Boosting Approach to Early Bankruptcy Prediction from Multiple-year Financial Statements

[概要]

 本論文では、経営破綻に陥る企業を早期に発見するための数理モデルを提案している。倒産や実質破綻の予知において重要な要素は、1)モデルに取り入れる財務指標の選択、2)統計手法を用いた予測モデルの構築、である。多くの先行研究では、これらのプロセスが別々に行われており、両者を含めた処理全体としての予知精度の最適性が保証されていない。本論文の第一の意義は、この問題点を克服するために、AdaBoostと呼ばれる機械学習アルゴリズムにより両プロセスを一貫した最適化の枠組みの中で扱ったことである。また、従来法では早期の予知になるほど精度が悪化することや破綻時点の正確な予測は難しいものとされていた。本論文の第二の意義は、この問題点の改善のために、時系列データを利用した複数パターンの財務指標を設定・利用したことである。
 研究においては、2002年~2016年6月の期間に経営悪化に起因して上場を廃止した会社を経営破綻企業サンプルとし、一方で2016年6月時点の上場企業を健全企業のサンプルとしている。そして、それらの企業の4期分の財務諸表(B/S, P/L, C/F)を取得している。財務データには、多くの欠損値が含まれるが、本論文では2006年の会計基準の変更にも考慮した上で、会計的な視点からの欠損値補完についても述べている。欠損補完を施した財務諸表の任意の二項目を選択し、それらの比率を作成するが、単純な比率に留まらずに複数年度間の平均や差を用いた比率も生成している。これにより、財務指標の候補を大量に用意することができる。それらの候補の中からAdaBoostアルゴリズムにしたがって、経営破綻企業と健全企業の判別に有効な財務指標の組み合わせを抽出している。経営破綻企業について上場廃止の直前期のデータを使用した場合の識別精度がもっとも高いものの、上場廃止の1年前と2年前のデータを組み合わせることで、直前期のデータを使用した場合に匹敵する識別精度が得られたことは、この分野の研究として有意義な結果と言える。また、「可能な限り多くの財務指標を用意して、その中から真に有用なものを抽出する」というアプローチは新規であり、財務分析の他のテーマにも応用可能であると考える。