書評・三宅正樹著『ベルリン・ウィーン・東京』(論創社、1999年)

   西川伸一  * 『明治大学広報』1999年8月1日号掲載

 本書は、三宅教授とその門下生が20世紀前半の中欧と東アジアで展開された政治と外交について考察した研究論文集。

 そこに共通する問題意識は、結果のわかっている現在から当時を説明するのではなく、「あのときは違う可能性があったのではないか」と考える姿勢を尊重することであろう。

 こうして、オーストリア・ハンガリーの陸軍参謀総長コンラートが回顧録で吐露したバルカン問題をめぐる苦悩(1章)や、オーストリアの政治家ベルンライターの「中欧」経済同盟構想が与えたインパクト(2・3章)が、鮮やかに私たちに迫ってくる。

 ヒトラーの登場に対する『改造』など日本の論壇の反応(4章)、ヒトラーと折り合い自らの伝統路線を貫こうとしたドイツ外務省の動き(5章)も、「あのとき」に身を置き興味深く記述されている。

 また、ドイツ仲介の日中和平工作の中国側史料全訳(6章)は、「違う可能性」が模索された証拠の貴重な発掘作業といえよう。

 さらに、日独の無条件降伏の過程(7章)は、「無条件」の意味を検討し、三か月の時差が日独降伏の違いを決めるまでを描く。

 歴史的イフに想像力をかき立てられる一書である。


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