『日本国語大辞典』第二版評判記
現在、『日本国語大辞典』の第二版が出ている最中ですが、それ
を見ていて、気付いたことを書いてみます。

まず、初版と第二版を比べてみます。異同を見るわけですから、
「異同」というところで比べますと^^;;

《引用始め》−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
[初版]
▼いどう【異同】[名]異なっていること。違っていること。相
 違。
  *運歩色葉「異同 イドウ」
  *滑稽本・浮世風呂―三・下「うつぼを読返さうと存じてを
   る所へ、活字本(うゑじぼん)を求ましたから幸ひに異同
   を訂(ただ)してをります」
  *花柳春話〈織田純一郎訳〉三八「其成る所の物は才智の多
   寡に由て異同あり」
  *左思―魏都賦「星有風雨之好、人有異同之性」

[第二版]

▼いどう【異同】[名]異なっていること。違っている点。相違。
  *寛永刊本蒙求抄(1529頃)七「異(イ)同は易にも流が多
   いものぞ。諸儒の易と梁立が易とかわりた事ちゃほどに、
   諸儒の論義をさせうと思はれたぞ」
  *運歩色葉(1548)「異同 イドウ」
  *童子問(1707)下・九「論異同而論深浅」
  *随筆・秉燭譚(1729)一「それ故職原鈔に、清家外記の補
   注には如レ此、中家外記には如レ此と、両家の異同をしる
   せるなり」
  *滑稽本・浮世風呂(1809-13)三・下「うつぼを読返さうと
   存じてをる所へ、活字本(うゑじぼん)を求ましたから幸
   ひに異同(イドウ)を訂(ただ)してをります」
  *花柳春話(1878-79)〈織田純一郎訳〉三八「其成る所の物
   は才智の多寡に由て異同あり」
  *左思―魏都賦「星有風雨之好、人有異同之性」
《引用終り》−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

となっています(漢文の返り点は省略しました)。

一見して分かる通り、
 (1)語釈(解説)が、微妙ではあるが改訂されている。
 (2)用例に成立年が付いた(これは本当に便利で、ありがた
    いですねー)。
 (3)用例の数が増えた。
 (4)初出が、わずかではあるが遡った。
 (5)江戸時代の用例が強化された。
という特長がみてとれます。これを見る限りにおいては、『日本
国語大辞典』は、第二版に就くべきでしょうね、これからは。

ただし、

《引用始め》−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
くさかご【草籠】[名]「くさかりかご(草刈籠)」に同じ。
  *応永本論語抄(1420)微子第一八「篠(あしか)とは竹器と
   て草かご也。年よりの草かこをになふて通にあへり」
  *古活字本毛詩抄(17C前)一「畚 草かこぞ」
  *浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)道行「草かごを引かづき、上
   に刈り草覆ひ、身をちぢめてぞかくれける」

くさかりかご【草刈籠】[名]刈り取った草を入れて運ぶ籠。くさ
 かご。〈季・夏〉
  *土(1910)〈長塚節〉七「麻の穢い袋を草刈籠から出した」
《引用終り》−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

のようなものを見ますと、「くさかご」が先で、「くさかりかご」
が後なのにも関わらず、「くさかご」に「くさかりかご」に同じ、
という解説を書くのは変ですね。むしろ、年代から見て(これが、
付いているのが、本当にありがたい^o^/)、「くさかご」に「刈り
取った草を入れて運ぶ籠」という解説を入れておいて、「くさかり
かご」には、「「くさかご」を、より解りやすくするために言い換
えた語」というような説明をしたほうがいいでしょうね。

まあ、これは、マニアックな例かもしれませんが^^;; まだまだ、
考えるべきところ、改訂の余地はあるということですねー。
(「ことば・翻訳・そして文化」に、5月17日投稿したものを、
 一部訂正のうえ再録)
http://www.joy.hi-ho.ne.jp/kotoba/index.html