キャラクター・ビジネスの先駆者“サンリオ”

〜心を贈る「ギフト・ビジネス」〜

 

 

 

                   グループ名 サンリオ班

                   3147  上田淳一 他4

                   3159番 大林正志

                   31629 武田知恵

                   31638 長谷川陽子

                   32248 森田徹

 

 

 

 

 

【目次】

はじめに

1章 サンリオの歴史と財務分析

2章 サンリオの事業展開

第1節       自社流通商品

第2節       キャラクター・ライセンス許諾商品

3章 キティちゃん

4章 サンリオの「ギフト・ビジネス」、そして今後

 

 はじめに

 現在、国内においてキャラクター・ビジネス商品売上高は、約2兆700億円である。その中で、キャラクター商品販売額シェアでランキング1位になった「ハローキティ注1」」(以下キティちゃん)の版権元である()サンリオ(以下サンリオ)を取り上げる。

サンリオは1960年の創業以来追求してきた、身近な人とのほんのちょっとしたプレゼント交換によるコミュニケーションを媒介する「ソーシャル・コミュニケーション・ビジネス注2」」で様々な事業を展開している。本稿では、サンリオ独自の事業を理解することを通じて、それを「ギフト・ビジネス」と位置付け、同企業の「ギフト・ビジネス」の今後について考察していく。なお本稿では主要参考文献、各統計、記事とともに、大崎TOCビル12Fサンリオ本社応接室にて行なったインタビュー(2000年7月19日、10時17分〜11時56分)に主に依拠していきたい。

 

第1章             サンリオの歴史と財務分析

 

サンリオの現社長である辻信太郎氏は山梨県庁を辞めた後、サンリオの前身である(株)山梨シルクセンターを東京中央区日本橋に資本金100万円で設立した。当初この会社では絹織物、ぶどう酒などの販売を手がけていたが、2年ほど経って、サンダルに花模様をつけて売り出すことを思いついた。今では当たり前に思えるこのサンダルも、当時は実用品に飾り物をつけて売るという発想がなかったため大ヒットした。これはサンリオの経営哲学のひとつである「付加価値商法」の始まりでもあった。この花模様サンダルが飛ぶように売れたこともあって、社員わずか数人の小企業の年商は1962年には1,500万円にもなった。この頃、他の会社もアイディア商品に目をつけはじめたが、同社はオリジナルデザインの第1号となる「いちご注3」」を生み出し、これをハンカチ、コップ、学用品などにのせることで、子供たちの間に一大ブームを引き起こした。これにより、同社の売上は1965年には14,000万円に跳ね上がった。その後、これらの大ヒットにより辻氏は著作権ビジネスに目を付けるようになる。著作権ビジネスの場合は世界中の国々で登録することになることから、どこの世界でも通用する社名にする必要があった。そこで考えられた「サンリオ」という名前は、英語で「saint river」、つまり「聖なる河」という意味のスペイン語である。世界四大文明は、インダス川、チグリス・ユーフラテス川、ナイル川、黄河の流域に起こった。辻氏はそれにあやかって、新しい文化産業を興したいという意味を込めて「サンリオ」と名付けたのである。

サンリオはその後キャラクター・ギフト商品注4」を軸に事業を進めていき、上記以外の事業として、出版・カード・映画に進出し、テーマパーク事業を展開するようになった。(図1)以上のように、様々なソフトウエアの部門に進出し、順調に業績を伸ばしてきた同社は、19824月に東京証券取引所第2部に上場、さらに19841月には東証で第1部に上場することとなった。

1980年代は、同社も大きな転換期を迎え、海外進出も本格化することとなる。1986年にはアメリカの子会社のテコ入れを行う一方、ヨーロッパでは、ドイツとスイスに設立した子会社を拠点にして14ヶ国に販路を広げ、さらに東南アジアでは、香港、シンガポール、韓国などに進出した。上記で記したように製造部門を持たない同社は、これら海外の安い人件費に目を向け、主として中国・タイ・マレーシアなどに工場を所有している。商品の約4割は中国の工場で生産されていて、近年ではベトナムの工場にも商品の製造を委託し、衣料品は主に香港で製造されている。

そして、これらの国で製造されるキャラクター・ギフト商品はすでに輸出商品の半分を占めるようになり、広く海外に進出をした同社の看板キャラクターである「ハローキティ」はいまやディズニーの「ミッキーマウス注5」」と肩を並べるほど、世界規模で知られる存在となった。(図2-1)(図2-2)(図2-3

 

第2章 サンリオの事業展開

 

サンリオにおいて、現在多数ある各種業務の原点であり、事実上主体とされている業務がキャラクター・ギフト商品の販売である。2000年(8月)現在、日本国内には2000店(うち直営店170店)、海外にはアジア、アメリカ、欧州に出店している。サンリオのキャラクター・ギフト商品(ライセンス料も含む自社商品)販売業務における売上高は、会社全体の売上高約9割を占めている。(図1)そのうち3分の2が自社流通商品によるもので、残りの3分の1はキャラクター・ライセンス許諾商品が占めている。第1節では自社流通商品について、第2節ではキャラクター・ライセンス許諾商品について記述する。

 

第1節 自社流通商品

自社流通商品による商品販売の場であるサンリオショップの特徴は、まず、集客率の高い百貨店やスーパーなどの中に、他の売り場とは全く別のものとしてサンリオコーナーを設け、商品を販売していること、そして、商品が品物ごとに置かれるのではなく、そのコーナーに商品が集中的に並べられていることである。例えば、キティちゃんの歯ブラシ、タオルとスリッパを買う場合、通常はそれぞれの売り場に足を運んで、それらの品々を探さなければならない。しかし、サンリオではキティちゃん商品を集中的に陳列し、パッケージングして販売するシステムになっている。

1970年代にサンリオは、キャラクター・ワールド注6)を作るためにこのようなコーナーとしてのショップを展開し始めた。サンリオは、多数ある店舗全てに共通する理念を持っている。まず1つ目は、ただ単に「物を置く」、「物を売る」という場所としての機能だけを果たす空間ではなく、常にエンドユーザー(最終顧客)の立場に立ち、心の充足感を味わえる空間であること。次に、地域に密着し、愛される売り場であること。そして、エンドユーザーを意識して、ニーズを先取りした商品開発を目指し、質の高いサービスを提供する空間であること。以上の3つのことを挙げている。従来、一般に店舗とは顧客に商品を提供する1つの場所としての空間であったが、時代の流れと顧客のニーズの変化に伴い、現在では商品を提供する空間であると同時に買い物を楽しめるというエンターテイメント的性格を持つ空間を演出している。この空間を演出しているサンリオショップは、「ギフトゲート注7」」と呼ばれるものと、キティちゃんブーム(後述)により年齢層が広がったことから、ハイターゲット注8」向け店舗として「Vivitix注9」」との2種類の直営店がある。また、直営店とは違った独自のコンセプトを持つオリジナルワールド注10」として、伊勢丹の「ギフトイン注11」」や高島屋の「いちごプラザ注12」」など、名前を変えて展開されているのである。つまり、顧客が、それぞれのショップにおいて、キャラクターの世界に入り込んでしまったような気を起こさせる空間をコーナーとして確立する。名前の違うショップに行くことで、また違った空間を楽しむことができるエンターテイメント的性格を含んでいるのである。このような工夫ひとつひとつが、顧客の購買意欲を高めているのは事実である。現在エンターテイメント性を取り入れている店舗は少なくはなく、むしろその志向が高くなりつつあり、サンリオが長い間保持してきた店舗サービスの精神、理念は現代の時代の流れにリンクしていると言える。現在、類似形態のショップとして「ディズニーストア注13」」があるが、サンリオはキャラクターワールドとしてのショップ展開を始めた先駆者なのである。

サンリオショップに置かれている数々の商品をサンリオではソーシャル・コミュニケーション・ギフトと名付けている。それは、商品に対してより高い付加価値をつけた品物のことで、その付加価値にこだわった商品のことである。顧客は、キャラクターという付加価値のついた商品とそうでない商品がある場合、前者を選択するのである。現在、商品は高品質であることは一般的にも当然のことと考えられがちではあるが、サンリオでは綿密な調査により開発された高品質な商品に多種多様な優れたサービスなどの付加価値を付け、適した価格設定をし、なおかつ少しでも安い商品を顧客に提供しているのである。今現在サンリオショップでは、430種のキャラクターの中から約50種類程度のキャラクターが商品化されている。この2年間でキャラクターデザイン変更のサイクルが短くなっている。以前は年に2回が1つのサイクルであったが、現在では1ヶ月に5種類ほどの新しいデザインを手掛けている。商品の平均単価は5001500円程度で比較的手頃な価格で日用品が多く、キャラクターが描かれていない商品そのものの価格に対して決して格差をつけない程度の価格設定がなされている。

サンリオの商品は全国何処でも同じ商品を手に入れられるようになっている。しかし、そうでないものも登場した。それが1996年から始まった地方限定商品、いわゆる土産物である。全国各地の名産品をサンリオ風にアレンジした商品、または食料品がその地方限定で販売されている。キティちゃんの人形焼(東京)が第1号で、その後4年間で23地域の名産品がシリーズ化された。この地域限定商品の売上は、年商100億円を超えるまでに急成長をしたのである。それは、観光客にとって馴染みの薄い名産品に、誰もが知っているキティちゃんが各地のイメージに合わせて描かれているため、土産物だけでなく、名産品自体のイメージも親しみやすくなる相乗効果が生まれたからである。

どの地域での限定品も一カ所で入手可能なサンリオピューロランド注14」(以下ピューロランド)がある。このピューロランドは、季節や天候に左右されることのない国内初の全天候型の屋内テーマパークである。そこには、サンリオショップはもちろんレストランやアトラクション、サンリオキャラクターの本物を楽しめるエンターテイメントシアターなどサンリオの考えるエンターテイメントの集大成がある。このピューロランドでのエンターテイメントのノウハウをサンリオショップに活かすとともに、逆にサンリオショップの特徴もピューロランドに活かしている。

サンリオでは、商品の提案においてPOS情報を有効に活用し、店頭販売の情報を定性・定量分析によってニーズの探索及び適正な品揃えの把握を行っている。また、商品は内部や外部からの情報や綿密な研究によるため、国内外とでは当然違っている。その国その国の風土生活に合わせた新製品開発がなされている。これが、徐々に海外においても理解を得られ、サンリオキャラクターは世界中に見られるようになった。海外事業部は、現在台湾、香港のアジア地区、米国カリフォルニア州サウス・サンフランシスコ、ブラジル・サンパウロのアメリカ地区、ドイツ・ハンブルクのヨーロッパ地区にそれぞれ現地法人を設け、市場にあった商品やデザインを開発し供給している。(図3)販売チャネルに関しては、欧州向けに各国主要百貨店において、ショップ展開をしている。「北米向けには、当初トイザラス注15」内でコーナーを設置させてもらい展開していたが、マスの流通は二次的、すなわちサンリオ本来の目的であるキャラクター自体の世界を構築できなかったために断念した。」(サンリオ本社インタビューによる)現在は、米国中心に直営店40店舗、取引先3,500店舗に商品を供給し、モール内にサンリオショップを出店させている。アジア向けには、日本との文化的差異が小さく、生活習慣が日本とあまり変わらないという理由から日本国内と同一商品を扱っている。

 

第2節 キャラクター・ライセンス許諾商品

キャラクター・ライセンス許諾商品は、キャラクターの使用を企業やメーカーに許諾して、その使用料をロイヤリティ(ライセンス料)として受け取るものである。キャラクターの使用には商品化と広告販売促進(以下広告販促)のための利用がある。

商品化とは、玩具や食品、アパレルなどさまざまな商品にキャラクターをつけたり、あるいはその形を利用して商品を作ったりすることを指し、いわゆるキャラクターグッズがこれにあたる。これを企業やメーカーが行うには、ライセンサー(版権元)との間で商品化契約を結ぶ必要がある。商品化契約とは、一般的に、その商品の希望小売価格の一定料率をロイヤリティとして支払うというものであり、相場は約36%である。ロイヤリティの設定基準は、多少諸契約によって幅もあるが、基本的には商品希望小売価格の3%である。キャラクター業界において一般的に使われているこの数字は、サンリオ社長の辻氏が決定したと言っても過言ではない。「海外のキャラクターを日本で使用する場合、海外の原作者、海外の版権元、日本の版権元といったように、途中に著作権を所有する主体が多く存在するため、ライセンス料は跳ね上がってしまう。ところが、サンリオの場合は、サンリオ自身が著作者であり、版権元でもあるため、中間マージンを省くことができる。よって、辻氏は3%程度が妥当であると設定したのである。」(サンリオ本社インタビューによる)現在、この3%という数字が、キャラクター・ビジネス業界において一般的に使われている。

 次に広告販促とは、キャラクターを使ってCM、ポスター、チラシ、あるいはプレミアムグッズをつくってキャンペーンを行うものである。この場合は、生身のタレントと同じような契約が行われる。まず、「年間契約金○○円」という具合に契約金が発生する。そして、重要なことは、その企業のどの範囲において契約するかということである。OA機器メーカーを例に挙げると、コピー機の広告、OA機器全般の広告、あるいはメーカー全体のイメージキャラクターとして使うのかでは、意味合いが全く異なる。原則として、ライセンサーが広告販促契約を行うのは1業種1社であるため、契約金には使用料とともに独占権の意味も含まれていることになるのである。そして、キャラクターを広告販促に使うメリットとしてプレミアムグッズ(限定品)がある。しかし、このプレミアムグッズをつくるという条件は契約金には含まれないのが一般的であるため、広告販促のためにプレミアムグッズをつくって、それを顧客に無償で配るという場合には、契約金とは別に「プレミアムロイヤリティ」というものを支払うことになる。それはライセンシーの調達価格の10%前後というのが一般的である。

19764月、サンリオ・オリジナル・キャラクターの使用許諾業務が開始され、各商品、アイテム毎での細い契約が行われている。「例えば、時計業界において、セイコーは「クロック」であり、シチズンには「ウォッチ」というように区別されている。このように、同業種の企業であっても、アイテム毎によって許諾をしている。」(サンリオ本社インタビューによる)(表1)また、「キャラクターのイメージに添うものであれば、キャラクター自体に多少手を加えることもある。森永製菓の「ハローエンゼル注16」」などが特徴的な例である。」(サンリオ本社インタビューによる)この点は、他のライセンサーには無い特色であるといえるだろう。サンリオでは現在、500社の消費財メーカーと取引を行っていて、ライセンス契約は原則として一年であり、多くの場合その後自動継続される。取引先とは長い付き合いをするというのが、サンリオのポリシーである。しかし、サンリオ・キャラクター自体のイメージに適した商品でなければ、いかなるものでもライセンス契約を交わさないという一面もある。「例外として、全酪連の牛乳は過去に不祥事があったにもかかわらず、双方の話し合いの結果、ライセンス許諾することになった。そして、販売されることになったキティちゃん牛乳は、現在ではライセンス許諾アイテムの中でも人気商品となっており、売上高No.1を誇っているのである。」(サンリオ本社インタビューによる)キティブーム注17)(後述)の影響により、ここ数年で、ライセンス事業は好調に推移している。しかし、「ライセンス許諾は極めて慎重で企業間の信頼関係が重要であり、ブーム以前からの取引が行われていた企業を中心にアイテム数を増やしているため、急激に取引先を増やすということは行っていない。」(サンリオ本社インタビューによる)

当初、キャラクターのデザインは、漫画家の水森亜土注18」など外部に委託していたが、1974年の「ハローキティ」、「パティ&ジミー注19」」(図4)を皮切りに、現在ではすべてのキャラクターを自社開発している。サンリオでは、外部開発キャラクターの商品製造も行っている。これを行っているのは、子会社である(株)サンリオファーイースト注20)である。同社は、版権を購入し、請負商売としてグッズ生産をしている。現在のプロジェクトでは、Jリーググッズ注21」2002年ワールドカップグッズ注22)などがある。また、現在まで残っている外部デザインのキャラクターはスヌーピーのみである。イギリスの大手グリーティングカード注23)会社ホールマーク社注24)が日本に進出しようとした昭和30年頃、日本での定着は難しかった。その後を辻氏が日本での販売を引き継ぐ形になり、それと同時に、スヌーピーグッズの販売も請け負うことになった。しかし、数年前にホールマーク社との契約が切れたため、現在では、グリーティングカードを除くスヌーピー注25)グッズを扱っている。

 

第3章             キティちゃん

 

キティちゃんは、1974年に誕生して以来、数々の商品を通してロングセラーを続けている。しかし、その不動の地位に安住しているわけではなく、デザインの側面から、キティちゃんの強さを見ていきたい。キティちゃんのデザインは、新しい商品ジャンルが次々に増え、なおかつ定番商品に加えて地域限定商品のようなプロモーション商品も数多い。「人と違ったものを持ちたい」というニーズが強くなっていることを背景として、デザイン変更のサイクルは、短くならざるを得ないのである。しかし、かつては違っていた。キティちゃんが誕生した当時は、全く同じ表情で、いつも顔は正面を向いていた。(図5)だが、1981年頃から斜めを向くなど、キティちゃんは変身し始めた。その後、『ある女子高校生からの一通の手紙がきっかけとなり、大きな転換期を迎えることになる。その内容とは、「わたしはキティちゃんが好きだけれども、子供向けのものしかないので周囲から冷ややかな目で見られてしまう。わたしが持ってもおかしくない商品を作っていただけませんか。」というものであった。そこで、大人向けの商品開発に乗り出した。』(サンリオ本社インタビューによる)キティちゃんは1990年代に入り、コスチューム注26)を次々に着替えて、イメージチェンジを図ることになる。1993年にリボンをハイビスカス注27)に変え、1994年からは、看護婦スタイルの「ナースキティ」がシリーズ化されるなど、この国民的キャラクターはスタイルを変えることで、陳腐化を免れてきた。1996年秋に発売された「キルトシリーズ」(図6)をきっかけとして、1997年にキティブームが到来した。このブームを拡大したのは、当時抜群の人気を誇っていたアイドル歌手華原朋美注28)の一言である。彼女が出演したテレビ番組で、キティちゃんグッズを愛用していると話したからです。これに前後して、小柳ルミ子注29)やつんく注30)などにも同じような発言があり、芸能人お気に入りキャラクターとしてあっという間に女子中高生の間に口コミ注31)で広まったのである。商品のブームを作る口コミの重要なキーパーソンは女子高生である。彼女たちは物事を理屈ではなく感性で捉え、それを口コミで広げていく情報網を持っている。企業側がいろいろな思惑を持って宣伝したとしても、その時代の彼女たちの感性に合わなければ、決して受け入れられることはないのである。そういった点で、キティちゃんは感性に合うキャラクターであったといえる。キャラクターグッズというのはいわゆるブランド品注32)と同じような嗜好品の部類になる。しかし、価格はノンキャラクターのものよりは多少高いにしても、いわゆるブランド品のように高額ではない。そして、比較的自分たちに身近な実用品として存在しているので、広がる速度が比較的速い。キティちゃんは発売開始から今年で25周年を迎え、常に爆発的なブームというわけにはいかないが、確実にファンは増えつづけている。それが、兄弟、親子また友達の間で口コミとして広がっていき、ついに自分の子供にまで口コミすることになる。顧客層をどう広げるかが課題であったサンリオは、これを機にブームの火付け役である女子中高生から主婦層、そしてその子供たちにまでターゲット拡大に成功した。キティちゃんほど消費者に広く浸透しているキャラクターであっても、「同じかたち」でロングセラーを続けられるわけではない。消費者の要求と、時代の空気を反映させて、変化し続けることがキティちゃんの強さを支えている。(図7-1、図7-2)そのことは、キャラクターが定番として認知され、長寿を保つための鉄則といえる。

また、海外でもキティちゃんブームは巻き起こっている。「その背景として、日本でも有名な猫好きで知られるマライア・キャリー注33」や人気歌手アラニス・モリセット注34などがキティちゃんグッズを集めているなどで、その影響を受けた若者などに人気が出ている。更に、数年前CUTE注35がブームになった欧州では定年断層よりもむしろ大人への人気が高まり、イタリア・イギリスで売上がうなぎのぼりになった。」(サンリオ本社インタビューによる)

アジア地区では、昨年6月に香港のマクドナルドがサンリオの現地法人と契約を交わし、キティちゃんのぬいぐるみ販売を行った。その後、台湾やマレーシア、韓国、シンガポールでも大反響を呼んだ。「台湾、マレーシアではマクドナルドの店舗自体が少ないため開店前から行列ができるほどで、シンガポールではぬいぐるみを求めて暴動まで起きてしまった。これは、イベント的性格を持ち価格も安く、コレクター注36性があったためだと思われる。しかし、潜在顧客を獲得したわけではなく、マクドナルドのキャンペーン後、サンリオ商品の売上は特別視するものではない。だが、認知度がアップしたと言えるだろう。」(サンリオ本社インタビューによる)アジアでのマクドナルドのキティぬいぐるみキャンペーンの反響から、日本国内に逆輸入される形になった。2000年6月下旬〜7月上旬にかけて、日本でも同様のキャンペーンが展開されることになった。価格設定は通常価格の4分の1である1個380円で、一定の期間でキティちゃんのコスチュームを次々と変えて行われた。昨今のキティブームにこの安さとコレクター性が加わり、キャンペーン期間中の売上は約34億円で、ぬいぐるみ販売個数は900万個、つまり、一日にして27万個が売れたという計算になる。日本を含め海外でのぬいぐるみ販売個数は、1,900万個売り上げた。このブームが米国にも飛び火する形で、8月には西海岸、9月からはハワイで同じキティちゃんぬいぐるみが販売されている。

 

第4章             サンリオの「ギフト・ビジネス」、そして今後

 

サンリオは、ピューロランドでのエンターテイメントのノウハウを有効に活かして、コーナーとしてショップを確立し、キャラクターワールドを作り出している。その形成されたキャラクターワールドは、@心の充足感を味わえる空間、A地域に密着し、愛される売場、Bエンドユーザーを意識して、ニーズを先取りした商品開発を目指し、質の高いサービスを提供する空間という3つの理念を持つことによって、エンターテイメント的性格を持っている。このただ単に、キャラクターをものに付けて売るというビジネスではなく、人に様々な気持ちを抱かせるような商品を提供しているのである。これが正に「ギフト・ビジネス」である。商品に対して、より高い付加価値をつけることによって、人と人とのコミュニケーションのきっかけとなるような、人に真心を贈るためのキャラクター商品販売を行うビジネスである。それは、サンリオの商品、キャラクター自体を心から愛してもらうことが大切であると考えているからなのである。

キティブームでファン層は広がりを見せたが、「今後サンリオはシルバー用品に力を入れることによって、高齢者からも支持を得ようと考えている。」(サンリオ本社インタビューによる)子供から親へ、そしてその親へと層を広げることによって、親子で、また家族でサンリオ・キャラクターを使用してもらおうと、愛してもらおうと考えている。それが、子供からまたその子供へと伝えられていくことが考えられる。ポケットモンスター注37)のように需要0が今や数百億以上の売上、つまり、マーケットそのものの創造を行った任天堂と比較すれば、子供が石ころや折り紙をプレゼントする、といったほそぼそとしたマーケットを多少広げたに過ぎないサンリオは比較にならない。しかし、人間にとって、家族を含めた周囲の人々とのほんのささいなプレゼント交換は、マーケットの大小とは別に、優しさや思いやりの交換という無くてはならない非常に重要なコミュニケーションシステムであり、それは、任天堂が果たした精神的なストレス解消のためのゲームソフト製作と同じか、あるいはそれ以上の価値があるのではないだろうか。キャラクター・ビジネスの先駆者といえるサンリオは、「ギフト・ビジネス」を貫くことによって、飛躍的な事業拡大はしないものの、適正規模でその存在価値を大きく示すことが可能なのである。

 

 

【参考文献】

 辻信太郎著 「これがサンリオの秘密です」(株)扶桑社 2000

 山田徹著 『キャラクタービジネス「かわいい」が生み出す巨大市場』  PHP研究所 2000

 西村秀幸著『事例に学ぶ「口コミで設ける」』明日香出版社 2000

 『東洋経済「会社財務カルテ2000」』東洋経済新報社

 『東洋経済「会社財務カルテ1996」』東洋経済新報社

 「日本社史総覧 下巻」東洋経済新報社 2000 

 「会社年鑑 上場会社版 下巻」日本経済新聞社

  「キャラクター・ライセンシング白書 2000」 綜合ユニコム

 「サンリオピューロランド ガイドブック」(株)サンリオ 2000

 サンリオ会社案内

 

【雑誌】

「週刊 SPA! 726日号」(株)扶桑社 2000

「週刊 ダイヤモンド 99日号」ダイヤモンド社 2000

 

【新聞】

「毎日新聞 626日 朝刊」 毎日新聞社

 

【ホームページ】

サンリオ 「http://www.sanrio.co.jp/

毎日新聞社 「http://www.mainichi.co.jp/」 

日本経済新聞社 「http://www.Nikkei.co.jp/」 

 



注1)1974年にサンリオが開発した猫をモチーフにしたデザインのこと。双子の姉妹で、リボンが右の耳についているのはキティちゃん、左に耳がミミィちゃんである。

注2)サンリオが独自に開発した用語で、身近な人に感謝の気持ちや心を送り、また心を伝えるビジネスのこと。

注3)1962年にサンリオが自社開発商品第一号として誕生させた、果物のイチゴをモチーフにしたデザインのこと。   

注4)サンリオのキャラクターを付した商品のこと。

注5)ディズニーが製作した漫画の主人公であるネズミの名前のこと。  

注6)キャラクターの世界に入り込むような空間のこと。  

7)197112月東京新宿アドホックビルに第一号店がオープンした、サンリオの直営店のこと。  

注8)女子大生から二十代のOLのこと。   

注9)19969月東京渋谷に第一号店がオープンした、他店舗より顧客ターゲットを高く設定したサンリオの直営店のこと。

注10)それぞれの店舗によって異なるキャラクターワールドのこと。

注11)新宿伊勢丹内にあるサンリオショップの名前のこと。   

注12)新宿高島屋タイムズスクエアにあるサンリオショップの名前のこと。

注13)ディズニー商品を扱っている店舗のこと。

注14)199012月にオープンした東京多摩市にあるテーマパークのこと。

注15)アメリカ最大の玩具専門のチェーン店。全米に約500店、海外に75店を展開している。

注16)天使の格好をしたキティちゃんがおまけとして入っている菓子のこと。

注17)1997年が最盛期。キティちゃん商品が女子高生を中心に流行したこと。

注18)女優・ジャズ歌手・イラストレーター。東京都生まれ、本名・里吉文江。1964年に劇団未来劇場の公演で初舞台。以来、同劇団に所属。イラストレーターとしても活躍。

注19)1974年にサンリオが開発した女の子と男の子をモチーフにしたデザイン。

注201990年に設立されたサンリオの子会社。

注21)日本のプロサッカーリーグであるJリーグに所属するチームのマスコットを付した商品のこと。

注22)2002年に日本と韓国の二カ国で開催されるサッカーのワールドカップに関連した商品。

注23)クリスマスや誕生日などに祝いの言葉を記して贈るカード。

注24)米国のグリーティング業界においてシェア1位にある企業。

注25)今年2月12日に逝去したチャールズ.M.シュルツが1950年から筆をとっていた漫画「ピーナッツ」の主人公

注26)ある民族・地方・時代・階級などの風俗を表す服装のこと。

注27)ブッソウゲ、特に観賞用に栽培する園芸品種のこと。ハワイの州花。

注28)タレント。本名・下河原朋美。平成6年遠峯ありさの名でデビュー。翌年、小室哲也に出会い、改名。「keep yourself alive」で歌手デビュー、ヒット曲に「I’m proud」など。

注29)歌手・女優。昭和45年、NHK朝のテレビ小説「虹」でデビュー。翌年、「私の城下町」で歌手ビュー。「瀬戸の花嫁」「お久しぶりね」など。歌手のみならず、演技派女優としても活躍。

注30)ミュージシャン。本名・寺田光男。グループ・シャ乱Qのボーカル。平成元年にシャ乱Qを結成。平成4年「18ヶ月」でデビュー。「シングルベット」「ずるい女」など。また、モーニング娘。などのプロデューサーとしても活躍。

注31)互いに口から口へ情報を伝えること。(コミはコミュニケーションの略)

注32)商標・銘柄のついた品。また、特に名の通った銘柄の品のこと。

注33)1990年に20歳で全米デビューした女性歌手。デビューから4年間でCDシングル・アルバム売上が全米1を次々ととり、グラミー賞をはじめ、各音楽大賞を総なめした。日本でも人気がある。

注34)21歳でデビューアルバム「ジャグド・リトル・ピル」が全世界で2,800万枚のセールスを記録。各国でアルバム・チャート1位を飾ったのに加え、全米では第1位に12週、トップ10には66週入り続け、グラミー賞の主要4部門独占。美しい歌声が”Purity(純真)”と評される、米国人女性シンガー。

注35)かわいらしい、気の利いた。活発でいきいきした女の子を指す。

注36)収集家、徴収家のこと。

注37)少年雑誌「コロコロコミック」(小学館)、学年誌で連載・ゲームソフトの販売が19962月から始まる。キャラクターはスタート時が150種、現在は200種ある。国内外で子供に大人気。