●国語学の研究分野

 国語学の研究分野の分け方は、普通、音韻・文字・語彙・文法・文章…などと
 分けられるのですが、ここでは、国語学ゼミで、どのように卒論のテーマを決め
 ていくのかという線に沿って分けていきます。

 まず、研究の分野を、共通語の研究と、方言の研究に分けます。研究したいの
 は、(全国)共通語でしょうか、それとも、どこかの方言(最近は、「地域語」とい
 う言い方もします)でしょうか。

 共通語の研究は、

  1)発音のしかたやアクセントを研究する音韻・アクセントの研究
  2)文字の種類やその使い方を研究する文字・表記の研究
  3)単語や句の意味用法などを研究する語彙の研究
  4)語の活用(形態変化)や文の組み立てを研究する文法の研究
  5)文章のさまざまな特性を研究する文章・文体の研究
  6)話し手や話題の主に対する配慮の表現を研究する敬語の研究
  7)コミュニケーションとそれと関わるメディアの関係を追求する言語生活
    の研究

 といったものがあります。どの研究分野に興味があるでしょうか。

 次に、上記の1)〜7)は、それぞれ、ある一時期の言語状態の研究(共時的
 研究
、と呼びます)と、時間とともに推移・変転する言語変化の研究(通時的
 研究
、と呼びます)とに分かれます。上代の言語中古の言語中世の言語
 近世の言語近代の言語現代の言語、というように、ある時期に焦点をしぼ
 って、その時期の言語状態を明らかにする方向と、上代→中古→中世→近世
 →近代→現代、というように推移するさま(通史でなくとも、例えば、中古→中世、
 というように、この一部分をとりあげてもよい)を明らかにする方向があるわけで
 す。

 歴史的変化を追求すると、上記1)〜7)は、それぞれ、音韻史アクセント史
 文字・表記史
語彙文法史文章・文体史敬語史言語生活史、の研
 究となります。


 次に、方言研究の場合はどうなるでしょう。方言も、共通語と同様、

  1)発音のしかたやアクセントを研究する音韻の研究
  3)単語や句の意味用法などを研究する語彙の研究
  4)語の活用(形態変化)や文の組み立てを研究する文法の研究
  5)文章のさまざまな特性を研究する文章・文体の研究
  6)話し手や話題の主に対する配慮の表現を研究する敬語の研究
  7)コミュニケーションとそれと関わるメディアの関係を追求する言語生活
    の研究

 に分かれます。おや、一つ足りませんね(って、白々しいですが…)。そうで
 す、2)の文字・表記の研究がありません。方言は、口頭で話される言語で
 あるので、方言に特有の文字・表記が日本語には存在しない以上、その研
 究はありえないわけです。

 また、方言も、各地で歴史的推移をこうむっているはずなのですが、方言の
 口頭で話される言語であるという性格の必然的結果として、過去の方言資料
 がそろっている地域はほとんどなく(例外は、都のあった京都方言)、したがっ
 て、歴史的研究をしたくてもできないというのが現実です(東国方言も、東歌、
 洞門抄物、『雑兵物語』、『三河物語』などによって、わずかに、その推移が知
 られるのですが、とても歴史的研究にまではいたりません。つまり、点はある
 のですが、それを結んだ線が引けないのです)。したがって、方言の研究は、
 事実上、言語状態、しかも、現代の言語状態に限られるわけです。

 また、研究の分野としては方言の研究に入りますが、言語地理学方言地理
 )の研究があります。これは、現在の方言の分布状況から、過去の言語変
 化を推測するといった方法をとります。

 [参考文献]
 ・佐藤喜代治編『新版国語学要説』(朝倉書店)
 ・佐藤武義編『日本語の歴史』(朝倉書店)

 ・柴田武/大野晋編『岩波講座 日本語』(岩波書店)
 ・服部四郎他編『日本の言語学』(大修館書店)

 ・佐藤喜代治編『国語学研究事典』(明治書院)
 ・国語学会編『国語学大辞典』(東京堂出版)
 ・林巨樹/池上秋彦編『国語史辞典』(東京堂出版)

 ・飛田良文編『日本語文章表現法』(白帝社)