データベースの法的保護に関する欧州議会及び理事会指令
(仮訳)
翻訳:夏井高人
これは,EUの1996年3月11日「データベースの法的保護に関する指令」(Directive 96/9/EC of the European Parliament and of the Council of 11 March 1996 on the legal protection of databases)を大急ぎで仮訳したものです。意訳したところがあります。誤訳もあるかもしれません。この点,ご注意ください。
なお,この指令のオリジナル・テキストは,
http://www2.echo.lu/legal/en/ipr/database/text.html
で入手できます。
また,このEU指令を含めた各国のデータベース保護の動向については,通産省「データベースの法的保護の在り方について(中間論点整理(案))」を,このEU指令の加盟各国の国内法へのインプリメントの状況等については,「第6回SOFTIC国際シンポジウム」を,それぞれご覧ください。
CHAPTER I 適用範囲
Article 1 適用範囲
1. この指令(Directive)は,あらゆる形態におけるデータベースの法的保護に関するものである。
2. この指令においては,「データベース」(database)とは,個々独立した著作物,データその他のマテリアルを組織的分類法ないし系統的分類法に従って配列した収集物(a collection)であって,電子的手段その他の手段によって個人がアクセス可能なものを意味する。
3. この指令に基づく保護は,電子的な手段によってアクセス可能なデータベースの作成または操作(making or operation of databases)で用いられるコンピュータ・プログラムには適用されない。
Article 2 適用範囲の制限
この指令は,その適用において,
(a) コンピュータ・プログラムの法的保護
(b) 知的財産権の領域における貸与権(rental right, lending right)及び著作権に関連する特定の権利
(c) 著作権及び関連する特定の権利の保護期間
に関する欧州共同体加盟国の法規を害してはならない。
CHAPTER II 著作権
Article 3 保護の対象
1 この指令に従って,その選択または配列によって,著者の知的創作を構成するデータベースは,著作権による保護を受ける。この保護を受ける資格の決定について,他の基準が適用されてはならない。
2. この指令によるデータベースの著作権保護は,その内容を拡張するものではなく,そのコンテンツに含まれている権利を害するものでもない。
Article 4 データベースの著作物
1. データベースの著作者は,そのデータベースを作成した自然人(the natural person)もしくは自然人のグループ(group of natural persons)でなければならず,または,加盟国の法律が認めている場合には,その法律によって権利主体とされている法人(the legal person)でなければならない。
2. 加盟国の法律によって収集著作(collective works)が認められている場合には,その経済的権利は,著作権者によって保有されなければならない。
3. 自然人のグループが共同で作成したデータベースに関しては,排他的権利は,共同して保有されなければならない。
Article 5 禁止行為
著作権により保護されるデータベースの表現に関して,データベースの著作者は,
(a) 何らかの手段による,何らかの形式での,その全部または一部の,一時的もしくは永久的な複製(temporary or permanent reproduction)
(b) 翻訳(translation),翻案(adaptation),脚色(arrangement)その他の変更(alteration)
(c) データベースもしくはその複製(copies)の公衆に対するすべての形態における配布;権利者もしくはその同意に基づいて,データベースの複製の欧州共同体内でのファースト・セール(The first sale in the Community)がなされると,欧州共同体の領域内においては,再販売をコントロールする権利(right to control resale)は,消尽(exhaust)する。
(d) 送信(communication),展示(display),もしくは,公衆の面前での実演(performance)
(e) (b)に示された各行為の結果としての複製,配布(distribution),送信,展示,もしくは,公衆の面前での実演
を実施すること,または,それらを許諾することについて排他的権利(exclusive right)を有する。
Article 6 禁止行為の例外
1. 適法な利用者によるデータベースの内容へのアクセスまたはその内容の利用のために必要なArticle 5に列挙する行為の,データベースもしくはその複製の適法な利用者による実行については,データベースの作成者の許諾を必要としない。適法な利用者がデータベースの一部分についての利用しか認められていないときは,この規定は,その部分についてのみ適用される。
2. 加盟国は,次の各場合には,Article 5に規定する権利に制限を加える規定のオプションを持つことができる。(a) 非電子的なデータベースを私的目的で複製(reproduction for private purposes)する場合
(b) 教育もしくは科学調査のための展示( illustration for teaching or scientific research)のみの目的による利用の場合,ただし,出典(the source)が指示されており,達成されるべき非営利の目的(the non-commercial purpose)によって正当化される範囲内にあることを要する。(c) 行政手続もしくは司法手続における公共の安全のための利用(use for the purposes of public security)の場合
(d) (a),(b)及び(c)を害しない限り,伝統的に国内法に基づいて認められてきた著作権法の例外の場合
3. 文学的及び美術的著作物の保護のためのベルヌ条約に従い,このArticleは,権利者の正当な利益を不合理に害するような利用への適用,もしくは,データベースの正常な開発を妨げるような利用への適用を許容するものと解釈されてはならない。
CHAPTER III 独自の権利(SUI GENERIS RIGHT)
Article 7 保護の目的
1. 加盟国は,コンテンツの獲得(obtaining),検査(verification),表示(presentation)のいずれかについて質的及び/又は量的に大きな投資(substantial investment)をしたことを証明したデータベースの作成者に対し,当該データベースのコンテンツの全部あるいは量的及び/又は質的に重要と評価できる部分の抽出及び/又は再利用(extraction and/or re-utilization)を排除する権利を与えなければならない。
2. 本章においては,
(a) 抽出(extraction)とは,何らかの手段もしくは何らかの形態で,データベースのコンテンツの全部または重要な部分を永久的もしくは一時的に転送( permanent or temporary transfer)することを意味する。
(b) 再利用(re-utilization)とは,複製の頒布,貸与,オンラインその他の方式による転送(transmission)によって,何らかの形態でデータベースのコンテンツの全部または重要な部分を公衆が利用可能な状態にすることを意味する。権利者もしくはその同意に基づいて,データベースの複製の欧州共同体内でのファースト・セールがなされると,欧州共同体の領域内においては,再販売をコントロールする権利は,消尽する。公共の貸与(Public lending)は,抽出でも再利用でもない。
3. paragraph 1 に示す権利は,譲渡し,契約上の許諾に基づいて利用させることができる。
4. paragraph 1 に示す権利は,当該データベースについて著作権その他の権利の保護が有効に与えられているかどうかとは無関係に適用されなければならない。さらに,この権利は,当該データベースのコンテンツについて著作権その他の権利の保護が有効に与えられているかどうかとは無関係に適用されなければならない。paragraph 1 に示す権利によるデータベースの保護は,そのコンテンツに関して存在する権利を害してはならない。
5. データベースのコンテンツの重要でない部分の反復的及びシステムによる抽出及び/又は再利用は,それが,データベースの正常な開発を妨げ,または,データベース作成者の正当な利益を不合理に害するものであるときは,許容されない。
Article 8 適法な利用者の権利義務
1. 何らかの方法で公衆に利用可能なデータベースの作成者は,適法な利用者に対し,データベースのコンテンツのうち,その目的からして質的及び/又は量的に重要でないと評価できる部分について,抽出及び/又は再利用を禁止することができない。適法な利用者がデータベースの一部分についての利用しか認められていないときは,この規定は,その部分についてのみ適用される。
2. 何らかの方法で公衆に利用可能なデータベースの適法な利用者は,データベースの正常な開発を妨げ,または,データベース作成者の正当な利益を不合理に害する行為を実行してはならない。
3. 何らかの方法で公衆に利用可能なデータベースの適法な利用者は,データベースに含まれる著作もしくは事柄に関する著作権もしくは関連する権利の保有者を害してはならない。
Article 9 独自の権利の例外
加盟国は,次の場合には,何らかの方法で公衆に利用可能なデータベースの適法な利用者が,その作成者からの許諾なしに,そのコンテンツの重要部分を抽出または再利用できることを法定することができる。
(a) 非電子的なデータベースのコンテンツを私的目的で抽出する場合
(b) 教育もしくは科学調査のための展示(illustration for teaching or scientific research)のみの目的による利用の場合,ただし,出典(the source)が指示されており,達成されるべき非営利の目的(the non-commercial purpose)によって正当化される範囲内にあることを要する。(c) 行政手続もしくは司法手続における公共の安全のための抽出及び/又は再利用の場合
Article 10 保護期間
1. Article 7に規定する権利は,データベースの作成が完了した日(the date of completion of the making of the database)に始まる。この権利は,完了日以後の最初の1月1日から15年で失効する。
2. paragraph 1に規定する期限経過前に何らかの方法で公衆に利用可能となったデータベースの場合には,保護期間は,そのデータベースが最初に公衆に利用可能となって日以後の最初の1月1日から15年で失効する。
3. 後になされた増補,削除もしくは追補の蓄積の結果としての重要な変化を含め,データベースのコンテンツの質的または量的に重要と評価できる変更は,新たな大きな投資がそのデータベースについてなされた結果であると質的もしくは量的に評価できるのであれば,その保護期間内の投資の結果としてそのデータベースを扱わなければならない。
Article 11 独自の権利に基づく利益の受益者
1. Article 7が規定する権利は,その作成者が加盟国民または欧州共同体の領域内に住居を有する者であるデータベースについて適用される。
2. Paragraph 1は,加盟国の法律に従って設立され,かつ,欧州共同体の領域内に登録された事務所,中枢組織もしくは主要な事業拠点を持つ会社及び工場にも適用される。しかし,これらの会社もしくは工場が欧州共同体の領域内に登録された事務所を持つのみである場合には,その事業が加盟国の経済基盤に本当にリンクしているのでなければならない。
3. Article 7に規定する権利を第三国で作成されたデータベース及びparagraphs 1 及び 2以外の場合に拡張する合意は,委員会からの申立に基づき,理事会において決定されなければならない。この手続によってデータベースに拡張された保護の期間は,Article 10によって利用可能な期間を超過してはならない。
CHAPTER IV 一般規定
Article 12 民事救済
加盟国は,この指令が規定する権利の侵害に関する適切な民事救済を提供しなければならない。
Article 13 他の法律の適用継続
この指令は,とりわけ,データベースに含まれるデータ,著作その他のマテリアルの著作権,著作権に関連する権利その他の権利義務,特許権,商標権,意匠権,国庫の保護,不正競争防止法,トレード・シークレット,セキュリティ,機密性(confidentiality),データ保護(data protection)及びプライバシー,公的文書へのアクセスに関する法律上の規定,並びに契約法(the law of contract)を害してはならない。
Article 14 時的適用範囲
1. この指令による著作権としての保護は,Article 16 (1)に示す日,すなわち,この指令に規定するデータベースの著作権による保護の要件が充足される日以前に作成されたデータベースについても利用可能でなければならない。
2. paragraph 1にかかわらず,加盟国の著作権法に基づき保護を受けるデータベースが,この指令の発布の日において,この指令のArticle 3 (1)に規定する著作権保護の要件を厳格に充足していない場合に,この指令は,各加盟国の法律により適法とされる保護の残存保護期間を短縮させるものではない。
3. この指令によるArticle 7に規定する権利としての保護は,Article 16 (1)が参照する日以前の15年を超えない期間内に完成され,かつ,Article 7に定める要件を充足するデータベースについても適用される。
4. paragraphs 1及び3の規定する保護は,これらのparagraphsに示す日以前になされた行為またはその日以前に認められた権利を害することはできない。
5. Article 16 (1)に示す日以前の15年を超えない期間内に完成されたデータベースの場合,Article 7に規定する権利の保護期間は,その日以後の最初の1月1日から15年で終了する。
Article 15 規定の拘束力
Articles 6 (1) 及びArticles 8に反する契約条項は,無効である。
Article 16 Final provisions
1. 加盟国は,1998年1月1日より以前に,この指令を採用するために必要な法律,規則及び行政命令を発効させなければならない。加盟国がそうした規定を採択する場合には,それらの規定の中にこの指令の参照を含ませなければならず,政府の刊行物の中に同様の参照を入れなければならない。かかる参照を作成する方法は,加盟国に任されている。
2. 加盟国は,この指令によって規律される領域において各加盟国が採択した自国法の条文のテキストを欧州委員会に送付しなければならない。
3. paragraph 1に示す日から遅くとも3年以内及びその後更に各3年毎に,委員会は,欧州議会,理事会及び経済社会委員会に対し,この指令の実施に関する報告を提出しなければならない。その報告書中では,とりわけ,加盟国から提供される情報に基づき,Articles 8 及び 9を含め,独自の権利(sui generis right)の適用状況を特に検討しなければならず,また,この権利の適用によって,主要な権利が侵害を受けていないかどうか,あるいは,非ボランティアのライセンス手段の開発を含め,適切な手段への移行を正当化するような自由競争を妨げていないかどうかを特に評価しなければならない。必要があるときは,データベースの領域における開発の流れに合わせて,この指令の修正動議を提出することができる。
Article 17
この指令は,加盟国に対して通知される。
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最終更新日:Jul/27/1998