EU加盟国閣僚理事会

情報技術と関係を有する刑事手続法規に関連する諸問題に関する勧告

No. R  (95)  13

(仮訳)

翻訳:夏井高人


これは,EUの加盟国閣僚理事会の「情報技術と関係を有する刑事手続法規に関連する諸問題に関する勧告」(1995911日:Recommendation No R. (95) 13 concerning problems of criminal procedure law connected with information technology)を大急ぎで仮訳したものです。意訳したところがあります。誤訳もあるかもしれません。この点,ご注意ください。

なお,この勧告のオリジナル・テキストは,

http://www.privacy.org/pi/intl_orgs/coe/info_tech_1995.html

で入手できます。


理事会は,

欧州会議法15bの規定に基づき;

欧州会議の目的は,その構成国のより大きな結束を達成することにあることを認識し;

かつて経験したことがないほどに情報技術が発達したこと,そして,現代社会のすべての分野においてその応用がなされていることを考慮し;

電子情報システムが,すべてのタイプのコミュニケーションと関係において新たな空間を創造することによって,伝統社会から情報社会への変化の加速を現実化させ;

社会の組織化の方法及び個人が通信し相互関係を持つための方法に対する情報技術のインパクトを配慮し;

経済関係及び社会関係の主要部分が,電子情報システムを通じてなされるもの,または,それを使用してなされるものに置き換えられてきていることに注意を払い;

電子情報システム及び電子通信が刑事犯罪の実行のためにも用いられるかもしれないということを自覚し;

刑事犯罪の証拠がこれらのシステム内に記憶され,または,これらのシステムによって転送されるかもしれないということを考え;

加盟国の刑事手続法規が,犯罪捜査の過程でこれらのシステムの中にある証拠を捜索・収集するための適切な権限を未だ提供していないことがしばしばあることに注意し;

進展しつつある情報技術の発展に直面している捜査機関が,本来あるべき任務を充足できなくしてしまうかもしれないような特別権限の欠落を防止し;

捜査機関に対し,刑事手続法規に基いて,電子情報システムにおける捜査の特別な性質を付与するような合法的な道具を採用する必要性があることを認識し;

加盟国が,その領土内において電子情報システムから電子証拠を収集するよう要請された場合に,適切に法的援助を与えることができないかもしれないという潜在的な危険を憂慮し;

この分野における国家間協力をより強固なものとすることの必要性,そして,この分野における刑事手続法規の可能性をより大きなものとすることの必要性があることを確信し;

書証の要件,文書の複製及びコンピュータ記録の証拠許容性に関連する法のハーモナイゼーションに関する閣僚理事会勧告 No.R(81)20,電子通信の傍受のための検閲に関する閣僚理事会勧告 No.R(85)10,国家警察における個人データの使用規制に関する閣僚理事会勧告 No.R(89)9及びコンピュータ関連犯罪に関する閣僚理事会勧告No.R(89)9を廃止して;

加盟国政府に対し,次のとおりに勧告する。

i  国内法及びその実施を再検討する場合には,この勧告に付属する諸原則から導かれるべきであること

ii とりわけその適用に利害を有するかもしれない情報技術分野における捜査機関及びその他の専門組織に対するこれら諸原則の周知を確実なものとすること


情報技術と関係を有する刑事手続法規に関連する諸問題に関する勧告No. R(95)13の付属文書

 

T 捜索と押収 (Search and seizure

1. コンピュータ・システムの捜索,そこに記憶されたデータの押収,そして,転送中のデータの捕獲との間の区別は,明確に叙述され,適用されなければならない。

2. 刑事手続法規は,捜査機関に対し,捜索と押収に関する伝統的な権限と類似の要件の下に,コンピュータ・システムの捜索及びデータの押収を許容しなければならない。システムに責任を持つ者は,システムが捜索を受け,データが押収されたことを通知されなければならない。捜索と押収に関して一般的に準備されている法的救済手段は,コンピュータの捜索及びその中にあるデータの押収の場合も同様に適用可能でなければならない。

3. 捜査機関は,捜索の実施中,即座の行動が要求されるならば,適切な予防措置に従いながら,ネットワークの方法で接続されており裁判管轄内にある他のコンピュータ・システムを捜索し,その中にあるデータを押収するための権限を持たなければならない。

4. 自動的に処理されたデータが伝統的な文書と機能的に同じである場合には,刑事手続法規中の文書の捜索・押収に関する規程が同じくそれに適用されなければならない。

U 技術的な監視 (Technical Surveillance)

5. 電子技術と電子通信との収斂という見地から,電子通信の傍受のような,犯罪捜査目的での技術的監視に関する法律が再検討され,改正され,(それが必要なところでは)その適用が確保されなければならない。

6. 法律は,犯罪捜査においてトラフィック・データを収集することを可能とするようなすべての必要な技術的手段を捜査機関が使用できるということを許容しなければならない。

7. データが犯罪捜査の過程で収集される場合,とりわけ,電子通信の傍受によって獲得される場合には,法的保護の対象でありコンピュータ・システムで処理されるデータは,適切な方法で保全されなければならない。

8. 刑事手続法規は,電子通信の傍受を可能にし,そして,電子通信及びコンピュータ・システムの秘密性,完全性及び利便性を侵害する重大な犯罪の捜査におけるトラフィック・データの収集を可能にするものでなければならない。

V 捜査機関に協力すべき義務 (Obligations to co-operate with the investigating authorities)

9. 法的権限または法的保護に従うことを条件に,ほとんどの法システムは,捜査機関が,誰かに対し,その者が管理し,証拠として保存することが要求されている物を保持するように命ずることを許容している。それと同様に,誰かに対し,その者の管理するコンピュータ・システムの中に特定のデータがあることを,捜査機関から要求されたような形式で具申するように命ずる権限が作られなければならない。

10. 法的権限または法的保護に従うことを条件に,捜査機関は,その者の管理するコンピュータ内にデータを保有する者に対し,そのコンピュータ・システム及びその中にあるデータにアクセスすることができるようにするためのすべての必要な情報を提供するように命ずる権限を持たなければならない。刑事手続法規は,コンピュータ・システムの機能及びその中にあるデータを保全するために適用可能な方法についての知識を有する第三者に対して同様の命令を発令し得ることを確保しなければならない。

11. 公衆に電子通信サービスを提供する公的・私的なネットワークの管理者に対しては,捜査機関による電子通信の傍受を可能にするようなすべての必要な技術的手段を捜査機関が利用できるようにすべき特別の義務を課さなければならない。

12. 公的・私的なネットワークを通じて公衆に電子通信サービスを提供するサービス・プロバイダに対しては,適法な捜査機関から命ぜられたときは,ユーザを特定するための情報を提供すべき特別の義務を課さなければならない。

W 電子証拠 (Electronic Evidence)

13. 国内的な刑事訴追と国際協力の両方のために,証拠の完全性と否認不可能な信憑性を最大限に確保し反映するような方法で,電子証拠を収集し,保存し,提出することについては,共通した需要があることが認識されなければならない。そのために,電子証拠を取得するための手順と技術的手段,とりわけ,国家間で互換性が保たれるような方法がさらに開発されなければならない。伝統的な文書に関連する刑事手続法規の証拠規定は,コンピュータ・システム内に記憶されたデータに対しても,同様に適用されなければならない。

X 暗号の使用 (Use of Encryption)

14. 施策は,厳密に必要な使用より以上に合法的な使用に影響を与えないようにしつつも,刑事犯罪の捜査における暗号の使用のネガティブな効果を最小限にすることを考慮しなければならない。

Y 研究,統計及び訓練 (Research, statistics and training)

15. 刑事犯罪の実行に関しては,情報技術の開発と応用に内包されている危険は,継続的に確認されなければならない。権限の有効性をコンピュータ関連犯罪の分野における新たな現象に取り残されないように保たせるため,そして,適切な対抗手段を開発するために,手口及び技術的側面を含め,これら犯罪のデータの収集と分析が更に進められなければならない。

16. 情報技術における特殊な専門知識が求められる闘いを遂行する上で,犯罪捜査のための専門化されたユニットを確立することが考慮されなければならない。刑事裁判官がこの分野における専門知識を活用できるようにするための訓練プログラムが推進されなければならない。

Z 国際協力 (International Cooperation)

17.  他のコンピュータ・システムに捜索を拡張する権限は,即座の行動が求められる場合には,システムが他の裁判管轄権内にあるときでも適用可能でなければならない。国家主権または国際法上の可能的侵害を避けるためには,そのような捜索・押収を拡張するための不明確ではない法的根拠が確立されなければならない。そのために,そのような捜索・押収の拡張をどのようにするか,いつできるか,そして,何に対してするのかに関する国際的合意を交渉すべき緊急の必要性がある。

18. 捜査機関が外国の機関に対して迅速に証拠を収集するよう要請できるようにするために,手軽で適切な手順が(ファイル・システムと共に)利用可能でなければならない。この目的のために,要請を受けた機関は,コンピュータ・システムを捜索し,次の転送前の閲覧で押収する権限が授与されていなければならない。要請された機関は,また,特定の電子通信に関連するトラフィック・データを提供して,特定の電子通信を傍受し,または,そのソースを識別する権限が授与されていなければならない。この目的のために,既存の司法共助制度は,補修すべき必要性がある。


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最終更新日:1998/01/14

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