法情報調査講義概要
夏井高人
<注意>
最新の内容で授業を実施するため,ここに書かれていることは,印刷・配布されているシラバスとは異なる内容の部分を含んでいます。
授業実施当日までの間に,内容が改訂されることがあります。
<実施日>
奇数班 8月17日・18日
偶数班 8月19日・20日
<教室>
1日目 情報U教室(午前9時30分ころから利用可能)
2日目 情報U教室(午前9時30分ころから利用可能)
■授業の目的・内容
次の事項の習得を目的とする。
a 法情報の基本構造の理解
b 法情報の存在形態の理解
c 法情報の利用(引用方法を含む。)についての理解と習得
d 法情報の検索方法の習得
これらの目的を達成するために,少人数(総計15名以内)のグループ研究方式により,講義と演習を組み合わせたかたちで授業を実施する。
演習の部分中には,共同討議と法情報検索実習及びレポートの作成を含む。
■教育方法
集中講義形式とし,コンピュータを使用可能な教室等を使用して,オンラインによる講義・討議等を併用しながら授業を実施するほか,インターネット上の法情報の検索実習を実施する。
また,図書館において書籍形式,CD-ROM形式,オンラインデータベース形式その他の物理媒体中に存在する法情報の検索実習を実施する。
■教科書・参考書
教科書
指宿 信・井田 良・夏井高人・山野目章夫監修 『リーガル・リサーチ』 (日本評論社,2003年)
参考書
三輪眞木子著 『情報検索のスキル−未知の問題をどう解くか』 (中公新書,2003年)
夏井高人著 『ネットワーク社会の文化と法』 (日本評論社,1997年)
※ 事前に購入し,必要部分を熟読しておくこと。
■履修上の留意点
コンピュータを使用することができない学生,電子的な形式でレポートを作成することのできない学生及び電子メールを使用することのできない学生は,この科目を受講することができない。
※ 情報教室では,一般のWebメールまたは明治大学の学内メールシステムを利用する。Outlookなどのメーラーを使用することはできない。
※ 情報教室のマシンにアクセスするためのアカウントを事前に確認しておくこと。
1時限でも欠席した者及びレポート等を提出しなかった者に対しては,単位を認定せず,または,その成績評価をしない。
理解度チェックを実施する場合には,その要件を満たさなかった者に対しては,単位を認定せず,または,その成績評価をしない。
■成績評価
授業終了時点において受講者からレポートを提出させ,そのレポートの内容及び授業の習熟度等を総合して成績評価をする。
受講者の習熟度及び理解度等を確認するために,理解度チェックを実施することがある。
■授業計画
夏期の集中講義形式とする。実施日数は合計2日間とし,1日目は4時限,2日目は3時限の合計7時限で授業を実施する。
<1日目:2時限〜5時限>
第1・2回 法情報の所在と形式
予め教科書を熟読しているという前提で,法情報の所在と形式について,情報としての存在形態,所在情報の入手方法,具体的な調査手段等を含め,総論的な講義をする。ここでは,インターネットその他の電子媒体によって提供される法情報,その他の媒体によって提供される法情報,一般には入手できない法情報の3種類に分けて,それぞれの特色が分かるように説明をし,質疑応答をする。
この時点で簡単な理解度チェックテストを実施し,理解度の著しく低い者,予め教科書を熟読してきていない者については,第3回以降の講義を受講させない旨を通告する。
理解度チェックテストとしては,司法試験または司法書士試験の短答式問題中の特定の年度の特定の問題番号のものを検索した上で,当該問題の回答に必要な次のものについて口頭で答えさせる形式とする予定。
a 情報検索のための知識・技法
b 情報の検索結果の当否・優劣を判断するための能力
c 問題それ自体を把握・理解するための能力
d 問題を解くために必要な知識・情報
e 問題を解くために必要な思考訓練
f 自己の思考過程をトレースする能力
g 自己の判断結果及びその理由を表現する方法
第3回 法情報の引用
法情報の引用について,伝統的な形式による法情報の場合と電子的な媒体で提供される法情報とに分けて説明する。
<考えるポイント>
引用は何のためになされるのか?
なぜ形式にこだわるのか?
なぜ電子的な媒体で提供される法情報については定まった方式が存在しないのか?
では,どうすればいいのか?
第4回 模擬演習
第1〜3回までの講義を踏まえ,下記の演習用課題に基づいて,法情報の調査結果をレポート化するための模擬演習を実施し,2日目の実地演習に備える。この模擬演習において作成されたレポートは,成績評価の対象とはしないが,第5・6回で実施される演習を効果的なものとするためにその提出を求める。受講者にはそのコピーを交付する。
<模擬演習課題・奇数班用>
次の事案のような質問を受けたと仮定し,事前に何を調査したらよいのかをまとめ,その結果を電子メールで送信する方法により提出すること。
(仮設相談者からの質問)
私は,長年A社に勤務しているサラリーマンです。妻もパートで働いています。子供が一人います。
これまで都内の賃貸マンションで暮らしておりましたところ,高校時代の友人Bから,遺産である中古家屋を安く処分したいという連絡を受けました。そこで,家族全員で現地に行ってその家屋を見ました。その家は2階建ての3LDKの建物で小さいけれども庭もあります。それに,中古と言っても建築後10年たっておらず,環境もよく,すぐに気に入りました。子供もよろこんでおりました。友人の説明によると,亡くなったお父さんが賃貸物件として他人に貸していたのだけれど,借りていた人が転勤で遠くにいってしまい,現在は空家だそうです。内部のリフォームなどもしてあり,見た目は新品同様でした。
そこで,友人にこの家を買いたいと言い,2000万円で買う約束をしました。登記等の手続費用がかかるというので,2004年5月1日に,代金の内金も含め,私と家内が貯金していた1000万円をその友人の銀行口座に振り込んで支払いました。
ところが,その後,その友人から連絡がないのでおかしいと思い,2004年5月5日に予め携帯電話で「会いたい。」と連絡した上で,直接会いに行ったところ,不在で,携帯電話もつながりませんでした。私は,何やいやな予感がしたので,その足で法務局に行き,登記簿を調べてみました。すると,この家屋は,2003年10月1日に相続を原因としてBの亡くなった父親からBに所有権移転登記がなされておりましたが,2004年5月2日に,私がぜんぜん知らないCという人に所有権移転登記がなされていることが分かりました。
私は,驚いてBを探しました。しかし,どうやっても見つかりません。Bは逃げてしまったのでしょうか?
私は,いったいどうしたらいいのでしょうか?
<模擬演習課題・偶数班用>
次の事案のような質問を受けたと仮定し,事前に何を調査したらよいのかをまとめ,その結果を電子メールで送信する方法により提出すること。
(仮設相談者からの質問)
私は,A市の職員をしている地方公務員Bです。A市では,市の広報担当の仕事をしており,その関係で,数年前からA市のホームページの管理の仕事もしています。
昨年,このような仕事をしながら独学で覚えた技術を活用して,個人でやっている非行少年対策のボランティアの仕事のための個人ホームページを作ろうと考えました。コンテンツは,市で発行している広報の中の非行防止のための記事などからコピーして使用すれば著作権法上の問題も発生しなだろうと考え,それを使うことにしました。また,悩み事相談のための電子掲示板を設置することにしました。
私は,2003年12月末ころ,このような計画をしていることを友人Cに話しました。Cは個人事業者としてサーバ貸しやプロバイダなどを経営している人です。Cは,私の話しを聞いて大いに賛同してくれ,ただでサーバを貸してくれると言いました。
そこで,私は,Cのサーバを借りて私のホームページを作成しました。思ったほどアクセスはありませんでしたが,そこそこ成功したと思っています。
そうするうちに,2004年の2月初旬になって,Cは,私に対し,私のホームページにバナー広告を貼ってくれと依頼してきました。しかし,私は,一応A市の職員なので,営利活動をしているように疑われる行動をすることはちょっと難しいと断りました。その後,しばらくCからは何の音沙汰もありませんでした。
ところが,2003年4月1日に,Cからいきなり内容証明郵便が届き,これまでのサーバ利用代金(1ヶ月10万円×6ヶ月=60万円)を支払ってくれと言うのです。
私は,驚いて,Cに電話をしました。
すると,Cは,「バナー広告をつけたり,有料サイトへのリンクをつけたりしてもらって自分にも利益があると思ったから無料で貸すことにしたんだ。それは,当然わかっていたはずだろ?」「去年会って酒飲んだときに,こんなアダルトサイトが危ない!みたいなリンク集をつくろうって言って一緒に盛り上がったじゃないか?」「だけど,約束違反があるんだから,本当は契約解除した上で損害賠償を請求しなければならないんだけど,友達だから,普通の有料の契約だということにして,これまでの使用料を支払ってくれ。これは,ウチの顧問弁護士とも相談して決定したことなんだ。」と言うのです。
実は,Cは,そのリンク先というアダルトサイトも経営しており,そこでボロ儲けしているようです。しかし,私は,Cからのこんな要求には納得できません。
私は,Cから請求されている使用料など払いたくないです。このまま無料で使用し続けるにはどうしたらいいのでしょうか?
(注意点)
実際の法律相談では,上記のように要点だけを話してもらえるとは限らず,何を質問したいのかがわからない場合も少なくないが,この授業はローヤリングの授業ではないので,上記のような質問であると了解したものと仮定して作業を進めること。
<2日目:2時限〜4時限>
第5・6回 法情報調査演習
明治大学図書館またはインターネットを用いて,課題として与えられた法情報について検索演習を実施する。なお,日本語で書かれた法情報に限定して検索演習を実施する(関連する文献等があっても,外国語で書かれたものは除くものとする。)。
この時間内に,調査をしつつレポート作成に着手することを許す。
<演習課題>
第4回で用いた模擬演習課題で各人が考えた法的論点のうち,関連する裁判例を調査し,整理しなければならない論点1個のみを選択した上で,その論点について,関連する裁判例を調査し,簡潔に調査報告書をまとめる。
なお,
※ 留意点
ここでいう法的論点は,法律問題と関連する事柄であっても事実の確定の範疇に属するものは含まない。
模擬演習課題に含まれるものとして各自が指摘した法的論点の中で,演習課題のテーマとして選択した論点以外の論点については,その重要度のいかんを問わず,一切触れてはならない。
日本人のクライアントに対して法情報調査の結果を報告するという想定で,日本語による報告書を起案するものとする。
学位論文の作成または論文作成演習ではないので,論点に関して自己の主張の積極的な論拠となり得る裁判例,消極的な裁判例及び中性的な裁判例を整理し,想定される事態(仮設相談者から更に事情を聴取し事実関係を確定した後でも相手方から主張されることが予想され得る事態を含む。)を踏まえて,自己の主張が十分な論拠を有するかどうかを検討すること。
文献・判例の引用が必要である場合には,必要性の程度等に応じて,フルの記載による引用・出典表記または簡略化された記載による引用・出典表記を各自の判断で選択すること。この場合において,簡略化された表記を選択する場合には,教科書に示されている記載例に準拠すること。
起案・提出すべき調査報告書について,書式・体裁は指定しない。しかし,自分自身が依頼者であった場合に,報酬を支払ってでも読みたいと思うような内容を含み,かつ,短時間に要点を把握することが可能なような実務的な書式・体裁を選択すべきである。
第7回 レポート作成と講評
第1〜6回の講義及び演習等を踏まえ,第5・6回の演習で検索した法情報を調査報告書の形式でまとめて提出する。
報告書は,電子メールに添付して送信する方法により提出する。
提出された報告書に基づき,講評を実施し,事後に成績評価をする。
Last Update : 19/Aug/2004