められるゆえんだ。

その点で、本誌『政経論叢』はどうであろうか。政治経済学部のホームページをみても、『政経論叢』についての情報はまったく出てこない。大学のホームページに戻って「政経論叢」と検索をかけてみても、ヒットするのは1件だけである。こうして、大学および学部は、本誌についての情報発信をまったくしていないことがわかる。

この状況は放置できない。『政経論叢』は当学部所属の専任教員が最新の研究成果を発表する貴重な場である。しかも、論文は読んでもらうために書くのであるから、できるだけ多くの人びとに本誌の存在を周知することが望ましい。

ちなみに、本学社会科学研究所のホームページは、同研究所の出版刊行物を紹介している。「紀要」をクリックすると、『社会科学研究所紀要』の目次(論題と執筆者名)が現れる。政治経済学部のホームページにもこれに準じたコーナーを開設してはどうか。『政経論叢』に限らず、当学部はさまざまな刊行物を出版している。これらをPRしないのはなんとも歯がゆい。

ゆくゆくは、ホームページ上の『政経論叢』の目次にPDFファイルにした論文全文をリンクさせるようになればすばらしい。論題をみて興味をもった研究者は、ただちに論文を読むことができる。うまくすれば、引用してくれるかもしれない。引用数が増えれば増えるほど、学術雑誌としての本誌の権威は高まる。

このように、『政経論叢』をめぐる電脳環境が、酉年だけに「翔ぶが如く」向上することを期待したい。

2005年1月19日

文責・西川伸一


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