<注記>

 これは,本件仮処分事件債権者であるニフティサーブ法務課の許諾を得た上で,仮処分申立書の原本に基づき,本件仮処分事件債務者の実名・住所・電話番号等にかかわる部分等を伏せ字(***で表示)にし,わいせつビデオの内容記載を省略して([内容記載省略]と表示)編集したものであり,あくまでも法学研究のための素材としての利用を前提に,夏井の責任において提供するものです。


仮 処 分 命 令 申 立 書

 

当事者の表示        別紙当事者目録記載のとおり

 

仮処分により保全すべき権利

 電子メールの送受信サービスを提供し社会的信用を維持する権利及び営業資産を第三者に損壊されることなく電子メールの送受信サービスの提供のために常に良好な状態に保つ権利に基づく妨害排除請求権

 

申  立  て  の  趣  旨

一、債務者は、債権者がプロバイダーとして運営しているニフティサーブの会員に対し、わいせつビデオ販売を内容とする電子メールによるダイレクト・メールを送信する一切の行為をしてはならない。

二、申立の費用は債務者の負担とする。

との裁判を求める。

 

申  立  て  の  理  由

第一、被保全権利

一、当事者

1.債権者

 債権者は、東京都品川区南大井六丁目二六番一号に本店を置き、渡邊武經及び山本誠二を代表取締役とし、パーソナルコンピューター、コンピューター等の装置間の通信を主体とした一般第二種電気通信事業及び関連情報処理サービス業を主たる目的とした会社である(甲一)。

2.債務者

 債務者は、宝総業、東京ジャーナル又は大沢茂と称し、債権者がプロバイダーとして運営しているニフティサーブの不特定多数会員に対し、わいせつビデオ販売を内容とする電子メールによるダイレクト・メールを送信し続けている者である(甲二)。

二、電子メールの仕組みについて(甲三、甲四)

1.債権者は、一般第二種電気通信事業者として、債権者と契約した会員(以下「ニフティ会員」という。)に対し、ニフティサーブのサービスを提供しており、ニフティ会員は目的に応じてニフティサーブの機能を利用することができる。ニフティサーブには電子メールの機能が含まれている。ニフティ会員は、この機能を利用することにより、ニフティ会員との間において、電子メールの送受信を行うことができる。具体的にいうと、ニフティ会員は、債権者が管理する電子メールの受信管理用コンピューター上に自己専用の電子メール受信用の私書箱を持つことができ、この私書箱に電話回線を利用して接続することにより当該私書箱宛てに他のニフティ会員から送られた電子メールの内容を自己のパソコンの画面上に表示し、閲覧することができる。

2.反対に電子メールを送信するときも、ニフティ会員は、債権者の管理する電子メール送信用コンピューターに、作成した電子メールに相手先のメールアドレス(コンピューターネットワーク上の住所に相当するものである。)を指定すると、当該コンピューターを経由して相手方の電子メールの受信用私書箱に当該メールが電話回線等を通じて送信されることになっている。

3.債権者のほかにも、電子メールの送受信のサービスを提供している電気通信事業者(いわゆるインターネットプロバイダー。以下「プロバイダー」という。)は多数存在するが、電子メールの送受信に関しては概ね同様の仕組みをとっており、インターネット標準に準拠した電子メールを送受信する設備を有している。したがって、ニフティ会員と他のプロバイダーの利用者との間において、インターネット標準に準拠した電子メールの送受信を行うことが可能である。送信者は、他のプロバイダーの利用者ではあるが、このような仕組みを利用して不特定多数のニフティ会員に対し、本件電子メールを送信し続けている。

三、債務者の送信行為について

1.債務者は、平成七年四月頃から平成一一年二月現在に至るまで、債権者の不特定多数の会員に対し、左記のような「衝撃の映像 裏ルート品を密売(宝総業名義)」・「犯罪生撮りアングラビデオ販売(東京ジャーナル又は大沢茂名義)」と題する電子メール(以下「本件電子メール」という。)を送信している。本件電子メールの送信は、その内容がいたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反し、不快感・嫌悪感を抱かせるものであるばかりでなく、債務者の本件電子メール送信行為によって、債務者は、債権者の電子計算機の処理の負荷を増大させ、ニフティ会員の円滑な電子メールサービスの利用を妨害している。

「衝撃の映像裏ルート品を密売」(宝総業名義)(甲五)

 

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   四本 一六、〇〇〇円   五本 二〇、〇〇〇円   六本 二三、〇〇〇円

   八本 二八、〇〇〇円  一〇本 三〇、〇〇〇円  一二本 三六、〇〇〇円

全一四本で四〇、〇〇〇円

 *注文方法 1.住所 2.氏名 3.電話番号 4.ご希望の作品番号 5.二フティのIDを、FAXで送信して下さい。

  お願い ご注文の際、二フティのIDは必ずお知らせ下さい。

  ご注文受け付け後、三日前後で代金引換郵便にてお届けします。

  ビデオとは分からない様に、品名はパソコンソフトとしてお送りします。

  送料は一、〇〇〇円 三本以上は無料サービスします。

  二四時間FAX受付中 FAX ***−***−****

 *FAXは電子メールでも送信出来ます。FAX送信の操作は通常のメール送信と同じです。NIFTYーServeの電子メールをFAXに送る場合には、宛先に、Fと入力してから、FAX番号を入力して下さい。

  宛先(IDか同報グループ名又は FAX番号 改行で終了)

  :F***−***−****

  すべて半角文字で入力して下さい。

  あとは通常のメールと同じように送ります。

 ご注文お待ちしています。

 一八未満の方のご注文は固くお断りします。

 大宮市******* FAX ***−***−**** 宝 総業

 

「犯罪生撮りアングラビデオ販売」(東京ジャーナル名義)(甲六)

 

 ここ数年、日本各地で淫行条例違反、売春、婦女暴行などの性犯罪が多発しています。新聞、テレビ等の報道でご存知の方も多いと思います。

 当方はある筋から、それらの性犯罪を生撮りしたビデオテープを入手しました。ご紹介するビデオは性犯罪の犯行現場で撮られたものです。非合法ビデオの為、修正、カットは一切ありません。

   一巻¥六.〇〇〇    二巻¥一〇.〇〇〇

   三巻¥一五.〇〇〇   四巻¥二〇.〇〇〇

   五巻¥二五.〇〇〇   六巻¥三〇.〇〇〇

   七巻¥三五.〇〇〇   八巻¥四〇.〇〇〇

   九巻¥四三.〇〇〇   一〇巻¥四五.〇〇〇

   一一巻¥四七.〇〇〇   一二巻¥五〇.〇〇〇

 (リスト)

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B.婦女暴行生撮りビデオ 2 [内容記載省略]

C.婦女暴行生撮りビデオ 3 [内容記載省略]

D.婦女暴行生撮りビデオ 4 [内容記載省略]

E.婦女暴行生撮りビデオ 5 [内容記載省略]

F.淫行条例違反生撮りビデオ 1 [内容記載省略]

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LOOKービデオの収録時間は40分前後です。VHSのみ。

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 入手方法===ご注文時に、記号、ご住所、お名前、電話番号を明記の上お申し込み下さい。なお、記入洩れ等有った場合にはメールでご連絡する場合がございますので、NIFTY SERVEのあなたのIDをご記入願います。

 FAXをお持ちでない方はNIFTY SERVEのFAX配信サービスをお勧めします。これはパソコン通信の電子メールを簡単な操作でFAXに送る事が出来ます。詳しくはNIFTY SERVEのメニューから1.サービス案内 検索、5.使い方ガイ ド、3.各サービスの使い方、2.電子メールの中のFAX配信欄をご覧下さい。

 品物の発送=代金引き換えでお届けします。ビデオをお受け取りになる際に代金をお支払い下さい。品物はビデオとは分からない様にして急送致します。ご希望の品名で発送 も出来ます。お申し付け下さい。

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 犯罪関連プライベートビデオ(特に暴行物)高価買取りします。

 一巻六万円以上、何巻でもOK。秘密厳守、取引の証拠は一切残りません。

 内容を明記しFAXでお問合わせ下さい。映像確認後のお支払いになります。

 但し、無修正物のみ。裏ビデオとして出回っているものは不可、あくまでオリジナル作品に限らせて戴きます。お気軽にお問合わせ下さい。

 東京ジャーナル

 郵便番号一一〇  東京都台東区********

 FAX***−***−**** (年中無休二四時間受付)/E

 

 「犯罪生撮りアングラビデオ販売」(大沢 茂義)(甲七)

 

 本文は、東京ジャーナル名義と同文。

 最後の住所及びFAX表示は次のとおり。

 郵便番号一一〇  東京都台東区上野******** 大沢 茂

 FAX***−***−**** (二四時間受付)

 

2.右宝総業名義のダイレクト・メールにおいて連絡先とされているFAX番号***−***−****は、埼玉県***********名義すなわち債務者名義であることが判明した(甲八)。

 また、東京ジャーナル乃至大沢茂名義のダイレクト・メールにおいて連絡先とされているFAX番号***−***−****は、埼玉県***********名義すなわち債務者名義であることが判明した(甲九)。

3.本仮処分申立にあたり、日時をアットランダムに特定した上で、債務者の本件電子メールがニフティ会員に対し、どの程度送信されているか改めて数量の調査を行なったところ、次のとおりの結果が得られた。なお、現在まで、宝総業等からの本件電子メールの送付はほとんど毎日続いている(甲三)。

(一)平成一〇年一二月三一日 午前二時七分乃至午前七時一二分

五七六五通(うち宛先が実在しないID番号のため債権者ホストコンピュータ内に滞留したもの一九二三件)

(二)平成一一年一月一六日 午前二時二四分乃至午前六時二六分

四二一六通(同右一二〇四件)

(三)平成一一年一月二二日 午前〇時三〇分乃至午前一〇時二三分

五二八八通(同右八三七件)

(四)平成一一年一月二四日 午前二時三三分乃至午前五時四一分

三四一八通(同右一一二四件)

(五)平成一一年一月二七日 午前二時二八分乃至午前六時七分

 三六五三通(同右一六四二件)

四、債権者の損害

1.債務者からのニフティ会員宛の本件電子メールの送信によって、債権者は、次のような損害を被っている(甲三)。

2.債権者のニフティ会員に対するサービス提供上の損害

(一)本件電子メールの受領により電子メール受信用私書箱の記憶容量が限度を超えた場合は、本来ニフティ会員が受領を希望する、あるいは受領すべき電子メールを受領することができなくなる。すなわち、債権者は、ニフティ会員に対して円滑に電子メールのサービスを提供することができなくなる。

(二)債務者は、本件電子メールを送信するにあたり、送付先として債権者がニフティ会員に付与する識別番号(アルファベット三文字、その後に五桁のアラビア数字を配列したもの。以下「ID番号」という。)を設定しているが、設定されたID番号の中には、実際にはニフティ会員に付与されていない(存在していない、架空の)ID番号も含まれており、当該ID番号に対して本件電子メールの送付が試みられた場合は、債権者において債務者に対して本件電子メールの返送処理を行なうこととなる。

 しかしながら、債務者は、本件電子メールの送信にあたって、自らのメールアドレスの表示(送信元の表示)を、架空のメールアドレスを使って行なっているため、返送することができない。その結果、債権者の電子メールの受信管理用コンピュータ内に返送されない当該電子メールが滞留することとなる。

 送付先のID番号が実在する場合でも、受領したニフティ会員が当該電子メールの返送を希望するときは、受信管理用コンピュータにおける返送されない電子メールの滞留の程度に応じて、他の電子メールの処理が滞留することになる。

3.債権者の社会的信用が毀損されること

(一)本件電子メールを送付されたニフティ会員は、たとえ受領を望まない電子メールであっても自己の費用負担により受領しなくてはならないので、この点だけをとってみても債権者の社会的信用が損なわれることになる。 

(二)債権者がニフティ会員に付与しているID番号は前記のとおり、アルファベット三文字及び五桁のアラビア数字から成っており、この点はニフティ会員のみならず他のプロバイダーの利用者にも広く知れ渡っているので、ニフティ会員の素性を知らなくとも、アットランダムにID番号を設定し、本件電子メールを送信することが可能である。            

 債権者においては、ID番号をはじめとしてニフティ会員の個人情報は厳密に管理しているが、本件電子メールを受領したニフティ会員の中には、債権者に対し、ニフティ会員のID番号を含む個人情報をダイレクトメールの送付を希望する業者に開示、漏洩しているのではないかとの疑念を寄せてくる者も存在する。

4.債権者はニフティ会員からの苦情に対処措置に忙殺されていること

(一)本件電子メールの内容は、前記のとおり、露骨な表現に満ち、不愉快極まりないものであり、「いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する内容」である。したがって、本件電子メールを受領したニフティ会員からは、債権者に対し、次のような強硬な苦情が寄せられている。 

@ 平成一〇年五月、ニフティ会員から債権者に対し、宝総業からの本件電子メールの内容を添付し、次のような内容の真摯な申し入れの書面が届いた。

・何故自分のID番号がこのようないかがわしい悪徳業者に知られたのか理解できない。 

・性犯罪を誘発するおそれが多分にある、これほどまでに過激な電子メールが多数の人に送られたとなるとニフティの責任は多大であるといわざるを得ない。 

・ニフティサーブは安全に利用できると思って入会したのに、このようなことがあって残念でならない。事情があって娘が先にこのメールを読んだが、あまりのおぞましさにショックを受けて、女性として屈辱感と恐怖で大変に憤っている。

・早急に事情を調べ回答してほしい。回答がなければ退会を検討する。 

A 平成一〇年五月、本件電子メールを受領したニフティ会員が、その内容が悪質であるところから東京都生活文化局女性青少年部青少年課に当該メールの内容を通報し、取り締まりを求めたケースがある。この通報を受けた東京都より債権者の対応状況に関して照会があった。

(二)右の他にも、次のような苦情が寄せられている。

@ 自分と送信者の間には何の接点もないのに、送信者は何故自分のID番号を知っているのか。送信者は、どのような経路で自分のID番号を知るに至ったか調査する方法はないのだろうか。今後もこのような電子メールが届くとしたら大変迷惑である。このような迷惑な電子メールが届くのをストップする方法はないだろうか。

A 何故このような電子メールが届くのか当方には覚えがない。おそらく手当たり次第に送信したと思われるが、迷惑この上なく、内容に著しく気分を害されとてもいやな気分にさせられる。郵便のダイレクトメールであれば受け取りを拒否できるが、電子メールではそうはいかない。ニフティが電子メールの送信を規制することは無理だろうが、送信者に対しては断固たる対応を望む。また、ニフティ会員の情報(ID番号、氏名、住所等)が外部に漏れているのではないかと心配している(甲一〇)。

B このようなメールが送られてきて非常に迷惑している。ニフティはどのような対応をとっているのか説明してほしい。

C 差出人に全く覚えのない電子メールが届いた。内容が不快であるだけでなく、法律に違反したものではないかと思われるので、ニフティに転送する。何らかの断固たる対処をしてもらえることを望んでいる。

D このような電子メールがこれまでも何度か送られてきているが、いい加減頭にきている。非人道的な犯罪行為が記されており、宝総業がその犯罪を犯している者達と接点があるかのような書かれ方をしている。ニフティから警察に通報して、捜査、検挙してもらうことはできないだろうか。少しでも警察に協力(情報の提供)して、世の中の秩序を正しくするのが筋ではないだろうか。

(三)債権者は、右の多数の苦情を処理するため、余計な時間を割いて対処せざるをえなかった(甲一一)。

五、まとめ

 以上、要するに、債務者は債権者の不特定多数の会員に対し、明らかにわいせつ文書と考えられるダイレクトメールを送信し続けているのであって、債務者の右行為は民法九〇条の公序良俗違反行為である。したがって、プロバイダーとして電子メールの送受信サービスの提供を行っている債権者としては、債務者の右公序良俗違反行為に妨害されることなく、ニフティ会員に対して利用契約に基づき、電子メールの送受信サービスを提供し、債権者の社会的信用を維持する権利及び債権者の営業資産を第三者に損壊されることなく、電子メールの送受信サービスの提供のために常に良好な状態に保つ権利を有しており、当該権利に基づき、わいせつビデオ販売を内容とする電子メールによる大量無差別なダイレクトメール送信禁止の請求権を有するというべきである。

第二、保全の必要性

一、債権者は、債務者の本件電子メール送信行為により、次のとおり、債権者の営業を妨害している。(甲三)

1.債権者は、前記のとおり、債務者から存在しないIDにメールが送られてくるため、大量の返送処理をしなければならい。

2.債権者が、債務者に対して返送処理を行おうとしても、発信元となる債務者のアドレスが架空のため返送することができない。その結果、他の電子メール処理に滞留が生ずる。

3.債権者の社会的信用が毀損されている。

二、債権者は、本件に関し、次のような対策を講じたが、いずれも抜本的な解決には至らず、現在に至っている。

1.平成一〇年二月、「衝撃のビデオ特別放出」と題する会員宛て電子メールに記載された債務者の住所(大宮市******)に宛て、債務者名義の電子メールの送信により、会員に対する円滑なサービスの提供に支障を来たすおそれがあるとともに、会員からの苦情の処理のために業務上の支障が生じているので、今後当該電子メールの送信を止めるよう警告する旨の内容証明郵便を債権者顧問弁護士より発送したが、当該住所 が虚偽であったために、申し入れることはできなかった(甲一二の一、二)。

2.平成一〇年五月、債務者が会員宛てに当該電子メールを送付するのに利用したプロバイダーに対し、当該電子メールの送信者を特定し、今後同様の電子メールの送信を行なわないよう対処を依頼した。債権者の依頼を受け、当該プロバイダーは送信者を特定の上、自粛を求める旨申し入れたが、債務者は別のプロバイダーと契約し、当該電子メールの送信は継続されている。

他のプロバイダーも債権者同様に電気通信事業法に基づき通信の秘密の保持義務を負っていること、プロバイダー毎に契約者向けのサービスの利用条件とその具体的な運用が異なっているため、前記の依頼を行なっても、必ずしも債権者の希望する対応をとってもらえるとは限らない。

3.債権者の電子メールサービスでは電子メール着信拒否サービスといって、送信者が当該電子メールの送信に利用する接続業者経由で送られてくる電子メールの着信、あるいは特定の送信元からの電子メールの着信を拒否するサービスを提供しているので、苦情を寄せられた会員にこのサービスを案内している。しかし、送信者が当該電子メールの送信に利用する接続業者や送信元の表示を変更した場合は、新たに設定し直さなければならないので、完全に着信を拒否することは困難である。

4.平成一〇年三月、債権者は、送信者の刑事責任を問えるか否かを打診するため、また多くの会員から警察に通報し取り締まりを依頼してほしいとの申し入れを受けていることから、警視庁生活安全部保安課に、更に、同年一一月に埼玉県警本部生活安全課*****係に取り締まりを依頼したが、諸般の事情で現状では直ちに取り締まるのは難しいとのことであった。

三、債務者による一連の行為を放置すると、今後も債権者に次のような回復し難い損害が発生するおそれがある。

1.現在一回当たりの債務者からの当該電子メールの送信件数は、一、〇〇〇乃至二、〇〇〇通であるが、今後送信件数が増えた場合は、同時に返送不可能な電子メールも増大するので、債権者側の電子メールの受信管理用コンピュータの負荷が増大し、会員に対する電子メールサービスの提供に遅延あるいは中断が生じる可能性がある。言い換えれば、債務者による当該電子メールの送信により、電子メールの受信管理用コンピュータである債権者の営業資産が毀損される可能性がある。場合によっては犯罪行為(電子計算機損壊等業務妨害罪等)に該当する可能性もある。

2.債権者の会員に対し良好な状態で電子メールの送受信サービスを提供する権利が債務者によって侵害される可能性がある。

3.債権者が、債務者の一連の行為によって、多数の会員及びネットワーク利用者一般の間で、会員に関する情報を漏洩しているのではないかとの疑念をもたれることは、債権者の信用を維持し、社業の伸長を図っていく上で重大な妨げになる。

4.警察当局による債務者の早急な取り締まりが期待できない。

5.債権者は、今後、電子メールの受信管理用コンピュータの維持・管理及び会員からの苦情への対応に多大な労を費やさざるを得ない。

6.債務者による当該電子メールの送付が終了する兆しが一向になく、これまで債権者が講じてきた対策では根本的な解決にはならない。

四、以上の次第であるから、債務者の本件電子メールの送信行為を早急に止めないと、債権者及びその会員がこうむる信用上・経済上・精神上の損害は金銭によって回復しがたい結果となる。

  よって、債権者は、申立の趣旨記載の命令を求めて本申立に及んだ次第である。