文化の相対性、補遺:ミクロネシアの被服文化

■ミクロネシアでは、上半身裸で、女性が乳房を露出していても<裸>だとは考えられないが、太腿を露出していると<裸>だと考えられる。
■価値体系が違う文化が出会うと、お互いがお互いのことを野蛮、野性的などと誤解しがちである。
■<着衣/裸>のような恣意的な価値体系は、相対的である。(文化相対主義 cultural relativism)
■しかし、向精神薬のような物質的実体があるものは、相対的な善悪とは別に、生理的な危険性という普遍的な基準がありうる。
■文化人類学は生物学的な普遍性よりも文化的な多様性のほうに注目するが、それは普遍性がないという意味ではない。

「宇宙人による誘拐」体験

■前近代(プレモダン)社会には、超自然界と接触する体験が、超自然的世界を含む世界観を再構築するというプロセスが制度的に用意されているが、近代(モダン)社会にはそのような制度的な文化はない。
■超自然界と接触する文化は、大きく二つに分けられる。自ら進んで超自然界との接触を求めるのが「修行型」、超自然界のほうから呼ばれるのが「召命(ショウメイ)型」である。
■ 近代(モダン)社会においても召命型の超自然的体験は起こりうる。このことは、超自然的な体験自体は文化によらない普遍的な体験であることを示唆する。ただし近代社会では、それらは「精神疾患」や「超常現象」として処理されてしまう。近年では霊的危機 spiritual emergency として積極的にとらえる見方もある。
■西洋近代社会でもっともポピュラーな超自然界接触体験のひとつは、「宇宙人による誘拐」体験 alien abduction experience である。
■「宇宙人による誘拐」体験は、英語圏と中南米に多く、とくにアメリカ合衆国では400万人が「宇宙人に誘拐され」たことがある(と信じている)という。
■典型的な「宇宙人による誘拐」体験→映像、M氏の事例
■「宇宙人による誘拐」は、典型的には以下のような特徴を持つ:

・典型的には、寝ているときと、車を運転しているときに起こる
・目撃される宇宙人は小人のような姿をしている
・目撃される宇宙人は光る乗り物に乗っている
・宇宙船の中に連れて行かれ、身体検査(とくに性的な検査)をされたり、地球が危機に瀕していることを教わったりする
・戻った後、誘拐されていた間の記憶が失われていることも多い
・それゆえ、誘拐体験を退行催眠によって「思い出す」場合も多い
・戻った後、「超能力」が身に付いたり、身の回りの電気製品が故障しやすくなる
・戻った後、スピリチュアルな事柄や地球の未来に対する関心が高まる

■戻った後の変化が、シャーマンの成巫(セイフ)過程 shamanic initiation との類似性をうかがわせる。
■戻った後の記憶の喪失が、精神医学でいう「解離性遁走 dissociative fugue」と似ている。 (音楽のフーガ(遁走曲)と同じ意味)

■類似する体験は、ヨーロッパの妖精伝説や聖人伝の中にみられる。(イングランドのラヒールフランスのオベール
■アマゾンのシャーマンにも同様の体験をする人たちがいる。

■日本では、「宇宙人による誘拐」は比較的少ない。日本には「金縛り」つまり睡眠麻痺 sleep paralysis は、死霊によって引き起こされるという観念がある。(→日本人の「金縛り」体験談)(日本には、長時間の運転によって「高速道路催眠現象 highway hypnosis」を起こすような、単調で長い道路が少ない。)
■しかし、「金縛り」で出会う存在に誘拐されることはほとんどないので、「宇宙人による誘拐」には似ていない点も多い。
■日本でこのタイプの体験としては、過去のものとしては「神隠し」や「狐に化かされた」体験が類似している。

2007/2550-11-14 改訂 蛭川立