インターネットでの情報発信をめぐる法律問題について

by 岡村久道


初出 : 福井県産業情報センター平成9年度第4回インターネット交流会レポート(http://www.fukui-iic.or.jp/library/other/internet/report7.html


Hisamichi OKAMURA

Practicing Lawyer, Lecturer at Kinki University

E-mail mailto:okamura@osk.3web.ne.jp

Web Page http://www.law.co.jp/okamura/index.html


【目       次】

<第1部>全体セミナー

 1.なぜ今、インターネットの世界において法律が問題になるか

 2.インターネットの特性からくる問題

 3.インターネット=デジタル情報ということ

 4.サイバースペースにおける著作権保護の現状

 5.著作権の基本的考え方

 6.引用の考え方

 7.肖像権及びキャラクター権

 8.サークルCマークの意味

 9.リンクと著作権の関係

10.これからのデジタル著作権保護

<第2部>グループ討議


 

<第1部>全体セミナー「インターネットでの情報発信をめぐる法律問題について」

 

1.なぜ今、インターネットの世界において法律が問題になるか

 インターネットは、1969年に開始されたアメリカ国防総省の軍事技術利用実験(ARPAnet)から始まり、その後は学術ネットワークとして使われてきたこともあり、必ずしもそういう面ではオープンなネットワークではありませんでした。しかし、90年代に入って商用化された結果として、インターネットは誰でもが利用できる本当の意味でのオープンなネットワークとして一般大衆に開放され、広く利用されはじめたのです。
 いわばインターネットの世界が「限られた私道が公道になった」わけで、現実の公道であれば交通事故が起こることもありますし、当然ながらその他のいろんなトラブルが発生します。そうすると、「道路交通法」で交通の安全を守るように、インターネットの世界でもネット上での安全な活動を守るためにその種の法律を整備する必要があるのではないかという議論が出てくるのは、考えてみれば当然の流れといえるわけです。

2.インターネットの特性からくる問題

 通常我々が日本国内で商取引をしてトラブルになった場合、それぞれ日本の法律に従って日本の裁判所で行われます。ところが、これが「国境の壁を超えた存在」であるインターネットの世界になりますと、こう単純にはいきません。
 分かり易く例を挙げますと、「ある日本の新聞社がアメリカにサーバーを置いているとします。そこで、その新聞社のホームページ上のコンテンツにを利用して、ドイツ在住のフランス人が著作権侵害してホームページ作った場合」、どの国の裁判所で、どの国の法律に従って裁かれるべきなのでしょうか。サーバ所在地をもとにするのか、その加害者の居住地か、はたまた新聞社の所在地でしょうか。現時点では、日本語のコンテンツであるなら、ほぼ日本人が読むということ、しかもその日本人というのは日本在住ということが通常だということで、日本国内の裁判所で日本の法律で対応するということになると思いますが、今後このままの状態が続くのかというと、色々なケースが登場すると予想されますので、これは非常に難しい問題になってくるわけです。
 この例からもわかるように、インターネットの特性によって、さまざまな場面で「これまでの法律的常識」が通用しない状況が出はじめているのです。
 本日は、こういった観点から、インターネットにおける著作権問題についてお話しさせていただきますただ、限られた時間数ですので、詳しいことは私のサイトの「電子ネットワークの知的所有権法F.A.Q.」(http://www.law.co.jp/okamura/qacyb01.htm)をご覧頂くとして、できるだけ日頃問題になっているケースを取り上げたいと思います。

3.インターネット=デジタル情報ということ

 インターネット上では、アナログ情報ではなく、デジタル情報を伝達します。著作権問題を考える時、このことは大きな意味を持ちます。デジタル情報はコピーやアレンジが非常に容易にできます。また、いくらコピーしても劣化しないし、大量にコピーをしてもそれほどコストもかかりません。例えば最近、ソフトウエアの複製物をネット上で売買したという悪質な事案が摘発されましたが、複製物といっても機能や動作において原本と本質的には変わりません。そういう意味では何が原本かすらわからないような状況が起きてくるわけです。
 デジタル情報がなかった昔には、例えばモナリザの絵を原本そっくりに描き写そうと思うと、それなりのテクニック、才能が必要でしたし、また、現代であっても、デジタル情報でなければ、モナリザの絵をそのまま最高性能のコピー機にかけたって、これはコピーだから原本とは違うということがすぐにわかるわけです。
 ところがデジタルの世界では、どんなに優れた絵であっても、これを例えばマウスでちょっと操作してやれば、いとも簡単にコピーできてしまう。しかも、インターネットを使えば、簡単にアメリカのサーバ上に蓄積されたコンテンツをコピーすることができる。その面でも、インターネットを含む電子ネットワークというのは、距離の壁を超えて、そういうコピー、場合によれば不正コピーというのを促進するわけです。そういう意味からいっても、今の状況というのはデジタル著作物の著作権の保護にとって大変な危機ではないかという指摘がなされています。
 しかしながら、この問題について私自身としては、後ほど説明しますが、技術的に解決できる問題であれば、法律で規制するよりもそちらの方で対応すればいいのではなかろうかと思っています。

4.サイバースペースにおける著作権保護の現状

 世界の著作権の考え方というのは19世紀にできたベルヌ条約に基づいておりまして、現在では一部の国を除けばほぼ全世界の国が加盟しています。ですから先程のどこの国の法律が適用されるのかという問題に関しては、著作権の分野に限ってはどの国の法律が適用されても基本的にはほぼ同じであるということになります。
 著作権に関するベルヌ条約は、その後のレコード、ラジオ、テレビ、あるいはビデオといった技術革新に対応しながら、順次に改正がなされてきていまして、一番最近の条約改正は、WIPOでの新条約という形で96年の暮れになされ、これによって電子ネットワークへの対応がなされたわけです。日本においても、97年6月、この新条約に基づいて国内の著作権法を改正し、98年の1月1日から施行されました。この改正によって、インターネットなどのネットワーク上でインタラクティブな送信をすることに関する著作権法の考え方が明確になったわけです。
 例えば、他人の著作物を勝手にスキャナで取り込んで自分のところのサーバに蓄積するという行為は、著作権者がコピーをコントロールできるという権利を侵害します。これは「複製権侵害」ということで、これまでも認められていた権利ですが、今回の新条約では、それをネットワークでインタラクティブな送信をすることに関して「公衆への伝達権」という権利を新たに設定しました。これに基づき著作権法改正で「公衆送信権」というのができました。簡単に言いますと、ネット上で送信するかどうかというのは、著作者が勝手に決めていいということになったのです。逆に言いますと、無権限でそういうことをした人がいれば裁判所を使って差し止め請求をしたり、損害賠償請求をすることができるいうことになったわけです。また、CDやレコード制作者などにも「送信可能化権」という権利が与えられることになり、この人たちの許可をもらわないで勝手にCDやレコードの内容をホームページなどで使うことができなくなりました。もっとも、音楽関係の著作権処理というのは非常にややこしいので、別途、JASRAC(日本音楽著作権協会)という団体のホームページなどで確認していただければと思います。
 そういう事で、ホームページで他人の音楽コンテンツを使用する場合、通常の場合にはJASRACという団体などにお願いにいくということになり、JASRACが決めた規定料金を支払えば使うことができることになります(本交流会開催の時点で、JASRACはその基準を作っていません)。

5.著作権の基本的考え方

 ここで、基本的なところになりますが「著作権」の考え方について大まかにご説明させていただきたいと思います。
 著作権法において著作権は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作物)に認められる権利とされています。このことからもわかるように、その対象が「思想又は感情」でなければならず、単なる事実は省かれます。また、「創作的」なものでなければならず単に真似をしたものには認められません。さらに「表現したもの」でなければならず、その内容となるアイデア自体には認めらません。
 このような要件を満たした著作物を利用しようとするものは著作権者と交渉して著作権を譲り受けるかライセンス(使用許諾)を得る必要があります。
 このように著作物には著作権が発生するので、他人の著作物を勝手に利用してはいけないことになっているのですが、次のような場合には例外扱いとなっています。

@著作物の保護期間が終了しているような場合。
A法令、通達、裁判所の判決等。
B官公PR資料等。(条件がついていたり、例外的に「これは転用してはなりません」と書いてある場合には、その限りではありません。)
C引用の要件を満たして使用する場合。

などです。

6.引用の考え方

 引用には以下の要件を満たす必要があります。ここでは、私が川端康成の小説『雪国』の一節を引用したエッセーを書く場合を例にとって、具体的にご説明することにします。
 一つめが「明瞭区別性」です。これは、カギ括弧をつけるなど、自分の著作部分と引用部分を区別することをいいます。

 例えば、以下のような書き方をします。

@「『国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった』、という一文があるが」

A「川端康成先生の『雪国』の冒頭部分に次のような文章がある。(改行)
   国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった(改行)
   以上のような文章を書かれた川端先生の心情がよくわかった」

 この@やAのような書き方をしておけば、どこが自分の文章でどこが人の文章(引用)なのかがわかるわけです。
 ホームページへの掲載ということでいうと、例えば写真を30ほど並べて、その下に「これらの内のほとんどの写真は自分で撮影したものですが、以上のうち2点だけが、写真家の白川氏の何々という山岳写真集から引用しています」と。こう書いても、どれが白川氏の撮影した写真なのか分かりませんので、これでは「明瞭区別性」はないということになり、著作権法に違反することになります。
 二つめが「主従関係」です。これは、あくまでも自分の著作物が主で、引用される著作物が従であるという関係になっていることが必要だということです。
 例えば、『雪国』の全文を数百ページにわたって、ざっとカギ括弧でくるんで、最後に「以上のような川端先生の文章を私は好きである。」と一言書いておいても、これでは「主従関係」が逆なので、正当な引用にはなりません。当然といえば当然です。ですから、やっぱり内容的にも自分の述べることが主で川端先生の文章の引用部分が従でなければならないし、ボリュームなどの点でも引用部分というのは、あくまでも自分の著作物のうちの限られた一部でないといけないというわけです。
 三つめが「出所明示義務」です。これは、誰のどういう著作物なのかということをはっきりしておく必要があるということです。
 具体的には、例えばカギ括弧で引用した部分に注釈をつけて、欄外に「川端康成『雪国』より引用」と書いておく。あるいは、カギ括弧をした引用部分の後に括弧をつけて、だれのどういう作品なのかということを書いておく、などです。
 このように、誰のどういう本かということがわかるためには、最低限、著作物の題名と著作者名の表示というのが必要だというように考えられています。
 以上のような要件を満たしていれば、引用は他の著作者の同意なしに行なうことができます。これはいくら著作者本人が「引用お断り」と書いておいてもできるということです。
 これはなぜかといいますと、著作権というのは日本の法律のすべてではなくて、例えば、刑法もあれば民法もあり、いろいろな法律があり、著作権法もそういった法律全体の秩序の中の一つにすぎないわけです。憲法21条では国民の権利として「表現の自由」を定めています。表現という中には、他者の言論の検討批判というのも含まれています。人が書いたものを批評して、おかしいことはおかしいと正せる権利があるわけです。ですから、単に「無断引用お断り」と一言書いてあったらだれもその文章を引用して批判できないということは認めるべきではないということになります。ですから仮に著者が「無断引用お断り」と書いておいても、法律の著作権法における引用の要件をちゃんと満たしておけば十分に引用することはできることになっているわけです。
 もう1つ、引用と区別する意味で「転載」というのがあります。これは、簡単に言ってしまえば報道目的であれば、必ずしも引用の要件を満たさなくても転載ができる場合があるということです。逆に言いますと、報道目的以外の場合は、なかなかこの転載が認められる場合はないということです。

7.肖像権及びキャラクター権

 ほかにもいろいろな問題がありますが、今回のテーマにあった例を少し考えていきましょう。
 自分のホームページなどに、通行人の顔が映っている写真を勝手に載せたり、自分の撮った芸能人の写真を勝手に自分のホームページ上に乗せることができるのかといった問題はどう考えるべきでしょうか。もちろん、その写真の著作権はカメラマンにあります。では、自分で撮影したり、そのカメラマンさえOKすればいいのか、そういった掲載行為をしていいのかという問題です。これに関しましては、先ほど述べた「法律は著作権だけではない」というのが、基本的な考え方になります。
 まず、この場合「肖像権」を侵害します。これは、無断で正当な目的なく他人の顔写真つまり肖像を公表できないという権利のことです。そうしますと、この場合「肖像権侵害」ということで慰謝料請求の対象になったり、あるいは裁判所から差し止め請求が届いたりするということになります。
 さらに、芸能人などには「キャラクター権」がありまして、勝手にその芸能人などの財産的価値がある肖像を使うことはできないということになります。一般の人と違いまして、芸能人の場合には自分のキャラクターに経済的な価値(要は金になる)があるということで、単なる精神的慰謝料だけではなくて、「逸失利益」として、例えば正規のルートを使ってプロダクションに依頼すれば請求されることになる通常の掲載料に相当する額なども、余分に請求することができるわけです。逆に、侵害した人は払わなければならないということになります。
 以上のように、基本的には無断で他人の顔写真を撮って載せるということはできません。他人が特定できるかたちではホームページに掲載すべきでないのです。

8.サークルCマークの意味

 印刷物や米国のホームページなどで「Copyright(C) 1998 著作者名 All Right Reserved」という記述を、皆さんもよくみかけると思います。
 これは「サークルC」とか「著作権表示」という名称で呼ばれていますが、ベルヌ条約ではこういう表示は必要ないということになっています。ただ、ベルヌ条約に加盟している国以外で著作権を保護するための方法として万国著作権条約という条約に基づいて記述されていたわけです。
 特に、以前はアメリカがベルヌ条約に加盟していなかったこともあって必要だったのですが、近時、アメリカが加盟したことにより、ほぼ全世界の国でベルヌ条約が適用されることなりましたので、事実上必要がなくなりました。ですから、このサークルCマークというのは今やアメリカでも歴史の産物以上の何ものでもないのだといわれることがあります。
 ただ、この記述が全く無意味であるかというとそうではありません。
 その理由としては、まず未だに一部の国にはベルヌ条約に加盟していない国があるということ。もう一つは、インターネットが元々が学術情報機関であったということもあって、「インターネット上で発信される内容については、基本的には公共財産であってコピーなどは自由である」という考え方をする人が一部にいるのではないかという危惧感があるからです。ですので、自分の著作物に「無断でそういうことをしてはだめですよ」と書いていたほうが安心だというわけです。
 こういうことから、「著作権表示」というのは一応入れておかれた方がいいのではないかと思います。
 ここからは、雑学になりますが、実はこのサークルCマークというのは、日本の文字コードのJISやシフトJISにはありません(アメリカなどにはあります)。そのために、日本では(C)マークで代用されております。たまに、アメリカのホームページに書かれた著作権表示を日本のブラウザで読んだりすると、正規のサークルCの部分が「ウ」と表示されることがあります。ただ最近では、インターネットは国境の壁を超える存在だということで、アメリカでもインターネットのコンテンツには(C)というのが使われて出しています。何か皮肉な感じもします。

9.リンクと著作権の関係

 リンク先に断りを入れることなくリンクを張ること(いわゆる「無断リンク」)が許されるのかどうかということが、かつて議論されたことがあります。
 これについては判例はまだありませんが、現在のインターネット関係の法律研究者の通説的な立場は、特にリンク元の承諾は要らないという考え方になっております。要は、承諾をもらわなくたって著作権侵害にはなりませんということになるわけです。
 これはどうしてかといいますと、リンクを張るというのはどういうことかというと、それを閲覧した人が(法律用語というのはややこしい言葉を使いますね)、誤解を恐れずに簡単にいえば、自分でURLを打ち込む代わりに自動的に打ち込めるようにしてあげるだけです。別に、リンク元が、そのホームページのファイルを自分のサイトにコピーしているわけでもなければ、人にコピーして送信して差し上げているわけでも何でもない。そうすると、複製権を侵害しているわけでもなく、公衆送信権を侵害しているのでもないから、なんら相手の著作権を侵害していないということになります。だから、リンクというのは著作権侵害にはあたらないわけです。まず、この基本的な考え方を押さえていたきたいと思います。
 ただ、何でもかんでもリンクを張って問題がないのかというと、そうでもありません。
 例えば、フレームの一部に表示した場合に問題が発生することがあります。この場合、URLはリンク元のそれが表示されたままになりますので、フレーム内に表示された文章がだれの文章かわからなくなる、むしろリンク元の文章だと誤解される場合があるからです。その他、同じような例を挙げると、人のホームページ上のグラフィックスだけにリンクを張ったり、他人のホームページのトップではなく途中につけることによって、あたかも自分のホームページの一部、つまりリンク元の著作物であるように見せかけるようなことは許されないと考えられます。
 このような例外的なケースを除きますと、リンクは自由だと思いますが、これに対しては、例えば「暴力団がホームページを作って、日本弁護士連合会を友好団体だということでリンクを張ったらどうなるのか。こんなリンクは許すべきではないじゃないか。だから、岡村先生が言っていることはおかしい」ということを理由に疑問を挟む向きも考えられます。しかし、これはそのリンクが著作権違反だから悪いのではなくて、日本弁護士連合会が友好団体かであるような嘘を書いて、名誉・信用毀損をしたというのが問題の中心、つまり本質です。ですので、それは名誉あるいは信用の毀損という法律問題として差止請求などを認めて処理すれば足りますし、極めて悪質な場合には刑法でも処罰すればいい事なのです。
 このように、場合によっては、リンクのコメントしだいでは名誉や信用の毀損という法律紛争にもなりうるということは覚えておいていただきたいと思います。しかし、繰り返しになりますが、それは著作権法とは別の問題なのです。

10.これからのデジタル著作権保護

 現在、いろいろなデジタル著作権を保護するための制度をどうするかということは、学会・実務家などの間で、いろいろな議論や取り組みが行われています。その中には、デジタル著作物の特質から、何らかの技術的な保護手段を考えるべきだという考え方もあり、実際にもいろいろな方法が検討されてきています。  例えば、「超流通」というシステムもその一つです。「超流通」とは、例えばハードウエアにボードをつけておいて、そのボードをつけておれば読むことができますが、つけておかなければコンテンツが読めなくする。他方では、ボードで自動的に使用の記録をして課金をする。こういうかたちでプロテクトをする方法です。もともとは、コンピュータのプログラムの流通が対象とされてきたのですが、最近では、プログラムだけでなくコンテンツ一般が対象とされてきています。つまり対象が拡大されています。ただ、ボードのようなハードウエアを使うと、パソコン自体の進歩が激しすぎる状況ですので、なかなかボードが本体の技術的な進歩について行けるのかなという感じもしています。
 また、「COPYMART」という考え方もあります。これは民間の市場としてデジタルコンテンツの売買市場を作ろう、何でもかんでも取り締まるよりは自由に取引ができる場所を作った方が建設的じゃないかという考え方です。現に、そういうネットワークサービスを行なっている業者さんが出てきているのも事実です。しかしながら、もしコピーし放題だということになりますと、例えば音楽コンテンツの場合には、失礼な言い方をすれば、有名になるためにはジャンジャンとコピーされても名前が広まるからいいじゃないかという考え方もあり得るかもしれませんが、有名ミュージシャンなどは、コピーされることを恐れて手を出さないということも考えられます。そうしますと、技術的なコピー対策を別途考えておかなければ、ネットにおけるデジタルコンテンツの取引について進歩が阻害される可能性があるのではないかという心配もあるわけです。
 そこで、最近出てまいりましたのが「Digital Watermark」つまり「電子透かし」という考え方です。これは、1万円札の透かしと同じように、デジタルコンテンツに透かし代わりのデータを入れるわけです。対象となるコンテンツとしては、グラフィックスであったり、あるいは音であったりしてもいいのです。この処理さえしてあれば、後で著作権侵害があった時にも、それによって「動かぬ証拠」を突きつけることができるということで注目されています。
 さらに、最先端の技術においては、検索エンジン用のサーチロボットを応用して、インターネットを自動的にサーチロボットに巡回させて、著作権侵害サイトなのかどうなのかを確認してくれるというソフトも開発されつつあります。著作権侵害監視用ロボットとでも呼ぶことができます。
 以上のように、ネット上の著作権問題が技術的に解決されれば、何でも法律で取り締まるというよりも、もっと実効性があり使い勝手もいいものになるのではないかと私としては期待しているところですが、今度は課金のために使用記録が残るとすると、プライバシーの点でどうかという疑問を投げかける人もおり、さらに踏み込んだ議論が必要だという段階です。

 

<第2部>グループ討議

 

 グループ討議では、以下の設問について意見交換をしていただきました。また、この設問に対しては、グループ討議後、講師より解答をいただきましたので、ここであわせてご紹介します。

Q1.「リンク禁止」や「引用厳禁」と明記してあるサイトに無断でリンクしたり、引用した場合、何か法的な問題が起こるか。

A1.セミナーでお話ししましたように、著作権法で引用とか転載が認められるべき要件さえ満たしておれば、「引用禁止」と書いてあっても、それに反してすることができると考えています。
 「リンク禁止」は「引用禁止」とはちょっとタイプの問題が違いまして、リンクを張ることには同意はそもそも要らないわけなので、「禁止」と書いてあろうが、それは勝手にすることができるというのが原則です。

Q2.フレーム形式で作成したホームページの一部にリンク先の画面を表示させるという行為は、著作権法に抵触するか。

A2.これはQ1の答えがリンクと著作権の関係の原則とするなら、例外の部分にあたります。
 この場合、フレームの一部で人の著作物をリンクで引っ張ってきて、あたかも自分の著作物とまぎらわしいような表示方法をさせた場合にはリンクは許されません。私自体も、そういう紛らわしいのはやめてくださいと、自分のホームページで書いています。これは一つの例ですが、その他にもこういう紛らわしい事例については例外扱いとなります。ただ、フレーム内表示であればすべてが悪いという意味ではありません。要は誰の著作物なのか紛らわしいようなフレーム表示は困るということなのです。

Q3.A社が自社のホームページの制作をデザイン会社Bに口頭により依頼し、B社はホームページを作成し、制作物をA社に納品、A社はB社に代金を支払った。その後、B社が無断でCD−ROMなどに流用した場合、A社はB社に対し何らかの請求ができるか。

A3.これは結局、ホームページという著作物を作ってもらうという契約の内容が論点になるわけです。
 例えば工務店に頼んで家を建ててもらった場合に、お金さえ払えば建物は自分のものになります。その家を、どう使おうが他人に貸そうが自由だし、増改築をする際にも、工務店に許可を得る必要などありません。だとすると、お金を払ってコンテンツを作ってもらえば、注文した人は自由に使い回しをすることができるというのが常識的な考え方のように思う人もいるかもしれません。しかし、こういった世間一般の常識が通用しないところが、著作物のややこしいところです。要するに、金を払っても、それだけで自動的に著作権が譲渡される、移転するわけではないということです。
 このことを前提に、この設問を考えていきますと、ホームページの制作にお金を払うというのはどういう意味なのかを、次のとおり契約時に明確にしておく必要があったということになります。

@譲渡なのか、あるは使用許諾とするのか
A譲渡なら、アレンジをする権利(翻案権)も譲渡されるのか(これを明記をしておかないとあとでややこしいことになって、せっかく譲渡を受けても自分で手直しできないことになってしまう)
B使用許諾といっても、独占的な使用許諾なのか、あるいは非独占的なのか。また、何をどういう範囲で使用許諾の対象とするのか(ここを明記しておかないと、ホームページの依頼の範囲で使っていいよという話になったのか、それともどういう用途にでも使っていいよということになったのかがわからず、こういった争いがおこることになります)

 基本的には、契約で譲渡をするというきちんとした明文規定を置かずに、単に口頭で頼んで作ってもらっただけだという場合は、著作権法の解釈としては、普通は使用許諾にすぎないということになります。使用許諾が独占か非独占かは、事案や代金の額によっても変わってくるので、なかなか一般論では説明ができないところがあります。かなり高額(単なる使用許諾としては不相当に高い金額)だと、譲渡を受けたということになる場合もあるのかもしれません。
 ですからこの解答は、こういった諸般の要素によって変わるということになります。

Q4.版権フリーとか自由にお使い下さいとか書いてあるホームページからアイコンや背景をコピーして使っているとして、そこのページで掲載されていた背景とかアイコンが著作権違反をしている場合、それを知らずに使うとどうなるか。

A4.基本的には「どろぼう」から家を買っても権利は生じないわけで(笑)、つまり、権利がない人から許諾を受けたって、それによって物事が正当化されるわけではありません。したがって、権利者から差し止め請求を受けた場合には、普通の場合はそれに応じざるを得ないでしょう。損害賠償に関しましては、落ち度があったがかどうか、つまり過失があったかどうかによって変わってきます。故意であればともかく、過失がなければ損害賠償まで負わされることはないわけです。反対に、過失があれば損害賠償責任を負わされることになります。
 では、過失があるかどうかの分け目はどうなのかということですが、「諸般の事情を総合して」という曖昧な言い方しかできないのです。第1に、どこから取得したかにもよるでしょう。日本の誇る大手広告代理店に、きちんとした契約の結果、許諾を受けた場合には、普通は落ち度がないということになるでしょう。それに対して、ホームページに「著作権制度を破壊せよ」などと明記されているような、そういった如何にも怪しい所から取ってきた場合には、ひょっとすると著作権侵害物なのかなと予想できたことになるとして、責任が認められる場合も出てきます。また、そのコンテンツそのものを見て、「これはどこかで見たことがあるぞ、たしかどこかのテレビアニメのキャラクターじゃないのかな。」と思うようなものなのかということによっても過失が変わってくる。この場合も、差し止めのみならず損害賠償義務を負わなければならないこともありえます。このような要素を使って判断することは、現実世界の著作権侵害のケースで裁判所が使用してきた基準の応用です。

Q5.自分の身の回りで起こったをありのままHPに書くとして、他人の実名を相手の許可を得ず記述することは許されるか。また、許されない場合があるとすればどういった場合か。

A5.原則的には自由なのですが、これはプライバシー侵害とか名誉毀損とかの問題になる場合があります。書いたことが事実であっても、プライバシー侵害になったり名誉棄損になったりすることがありますので、この点をご注意ください。
 ホームページに掲載することは、不特定多数の人が見る可能性が強いわけですから、そういう意味では影響力が強いのだということを、皆さんには是非理解していただきたいと思います。つまり夜中にパソコンに向かい合っていて冗談半分にアップロードした場合でも、インターネットというのは全日本だけではなくて全世界につながっているので、あっというまに沢山の人の目に触れます。それだけ注意が必要なものだという自覚を持っていただきたいと思うわけです。

Q6.他人が写っている写真を、撮影したカメラマンの承諾だけ得てホームページに広告用コンテンツとして使用できるか。

A6.これは先程申し上げた肖像権、もしくはキャラクター権の問題です。基本的にはその人がだれであるかを特定できるような、例えば顔が大映しになっているとか、そういうものは控えなければならないということになります。

Q7.他の人のリンク集から面白そうなサイトを寄せ集めて、「おすすめリンク集」なるものを作ると問題になるのか。ついているコメントは使用せず、自分自身のコメントを付けるつもりである。

A7.リンクをすること自体は、全体セミナーでも言いましたが、著作権侵害にはならないと考えています。また、ホームページの名称についても普通は創作性がないので著作権は発生しませんので特に問題ありません。ただコメントについては、このコメント自体が著作物である場合があるので、勝手に引っ張ってきた場合には著作権侵害になることがあります。ただ、設問の場合、ついているコメントは使用しないわけですから、全く問題がないというわけです。
 この場合、少なくとも著作権法の範囲でリンクに承諾は要らないというだけで、ネット上のエチケット、これを「ネチケット」といいますが、この「ネチケット」の問題としては、官公庁のPR資料とか法文とかはともかくとして、常識として、私は電子メールでウェブマスター宛てに一言お願いすることを勧めています。かならずしも「リンクを承諾して下さい」でなくても「リンクを張らせていただきましたが、嫌ですよということであればいつでも削除します」というのでもいいのです。また、そういうメールを出すことによって、自分のサイトに対して、また向こうがリンクを逆に張ってくれたりすることもあるわけです。また、それをご縁にうちのサイトを見にきていただけるというPR的な効果もあるわけです。
 ですから、法律家がいうのもなんですけれども、やっぱり倫理、エチケットというのも、強制するような事柄ではないにせよ、十分に尊重していただきたいとお願いするわけです。

Q8.ホームページ上に誰でも書き込める掲示板を作ったとして、その掲示板上で他の文献や著作物からの引用など、明らかに著作権違反やその他の違法行為が行われてるとします。

(1)ホームページの所有者は、無断でその書き込みを削除することが出来るか。

(2)そういう行為をされた場合、ホームページの所有者にも、責任は及ぶか。

A8.(1)ですが、削除することができるのかどうかと問われれば、 ホームページのオーナーであれば可能だというのが一応は答えになります。 しかし、現実には問題は簡単ではありません。明らかに違法かどうかは、 例えば著作権侵害かどうかについては専門家の間でも判断が別れることも少なくありませんので、 実際には判断は難しいのです。
 また、何らの前触れもなく突然削除していいのかについてはケースによって異論もあることと思います。 書き込みをしている人同士が何かのささいな感情の行き違いで中傷しあうようになり、 その結果「名誉毀損をした」、「いや、していない」と主張しあうというトラブルに発展することは、 パソコン通信でも時々あります。当事者の言い分を聞いてみないと判断できない場合も少なくありません。 騒ぎは一過性のことで、第三者が仲裁の書き込みをして、それで騒ぎが収まることもあります。
 こういった問題もありますので、いきなり無断で削除をした場合には、事実上、 書き込んだ人間との間で深刻なトラブルになることがあります。その結果として、無断削除を非難する書き込みが数多くなされ、 そのサイトとか掲示板を閉鎖せざるをえないことがありますのでお気をつけください。  それを避けるためには、やはり最初から「私の意にそわないのは勝手に消しますよ」と、それぐらい独善的なサイトで、それでもよければ書き込んでくださいというぐらいのことを、注意事項として事前にホームページ上に掲載しておけばいいのかもしれません。それがいやならば、この人であれば無茶をせず大丈夫だと思う人だけにパスワード、IDを発行して、発行を受けた人だけが書き込めるようにしておいてください。それがご自身の身を守るすべだと思います。また、判断が難しい場合には、削除というよりも、サーバ上の他の場所へ一時的に移動して、いつでも復活できるようにしておく方が得策だといえます。さらには、プロバイダが削除できるかとか、有料で掲示させているケースでは、難しい問題があり、掲示板を開設した以上は、常に見張りをしていなければならないというのも極端ですので、私としても確たる考えを持つには至っていません。

 (2)の場合、これはニフティサーブ事件第一審判決というのが去年東京地方裁判所で出されまして、 シスオペおよびニフティが名誉毀損的な書き込みを削除せず放置したことについて一定の範囲に限定して責任を負わされました。 米国の判例にもパソコン通信運営主体の責任を認めたものがあります。 しかし、やはり削除ができるのはシステムの管理者だけであり、被害者自身は削除したくても削除できない立場に置かれていることを考えますと、システムの管理者は、一定の範囲では責任を負わされざるを得ないことになると思うのです。問題は、責任を負わされるべき具体的な範囲なのですが、被害者保護の要請と、表現の自由とのバランスを、どのように考えるかという問題とも絡まっています。何でも放任とか、何でも規制や禁止とかいった極端な考え方では困るのです。バランス感覚が大事になると思います。 ネットには楽しい部分や人の役に立つ部分のほうが多く、ネットを使用する人々も、その大部分は善意を持った良識のある人なのです。こういった紛争は一種の病理現象ですが、あくまでも例外的な部分にすぎません。法律研究者や法律実務家の間で現在でも議論されている非常に難解な問題ですが、まだ研究が始まったばかりの領域ですので、今後の議論に委ねざるを得ないのです。


Copyright (C) 1998 Hisamichi OKAMURA, All rights reserved.

Uploaded (on this Web Page) : Jun/23/1998

Modified (on this Web Page) : Nov/25/1999

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