サイケデリックスと現代文化


■1930年代に代表的な人工サイケデリックスであるLSDが合成され、近代都市社会でのサイケデリック文化の中心的な役割を担うようになる。1950年代には、サイケデリックスを使った精神疾患の理解と治療のための実験が盛んになった。

■伝統的なシャーマニズムの文脈では、サイケデリックスを含む薬草はシャーマンが服用するもので、クライアントは必ずしも服用しない。しかし現代では、とくに精神的な問題を抱えたクライアントが服用することで、サイケデリック体験が問題解決に役立ち、心理療法(サイコセラピー)として役立つという可能性が明らかになってきている。(『死生観の人類学(2)』、『サイケデリック・サイエンス』(Discovery))

■1960年代には、サイケデリックスは一般社会に広がり、カウンターカルチャーと結びつく。カウンターカルチャーは西洋近代文明に対する異議申し立ての運動だったといえるが、その中でLSDやマリファナなどのサイケデリックスが、「愛と平和 love and peace」の体験をもたらしてくれるものとして、東洋的な瞑想とともにその精神的なバックグラウンドになった。運動はしばしば反体制的ではあったが、その中心的な担い手は西洋(とくにアメリカ西海岸)の中産階級の「白人」の若者であった。

■しかし、サイケデリックスは「正しく」用いられる以上に乱用され、禁止されることになった。純粋に医学的な危険性というよりは、西洋近代文化がこれらの向精神薬やそれを含む薬草を正しく使用するための文化的な伝統を持っていなかったという理由が大きい。

■現在、サイケデリック文化が独自の発展を遂げているのがブラジルである。もともと先住民文化の中にアヤワスカ茶を用いる伝統があったものが、都市部でのアフロ・ブラジリアン宗教運動などのシンクレティズム syncretism の中に取り入れられ、最初は黒人奴隷解放運動として始まったものが、今では都市部の中産階級を中心に、自己を見つめるという瞑想的な目的でアヤワスカ茶が摂取されるようになってきている。ブラジルでは、アヤワスカ茶は宗教的な文脈で使用されるかぎりは合法という判断が下されている。

(2007/2550-10-18 更新 蛭川立)