HOME > アコーディオンの小部屋 > コンサーティーナ入門 > このページ

KATO Toru's concertina page
コンサーティーナ入門(番外編)

最初の公開2014ー12ー13 最新の更新2015-6-16
2014.12.14のコンサーティーナの体験講座のためのメモ

【注意】コンサーティーナの種類は、さまざまです。種類が違うと、ボタン鍵盤の並べかたも、蛇腹の押し引きのしかたも、弾きやすい曲の種類も、全然変わってしまいます。
 初心者がコンサーティーナを買うときは、楽器店の人に説明してもらうとか、実際にコンサーティーナを弾く人からアドバイスをもらうとかしないと、あとで後悔することになるかもしれません。
コンサーティーナの種類 「イングリッシュ」と「アングロ」が二大派閥
クロマチック
(押し引き同音式)
イングリッシュ・コンサーティーナ
☆デュエット・コンサーティーナ
ダイアトニック
(押し引き異音式)
アングロ(・ジャーマン)・コンサーティーナ
☆ジャーマン・コンサーティーナ
☆バンドネオン(タンゴ・コンサーティーナ)
 比喩的に言うと、長女イングリッシュ、長男ジャーマン、二男バンドネオン、二女アングロ、三女デュエット、……という感じでしょうか。ちなみに、イングリッシュは「英国式」、ジャーマンは「ドイツ式」、アングロは「英国系」という意味です。
 アングロ・コンサーティーナは、もともとの名前は「アングロ・ジャーマン・コンサーティーナ」(英国系ドイツ式コンサーティーナ)でしたが、第一次世界大戦でイギリスとドイツが戦争してから、英語では「ドイツ式」の部分を省略するようになりました。
 バンドネオンは、もともとはコンサーティーナの家族の一員でしたが、アルゼンチン・タンゴの楽器として使われるうちにとても有名になったため、今は「のれんわけ」して、バンドネオンとして独立した楽器と見なされています。

 私(加藤徹)が弾くのは、アングロ・コンサーティーナです。一口に「アングロ」と言っても、さらにいろいろな種類に分かれるので、注意が必要です。
アングロ・コンサーティーナを買うときのチェック・ポイント
【調は?】「C/G調」が標準的です。G/D調など他の調子もあるので、要注意です。
【ボタン数は?】20個…おもちゃ楽器として割り切るなら、とても楽しい楽器です。
30個…半音もカバーしてます。アイリッシュ音楽では30ボタン以上を使います。
40個…半音もカバーしてます。いろいろなジャンルの曲が弾きたければ、おすすめ。
【リード数は?】1枚リードが標準ですが、2枚リードのものもあります。
【ボタン鍵盤の並べかたは?】ホイートストン(Wheatstone)式とジェフリーズ(Jeffries)式、その他の方式があります。
【グレードと価格帯は?】コンサーティーナ・リードを使った高級品か、アコーディオン・リードを流用した廉価版の普及品か、両者の中間であるハイブリッドモデルか。
 私が持っているコンサーティーナは、昔、谷口楽器で買った「バスターリ(ブランド名)のW-40-M(機種名)」です。 これは「40ボタン、C/G調、ホイートストン式ボタン鍵盤配列」の、普及品のアングロ・コンサーティーナです。


アングロ・コンサーティーナ
汎用蛇腹型機動楽器
英系独式双面手風琴
 コンサーティーナの魅力は
「汎用楽器(いろいろとつぶしがきく)」「自己完結楽器」「機動楽器(どこでも弾けて取り回しが楽)」「表情自由楽器(どんな顔でも弾ける)」「独奏可能楽器(ひとりで楽しんでもいいし仲間と遊ぶのにもよい)」 「定音楽器(ドレミファ…の高さが決まっているので簡単)」「持続楽器(音の長さと強弱の変化を調節できる)」
 等の点にある。

★汎用楽器←→専用楽器
 汎用楽器は、つぶしがきく楽器。
 専用楽器は、こだわりが強くてつぶしがきかず、演奏できるシーンが限定されがちな楽器である。例えば、木魚は魅力的な楽器だが、お寺の和尚さんがお経を読みながらポクポクと叩く楽器というイメージが強すぎるため、バンドや楽隊で使われることはめったにない。
 楽器の「汎用性」とは、
性能面メロディーと和声伴奏を同時に演奏できる「完結楽器」であること。
転調や移調ができること。
独奏も合奏もできること。
演奏面座奏だけでなく、立奏や歩奏も可能であること。
いざとなれば、弾き語り、弾き歌いもできること。
演奏者の表情が自由な「表情自由楽器」であること。
楽曲面邦楽と洋楽、通俗音楽と芸術音楽など、幅広いジャンルの曲にマッチすること。
のいずれにおいても、「つぶし」がきくことを言う。
 汎用楽器は、多目的(マルチパーパス)楽器・多用途(マルチロール)楽器・万能(オールマイティ)楽器とは、意味が微妙に違う。
 そもそも、この世に真の意味での「万能楽器」は存在しない。どんなに優れた楽器でも、長所と短所、強みと弱みの両面がある。
 「楽器の女王」ピアノは、クラシックもポップスも弾ける多用途楽器であり、場末の酒場でも学校の教室でも弾ける多目的楽器だ。万能楽器に近い存在だが、手軽に持ち運びができないし、立奏や歩奏もできないため、汎用楽器とは言えない。
 コンサーティーナは、小型軽量であるためいろいろ制約の多い楽器だが、(ボタン数が多めの機種は)演奏者の工夫と発想で可能性をどんどん広げられる楽器であるという点で、ギターやアコーディオン等と並ぶ汎用楽器である。
 また「演奏者の顔の表情の自由度」も汎用楽器の条件である。例えば、バンドネオンをニコニコ笑いながら弾く人はめったにいないし、ウクレレを憤怒の表情で弾く人も見かけない。これらは「表情固定楽器」であるという点で、汎用楽器とは言えない。
 楽器の大半は、汎用楽器と専用楽器の間にある。

★完全楽器←→不完全楽器
 完全楽器とは、西洋音楽の三大要素である「旋律」「和音」「リズム」を一台で同時に演奏できる「自己完結性」を備えた一部の楽器を指す。ピアノやアコーディオンなどの鍵盤楽器、ハープやギターなど一部の弦楽器がこれにあたる。
 不完全楽器とは、「旋律」「和音」「リズム」のうちの一つないし二つの要素のみの演奏を主に担当する楽器を指す。楽器の大半はこれに属す。
 両者の境界線は曖昧である。例えば笛のような単旋律楽器であっても、熟練者がその気になれば、主旋律と、アルペジオで崩した和声伴奏部を緊密に演奏することで、完全楽器に近いフィーリングの演奏をすることも可能である。
 コンサーティーナは、ボタン鍵盤の数や、調(アングロ・コンサーティーナの場合)などの制約を受ける機種の場合は、「準」完全楽器、と言うべきである。
 なお、「不完全楽器」という呼称は、これらの楽器の奏者の気分を害する恐れがあるため、取り扱い注意である。
 「完成楽器と不完全楽器」は、「(自己)完結楽器とアンサンブル推奨楽器」、と言い換えてもよいかもしれない。

★可搬楽器←→固定楽器
 可搬楽器は、運べる楽器。
 固定楽器は、演奏会場の中から運び出さない楽器。
 固定楽器とは、楽器のサイズが大きいとか、楽器が演奏会場の音響設備と一体化している、等の理由により、原則として演奏会場の中に置いたままで運ばない楽器を指す。ピアノ、エレクトーン、パイプオルガン、等。これらの楽器の演奏者は、演奏会において、自分のマイ楽器を弾くことをあきらめねばならない。  (広義の)可搬楽器は、演奏者が自分で運搬できるサイズに収まる楽器、を指す。小さい順に、携帯楽器、機動楽器、狭義の可搬楽器、に分類できる。
【取り回しの手軽さの順番】
広義の可搬楽器(携帯楽器>機動楽器>狭義の可搬楽器)>固定楽器
 携帯楽器とは、さりげなくポケットに入るような、持ち運べる楽器を指す。例えば、ハーモニカは偉大な携帯楽器であり、人類が宇宙で演奏した史上最初の楽器でもある。1965年、アメリカのアポロ計画で、ある宇宙飛行士が、こっそり小さなハーモニカ(ホーナー社のLittle Lady。4穴)を宇宙船に持ち込み、宇宙で吹いた。
 コンサーティーナも、ハーモニカに次ぐ携帯性をもつ楽器で、西部劇の映画「腰抜け二挺拳銃」(1948)で俳優のボブ・ホープが幌馬車の中で弾いたり、SF映画「プロメテウス」(2012)の中で宇宙船の船長が「Stephen Stillsが所有していた」コンサーティーナをなぐさみに弾くシーンがある。
 機動楽器とは、持ち運べるだけでなく、「機動」すなわち演奏者が機敏な動きをすることが可能である楽器である。具体的には、立って弾いたり、歩きながら弾いた入り、時には踊りながらでも弾ける楽器を指す。コンサーティーナ、ギター、アコーディオン、トランペット、等がこれである。例えば、ロック・バンドでは、機動楽器であるギターやベースの奏者は、ステージ上を動きまわりながら演奏できるが、狭義の可搬楽器であるキーボードの奏者は立ったまま(あるいは坐ったまま)で動かず、固定楽器(ないし狭義の可搬楽器)であるドラムの奏者は後ろのほうで坐ったままである。非合法の路上演奏でも、機動楽器なら、警察官が来たときにパッと撤収して逃げられるので、いろいろと便利である。機動楽器は、演奏者が自転車や電車などを使って自力で運べるうえ、狭い部屋でも保管できるので、お金のない若手ミュージシャンや、節約志向の音楽家には有利である。
 バンドネオンは、本来は機動楽器であったが(その名残で、肩紐をつける金具が今も盲腸のように残っている)、今日では歩奏で演奏されることは少なく、もっぱら座奏や半立奏(立て膝に載せて弾く)で演奏される。
 狭義の可搬楽器とは、運べないことはないが、旅客機で機内持ち込みを認めてもらうのは難しいサイズ、あるいは、通勤電車の網棚に載せるのが難しいサイズの楽器である。コントラバス、ハープ、等。アコーディオンも、大型のものは「機内持ち込み」が許されないし(空港の受付職員と喧嘩になることもたまにあるらしい)、また踊りながら弾くことも困難なので、機動楽器というより、狭義の可搬楽器に分類される。

★定音楽器←→作音楽器
 定音楽器とは、演奏者がチューニングをする必要がなく、「ドレミファ…」の音階もきっちりと決まっている楽器。コンサーティーナ、ピアノ、アコーディオン、笛、木琴、等。  作音楽器とは、演奏者が毎回チューニング(ギターの場合は調弦)する必要がある楽器、および、「ドレミファ…」意外の曖昧な音高も自由に鳴らせる楽器。ギター、バイオリン、二胡、ミュージックソー(音楽ノコギリ。チューニング不要)、テルミン、等。
 定音楽器と作音楽器の境界線は曖昧である。例えば、ハーモニカは一応、定音楽器であるが、音をゆがませるなど作音楽器的なテクニックも多用する。逆説的だが、定音楽器の演奏には作音楽器のセンスが、作音楽器の演奏には定音楽器のセンスが必要である。

★持続楽器←→減衰楽器
 持続楽器とは、持続音を鳴らせる楽器。バイオリンなどの擦弦楽器、笛などの吹奏楽器、アコーディオンなどの蛇腹楽器など。
 減衰楽器とは、減衰音しか鳴らせない楽器。ピアノなどの打弦楽器、ギターなどの撥弦楽器、など。
 減衰楽器は歯切れが良い演奏に向いている。持続楽器は、減衰音を鳴らす場合は演奏者が意図的に減衰を作らねばならない。
 下手な初心者が演奏する場合、減衰楽器よりも、持続楽器のほうが耳ざわりでうるさくなりがちになってしまいがちである。

★表情自由楽器←→表情固定楽器
 コンサーティーナは、笑顔でも弾けるし、仏頂面でも無表情でも弾ける。表情自由楽器である。詳細は上記の「汎用楽器」の項を参照。

★主力楽器←→支援楽器
 主力楽器は「バンドや楽隊で主役を占める楽器」、支援楽器は「脇役である楽器」を指す。ただし、人間の俳優でも往々にして「脇役が主役を食ってしまう」現象が起きるように、支援楽器も時と場合により「主力楽器」を食ってしまうことがある。
 例えば西洋音楽の合奏では、ヴァイオリンが主力楽器、ヴィオラは支援楽器であることが多いが、たまにヴィオラがヴァイオリンを押しのけて活躍する曲もある。
 コンサーティーナは、主力楽器にも支援楽器にもなりうる。

★独奏楽器←→合奏楽器
 広義では、あらゆる楽器は独奏楽器にも合奏楽器にもなりうる。
 狭義では「2時間5千円の壁」をクリアする楽器、すなわち「2015年現在の日本の物価水準で、チケット代5千円、演奏時間2時間のソロ・リサイタルを、一個の楽器だけで行えるような楽器」を「本格的な独奏楽器」と呼ぶ。
 例えば、フルートはすぐれた楽器だが、フルートの有名なプロ奏者の有料のコンサートやリサイタルでも、おおむね、ピアノやヴァイオリンなど他の奏者の協力を仰ぐことが多い。フルートは「独奏も可能な楽器」であるが、「本格的な独奏楽器」とは言えない。
 「真の意味での独奏楽器」は、ピアノやパイプオルガン、薩摩琵琶や筑前琵琶、ギター、ハープ、など、一部の楽器に限られる。
 コンサーティーナは、すぐれた演奏性能をもつ「独奏も可能な楽器」だが、音域が高音にかたよりがちであるなど様々な理由により、「2時間5千円のソロ・リサイタル」は、外国でもあまりない。現状ではまだ「本格的な独奏楽器」とは言えない。

[コンサーティーナ入門]