春の漢詩と漢文 朝日カルチャーセンター 千葉教室 漢文を楽しむ 加藤 徹 

平成29年1月27日金曜日=旧暦十二月三十日

 

春分 3月20日

立春 2月4日

清明 4月4日

雨水 2月18日

穀雨 4月20日

啓蟄 3月5日

 

 二十四節気

 

 

旧正月(春節)旧暦一月一日=1月28日

人日(日本では五節句の一つ)旧暦一月七日=2月3日

小正月(元宵節)旧暦一月十五日=2月11日(日本の建国記念日)

桃の節句(上巳節)旧暦三月三日=3月30日

寒食節(冬至の105日後)=4月3日

 

元日

頼山陽(1781〜1832)

故帋堆中歳過強  故帋 堆中 歳 を過ぐ。

猶余筆削志偏長  猶ほ筆削を余して 志 偏に長し。

東窻掃几迎初日  東窓 几を掃つて 初日を迎へ、

読起春王正月章  読み起こす 春 王 正月の章。

ガンジツ。ライサンヨウ。

コシ、タイチュウ、トシ、キョウをスぐ。

ナおヒッサクをアマして、ココロザシ、ヒトえにナガし。

トウソウ、キをハラってショジツをムカえ、

ヨみオこす、ハル、オウショウガツのショウ。

 

大意…古い紙の書物がうず高く積もっている中で、四十歳を過ぎてしまった。『日本外史』の筆の手直しはまだ残っている。志が実現するまではまだ遠い。東向きの窓の机を払って、元旦の太陽を迎える。漢文古典の歴史書『春秋』の「春、なになに王の正月」の章から読み始める。

 

 

人日寄杜二拾遺 

高適(702?〜765)

人日題詩寄草堂  人日詩を題して草堂に寄す

遙憐故人思故ク  遙かに憐れむ 故人 故クを思ふを

柳条弄色不忍見  柳条 色を弄して見るに忍びず

梅花満枝空断腸  梅花 枝に満ちて空しく断腸す

身在南蕃無所預  身は 南蕃に在りて預かる所 無く

心懐百憂復千慮  心に懐く 百憂 復た千慮

今年人日空相憶  今年 人日 空しく相ひ憶ひ

明年人日知何処  明年 人日 何れの処なるかを知らん  

一臥東山三十春  一臥 東山 三十春

豈知書剣老風塵  豈に知らんや 書剣 風塵に老いんとは

龍鐘還忝二千石  龍鐘 還た 忝なうす 二千石

愧爾東西南北人  愧づ 爾 東西南北の人に

ジンジツ、トジシュウイにヨす。コウセキ。

ジンジツ、シをダイしてソウドウにヨす。

ハルかにアワれむ、コジン、コキョウをオモうを。

リュウジョウ、イロをロウしてミるにシノびず。

バイカ、エダにミちて、ムナしくダンチョウす。

ミはナンバンにアりて、アズかるトコロ、ナく、

ココロにイダく、ヒャクユウ、マたセンリョ。

コンネン、ジンジツ、ムナしくアイオモい、

ミョウネン、ジンジツ、イズれのトコロなるかをシらん。

イチガ、トウザン、サンジッシュン、

アにシらんや、ショケン、フウジンにオいんとは。

リョウショウ、マたカタジけのうす、ニセンセキ。

ハず、ナンジ、トウザイナンボクのヒトに。

 

大意…旧暦一月七日、拾遺であった杜甫君に送る漢詩。旧暦一月七日、この詩を作って、成都の草堂に住む君に送ります。ぼくは遠くから同情している、古くからの友人である君はきっと故郷を思っているであろう、と。早春の柳の枝が色づくのを見るにしのびない。梅の花が枝に満ちても断腸の思いばかりがつのる。ぼくは身を南蛮の辺境に置いて、社会とは断絶してしまった。心の中は百憂千慮、数多くの悩みごとと心配ばかりだ。今年の一月七日はむなしく君のことを思っているが、来年の一月七日はどこにいることやら。ぼくも若いころは、晋の謝安が仕官する前に東山で気楽に過ごしていたような身分だったけれど、あれからもう三十回の春が過ぎた。思ってもみなかった、書と剣と、学問と武芸の理想をもっていたぼくが、俗世間とのかかわりの中で老けてしまうとは。龍鐘として老いた自分は、もったいなくも二千石の俸禄をいただける地方長官の職に、しがみついている。わが身が恥ずかしよ、君のように東西南北を旅する自由人とくらべたら。

 

 

梅花

王安石(1021〜1086)

牆角数枝梅  牆角 数枝の梅

凌寒独自開  寒を凌ぎて 独り自ら開く

遙知不是雪  遙かに知る 是れ雪ならざるを

為有暗香来  暗香の有りて 来たるが為なり

バイカ。オウアンセキ。

ショウカク、スウシのウメ。

カンをシノぎて、ヒトりオノズカらヒラく。

ハルかにシる、コれユキならざるを。

アンコウのアりてキたるがタメなり。

 

大意…塀のすみの、いくつかの枝の梅の花。寒さに負けず、他の花より先にひとりだけ自然に咲いた。遠くからわかった、あの白いのは雪でなく梅の花だと。ほんのりと香りが届いたから。

 

 

寒食

韓翃(8世紀半ば)

春城無処不飛花  春城 処として花を飛ばさざるは無し

寒食東風御柳斜  寒食 東風 御柳斜めなり

日暮漢宮伝蝋燭  日暮 漢宮 蝋燭を伝へ

軽煙散入五侯家  軽煙 散じて入る 五侯の家に

カンショク。カンコウ。

シュンジョウ、トコロとしてハナをトばさざるはナし。

カンショク、トウフウ、ギョリュウ、ナナめなり。

ジツボ、カンキュウ、ロウソクをツタえ、

ケイエン、サンじてイる、ゴコウのイエに。

  

大意…春の長安の町は、どこもかしこも花びらが風に舞う。寒食の日、東風が吹くと、宮城の堀の柳が斜めにかたむく。日が落ちると、漢の宮中から、慣例どおり新しい火をともした蝋燭が下賜される。軽やかな煙が宙に散りながら、五人の権力者の屋敷へと入ってゆく。

 

★付録 NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」第一回に出てきた漢文の文句

 

『円悟仏果禅師語録』その他

春色無高下  春色 高下無し

花枝自短長  花枝 自から短長

シュンショク、コウゲ、ナし。

カシ、オノズからタンチョウ。

大意…春の景色、例えば春の太陽は、高いとか低いとかのえこひいきはしない。しかし、春に咲く花や春に伸びる枝のほうは、自然と短いもの、長いものの違いが生まれる。

※同様の趣旨の言葉に「天日無私、花枝有序」がある。

 

『金剛経』

応無所住而生其心  応に住する所無くして、而も其の心を生ずべし

マサにジュウするトコロ、ナくして、シカもソのココロをショウずべし。

「おうむしょじゅう、にしょうごしん」

大意…一か所にとどまることがなければ、その心(執着やこだわりのない融通無碍な心)が沸き起こるはずである。

 

『法演禅師語録』その他

掬水月在手  水を掬すれば月は手に在り

弄花香満衣  花を弄すれば香は衣に満つ

ミズをキクすればツキはテにアり。

ハナをロウすればカオリはコロモにミつ。

大意…手のひらで水をすくえば、夜空の月が手の中にある。手で花をもてあそぶと、花の香りが服に満ちる。

 

【参考】 春山夜月

于良史(8世紀後半〜9世紀前半)

春山多勝事  春山 勝事 多く

賞翫夜忘帰  賞玩して 夜 帰るを忘る

掬水月在手  水を掬すれば 月 手に在り

弄花香満衣  花を弄すれば 香 衣に満つ

興来無遠近  興 来たれば 遠近 無く

欲去惜芳菲  去らんと欲して 芳菲を惜しむ

南望鳴鐘処  南のかた鳴鐘の処を望めば

樓臺深翠微  楼台 翠微に深し

以上