各研究テーマ

本研究所の課題は、総合的歴史研究を通じて軍縮と軍備管理をとりまく近現代世界の本質的構造を解明することにあります。これは「平和で豊かな社会の創造を目指す」本学の理念に即したものでもあります。本研究所では、現在、以下の4つのプロジェクトを組織して、以上の研究課題を追究しています。

2015年に本研究所が設立されて以来、相互に関連した3つのテーマ(プロジェクト)に関して、3年間にわたって国際的な共同研究を実施してきました。具体的には、第1テーマ「武器移転・技術移転の連鎖の構造解明」、第2テーマ「軍縮・軍備管理破綻の構造解明」、第3テーマ「産官学連携・軍事偏重型産業化モデルの国際比較」、以上の3テーマですが、現在はこれまでの成果を踏まえ、新たに次の4つのプロジェクトを中心に、学際的・国際的な共同研究に取り組んでいます。

第1プロジェクト:帝国統治システムの移転に関する実証研究

このプロジェクトでは、19世紀末以降の帝国主義の時代にアジア・アフリカ世界に持ち込まれた政治経済・文化・軍事の広い領域に及ぶ帝国統治システムがその後いかに世界に拡散したのかを解明していきます。これまでの第1テーマ「武器移転・技術移転の連鎖の構造解明」では、「送り手」と「受け手」の二国間だけの閉ざされた事象として捉えられてきた武器移転を連鎖的な事象(つまり武器移転の「受け手」がやがては「送り手」に転化・拡散しうる連続過程)として捉えて研究を進めてきました。この第1プロジェクトは、そうした視点を多角的に発展させたものであり、これまでの共同研究の成果である横井勝彦・小野塚知二編『軍拡と武器移転の世界史-兵器はなぜ容易に広まったのか-』(日本経済評論社、2012年)で持ち越された課題を追究するものでもあります。

第2プロジェクト:軍事民間航空における武器移転・技術移転の国際連鎖の解明

軍民両用性を持つ航空機は軍備管理の対象になりにくく、航空機分野における軍縮はことごとく失敗に終わってきました。その結果、この分野での武器移転と技術移転は世界的な広域連鎖を引き起こしてきました。この研究グループは世界各国の航空機産業(兵器産業)と航空産業に注目して、両大戦間における軍民両用技術のアジア・南米への移転の連鎖とそれを背景とした大衆航空文化拡大の世界史的意味を追求していきます。第2プロジェクトの課題は、これまでの第1テーマ「武器移転・技術移転の連鎖の構造解明」と第2テーマ「軍縮・軍備管理破綻の構造解明」の成果である横井編『航空機産業と航空戦力の世界的転回』国際武器移転史研究所研究叢書1(日本経済評論社、2016年)をさらに発展させたものであります。

第3プロジェクト:途上国の軍事的自立化と経済援助・軍事援助に関する比較研究

このプロジェクトでは「武器移転」の対象時期を両大戦間期から冷戦期までに拡大し、対象とする国もアジア諸国(インド、日本、中国、韓国、台湾)にまで広げて、新たに「軍事援助」「軍産学連携」「途上国の兵器国産化」といった視点を加えて、国際共同研究の新たな展開を目指しております。冷戦期に米ソ両国が展開した経済援助と軍事援助は、途上国への武器移転やそこでの軍事的自立化・兵器国産化と軍産学連携の形成にどのような影響をもたらしたのか。第3プロジェクトの課題は、これまでの第3テーマ「産官学連携・軍事偏重型産業化モデルの国際比較」を踏まえたものであり、本研究所の研究分担者渡辺昭一(東北学院大学)編の『冷戦変容期の国際開発援助とアジア―1960年代を問う―』(ミネルヴァ書房、2017年)での研究課題を継承・発展させたものであります。

第4プロジェクト:近現代における軍縮・軍備管理構想と帰結の総体的解明

近現代世界の構造が変容していくなかで、軍縮や軍備管理といった用語の意味や、軍縮・軍備管理の諸施策の目的や内容、およびそれら諸施策を基礎づける概念枠組みも目まぐるしく変貌してきました。第4プロジェクトでは国内外の歴史学者・法学者・国際政治学者らによる学際的・国際的共同研究を通じて、近代以降の各時代に軍縮・軍備管理の諸施策を基礎付けた概念枠組みを総体的に紐解くとともに、それら諸施策の帰結を明らかにしていきます。このプロジェクトの課題は、これまでの第2テーマ「軍縮・軍備管理破綻の構造解明」の成果である榎本珠良編『国際政治史における軍縮と軍備管理-19世紀から現代まで-』国際武器移転史研究所研究叢書2(日本経済評論社、2017年)を踏まえたものであります。