小谷 賢『日本インテリジェンス史 -旧日本軍から公安、内調、NSCまで-』
(中公新書、2022年8月刊)279頁
- 目 次
- まえがき-「絶対非戦」と「絶対平等」を求めて
- 序 章インテリジェンスとは何か
- 第1章占領期の組織再建
- 第2章中央情報機構の創設
- 第3章冷戦期の攻防
- 第4章冷戦後のコミュニティの再編
- 第5章第二次安倍政権時代の改革
- 終 章今後の課題
- 概 要
戦後日本のインテリジェンスにまつわる断片的な逸話は多く出版されているが、それらを検証して、1つの歴史的な流れに纏めた研究は、米国MITのリチャード・サミュエルズ教授による『特務』(日本経済新聞出版 2020年)しか存在しない。同書は日米同盟を中心に、防衛庁・自衛隊のインテリジェンスを中心に論じたものである。それに対して本書は、戦後日本のインテリジェンス・コミュニティーが、警察官僚と内閣情報調査室を中心に運営されてきたことを描いた。
本書では戦後日本のインテリジェンス・コミュニティーの変遷を追いながら、主に二つの点について論じている。それらは、①なぜ日本では戦後、インテリジェンス・コミュニティーが拡大せず、他国並みに発展しなかったのか、②果たして戦前の極端な縦割りの情報運用がそのまま受け継がれたのか、もしくはそれが改善されたのか、というものだ。
①については、吉田政権時代の頓挫と、その後の政権がインテリジェンス改革に消極的であったこと、そして冷戦期は独自の外交・安全保障を追求する必要性がなかったため、国として情報が必要とならなかったためだと指摘できる。②の縦割りの弊害の問題については、戦後しばらく引きずった印象である。しかし冷戦後に国レベルで独自の外交・安全保障を纏める必要性が生じたため、インテリジェンスを掌る内調の権限が強化され、運用面においては縦割りの緩和が徐々に進んだといえる。
本書の構成は、終戦直後、吉田政権期、冷戦期、冷戦後、第二次安倍政権期、と時代を区切りながら、それぞれの時代の日本のインテリジェンス・コミュニティーを論じるものであり、そこから戦後各省庁が設置した小規模なインテリジェンス組織が、時代を下るごとに徐々に統合され、国レベルの組織に拡大していく様子を 描いた。ただ本書を執筆して感じたのはこの分野における一次資料や公文書の未整備であり、本書も関係者の証言や国会議事録に多くを頼っている。そのため今後は散逸した一次資料の収集を検討している所である。