97,8月26日開設 97,12月15日改訂
Aug. 26th,1997 Last Updated Dec.15,1997
English SummaryThe founder of this site, in front of Tian'anmen, Beijing ![]()
It is often said that " the 21th century will be the era of China ". I do not know whether this prediction would come true or not. But, at least in accordion, I believe China will be undoubtedly one of the most important powers in the next century. |
国際アコーディオン芸術祭で演奏するベネズエラのMarta Infante女史
中国は知られざるアコーディオン大国である。二千万とも三千万とも言われる膨大なアコーディオン人口、推定世界一のアコーディオン生産台数、「全国統一アコーディオン検定試験」に象徴される教育システムの整備、今年で4回目を迎えた「国際アコーディオン芸術祭」に見られる国家の積極的支援など、中国のアコーディオン事情は、欧米ばかりを向きがちなわれわれ日本人にも示唆的である。
以下、中国のアコーディオン事情を簡単に紹介する。
中国はあらゆるタイプのアコーディオンを自国で生産し「自給自足」が可能な数少ない国である。
中国のアコーディオン・メーカーは、鸚鵡(Parrot)、百楽(Baile)、星海(Xinghai)、天津(Tianjin)、北京(Beijing)、上海(Shanghai)、伊格爾(Eagle)など、まことに豊富である。
製品の大部分は鍵盤式スタンダード・ベースであるが、少数ながら「巴楊式」(バヤン式。半音階ボタン式のこと)や、「自由低音」(フリーベース)装備タイプ、「迷笛手風琴」(ミディ対応電子アコーディオン)なども生産している。品質は一般に外国製に劣るものの(この点は中国人自身も謙虚に認めている)、その代わり価格は驚くほど安く、費用対効果率で考えればリーズナブルである。
実際、中国のアコーディオン工場の多くは外国メーカーの下請け生産も行っている。
ちなみに中国製アコの定価は以下のとおり。例として「姜傑(Jiangjie)牌」(アコーディオンのブランド名)の定価を示す(97年8月の為替レートでは1元は約15円。中国に「消費税」は無い)
前述のように、中国製アコの品質は外国製品に一歩ゆずる。しかし、中国のプロのアコーディオン奏者は、コンサートやを録音の際、ほとんど全員が国産(中国製)アコーディオンを使用している。また、演奏の曲目も、欧米の曲と同じような比重で、自国(中国)のアコーディオン曲を弾いている。
中国のアコーディオン界は、ハード・ソフト両面で自給自足が可能なのである。これはわれわれ日本人が羨むべき点である。
実際、中国のアコーディオニストは、概して「自国の音楽文化に対する責任感」を持っている。彼らは、国産アコーディオンで自国の曲を演奏することで、自国の音楽文化を成長させ、世界へ紹介しようと気負っているフシがある。こうした傾向は、長老格の任士栄(Ren Shirong)、「北京市手風琴学校」校長兼社長の姜傑(Jiang Jie)などベテラン奏者のみならず、若い世代の奏者にも一貫して見られる。
日本では、御喜美江(みきみえ)や小林靖宏がコンサート会場で日本製アコーディオンを弾く姿は、あまり想像できない。しかし、中国の若手実力派・張国平(Zhang Guoping)は中国製アコーディオン(フリーベース付)を縦横に駆使して、バッハの名曲と中国のアコーディオン曲を平等に弾きこなしている。
そもそも日本と、社会主義国である中国とでは、国情が違う。中国は、旧ソ連同様、社会主義社会建設の観点から、音楽文化を国家が積極的に保護育成してきた。その際、アコーディオンは、労働の現場や戦場の最前線に最もふさわしい楽器の一つとして重視されてきた。
経済の「改革・開放」が進んだ今日でも、その余波で、中国政府はアコーディオンを重視している。日本では、例えば文部省の主催で、東京の国立劇場で「日本国際アコーディオン芸術フェスティバル」が毎年ひらかれる、などという状況は夢のまた夢である。しかし中国では、中国政府「文化部外聯局」主催で(実際の運営は下部の組織が請け負っているが)毎年8月に「中国国際アコーディオン芸術祭」が5日間にわたって挙行されている。私も今年、これを北京で見たが、開幕式は2700人収容の「北京展覧館劇場」が満員になるほどの盛況だった。
また、日本の東京芸術大学音楽科にあたる「中央音楽学院」(中国語「学院」は日本語「単科大学」にあたる)でも、アコーディオンの専門教育が行われているほか、アコーディオンの各種教材(楽譜。録音、ビデオ教材)が作成されている。
そのような社会的環境があればこそ、李遇秋(Li Yuqiu)のように、中国の伝統音楽と欧米のクラシック音楽の技法を融合させたアコーディオン専用曲を多数ものした作曲家も現れてくるわけである。
おそらく、中国のアコーディオン事情の中で、われわれ日本人の目に最も奇異に映るのは「全国手風琴演奏(業余)考級」制度の存在であろう。日本では「珠算検定」「英語検定」はあっても、楽器関係での検定試験はあまり聞かない。しかし中国では、洋楽器・中国伝統楽器の技能検定試験制度がある。洋楽器では、アコーディオン、ピアノ、電子キーボード、バイオリン、チェロ、声楽など。中国楽器では、二胡(日本人のいわゆる「胡弓(こきゅう)」)、琵琶(びわ)、揚琴(ようきん) 、古筝(こそう)など。
アコーディオン検定試験は、現在1級から10級まである(1996年の制度改正後。それ以前は1級から8級までだった)。日本の英検と数え方が逆で、1級は初級であり、10級が一番難しい。
受験者は、事前に楽譜(「全国手風琴演奏(業余)考級作品集」文化芸術出版社)や録音テープ・ビデオ等を購入して自習するか、地元の音楽学校で講習を受けて練習を積む。そして、主催団体である「全国手風琴演奏(業余)考級委員会」に規定の受験料金を払い、定期的に行われるこの検定試験を受験する。受験場所は、日本の英語検定試験同様、中国各地(および一部の海外)で行われるので、地方在住者にも便利である。
試験はすべて演奏実技で、あらかじめ指定された課題曲の中から練習曲・「復調楽曲」・中国曲・外国曲をそれぞれ1曲ずつ選択し、計4曲を弾く(一級のみ「復調楽曲」を省略して3曲選択)。
ちなみに、手続きさえ踏めば、外国人も受験できる。
参考までに、各級の課題曲を一部、紹介する。
日本人から見ると、おおむね課題曲は一級から十級まで難易度の順番に並んでいるものの、こまかく見ると難易度がそのレベルに不相応と思われる曲や、アコーディオン・アレンジの仕方が奇異に思われる曲も混じっている。また、純粋に個人的な趣味としてアコーディオンを楽しむ日本人の多くは、テストで腕前を計るという発想自体に違和感を持つかもしれない。
ただ、この制度が営業的に成功を治めていること、国土の広い中国で地方在住者(一部の海外在住者)にも門戸が開放されていること、チャレンジの目標を提供することで児童のアコ学習意欲をたかめていること、などの事実は、日本のアコ界の今後の戦略を考えるうえで、参考になるだろう。
この他、中国のアコ事情について、書くべきことはまだまだあるが、とりあえずはここまでにしておく。