http://www.geocities.jp/cato1963/stdnt.html
東村山市日中友好協会 主催 実演付き講演
「京劇と日中友好」わかりやすくて面白い中国の芝居の話
平成30年9月9日(日) 午後1時より 東村山市市民センターにて
実演 新潮劇院(張桂琴、石山雄太) 講師 加藤 徹(明治大学)
〇国語辞典の解説(以下『大辞林』第三版より引用)
きょうげき【京劇】〔北京で発達したところからの名〕中国、清代に南曲から発展した音楽劇。囃子方(はやしかた)を用い、歌・舞踊・台詞(せりふ)・立ち回りからなる。元来は舞台装置を用いない。京戯。京調。平劇。けいげき。
メイランファン【梅蘭芳】(1894〜1961) 中国の京劇俳優。女形。古典に取材した演目を得意としたが、時装劇(現代劇)を取り入れ、日本をはじめ広く外国に京劇を紹介した。中国京劇院長を務めた。
〇演劇とは、人間(役者)を土台に人間を劇的(ドラマチック)に描く再生芸術である。
○日本の能楽(能狂言)と歌舞伎、中国の崑劇と京劇は、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。
〇伝統的な東洋人の美意識は「写実より写意」「個人より古人」である。
〇現代中国の俳優の区別
戯曲演員・・・伝統劇の舞台俳優。京劇俳優もこの一種。
話劇演員・・・新劇の舞台俳優。
歌舞演員・・・歌手やダンサー。
影視演員・・・テレビドラマや映画の俳優。
役者に要求されるスペシャリストとジェネラリストの資質の比率が日本と違うことに注意。中国でも日本より遅れて「声優」など役者の新しいジャンルが確立しつつある。
〇京劇の世界のことわざ
(中国語の原文はなるべく日本の漢字に直して表記)
「天地大舞台、舞台小天地」 天地は大舞台なり、舞台は小天地なり。
「舞台方丈地、一転万重山。出門三五歩、咫尺是他家」 舞台は一丈四方の大地だ。一転すればそこは万重の山。数歩の旅路でよそに着く。
「角色無大小、全当正戯唱」 脇役なんていねえ。全員が主役だ。
「不像不成戯、真像不是芸」 それらしくなきゃ芝居じゃねえ。そのまんまなら芸じゃねえ。
「不能不像、不能真像」 それっぽくなきゃ駄目だ。そのまんまは駄目だ。
「演人別演行」 人を演じろ。役柄を演じるな。
「戯不離技、技不離戯」 芸あってこその芝居。芝居あってこその芸。
「芸多了就傻、術多了就仮」 芸が多いとバカになる。術が多いとニセモノになる。器用な役者は大成しない。
「武戯文唱、文戯武唱」 武の芝居の決め手は文の味わい。文の芝居の決め手は武の味わい。
「黄金有価芸無価」 黄金に価あり。芸に価なし。役者の芸ってやつは、太陽の光みたいなもんさ。無料だと思われがちだが、本当は値段のつけようがないほどの価値があるのだ。
「芸無止境、天外有天」 芸に果て無し。天の向こうには別の天が広がってる。
「北京学芸、天津験収、上海走紅」 北京で芸を学び、天津でチェックを受け、上海で有名になる。
「男怕夜奔、女怕思凡」 男役は『夜奔』をおそれ、女役は『思凡』をおそれる。役者にとって、一人芝居の演目は怖いぞ。
「後台不許叫好、台上不許翻場」 舞台裏から内輪ぼめの声がけするのは禁止。舞台上で仲間の失敗をあげつらうのも禁止。
「寧穿破、不穿錯」 間違った豪華な衣装より、ボロでも正しい衣装を。
「戯要三分生」 芝居の完成度は7割まで。3割は未完成のモヤモヤ感を残せ。
「移歩不換形」 歩を移して形をかえず。改良のコツは、改良の痕がわからぬようにすることです。名優の梅蘭芳の持論。
「糸不如竹、竹不如肉。漸近自然」 糸は竹に如かず、竹は肉に如かず、漸く自然に近づく。弦楽器より笛、笛より人の喉、だんだん自然に近づく。コンピューターグラフィックスより実写映画、実写映画より生の舞台のほうが自然。
「台上三秒鐘、台下三年功」 舞台の三秒間は、ふだんの三年間。芸は一瞬の勝負だが、長年の地道な練習が必要なんだ。参考、宮本武蔵「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」
「名家無専師」 名家に専師無し。名優はいろいろな人から学ぶ。
「千学不如一看、千看不如一練、千練不如一串」 千回理屈を学ぶより一回でも生の舞台を見ろ。千回舞台を見るより一回でも自分で練習しろ。千回練習するより一回でも自分で舞台に立て。芝居は実践だ。理屈じゃねえ。
「守成法而不拘於成法、脱成法而不背乎成法」 型は守れ。型にはまるな。型破りになれ。型知らずになるな。名優・程硯秋の言葉。参考、デーモン小暮閣下「常識破りになれ、常識知らずになるな」。
「嗓子靠練不靠天」 良い喉は練習のたまもの。天のたまものじゃない。
「一天不練自己知道、両天不練行家知道、三天不練観衆知道」 鍛錬をかかすな。一日怠れば退歩が自分にわかる。二日怠れば専門家にわかる。三日怠れば観衆にわかる。
「活到老、学到老」 活きて老いに到り、学びて老いに到る。人間、一生勉強。名優の蓋叫天の座右の銘。
〇京劇の基本演技、四功五法
四功とは、唱(うた)・念(せりふ)・做(しぐさ)・打(立ち回り)。
五法とは、手(手振り)・眼(視線)・身(姿勢)・歩(足さばき)・法(行い)
〇京劇の四つの役柄<四大行当>
生(男性の役)、旦(女性の役)、浄(くまどりの豪傑役)、丑(道化役)
〇参考上演 『大鬧天宮』偸桃
大いに天宮をさわがす 孫悟空が桃をぬすむ場面 (孫悟空=石山雄太)
孫悟空が三蔵法師の弟子になるずっと前の話。孫悟空は天界にしのびこみ、神々の宴会用のごちそうを食べ散らかす。
(唱)望瑶池祥雲籠罩、見蒼松翠柏蔭交。
瑶池を望めば、祥雲籠罩す。蒼松翠柏の蔭、交わるも見ゆ。
天界の庭をながめると、めでたい雲がたちこめてる。長生きの松と柏も青々と茂っている。
(白)来此已是瑶池。趁此無人、待俺闖了進去。我想世人焉能到此地来呦。
此に来たれば已に是れ瑶池なり。此の無人なるすきに、俺の闖して進み去るを待て。我想う、世人はいずくんぞよく此の地に到り来たらんやと。
おっ、ここは天界の庭か。人がいねえうちに、こっそり中に忍び込もう。たぶん、普通の人間がここまで来るなんて、絶対に無理。
(唱)俺可也縁不小、且飽餐赤麟蹄、龍肝鳳脳。(白)有酒在此。
(唱)飲瓊漿玉液香醪。
俺、まことにまた縁、小ならず。しばらく飽くまで餐せん、赤麟の蹄と龍肝、鳳脳を。(せりふ)酒有り、此に在り。(唱)瓊漿(けいしょう)、玉液、香醪(こうろう)を飲まん。
俺が来れたのは得がたい縁だ。赤い麒麟の蹄、龍の肝、鳳の脳。天界の珍味をたらふく味わってやれ。酒もあるぞ。宝石のような液体、かぐわしきもろみ。飲むぞ飲むぞ。
這些箇好東西、一時焉能喫得尽。哎呀、這・・・有了。俺不免抜下毫毛変一口袋装将回去、与弟兄們子孫們一同享用。変。
これらのよきもの、一時にいずくんぞよく喫して尽くすを得んや。ああ、さて・・・よし。俺、毫毛を抜きおろして一口袋に変じ、装してもちかえりさり、弟兄ら子孫らと一同に享用せん。変ぜよ。
おいしいものがこんなにたくさん。とても食べ切れねえや。うーん・・・そうだ。毛を一本抜いて袋に変え、おみやげを放り込んで持ち帰って、花果山で待つ兄弟ぶんや子分らといっしょに楽しむとしよう。変われ。
〇参考上演 『覇王別姫』(はおうべっき)
覇王、姫と別る 歌詞 (虞美人草=張桂琴)
四面楚歌の夜、虞美人が項羽の前で剣舞をするシーンの歌。名優の梅蘭芳の代表作の一つ。
勧君王飲酒聴虞歌 君王に勧む、酒を飲み虞の歌うを聴きたまえ。
解君憂悶舞婆娑 君の憂悶を解き舞うこと婆娑たり
贏秦無道把江山破 贏秦は無道にして江山を破り
英雄四路起干戈 英雄は四路に干戈を起こせり
自古常言不欺我 古より常に言う、我を欺かざるは
成敗興亡一刹那 成敗も興亡も一刹那なり、と。
寛心飲酒宝帳坐 心を寛げ酒を飲み宝帳に坐したまえ。
どうぞお酒をお飲みになりながら、私の歌をお聴きください。お慰みに、ひとさし舞います。始皇帝の秦の無道のせいで国土は荒れ果てました。あなたさまをはじめとして、多くの英雄が各地で立ち上がりました。昔から申します、たしかに言えること、それは、長い歴史から見れば成功も失敗も、栄枯盛衰は一瞬にすぎない、ということ。どうぞ帳の中でお酒をお召しになり、おくつろぎくださいますよう。
〇参考サイト ネットでそれぞれのタイトルを検索してみてください。
加藤徹「京劇の美意識」 http://www.geocities.jp/cato1963/20110319.html
民音「はじめての京劇鑑賞」 http://www.min-on.or.jp/andmore/kyogeki.html
日本京劇振興協会のツイッター @nihon_kyogeki
以上