ケナンのモスクワからの長文電報
1946年2月22ロ(抜粋)



(1) ソビエト権力は、ヒトラー・ドイツの権力ほどには計画的でもなければ、冒険的でもない。それは、決まった計画によって動くわけではない。それは不必要な危険を冒さない。それは、理性の論理に鈍感なくせに、力の論理にはきわめて敏感である。それゆえ、どんな場合でも、強力な抵抗に出合えば、容易に後退することができるし、またたいていはそうする。こうして、もし相手が十分な力を持ち、その力を用いる用意があることを明確に示すならば、実際にはめったにそれを用いる必要はなくなる。こうしてもし状況が正しく処理されていれば威信をかけた対決の必要はないのである。

(2) 西側世界全体と対比すると、ソビエトはいぜんとしてはるかに弱体な勢力である。それゆえ、彼らの成功は、西側世界がどの程度まで結束と断固たる意志と気力を発揮しうるかに、まさにかかっている。そして、これは、われわれの力で影響を与えることのできる要素なのである。

(4) ソビエト安全保障圏から一歩外へ出ると、すべてのソビエトの宣伝は、基本的に否定的で破壊的である。だから賢明で真に建設的な計画をもってすれば、それと戦うことは比 較的容易であろう。
 このような理由で、私は、われわれがロシアといかに付き合うべきかという問題を平静 に、善意をもって処理できると思う。この処理をいかに行うべきかについて、私は結論として、以下の意見を示したいと思う。
 多くの点がわれわれ自身の社会の健全さと活力にかかっている。国際共産主義は病気の細胞組織の上にのみ紫殖する悪性の寄生菌のようなものだ。(中略)われわれ自身の社会の内部問題を解決し、われわれ自身の国民の自信と規律と士気と共同意識を高めることは、千百の外交覚書や共同コミュニケにも匹敵するはどのモスクワへの外交的勝利である。
 われわれは、過去においてわれわれが示してきたものよりも、さらに望ましい形の、はるかに積極的で建設的な世界像を作り上げ、他国に示さなければならない。多くの外国国民が、少なくともヨーロッパでは、過去の経験にうみ疲れ、恐がっており、深遠な自由というものには、安全問題よりもうすい関心しか持っていない。彼らは、責任よりも指導を求めている。われわれはロシアがこれらの外国国民に与えるよりも立派に、指導を与えることができなければならない。そして、もしわれわれが、それをしなければロシアがかならずやるだろう。


出所) 細谷千博、丸山直起編『国際政治ハンドブック』(有信堂)、74ページ。
原典:G.F.ケナン、奥畑稔訳『ジョージ・F・ケナン回顧録(下巻)』
   読売新聞社、321-334ページ


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