明治大学 非営利・公共経営研究所

震災復興調査(NPO法人社の伝言板ゆるる)
特定非営利活動法人杜の伝言板ゆるる調査の様子

●震災発生直後の状況とゆるるの対応

 2011年3月11日(金)の発災時、大久保氏は北海道にいた。空路、陸路をつないで仙台に到着したのは14日(月)夕方で、到着したその足で仙台市市民活動サポートセンターや宮城県庁等の関係機関へ向かった。宮城県社会福祉協議会で災害ボランティアセンターを立ち上げたところで、そこから情報共有を図ることになった。
 3月15日に、ゆるるとみやぎNPOプラザ(ゆるるが指定管理者として運営している宮城県のNPO支援拠点)のスタッフが集合して活動を開始した。16日からみやぎNPOプラザを日中開館し、駐車場も解放した。スタッフと真先に取り組んだのは、宮城県内のNPO団体の安否確認だった。
 また、当時、交通機関が動かず、事務所まで来られないでいたスタッフ3名を各地元(岩沼・利府・塩竈)の災害ボランティアセンターへ1週間派遣し、混乱の最中の即戦力として活躍した。


●ゆるるの被災地支援活動

 安否確認がひと通り済んだ4月には、宮城県内で高齢者や障害者の支援事業をしているNPO法人の被災状況の調査をはじめた。被災地の団体は活動を再開しているところ、できないところがあった。
 中には建物被害が大きい団体もあったが、公的機関や民間の支援制度では、業態や建物の所有形態によって補助に大きな差が出た。
 その当時には資金援助を申し出ている団体も多くあり、ゆるるはそういった団体から被災して困っている団体へと資金をつなぐ役割を担った。7月には被災したNPOに寄付を呼びかけるウェブサイト(復興みやぎ http://fukkou-miyagi.jp/)を立ち上げた。
 被災してしばらくは、「何がいま必要か」「これから何が必要か」と尋ねても、気力が追い付かず、なかなか答えられない団体も多くあった。復興に向けて動き出すには時間が必要だった。
今回の震災で被災した団体は、規模が縮小したところもあるが、現在ではほとんどが活動を再開している。ゆるるは引き続き「資金つなぎ」をして再建へのサポートを行っている。


特定非営利活動法人杜の伝言板ゆるる代表理事 大久保朝江氏

●災害時の情報収集・情報発信について

 当初は災害ボランティアセンター(社会福祉協議会)から情報を得ていた。しかしそこは主に個人のボランティアの窓口で(救援物資や炊き出しなどの団体による支援は各自治体の災害対策本部が管轄)、支援活動を早くからはじめていたNPO団体の声はほとんどつかめなかった。さらにボランティアセンター周辺の情報しかあがってこないため、情報が偏っていた。加えて、公的機関等が発信する情報は公式発表としての段階を踏むためにタイムラグが発生するうえ、被災した公的機関の中にはインターネットを使った情報発信に不得手なところも多く、情報は不足していた。
 被災地で実際に活動しているNPOの情報は、インターネットや電話がつながったところから得られた間接的なものが多かった。
(被災直後の情報については月刊ゆるる2011年4月号(vol.167 http://www.yururu.com/kokuti/file/yururu20110407.pdfを参照)。)


●災害ボランティアについて

 当初、県外のボランティア受け入れを断っていた自治体が多かった。人命の救援活動が最優先だったということもあるが、実際には盗難被害などが起っていて、地域外からの受け入れに慎重にならざるを得なかった。ボランティア参加者数が阪神大震災時よりも少ないとの一部報道については、知人・親戚筋での救援が多く、また各NPO団体等での受け入れ者数が公表されていないので、実際には相当数あると思われる。
 また、必要とされている場面でのボランティアのマッチングがうまく成されてないこともあったが、行政側での情報発信などの対応が追い付いていなかったのが一因であった。


●被災地におけるNPOの役割と公的機関との関係

 震災発生直後の緊急性の高い場面においても、公的機関は「公平・平等」の立場をとって、「この場にいる全員に行き渡らない支援は受け入れない」としていたところもあった。だが、それでは必要とされているところへの支援が追いつかないような状況だった。そこで力を発揮したのが民間団体だった。NPO等が行政の行き届かない所に、ゲリラ的に支援に入ったからこそ救われた人もいた。
 一方、NPOに対するイメージは被災者にとっても様々である。特に今回の震災では、盗難や詐欺紛いの事態が起こっていたので、外部からの人の出入りには慎重な姿勢が見られた。そこで、NPOが現地でのトラブルを回避し、信頼を得るためには、公的機関とのつながりを示すことが効果的だった。日頃から行政との関係ができている団体は現地での活動に入りやすかった。そして、何度も通うことによって現地の方の信頼を得ていくことが重要だった。


●震災後のゆるるの活動の変化

 今回の震災対応を通して、以前よりも増して県域内で情報共有を図れる団体が増えた。震災前までは遠隔地の個別のNPO団体との行き来は少なかったが、ゆるるが発行している月刊誌の取材等を通して、つながりが増え、ネットワークがひろがった。
 ゆるるは中間支援組織として、常日頃はNPOの活動を下から支える「縁の下の力持ち」の役割を担っている。今回、ゆるるでは即戦力としての人員が不足する事態となったが、日本NPOセンターの仲介のもと広島や福岡のNPOセンターがスタッフを派遣して応援してくれた。今回の経験で、NPO間での人的交流は有用だとの感触を得た。


●被災地支援の引き際について

 被災地で職を失って困っている方が多数いる一方、失業給付がかえって働く意欲をそいでいるという問題も起こっている。また、地元の商店等が再建していくためにも、今は行政側で救援物資を断りはじめている。支援の仕方は変わってきていて、これからは自立による復興が求められる。
 外部からの支援の撤退にあたっては、地元の復興が継続していくように「引き継ぎ」をしていくことが大切である。次なる担い手が被災者の中からも生まれるような仕掛けをしてからの撤退が望ましい。これからは継続的な仕組みとしての支援方法が必要である。そこから地元の雇用が生まれ、「ひとに頼らなくても自分たちでできる」という意識が芽生えることを期待している。