欧州評議会「サイバー犯罪条約草案(公開第25版)

[仮 訳]

(translation : version 1.7)

by 夏井高人


これは,欧州評議会のサイバー犯罪条約草案(第25版)の公開バージョンに基づく仮訳です。

この条約草案の原文は,

http://conventions.coe.int/treaty/EN/projets/cybercrime25.htm

又は

http://www.cdt.org/international/cybercrime/001225cybercrime25.pdf

からダウンロードできます。これらのファイルは,2001年2月にWeb公開されました。


<仮訳全体についての注記>

 この仮訳は,まだ暫定版であり,公式訳ではありません。誤訳部分が存在する可能性があります。あくまでも参考としてお読みください。 

 訳文は,デフォルトの色(黒)で記載してありますが,まだ未確定の部分(条文案中で括弧[及び]で括られている部分)は紺色で表示しました。この部分は,今後の審議の経過次第で,条約文中に採用されるかもしれないし,削除されるかもしれません。条約の条項が未確定又は整理中の部分は,文章が存在していなかったり,条文番号が飛んでいたりすることがあります。

 訳注は,夏井によるもので茶色で記載してあります。

 脚注については,閲覧の便のため,ハイパーリンクを設定してあります。

 この条約草案の刑事実体法規に関して,2001年3月28日にセミナーが開催されました。その際に使用したプレゼンテーション資料(Microsoft Power Point 2000 のPPTファイル)は,こちらからダウンロード可能です。また,この条約草案の手続法規に関して,2001年4月26日にセミナーが開催されました。その際に使用したプレゼンテーション資料(Microsoft Power Point 2000 のPPTファイル)は,こちらからダウンロード可能です。なお,セミナー当日に参加者に対して配布した印刷資料中の訳文と,このWeb公開版の訳文とでは,バージョンが異なっています。こちらのバージョンでは,当初の訳文中にあった誤植・誤訳部分を修正し,訳注等を追加してあります。

 なお,この条約草案仮訳の確定版は,情報サービス産業協会から刊行される予定です。詳細は,社団法人情報サービス産業協会(担当:調査企画部)にお問い合わせください。


 

ストラスブール,20001222

公開版−機密扱解除

PC-CY (2000) Draft No.25 Rev.

欧州犯罪問題委員会

(CDPC)

サイバースペースにおける犯罪に関する専門家委員会

(PC-CY)

サイバー犯罪に関する条約草案

(草案:第25版)

事務局作成

事務局I(法律関係)

 


前文

 

欧州評議会の加盟国及び本条約の他の調印国は,ここに,

加盟国間のより強固な統合を達成することが欧州評議会の目的であることを考慮し;

本条約の他の調印国との協力関係を促進することの価値を認識し;

とりわけ,適切な法律を採択すること及び国際協力を促進することによって,サイバー犯罪からの社会の保護を狙いとする共通の刑事政策を優先事項として追求する必要性があることを確信し;

コンピュータ・ネットワークのデジタル化,融合及び継続的なグローバル化によってもたらされた根底からの変化を重視し;

コンピュータ・ネットワーク及び電子情報が刑事犯罪を実行するためにも利用されるかもしれないというリスク,そして,そのような犯罪に関する証拠がこれらのネットワークによって蓄積され転送されるかもしれないというリスクに関心を寄せ;

サイバー犯罪との闘いに関する国家と民間業界間の協力の必要性ならびに情報技術の使用と開発に際し合法的な利益を保護することの必要性を認識し;

サイバー犯罪と効果的に闘うためには,刑事関連事項について,より拡大された,迅速で良く機能する国際協力が必要であると信じ;

本条約に規定するようにこれらの行為を犯罪行為とするための法制化をすること,このような刑事犯罪と効果的に闘うのに十分な権限を採用すること,国内レベル及び国際レベルの両面において,このような刑事犯罪の探知,捜査及び刑事訴追を促進し,かつ,迅速で信頼できる国際協力のための協定を提供することによって,コンピュータ・システム,ネットワーク及びコンピュータ・データの秘密性,完全性及び可用性に対して向けられた行為を抑止し,また,そのようなシステム,ネットワーク及びデータの濫用を抑止するため,本条約が必要であると確信し;

人権及び基本的自由の保護に関する欧州評議会1950年条約及び市民的権利及び政治的権利に関する国際連合1966年規約において表明され,その両者において再確認している,何人も障害なく意見を述べることができる権利並びに領域にかかわりなくあらゆる種類の情報及びアイデアを探索し,受領し,伝達する権利を含む表現の自由の権利,そして,[たとえば,個人データの自動処理に関する個人保護のための欧州評議会1981年条約で付与されているような]プライバシーの権利のような基本的人権の尊重と法執行の利益との間で適正なバランスを確保することの必要性に留意し;

児童の権利に関する国際連合1989年条約及び児童労働の最悪形態に関する国際労働機関1999年条約を考慮し;

刑罰領域における協力に関する欧州評議会の現行条約及び欧州評議会加盟国とそれ他の国との間に存在する同様の諸条約を考慮に入れ,そして,本条約は,コンピュータ・システム及びデータに関する刑事犯罪に関する犯罪捜査及び刑事手続をより効果的にし,刑事犯罪の電子的証拠の収集を可能にするために,これら諸条約を補完することを意図するものであることを強調し;

国際連合,OECD,欧州連合及びG8の活動を含め,サイバー犯罪と闘うことについての国際的な理解と協力をさらに増進している最近の拡大動向を歓迎し;

通信傍受のための書面照会との関係で刑事関連事項の共助に関する欧州条約の運用実務に関する勧告N-R (85) 10,著作権及び著作隣接権の分野における海賊行為に関する勧告N-R (88) 2,[警察部門における個人データの使用を規制する勧告N-R (87) 15],並びに,一定のコンピュータ犯罪の定義に関する国内立法機関のためのガイドラインを提供するコンピュータ関連犯罪に関する勧告N-R (89) 9及び情報技術に関連する刑事手続法上の問題に関する勧告N-R (95) 13を想起し;閣僚会合に対し,欧州犯罪問題委員会(CDPC)により実施されているサイバー犯罪に対する作業を,国内刑事法の規定を相互により近いものとし,そのような犯罪に関する効果的な捜査手段の利用を可能とするために支持するよう勧告する,欧州の司法閣僚によりその第21回会合(プラハ,1997年6月)において採択された決議N-1,並びに,可能な限り多数の国が条約加盟国になることができるようにするのに適切な解決策を見出すという目的をもって,折衝当事国が努力を尽くすよう促し,そして,サイバー犯罪に対する闘いの明確な要件を適正に考慮に入れて,迅速かつ効果的な国際協力システムの必要性を認めた第23回欧州司法閣僚会議(ロンドン,2000年6月)において採択された決議N-3を尊重し;

第2回サミット(ストラスブール,1997年10月10〜11日)において,欧州評議会の基準及び価値に基づき,新しい情報技術の開発に対する共通の対応を追求するために,欧州評議会各国政府首脳により採択された行動計画もまた尊重するものとして;

以下のとおり合意した。

[訳注] 本条約草案全体の考え方などを理解するためには,Creating a Safer Information Society by Improving the Security of Information Infrastructures and Combating Computer-related Crime (COM (2000) 890)が参考になる。

 

第1章 用語の使用

 

第1条 定義(1)

 本条約においては,

a. 「コンピュータ・システム」とは,何らかの装置又は相互接続され若しくは相互に関連する一群の装置であって,その中の一以上の装置が,プログラムに従って,データの自動処理を行うものを意味し; […] (2)

b. 「コンピュータ・データ」とは,コンピュータ・システムに機能を実行させるのに適したプログラムを含め,コンピュータ・システムで処理するのに適した形式による,事実,情報又は概念の表現を意味し;

c. 「サービス・プロバイダ」とは,

i. そのサービスの利用者に対してコンピュータ・システムという手段で通信する能力を提供する公的な主体又は民間の主体,及び

ii. その他,そのような通信サービスに代わって若しくはそのようなサービスの利用者に代わって,コンピュータ・データを処理又は蓄積するその他の主体

を意味し;

[訳注] 本号でいう「主体(entity)」は,プロバイダの業務主体のことを意味し,自然人と法人の両方を含む趣旨であると理解される。

d. 「トラフィック・データ」とは,コンピュータ・システムという手段によってなされる通信に関するコンピュータ・データであって,通信の連鎖の一部を構成するコンピュータ・システムによって生成され,その通信の発信地,受信地,パス又は経路,時刻(3),日付,サイズ,持続時間又はその背後にある [ネットワーク] サービスのタイプを示すものを意味する。

 

第2章 国内レベルで採られるべき措置

 

第1節 刑事実体法

 

第1款 コンピュータ・データ及びシステムの機密性,完全性及び可用性に対する犯罪

 

第2条 違法アクセス

 各加盟国は,コンピュータ・システムの全体又は一部に対し,権利なく(7),意図的に(5),アクセス(6)がなされた場合において,その国内法上で(4)刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。加盟国は,この犯罪が,コンピュータ・データを入手する意図又はその他の不誠実な意図で(8),又は,他のコンピュータ・システムに接続されたコンピュータ・システムに関連して,安全措置を侵害することによって,実行されることを要件とすることができる。

第3条 違法傍受

 各加盟国は,コンピュータ・データを非公開で伝送するコンピュータ・システムからの電磁的な放射を含め,コンピュータ・システム(10)へ向けた,そこからの,又は,その内部での,コンピュータ・データの非公開(9)伝送に対し,技術的な手段によって,権利なく,意図的に,傍受がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。加盟国は,この犯罪が,不誠実な意図で,又は,他のコンピュータ・システムに接続されたコンピュータ・システムに関連して,実行されることを要件とすることができる。

第4条 データ妨害

 各加盟国は,権利なく,意図的に,コンピュータ・データの毀損,消去,劣化,改変(11)又は抑制(12)がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

第5条 システム妨害

 各加盟国は,コンピュータ・データの入力,伝送,毀損,消去,劣化,改変又は抑制によって,権利なく,意図的に,コンピュータ・システムが機能することに対する重大な妨害がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

第6条 機器の濫用

1. 各加盟国は,以下の各行為が,権利なく,意図的に,なされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

a. 第2条ないし第5条に規定するいずれかの犯罪を実行する目的で使用されるものと意図(13)してなされる,以下の物件の製造,販売,使用のために調達,輸入,配布又はその他の方法により利用可能にする行為

1. 主として第2条ないし第5条により設けられる犯罪のいずれかを実行することを目的として設計又は採用されたコンピュータ・プログラムを含む装置;

2. コンピュータ・システムの全部又は一部がアクセスされるようにするコンピュータ・パスワード,アクセス・コード又はこれに類するデータ

b. 第2条ないし第5条に規定するいずれかの犯罪を実行する目的で使用されるものと意図して,上記a号1又は2に規定された物件の保有。加盟国は,法律によって,保有される当該物件の数を,刑事責任を負わせるための要件とすることができる。

2. 本条は,コンピュータ・システムの権限に基づく試験又は保護の目的による場合のように,本条第1項に規定する製造,販売,使用のための調達,輸入,配布又は利用可能化行為又は保有が,本条約第2条ないし第5条により設けられる犯罪を実行する目的によるのでない場合には,刑事責任を課すものと解釈してはならない。

3. 各加盟国は,その留保が第1項a号2で規定する物件の販売,配布又はその他の利用可能化行為に関するものでない場合に限り,本条第1項を適用しない権利を留保することができる。

 

第2款 コンピュータ関連犯罪

 

第7条 コンピュータ関連偽造

 各加盟国は,そのデータが直接読み取り可能で理解できるものであるか否かにかかわらず,そのデータが,法律上の目的において真正な(14)ものであるとみなされ又は作用することを意図して,権利なく,意図的に,コンピュータ・データの入力,改変,消去,又は抑制をし,その結果,その結果として真正でないデータをもたらした場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。加盟国は,詐取する意図又はこれに類する不誠実な意図を,刑事責任を負わせるための要件とすることができる。

第8条 コンピュータ関連詐欺

 各加盟国は,自己又は他人のために経済上の利益を得ることを意図して,権利なく,意図的に,

a. コンピュータ・データの入力,改変,消去,又は抑制

b. コンピュータ若しくはシステムが機能することに対する妨害

によって,他人に対し,財産的な損失を発生させた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。加盟国は,詐取する意図又は類似の不誠実な意図を,刑事責任を負わせるための要件とすることができる。

 

第3款 コンテント関連犯罪 (15)

 

第9条 児童ポルノグラフィ関連犯罪

1. 各加盟国は,権利なく(16),意図的に,以下の行為がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

a. 頒布目的で,コンピュータ・システムを通じて,児童ポルノグラフィを製造すること(17)

b. コンピュータ・システムを通じて,児童ポルノグラフィを提供し(18)又は利用可能にすること

c. コンピュータ・システムを通じて,児童ポルノグラフィを頒布又は伝送すること

d. 自己又は他人のために,コンピュータ・システムを通じて,児童ポルノグラフィを調達すること(19)

e. コンピュータ・システム内又はコンピュータ・データ記憶媒体上に児童ポルノグラフィを保有すること(20)

2. 上記第1項においては,「児童ポルノグラフィ」は,以下のものを視覚的に描写するポルノ・マテリアル(21) を含むものとしなければならない。

a. あからさまな性行為を行っている未成年者;(22)

b. あからさまな性行為を行っている未成年者であるように見える人物;

c. 未成年者があからさまな性行為を行っているように表現する写実的な画像(23)

[訳注] 「Material」は,「素材」と訳すことも可能である。しかし,一般に,日本語としての「素材」は「原材料」を意味する言葉であるところ,本条約では,児童ポルノ画像を作成するための原材料だけではなく,児童ポルノ画像や児童ポルノ小説等を含むWebページ,1セットのCD-ROM製品のようなデジタル・コンテンツから個々のGIF画像のようなものまでをも広く含む趣旨で「Material」という用語を用いている。これらのもの全部を含む概念を示す日本語は,通常用いられている日本語の中には見いだせない。そこで,便宜,「マテリアル」と訳すことにした。

3. 上記第2項においては,「未成年者」の定義は,18歳未満の全ての者を含むべきものとしなければならない。ただし,加盟国は,より低い年齢制限を設けることができるが,16歳よりも低いものとすることはできない。

4. 各加盟国は,第1項d号及びe号,第2項b号及びc号の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

 

第4款 著作権及び関連諸権利の侵害に関連する犯罪

 

[訳注] この款の条項を十分に理解するためには,Recommendation for Second Reading on the Council common position for adopting a European Parliament and Council directive on the harmonization of certain aspects of copyright and related rights in the Information Society (A5-0043/2001) 及びFollow-up to the Green Paper on Copyright and related rights in the Information Society (COM (96) 586)が参考になる。

[訳注] この条約の説明用覚書草案(Draft Explanatory Memorandum)の記述によれば,「関連諸権利」は,著作隣接権を含むが,著作隣接権のみのことを指すわけではないことが明記されている。

10条 著作権及び関連諸権利の侵害に関連する犯罪(24)

1. 各加盟国は,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に基づく1971年7月24日パリ条約,知的財産権の商取引に関連した側面に関する合意及びWIPO著作権条約において約束した義務に従う当該加盟国の法律で定義された著作権の侵害行為については,これらの条約によって付与された人格権を除き,その侵害が,故意に(25),商業的規模で,コンピュータ・システムという手段によって実行された場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 各加盟国は,ローマで締結された実演家,レコード製作者及び放送機関の保護のための国際条約(ローマ条約),知的財産権の商取引に関連した側面に関する合意及びWIPOの実演及びレコード条約において約束した義務に従う当該加盟国の法律で定義された関連諸権利の侵害については,これらの条約によって付与された人格権を除き,その侵害が,故意に,商業的規模で,コンピュータ・システムという手段によって実行された場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 加盟国は,他に有効な救済手段が利用可能であり,かつ,その留保が本条第1項及び第2項で規定する国際的な文書中に規定する当該加盟国の国際的義務から逸脱しない場合に限り,限定された状況(26)において,本条の第1項及び第2項に基づく刑事責任を課さない権利を留保することができる。

 

第5款 付随的責任及び制裁

 

第11条 未遂及び幇助・教唆

1. 各加盟国は,本条約第2条ないし第10条により設けられる犯罪行為の幇助行為又は教唆行為が,意図的に,実行された場合において(27),その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 各加盟国は,本条約の第3条ないし第5条まで,第7条,第8条,第9条第1項第a号及び第c号により設けられる犯罪行為の試みが,意図的になされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

[訳注] 本項でいう「試みが意図的になされる」とは,故意犯の未遂のみを処罰する趣旨であるが,「試み」すなわち未遂行為それ自体が意図的に実行されることを要することを明確にする趣旨の規定である。3. 各国は,本条第2項の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

第12条 企業責任

1. 各加盟国は,法人の利益のために,私的に又は法人組織の一部として行動し,

a. その法人を代表する権限;

b. その法人に代わって意思決定を行う権限;

c. その法人内での管理権を執行する権限

のいずれかに基づいて,当該法人内の指導的な地位にある自然人により実行された,本条約により設けられる犯罪行為について,法人の責任を問うことを確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 第1項で既に規定する場合とは別に,各加盟国は,法人の利益のために,その権限に基づいて,自然人により実行された,本条約により設けられる犯罪行為について,第1項で規定する自然人による監督又は管理の欠如によってそれが可能となる場合において,法人の責任を問うこと(28)を確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 当該加盟国の法律上の諸原則に従い,法人の責任は,刑事責任,民事責任又は行政上の責任とすることができる。

4. この責任は,その犯罪行為を実行した自然人の刑事責任を阻却するものではない。

[訳注] 「この責任」とは,法人の責任のことを指す。

第13条 制裁及び措置

1. 各加盟国は,第2条ないし第11条により設けられる犯罪行為が,効果的で均衡し,かつ,抑止効果のある制裁で処罰され得ることを確保するために必要な措置を採らなければならない。それは,自由刑を含むものでなければならない。

[訳注] この文脈においては,「均衡」とは犯罪の重さと処罰の重さとの均衡を指すものと思われる。

2. 各加盟国は,第12条により有責とされた法人が,効果的で均衡し,かつ,抑止効果のある刑事上又は刑事外の制裁又は措置に処せられるべきことを確保しなければならない。それは,金銭的な制裁を含むものでなければならない。

 

第2節 手続条項

 

第1款 共通規定

 

第14条 手続条項の適用範囲

1. 各加盟国は,特定の犯罪捜査又は刑事手続のために本節において規定する権限及び手続を設ける上で必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 第21条で特に別段の定めをする場合を除き,各加盟国は,

a. 本条約第2条ないし第11条により設けられる刑事犯罪;

b. コンピュータ・システムという手段を使用して実行されるその他の刑事犯罪;

c. 犯罪行為の電子的な形式による証拠の収集

について,第1項で規定する権限及び手続を適用しなければならない。

3. 各加盟国は,その犯罪の範囲又は種類が,第21条に示す措置を適用する犯罪の範囲よりも狭く限定されていない限りにおいて,その留保中で指定される犯罪又は犯罪分類に限定して第20条に示す措置を適用する権利を留保することができる。各加盟国は,第20条に示す措置を最大限適用することができるようにするため,そのような限定を抑制することを検討しなければならない。

15条 条件及び保障条項

 本節に規定する権限及び手続の制定,施行及び適用は,とりわけ適用可能な国際的人権条約(29)中に規定されているような人権の適切な保護をしかるべく考慮し,かつ,それに該当する場合には,その犯罪行為の性質及び状況とその権限又は手続との間の釣合い(30)を考慮した上で,関係各加盟国の国内法に基づいて決定される条件及び保障に従い,なされなければならない。

[訳注] 2001年4月23日に開催された欧州評議会の議員会議において,次のとおりの修正動議が可決された。
15条を次の文に置き換えて修正する。「各加盟国は,本節中にあって関連する権限及び手続を導入及び適用するためには,人権に対し,とりわけ,人権及び基本的自由の保護に関する欧州条約及びその議定書並びに市民的権利及び政治的権利に関する国際憲章に規定するような人権に対し,適切な保護を与える条件及び保障を設ける立法その他の措置を採用しなければならない。この措置は,個々の特定の事案において,犯罪に関連する事実を調査することとプライバシーを侵害される者を特定することについて,特定の権限及び手続と犯罪の性質及び状況との間の均衡性をしかるべく考慮した,独立した効果的な監督権限を要件とするものでなければならない。」

 

第2款 記憶されたコンピュータ・データの応急保全

 

[訳注] 「stored」は,「蓄積された」と訳されることがあるが,「蓄積」という概念は,少なくとも複数以上のデータの存在を前提とするものであるところ,ここでは,1個であっても媒体上に記憶されたデータがあれば保全の対象となるのであるから,「蓄積された」をstoredの訳語としてあてるのは著しく不適切である。そして,情報科学の分野では,通常,「storage」を「記憶装置」と訳し,「store」を「記憶する」と訳していることから,ここにおけるstoreの理解と同様に,本仮訳では,「記憶された」と訳することにした。なお,脚注20の訳注も参照されたい。

第16条 記憶されたコンピュータ・データの応急保全

1. 各加盟国は,自国の権限ある機関が,そのコンピュータ・データがとりわけ滅失又は改変され易い(31)と信ずべき根拠がある場合には,特別に,コンピュータ・システムという手段で記憶されたトラフィック・データを含め,[特定された] コンピュータ・データの応急保全を命令し,又は類似の方法によって入手することを可能とするために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。(32)

2. ある者が保有又は管理する特定の記憶されたコンピュータ・データを保全するよう命令することによって,加盟国が上記第1項の規定を実施する場合には,当該加盟国は,その者に対し,相当な期間内,当該コンピュータ・データの完全性を保持又は維持することを命じ,必要に応じ,権限ある機関がそのコンピュータ・データの開示を求めることを可能にするために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

[訳注] ここでは,adequate period of time を「相当な期間」と訳した。「適切な期間」も訳語として考えられるが,適切という概念は,日本における法律用語としては,行為又は動作等について用いられることが多く,期間や状態については用いられることが少ない。

3. 各加盟国は,コンピュータ・データの保全を命ぜられた者に対し,その国内法で規定する期間内,そのような手続がとられていることの機密保持を義務付けるために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

4. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

第17条 トラフィック・データの応急保全及び部分開示

1. 各加盟国は,第16条に基づいて保全されるべきトラフィック・データに関して,

a. 当該通信の伝送中に含まれるサービス・プロバイダが単一であるか複数であるかにかかわらず,トラフィック・データのこのような応急保全が利用可能であることを確保すること;

b. b. 当該通信が伝送されたサービス・プロバイダ及び経路を加盟国が特定できるようにするため,当該加盟国の権限ある機関又はその機関から指定を受けた者に対する十分な量のトラフィック・データの応急開示を確保すること

を保証するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

[訳注] この規定に基づく国内法が制定されると,サービス・プロバイダは,権限ある捜査機関又は捜査機関が指定する者に対して,滅失又は改変されやすいものに属すると捜査機関が判断したトラフィック・データを応急的に開示すべき義務を負うことになる。ただし,注記(32)にもあるように,トラフィック・データの開示義務は,トラフィック・データの保全義務を伴うものではない。

2. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

 

第3款 提出命令

 

第18条 提出命令

1. 各加盟国は,その権限ある機関に対して以下の命令をする権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

a. 自国の領土内に所在する者に対する,コンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体に記憶され,当該の者が管理する指定されたコンピュータ・データの提出 (33);及び

b. 自国の領土内でサービスを提供するサービス・プロバイダに対する,当該サービス・プロバイダが保有又は管理する加入者情報の提出

[訳注] 本条約草案の前文ではプライバシー保護を考慮すべきことが宣言されているが,本条約草案中の条文には,第2項において第15条(人権保障規定の遵守)に従うべきものとする以外,本号による加入者情報提出義務と個人情報を収集する事業者の個人情報保護義務との間の調整に関する規定が存在しないので,個人情報保護に関する一般的なルールの例外(法令により個人情報の開示が求められる場合)として扱われることになるものと思われる。この場合において,個人情報の開示を命ずるサイバー犯罪関連法令が基本的人権の保障を損なうものとして違憲であるか否かは,未知数である。

2. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

3. 本条においては,「加入者情報」とは,コンピュータ・データ形式又はその他の形式で含まれるあらゆる情報であって,サービス・プロバイダによって保持され,トラフィック・データ又はコンテント・データ以外のもので,そのサービスの利用者に関連するものであり,それによって,

i. 使用される通信サービスのタイプ,そのために採用された技術的手段,設備及びサービスの期間;

ii. サービス契約又は協定に基づいて利用できる利用者の身元,郵便の宛先又は地理的な住所,電話番号その他のアクセスのための番号,請求及び支払に関する情報;

iii. サービス契約又は協定に基づいて利用できる通信機器の設置場所に関するその他の情報

を確定することができるものを意味する。

 

第4款 記憶されたコンピュータ・データの捜索及び押収

 

第19条 記憶されたコンピュータ・データの捜索及び押収

1. 各加盟国は,自国の権限ある機関に対し,その領土内において,

a. コンピュータ・システム又はその一部及びその中に記憶されたコンピュータ・データ

b. コンピュータ・データを記憶することができるコンピュータ・データ記憶媒体

を捜索し,又は捜索に類するアクセスをする権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 各加盟国は,当該加盟国の権限ある機関が第1項a号に従って特定のコンピュータ・システム又はその一部を捜索し又は捜索に類するアクセスをする場合で,かつ,捜索するデータが,その領土内にある他のコンピュータ・システム又はその一部の中に記憶されていると信ずる根拠を有しており,かつ,当該データに対して当初のシステムから合法的にアクセスすることが可能であるか,当初のシステムで利用可能である場合において,当該機関が当該他のシステムに対しても捜索又は捜索に類するアクセスを応急的に拡大することができることを確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 各加盟国は,自国の権限ある機関に対し,第1項又は第2項に従ってアクセスしたコンピュータ・データを押収又は押収に類する確保をする権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。これらの措置は以下の権限を含むものでなければならない。

a. コンピュータ・システム又はその一部又はコンピュータ・データ記憶媒体の押収又は押収に類する確保;

b. 当該コンピュータ・データの複製の作成及び保持;

c. 関連する記憶されたコンピュータ・データの完全性の維持;及び

d. アクセスされたコンピュータ・システム中の当該コンピュータ・データにアクセスできなくすること又はその消去

4. 各加盟国は,自国の権限ある機関に対して,コンピュータ・システムの機能又はその中に含まれるコンピュータ・データを保護するために適用される手段に関する知識を有する者に対し,第1項及び第2項に規定する措置をとることを可能にするため,合理的な範囲内で(34),必要な情報を提供させる命令を発する権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

5. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

 

第5款 コンピュータ・データのリアルタイム収集

 

第20条 トラフィック・データのリアルタイム収集

1. 各加盟国は,当該加盟国の権限ある機関に対し,コンピュータ・システムという手段によって,その領土内で伝送される特定の通信と関連するトラフィック・データを,リアルタイムで,

a. 当該加盟国の領土内で技術的手段を使用することによって収集又は記録し:

b. 現存する技術的能力(35) の範囲内で,サービス・プロバイダに対し,

i. 当該加盟国の領土内で技術的手段を使用することによって,収集又は記録し,又は

ii. 収集及び記録について,権限ある機関に協力し,これを援助することを強制する:

権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 当該加盟国が,その国内法体系において確立された諸原則を遵守すると,第1項a号に規定する措置を採用することができない場合には,当該加盟国は,これに代えて,当該加盟国の領土内で,技術的手段の適用を通じて,その領土内の特定の通信に関連するトラフィック・データのリアルタイムの収集及び記録を確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 各加盟国は,サービス・プロバイダに対し,本条に規定する権限の行使についての事実及び情報について機密保持(37)を義務づけるために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。(36)

4. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

第21条 コンテント・データの傍受

1. 各加盟国は,国内法によって規定される重大犯罪の範囲内で,当該加盟国の権限ある機関に対し,その領土内で(37),コンピュータ・システムという手段によって伝送される特定の通信と関連するコンテント・データを,リアルタイムで,

a. 当該加盟国の領土内で,技術的手段を使用することによって収集又は記録し:

b. 現存する技術的能力(38)の範囲内で,サービス・プロバイダに対し,

i. 当該加盟国の領土内にある技術的手段を使用することによって,収集又は記録し,又は

ii. 収集及び記録について,権限ある機関に協力し,これを補助することを強制する:

権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 当該加盟国が,その国内法体系において確立された諸原則を遵守すると,第1項a号に規定する措置を採用することができない場合には,当該加盟国は,これに代えて,当該加盟国の領土内にある技術的手段の適用を通じて,その領土内(39)の特定の通信に関連するコンテント・データのリアルタイムの収集及び記録を確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 各加盟国は,サービス・プロバイダに対し,本条に規定する権限の行使に関する事実及び情報について機密保持(41)を義務づけるために必要となり得る立法及びその他の措置(40)を採らなければならない。

4. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

22

第20条及び第21条に統合

 

第3節 管轄権

 

第23条 管轄権

1. 各加盟国は,犯罪行為が,

a. 当該加盟国の領土内で;又は,

b. 当該加盟国の国旗を掲揚した船舶中で;又は,

c. 当該加盟国の法律に従って登録された航空機内で;又は,

d.犯罪行為地の刑法によって処罰できる場合若しくはその犯罪がいかなる国の属地的管轄権にも属さない場所で

実行された場合には,当該加盟国の国民によって,実行された場合には,この条約の第2条ないし第11条で規定したあらゆる犯罪に対する管轄権を確立するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

[訳注] 「jurisdiction」は,通常,「裁判管轄権」を意味することが多く,本条約でも裁判管轄権を前提にした上で,捜査及び検察に関する管轄権を考えているようである。しかし,裁判管轄権と捜査上の管轄権とは,必ずしも一致しない場合があり,特に本条約における国際協力のための措置では,理論上,そのようなことが出てくることが予想されるので,この仮訳では,裁判管轄権と捜査及び検察に関する管轄権とを併せて「管轄権」と訳することにした。

[訳注] d.号は分かりにくい条項だが,要するに,加盟国の裁判権が及ばない地域で実行された場合であっても,行為者が加盟国の国民であり,かつ,行為地法で処罰可能な場合又は他国の裁判管轄権が存在しない場合(この場合,行為地法も存在し得ない。)には,加盟国の法律によって処罰可能であることを意味している。

[訳注] criminal law は,penal law と対比する意味で,「犯罪法」と訳するのが正しいが,この仮訳では,日本国における刑法典を連想しやすくできるという利点があることと,原文中に「penal law」が一度も用いられていないという理由により,「刑法」と訳することにした。2. 各加盟国は,本条の第1項b号ないし第1項d号の管轄権に関する原則又はその一部を,特定の事件又は条件のみについて適用せず,あるいは適用する権利を留保することができる。

3. 各加盟国は,犯罪者であるとの申立てを受けた者が当該加盟国の領土内に所在する場合であって,犯罪者引渡の要請を受けた後に,単にその者の国籍のみを根拠として,その者を他の加盟国へ引渡さない場合,本条約の第25条第1項に示す犯罪に対する管轄権を確立するために必要となり得る措置を採らなければならない。

4. この条約は,国内法に従って行使される刑事管轄権を排除しない。

5. 本条約に従って設けられた犯罪の刑事訴追について,2カ国以上の加盟国が管轄権を主張する場合には,関連加盟国は,それが適切である場合には,訴追のために最も適切な管轄権を決定するという観点から協議するものとする。

 

第3章 国際協力

 

第1節 一般原則

 

第1款 国際協力に関する一般原則

 

第24条 国際協力に関する一般原則

 加盟国は,本章の各条項に従い,かつ,刑事関連事項における国際協力に関する国際的な文書,統一的又は互恵的な法律に基づいてなされた合意及び国内法の適用を通じて,コンピュータ・システム及びデータに関連した刑事犯罪に関する犯罪捜査及び刑事手続について,又は,刑事犯罪の電子的形式の証拠を収集するについて,可能な限り広い範囲で相互協力しなければならない。

 

第2款 引渡に関する原則

 

第25条 引渡

1. 本条は,関係する加盟国双方の法律によって,刑の長期が少なくとも1年以上の自由刑又はそれよりも厳しい刑で処罰可能である場合には,本条約第2条ないし第11条に従い設けられる犯罪行為について,加盟国間の引渡に適用される。2カ国以上の加盟国間で拘束力のある引渡条約又は相互協定が存在し,引渡について異なる最低刑を要件としている場合には,本条の代わりに,その条約又は相互協定に規定された最低刑が適用されなければならない。

2. 本条第1項に示す刑事犯罪は,加盟国間に存在する全ての引渡条約において引渡可能な犯罪に含まれ得るものとみなされなければならない。当該加盟国は,このような犯罪を引渡可能な犯罪として当該加盟国間で締結される全ての引渡条約に含めることを保証する。

3. 条約の存在を条件として引渡を行う加盟国が,引渡条約を締結していない他の加盟国から引渡の請求を受けた場合には,本条第1項に規定する刑事犯罪に関しては,本条約を引渡のための法的根拠とすることができる。

4. 条約の存在を引渡のための条件としていない加盟国は,本条第1項に規定する刑事犯罪を当該関係国間で引渡可能な犯罪として承認しなければならない。

5. 引渡は,請求を受けた加盟国が引渡を拒絶できる根拠を含め,請求を受けた加盟国の法律又は適用可能な引渡条約に規定する諸条件に従ってなされなければならない。

6. 引渡請求を受けた者が国民であることのみを理由として,又は,請求を受けた加盟国が当該犯罪に対する管轄権を自国が持つとみなしていることを理由に,本条第1項に規定する刑事犯罪のための引渡が拒絶された場合には,請求を受けた加盟国は,請求をした加盟国の求めに応じて,自国の権限ある刑事訴追機関に事件を付託し,かつ,請求をした加盟国に対し,適切な時期に,その最終結果を報告しなければならない。これらの機関は,当該加盟国の法律に基づき,これに対応した性質を有する他の犯罪事件におけるのと同様の方法で,判断をし,犯罪捜査及び刑事手続を行わなければならない。

7.

a. 各加盟国は,調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,欧州評議会事務局長に対し,条約が存在しない場合に,引渡請求をし,引渡請求を受け又は仮逮捕をすることについて責任を有する機関(42)の名称及び住所を通知しなければならない。

b. 欧州評議会事務局長は,加盟国から指定された機関の登録簿を作成し,かつ,それを最新の状態に保たなければならない。各加盟国は,登録簿上に保持される詳細情報が常に正確であることを確保しなければならない。

 

3款 共助に関する一般原則

 

[訳注] 「mutual assistance」は,通常,「相互援助」と訳されている。しかし,この仮訳では,他の訳語の原語との整合性を保つために,あえて「共助」と訳することにした。

 

26条 共助に関する一般原則

1. 加盟国は,コンピュータ・システム及びデータに関連した刑事犯罪に関する犯罪捜査及び刑事手続について,又は,刑事犯罪の電子的形式の証拠を収集するについて,可能な限り広い範囲で相互協力しなければならない。

2. 各加盟国は,第27条ないし第35条に規定する義務を履行するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 各加盟国は,緊急の状況下においては,要請を受けた加盟国から求められば正式な確認を追完することとして,ファックス又は電子メールを含む応急用の通信手段によって,(必要な場合には,暗号化の使用も含め)当該手段が適切なレベルの安全性及び本人確認を提供する範囲内で,共助の要請又はそれに関連する連絡の要請をすることができる。要請を受けた加盟国は,このような応急用の通信手段の全てを受領し,かつ,これに応答しなければならない。

4. 本章中に特段の規定がある場合を除き,共助は,要請を受けた加盟国が協力を拒絶できる理由を含め,要請を受けた加盟国の法律又は適用されえる共助条約に規定する要件に従わなければならない。要請を受けた加盟国は,要請が国庫犯罪とみなされる犯罪に対するものであることのみを根拠とする場合には,共助を拒絶する権利を行使してはならない。

5. 本章の規定に従い,要請を受けた加盟国が双罰性の存在を要件として共助を行うことを許容している場合には,援助要請の対象となった犯罪が当該加盟国の法律において刑事犯罪となる行為である限り,その犯罪が当該加盟国の法律で要請をした加盟国と同一の種類の犯罪とされているか,その犯罪を同一の用語法で命名しているか否かにかかわらず,その要件が充足されるものとみなされなければならない。

28条 自発的情報提供

1. 加盟国は,その国内法の許容限度内において,事前の要請がなくても,本条約により設けられる刑事犯罪に関する犯罪捜査若しくは刑事手続の開始若しくは実施において引渡を受ける加盟国の役にたつであろうと判断する場合,又は,当該加盟国が本章の下で協力を要請することにつながるかもしれないと判断する場合には,自国の捜査の枠組の中で入手した情報を,他の加盟国に送付することができる。

2. 当該情報を提供する前に,その提供をする加盟国は,その情報が機密に保持されること又は一定の条件に従って使用されることを要請することができる。受領する加盟国がこのような要請に応えることができない場合には,当該加盟国は,その提供側をする加盟国に対し,その旨を通知しなければならず,その場合には,その提供をする加盟国は,それにもかかわらず,情報を提供するか否かを決定しなければならない。受領する加盟国が条件に従って情報を受領した場合には,当該加盟国は,その条件に拘束されなければならない。

[訳注] ここでいう「それにもかかわらず」は,相手方国が機密保持等の条件に従うことができない場合に,「その条件が満たされなくても」ということを意味している。

 

4款 適用される国際協定がない場合の共助の要請に関する手続

 

27条 適用される国際協定がない場合の共助の要請に関する手続

1. 要請をする加盟国と要請を受けた加盟国の間において拘束力のある統一的又は相互的な法律に基づく共助条約又は共助協定が存在しない場合には,本条第2項ないし第10項の規定が適用されなければならない。本条の規定は,このような条約,合意又は法律が利用可能な場合には,それに代えて,本条における残余の規定の一部又は全部を適用することに関係加盟国が合意しない限り,適用してはならない。

[訳注] 第27条中には,第9項までしか存在しない。「第10項」とあるのは「第9項」の誤記と思われる。

2. 

a. 各加盟国は,共助要請の送付及び要請への応答,その要請の実行,それらの要請を実行する権限のある機関へこれらを転送することについて責任を負う中心機関を指定し又は機関を指定しなければならない。

b. 中心機関は,相互に直接通知を行わなければならない。

c. 各加盟国は,調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,欧州評議会事務局長に対し,本項に従って指定された機関の名称及び所在地を通知しなければならない。

d. 欧州評議会事務局長は,加盟国から指定された中心機関の登録簿を作成し,かつ,それを最新の状態に保たなければならない。各加盟国は,当該登録簿に保持された詳細情報が常に正確であることを確保しなければならない。

3. 本条に基づく共助要請は,要請を受けた加盟国の法律に反しない限り,要請をする加盟国が指定する手続に従って実施されなければならない。(43)

4. 要請を受けた加盟国は,第26条第4項で認められた拒絶の理由に加え,もし,

a. その要請が,政治犯罪又は政治犯罪に関係する犯罪であると当該要請を受けた加盟国が判断する犯罪に関連するものである場合;又は,

b. その要請を実行することが,自国の主権,安全,公序又はその他の基本的な利益を損なうことになりかねないと判断される場合には,

援助を拒絶することができる。

5. 要請を受けた加盟国は,その引渡行為によって自国の機関によってなされる犯罪捜査又は刑事手続の妨げとなるおそれがある場合には,要請に基づく行為を延期することができる。

6. 援助を拒絶又は延期する前に,要請を受けた加盟国は,要請をしている加盟国と適宜協議した後に,その要請を部分的に認めるか又は要請を受けた加盟国が必要と考える条件の下で認めるかを判断しなければならない。

7. 要請を受けた加盟国は,要請をした加盟国に対して,援助の要請を実行した結果を速やかに通知しなければならない。その要請が拒絶又は延期された場合には,その拒絶又は延期の理由を通知しなければならない。また,要請を受けた加盟国は,要請をした加盟国に対して,その要請の実行を不可能にしている理由又は大幅に遅延させるかもしれない理由を通知しなければならない。

8. 要請をした加盟国は,要請を実行するために必要な範囲を除き,本章に従ってなされた要請の事実及びその内容を,要請を受けた加盟国が機密に保つことを要請することができる。要請を受けた加盟国がこの秘密保持の要請に応ずることができない場合には,当該要請を受けた加盟国は,当該要請をした加盟国に対し,速やかに通知しなければならず,その後,当該要請をした加盟国は,それにもかかわらず,当該要請を実行すべきか否かを決定しなければならない。

9. 

a. 緊急の場合には,共助の要請又はこれに関連する連絡は,要請をする加盟国の司法機関から,要請を受けた加盟国の司法機関に対して,直接に送ることができる。この場合においては,いかなる場合にも,同時に当該要請をする加盟国の中心機関を通じて,当該要請を受けた加盟国の中心機関に対して,要請書の写しを送付しなければならない。

b. 本項に基づく要請又は連絡は,国際刑事警察機構(Interpol)を通じて行うことができる。

c. 要請がa号に従って行われ,かつ,当該機関がその要請を取り扱う権限を持っていない場合には,当該機関は,その要請を国内の権限ある機関に回付し,かつ,要請をした加盟国に対し,そのように処置したことを直接に通知しなければならない。

d. 本項に基づいて行われる要請又は連絡であって,強制的な行為を含まないものについては,要請をした加盟国の権限ある機関から,要請を受けた加盟国の権限ある機関に対して直接に送信することができる。

e. 各加盟国は,調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,欧州評議会の事務局長に対し,実効性を理由として,本項に基づいて行われる要請が自国の中心機関に対して行われるべきことを通知することができる。

(44) [第27条の2 機密保持及び使用制限

1. 要請をする加盟国と要請を受けた加盟国の間において拘束力のある統一的又は相互的な法律に基づく共助条約又は協定が存在しない場合には,本条の規定が適用されなければならない。本条の規定は,このような条約,合意又は法律が利用可能な場合には,それに代えて,本条における残余の規定の一部又は全部を適用することに関係加盟国が合意しない限り,適用してはならない。

2. 要請を受けた加盟国は,以下の条件を付して,要請に対する情報又はマテリアルを提供することができる。

a. 機密保持の条件なしでは相互法務援助の要請に応じることができない場合には,機密を保持すること

b. 要請中に示された犯罪捜査又は刑事手続以外に使用しないこと (45)

3. 要請をした加盟国が第2項で規定した条件に沿うことができない場合には,要請をした加盟国は,相手方加盟国に対して,速やかに通知しなければならず,相手方加盟国は,それにもかかわらず,その情報を提供するか否かを決定しなければならない。要請をした加盟国がその条件を受諾した場合には,当該要請をした加盟国はそれに拘束されなければならない (46)。

4. 第2節に規定する条件に従って情報又はマテリアルを提供した加盟国は,その条件に関して,その情報又はマテリアルの使用について,相手方加盟国に説明を求めることができる。]

2 特別規定

 

1款 仮措置に関する共助

 

29(24) 記憶されたコンピュータ・データの応急保全

1. 加盟国は,他の加盟国の領土内に所在するデータであり,かつ,それに関連して要請する加盟国が捜索若しくは捜索に類するアクセス,押収若しくは押収に類する確保又はそのデータの開示を要請する意図を有しているデータであって,コンピュータ・システムという手段で記憶されたデータの応急保全を要請することができる。

2. 1項に基づいて保全の要請をするためには,以下の各事項を特定しなければならない。

a. 保全を求める機関;

b. 犯罪捜査又は刑事手続の対象となっている犯罪及び関連事実の要約;

c. 保全されるべき記憶されたコンピュータ・データ及び当該データと当該犯罪との関係;

d. 記憶されているそのコンピュータ・データの管理者,又は,そのコンピュータ・システムの所在を特定するために利用できる情報;

e. 保全の必要性;及び,

f. 当該加盟国が記憶されているコンピュータ・データの捜索若しくは捜索に類するアクセス,押収若しくは押収に類する確保又はそのデータの開示について共助の要請を提出しようとしていること

3. 他の加盟国から要請を受けた場合には,要請を受けた加盟国は,直ちに,特定されたデータを自国の国内法に従って応急的に保全するための適切な措置をとなければならない。要請に応ずるに際しては,このような保全を提供する条件として,双罰性を要求してはならない。

[訳注] ここでいう「双罰性(dual criminality)」とは,要請する国と要請される国の双方において当該行為が可罰的であることを意味する。したがって,この条項は,要請された国において当該行為が犯罪として処罰されない場合であっても,応急の保全要請に応じなければならないという趣旨での条項であることになる。

4. データの捜索若しくは捜索に類するアクセス,押収若しくは押収に類する確保又はそのデータ開示を求める共助要請に応じる条件として,双罰性を要求する加盟国は,本条約第2条ないし第11条の規定により設けられる犯罪以外の犯罪に関して,開示の時点においては双罰性の要件が充足されていないと信ずべき根拠を有する場合には,本条による保全の要請を拒否する権利を留保することができる。

5. 加えて,

a. 要請を受けた加盟国が,政治犯罪又は政治犯罪に関係する犯罪であると判断する犯罪に関連した要請である場合;又は,

b. 要請を受けた加盟国が,その要請を実行によって,自国の主権,安全,公序(ordre public)その他の基本的な利益が損なわれかねないと判断する場合

に限り,保全の要請を拒絶することができる。

6. 要請を受けた加盟国は,保全することによって当該データを将来利用不可能としてしまうかもしれず,その機密性を脅かすかもしれず,又は,それ以外の態様で当該要請をした加盟国の捜査を妨げるかもしれないと確信する場合には,要請をした加盟国に対し,速やかにその旨を通知しなければならず,当該要請をした加盟国は,それにもかかわらず,その要請を実行すべきか否かを決定しなければならない。

7. 1項に規定する要請に応えて実施された保全は,当該要請をした加盟国がそのデータの捜索若しくは捜索に類するアクセス,押収若しくは押収に類する確保又はそのデータの開示についての要請を受け入れることができるようにするため60日を下回らない期間,維持されなければならない。この要請を受領した後,その要請に関する決定がなされるまでの間,そのデータは,保全されなければならない。

30条 保全されたトラフィック・データの応急開示

1. 特定の通信に関するトラフィック・データの保全について第29条に基づいて行われた要請の実行の過程で,当該要請を受けた加盟国は,他国のサービス・プロバイダがその通信の伝送に関与していたことを発見した場合には,当該要請をした加盟国に対し,その通信が伝送されたサービス・プロバイダ及び経路を特定するため十分な量のトラフィック・データを応急的に開示しなければならない。

2. 1項に基づくトラフィック・データの開示は,

a. 要請を受けた加盟国が,政治犯罪又は政治犯罪に関係する犯罪であると判断する犯罪に関連した要請である場合;又は,

b. 要請を受けた加盟国が,その要請を実行によって,自国の主権,安全,公序(ordre public)その他の基本的な利益が損なわれかねないと判断する場合

に限り,拒絶することができる。

 

2款 捜査権限に関する共助

 

31条 記憶されたコンピュータ・データへのアクセスに関する共助

1. 加盟国は,他の加盟国に対して,第29条に従って保全されたデータを含め,当該要請を受けた加盟国の領土内に所在するコンピュータ・システムという手段によって記憶されたデータを捜索若しくは捜索に類するアクセス,押収若しくは押収に類する確保,又は開示することを要請することができる。

2. 要請を受けた加盟国は,第24条に規定する国際的文書,協定及び法律の適用を通じて,かつ,本章のその他の関連規定に従って,その要請に応じなければならない。

3. 以下の場合には,応急的に,その要請に対応しなければならない。

a. 関連するデータがとりわけ滅失又は改変され易いと信ずべき根拠がある場合;又は,

b. 2項に規定する文書,協定及び法律が応急的協力について別の定めをしている場合

32条 同意に基づき又は公然と入手可能な記憶されたコンピュータ・データに対する国境を越えたアクセス

加盟国は,他の加盟国から権限を得ることなくして,

a. データが地理的にどこに所在しているかにかかわらず,公然と入手できる(オープン・ソース)記憶されたコンピュータ・データにアクセスし;又は,

b. 当該加盟国がそのコンピュータ・システムを通じてそのデータを当該加盟国に開示することについての適法な権限を持つ者の適法かつ自発的な同意を得られる場合には,自国の領土内のコンピュータ・システムを通じて,他の加盟国に所在する記憶されたコンピュータ・データにアクセスし又はこれを受領する

ことができる。

33条 トラフィック・データのリアルタイム収集に関する共助

1. 加盟国は,コンピュータ・システムという手段によって自国の領土内で伝達された特定の通信に関するトラフィック・データのリアルタイム収集に関して,互いに,共助を提供しなければならない。第2項に従い,援助は,国内法に基づいて規定された条件及び手続によって規律されなければならない。

2. 各加盟国は,少なくとも,国内の同種事件でトラフィック・データのリアルタイム収集が使用できる刑事犯罪に関して,援助を提供しなければならない。

34条 コンテント・データの傍受に関する共助

 加盟国は,自国の適用可能な条約及び国内法によって許容されている範囲内で,コンピュータ・システムという手段によって伝送された特定の通信のコンテント・データに対するリアルタイムの収集又は記録に関して,互いに,共助を提供しなければならない。

 

3款 24/7ネットワーク

 

35条 24/7ネットワーク

1. 各加盟国は,コンピュータ・システム及びデータの利用に関連する刑事犯罪に関する犯罪捜査又は刑事手続の目的による,又は,刑事犯罪の電子的な形式での証拠の収集のための即時の援助の提供を確保するために,週7日間,24時間ベースで利用可能な連絡先を指定しなければならない。この援助は,

a. 技術的な助言を提供すること;

b. 29条及び第30条に従い,

c. データを保全すること;及び,証拠を収集し,法情報を供与し,容疑者の所在を特定すること

を促進し,又は,自国の国内法及び慣行により許容されている場合には,それを直接実施することを含むものとしなければならない。

2. 

a. 加盟国の連絡先は,応急ベースで,他の加盟国の連絡先との通信を実行できる能力を持つものでなければならない。

b. 加盟国が指定した連絡先が,国際共助又は引渡を担当する当該加盟国の機関の一部を構成しない場合には,連絡先は,応急ベースで,かかる機関と調整することが可能であることを確保しなければならない。

3. 各加盟国は,このネットワークの運用を推進するため,よく訓練され十分な装備を与えられた職員が利用可能であることを確保しなければならない。

 

4章 最終条項

 

36条 調印及び発効

1. 本条約は,欧州評議会の構成員国及び草案作成作業に参加した非構成員国の調印について,開放されなければならない。

2. 本条約は,批准,受諾又は承認を要するものとしなければならない。批准書,受諾書又は承認書は,欧州評議会事務局長に寄託されなければならない。

3. 本条約は,少なくとも欧州評議会の構成員国3カ国を含む5カ国が,第1項及び第2項の規定に従って本条約の拘束を受けることについての同意を表明した日から3カ月を経過した後に来る最初の月の初日に発効する。

4. 本条約の拘束を受けることについての同意を後に表明する調印国に関しては,本条約は,第1項及び第2項の規定に従って本条約の拘束を受けることについての同意を表明した日から3カ月を経過した後に来る最初の月の初日に発効する。

37条 本条約への加入

1. 本条約の発効後,欧州評議会の閣僚会合は,本条約の加盟国と協議し,その全員一致の同意を得た上で,欧州評議会の構成員国ではなく,かつ,本条約の起草作業に参加していない国に対し,本条約に加入するよう勧誘することができる。決定は,欧州評議会憲章第20条第d号に規定する多数決により,かつ,閣僚会合への出席権を有する加盟国の代表者の全員一致の評決によって,行われなければならない。

2. 上記第1項に基づいて本条約に加入する国に関しては,本条約は,加入書を欧州評議会の事務局長に寄託した日から3カ月を経過した後に来る最初の月の初日に発効するものとしなければならない。

38条 地域的適用

1. いかなる国家も,調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,本条約を適用する1つ又は複数の地域を指定することができる。

2. いかなる加盟国も,後日,欧州評議会の事務局長に宛てた宣言によって,本条約の適用をその宣言書によって指定されたその他の地域に拡大することができる。この地域に関しては,本条約は,事務局長がその宣言を受領した日から3カ月を経過した後に来る最初の月の初日に発効するものとしなければならない。

3. 前記2項に基づいてなされた宣言は,そのような宣言で指定されたあらゆる地域に関して,欧州評議会の事務局長宛の通告によって撤回することができる。その撤回は,事務局長がその通告を受領した日から3カ月を経過した後に来る最初の月の初日に発効する。

39条 本条約の効果

1. 本条約の目的は,以下の条約の規定を含む,加盟国間の多国間又は2国間条約に適用可能な補足を行うことである。

19571213日にストラスブールで調印された引渡に関する欧州条約(ETS No.24

1959420日にストラスブールで調印された刑事関連事項における共助に関する欧州条約(ETS No.30

1978317日にストラスブールで調印された刑事関連事項における共助に関する欧州条約についての追加議定書(ETS No.99

2. 2カ国以上の加盟国が,本条約で取り扱う事項に関して,既に合意又は条約を締結し,若しくは,これらの事項について関係を確立しているか,又は,将来そのようにすべきである場合には,これらの加盟国は,その合意又は条約を適用する権限も有し,又は,その関係をそれに従って規制することができる。

3. 本条約の規定は,加盟国のその他の権利,制限,義務及び責任に対して,何の影響も及ぼしてはならない。

40条 宣言

 欧州評議会の事務局長に宛てた書面による通告によって,いずれの加盟国も,調印時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託の時点において,第2条,第3条,第6条第1b号,第7条,第9条第3項及び第27条第9項第e号に規定する付加的な要件を自国の要件として利用できることを宣言することができる。

[訳注] 説明用覚書によれば,この「宣言」と「留保」とは区別されなければならないとされている。「留保」は,条約中の特定の条項を国内法として採用しないこと,すなわち,当該条項については条約に拘束されないことを意味する。例えば,本条約第11条第3項の留保をすると,未遂犯の処罰規定を設ける義務を免れることになる。これに対し,ここでの「宣言」は,条約に拘束されることを前提に,一定のオプションのある条項については,オプションを採用して国内法化することを明確にする行為である。このような宣言がなされない場合,他の国から見て,特定の条項が原則どおりに採用されたのかオプションを選択して採用されたのかが分からないことになる。そして,ここでのオプションは,例えば,「特別の意図」のような付加的な要件のことを指している。この場合には,この付加的要件を自国の国内法上の要件とする「宣言」をすると,その国が単に条約に加盟した場合でも,当該条項については,「特別の意図」のある場合にのみ処罰する規定を設けるべき条約上の義務を負うことになる。また,この場合に,この宣言がなされていなければ,「特別の意図」を要件としない処罰規定を設けるべき条約上の義務を負うことになる。

[第41条 連邦条項]

 [連邦制の国は,事務局長に対し,自国の中央政府と構成国又はこれに類するその他の領土主体との間の関係を規律する基本原則と整合性を保ちつつ,本条約に基づく義務を受諾する旨の宣言を行うことができる。宣言を行う場合には,連邦国は,自国の連邦制の性質及び自国の連邦制という特性が本条約の履行に及ぼす影響に関する書簡を提出しなければならない。(47) ]

 

42条 留保

 欧州評議会の事務局長に宛てた書面による通告により,いずれの加盟国も,調印の時点又はその批准書,受諾書,承認書若しくは加入書を寄託する時点において,第6条第3項,第9条第4項及び第10条第3項,第11条第3項,第14条第2項,第23条第2項,第29条第4項に規定する留保を使用することを宣言することができる。それ以外の留保を行うことはできない。

43条 留保の状態及び撤回

1. 第42条に従って留保を行った加盟国は,事務局長宛の通告という方法によってその留保の全部又は一部を撤回することができる。この撤回は,その通告を事務局長が受領した日から発効する。通告中において,その通告中で指定された日付で留保の撤回が発効する旨述べられており,その日付がその通告を事務局長が受領する日以後の日付である場合には,その撤回は,当該後の日付で発効する。

2. 42条に規定する留保を行った加盟国は,その撤回を許す状況になった場合には,その全部又は一部を撤回しなければならない。

3. 事務局長は,定期的に,第42条に規定する1以上の留保を行った加盟国に対し,その留保の撤回の見込について照会することができる。

44条 改正

1. いずれの加盟国も,本条約の改正を提案することができ,そして,欧州評議会の事務局長は,欧州評議会の加盟国,本条約の条約草案の作成作業に参加した非加盟国及び第37条の規定に従って本条約に加入した国又は加入を勧誘された国に対して,通知をしなければならない。

2. 加盟国が提案した改正は,欧州犯罪問題委員会(CDPC)に通知されなければならず,欧州犯罪問題委員会は,その提案された改正に対する自国の意見を閣僚会合へ提出しなければならない。

3. 閣僚会合は,提案された改正及び欧州犯罪問題委員会(CDPC)に提出された意見を検討し,欧州評議会非加盟の本条約の加盟国と協議した後に,その改正を採択することができる。

4. 本条第3項に従って閣僚会合が採択した改正文は,受諾を求めるため,加盟国に対し,送付されなければならない。

5. 本条の第3項に従って採択された改正は,全加盟国が事務局長に対して自国の受諾を通知した30日後に発効する。

45条 紛議の解決

1. 欧州犯罪問題委員会(CDPC)は,本条約の解釈及び適用について情報提供を受けなければならない。

2. 本条約の解釈又は適用について加盟国間に紛議が生じた場合には,当該加盟国は,交渉により,又は,欧州犯罪問題委員会(CDPC),その裁定が当該加盟国を最終的に拘束する仲裁裁判所若しくは国際司法裁判所に対し当該関係加盟国の合意に従って紛議の仲裁付託することを含め,当該加盟国が選択したその他の平和的手段により,紛議の解決を図らなければならない。

46条 加盟国間の協議

1. 加盟国は,それが適切である場合には,定期的に,

a. 本条約の効果的な活用及び履行;

b. サイバー犯罪及び電子的形式による証拠の収集に関連して,法的,政策的又は技術的開発に関する重要な情報の交換;

c. 本条約について可能な補足又は改正の検討

を促進するという観点から,協議をしなければならない。

2. 欧州犯罪問題委員会(CDPC)は,第1項に規定する協議の結果について,定期的に,情報提供を受けなければならない。

3. 欧州犯罪問題委員会(CDPC)は,それが適切である場合には,第1項に規定する協議を促進し,加盟国が本条約の補足又は改正に関して行う努力について加盟国を支援するのに必要な方策を講じなければならない。

4. 欧州評議会が招集する場合を除き,第1項の規定を実施することによって発生する費用は,各加盟国が決定する方法で,当該加盟国が負担しなければならない。

5. 加盟国は,本条に従ってその機能を果たすことについて,欧州評議会事務局の援助を受けなければならない。

47条 破棄通告

1. 加盟国は,随時,欧州評議会事務局長宛の通告という手段によって,本条約を破棄することができる。

2. その破棄は,事務局長がその通告を受領した日から3カ月を経過した後の最初の月の初日に発効する。

48条 通告

 欧州評議会事務局長は,欧州評議会の加盟国,本条約の条約草案の作成作業に参加した非加盟国及び本条約に加入した国又は加入を勧誘された国に対して,

a. 調印;

b. 批准書,受諾書,承認書若しくは加入書の寄託;

c. 36条及び第37条に従い,本条約の発効日付;

d. 40 [及び第41] に基づいて行われる宣言又は第42条に従って行われる留保;

e. 本条約に関するその他の行為,通告又は通知

を通知しなければならない。

 

 以上の証として,適正に権限を付与された下記の署名者は,本条約を調印した。

 200?...日,ストラスブールにおいて,英語及びフランス語により,そのテキストのいずれもが同等に真正なものとして,欧州評議会の書庫に寄託される1通の正本で,調印がなされた。欧州評議会事務局長は,欧州評議会の各加盟国,本条約の条約草案の作成作業に参加した非加盟国及び加入を勧誘された国に対し,認証された謄本を送付しなければならない。

 


注記:

(1) これらの定義は,まだ改訂を要する状態にある。

(2) 説明用報告書は,「コンピュータ・システム」がデータ処理の機能を規定するものであり,したがって,たとえば,電気通信システムに基づくシステムを含むことができること,そして,定義中に規定された「相互接続され」が無線による結合及び論理的な連結を包含することを,明示するのでなければならない。

[訳注] 便宜,「Explanatory Report」を「説明用報告書」と,「Explanatory Note」を「説明用注解」と,「Explanatory Memorandum」を「説明用覚書」と,それぞれ訳することにした。説明用報告書及び説明用注解は,2001年4月1日時点では,公開されていない。

(3) 時刻」への言及は,GMTに相当する時刻として理解されなければならない。

[訳注] GMTは,旧来のグリニッジ標準時に相当する現行の国際標準時である。

(4) 説明用報告書は,加盟国が第2条ないし第10条で定義された犯罪行為の国内法化の中から軽微又は重要でない違法行為を除外することができること,とりわけ,国内法システムが検察官の起訴便宜主義(起訴機会主義)の適用を許さない場合には,除外することができることを,明示するのでなければならない。

[訳注] ここで「起訴便宜主義」に言及しているのは,軽微な犯罪について微罪処分や起訴猶予が認められない法制度を採用している国では,本条約を採用することによって,かなり軽微なサイバー犯罪も有罪とされる結果となり得ることから,そのような国では,軽微犯罪についての適用除外を許容すべきであるということを意味するものと思われる。

(5) 「意図」の解釈は,国内法に委ねられなければならない。しかしながら,このことは,国内法に「結果責任(dolus eventualis)」の概念がある場合には,その概念を排除するものではない。

(6) 説明用覚書は,第2条ないし第5条が,ネットワークの設計に内在する適法かつ一般的な活動,又は,一般的な操作又は商慣習を犯罪行為化しようとするものではないことを説明するものでなければならない。たとえば, 受信者が先に求めたのではない電子メールの送信;パブリック・アクセスのために設定されたWebページ若しくはftp(「ファイル転送プロトコル」 )サーバへのアクセス;ディープ・リンキング(deep-links)を含むハイパーテキスト・リンクの使用;受信サーバによってフィルタ又は拒否できる場合に,情報の埋め込み若しくは検索をするための「クッキー(cookies)」又は「ボット(bots)」のようなプログラムを起動させること等がそうである。この文脈においては,「クッキー」は,情報を記憶又は検索することによって,通信の処理を促進するプログラムであると解釈されなければならない。

[訳注] 「受信者が先に求めたのではない電子メール」は,いわゆるSPAMメールのことを指し,「パブリック・アクセスのために設定されたウェブ・ページ若しくはftpサーバ」は,アクセス認証機能のないサーバ等のことを指し,「ディープ・リンキング」は,Ticketmaster事件(不正競争防止法関係)にも見られるように不快なものとして受け止められることがあり,また,削除又は拒否可能な状態であっても,Cookieは,非常に面倒で不快な存在であり得る。したがって,ここでの例示は,一般に不快だと理解されているものであっても,草案起草者の観点からは,犯罪行為化すべきではないものの例示として理解すべきである。

(7) 「権利なく」という表現は,本節の全ての条項中に出現し,それが使用される文脈の中からその意味が導き出される。したがって,加盟国が自国の国内法でこの概念をどのように実装するかを制限することなく,これは,(立法上,司法上,行政上,法律上,契約上又は合意上のいかんを問わず)権限なしに行われる行為,又は,国内法に基づいて確立された法律上の防御,免責事由,正当化事由又はこれに関連する諸原則によってはカバーされない行為として規定することができる。従って,本条約は,適法な政府の権限に従って行われる行為(たとえば,加盟国の政府が公序を維持し,国家の安全を保護し,あるいは犯罪の捜査を行う場合)については,影響を受けないままのものとしている。

(8) 幾つかの国においては,傍受は,コンピュータ・システムに対する無権限アクセス犯罪と密接に関連している。禁止及び法律の執行の整合性を確保するため,第2条の犯罪について不誠実な意図を要件とする国は,第3条に定義する行為について刑事責任を問うために,これと同様の限定を付加すること要求することもできる。

(9) 「非公開の」という用語は,伝送(通信)に関連するものであり,必ずしも,伝送されるデータに関連するものではない。

(10)「コンピュータ・システム」という概念が無線による接続(第1条の脚注1参照)を包含することもできるという事実があっても,たとえ「非公開」でも比較的オープンで容易にアクセスできるような手段によって行われ,そのため,たとえば,アマチュア無線家によっても傍受され得る無線伝送の傍受について,加盟国がこれを犯罪とすべき義務を負うことにはならないということを,説明用覚書は,明示するのでなければならない。

[訳注] 括弧内に記された「脚注1」は,「脚注2」の誤記と思われる。

(11) 説明用報告書は,「改変」及び「消去」という用語がパケットのヘッダ・データの改竄行為を含むことを明示するのでなければならない。しかしながら,本条のいかなる規定も,加盟国に対して,適法な匿名通信を助長するようなデータ変更行為をもって犯罪行為とすべきことを要求するものではない。

[訳注] ここでは,媒体上に固定されたデータの改竄行為のみならず,パケット・データの改竄行為も「改変」等に該当するということを明確にしている。ただし,匿名性の確保のためになされるヘッダ・データの改変を犯罪行為化することには消極的な態度も示されていることから,結果的に,本人の意図しない他人によるヘッダ・データ改竄行為のみが犯罪行為化されるべきことになると理解すべきである。

(12) 説明用報告書は,「データの抑制」が,一般的に承認されている2通りの意味を持つことを明示するものでなければならない。すなわち,1) データが物理的に存在しなくなるように消去されること,及び,2)「アクセスできなくする」こと,つまり,データが存在するのに誰もデータへのアクセスを妨げることの2通りである。

(13) 1項第a号及び第b号の文脈中で規定された「意図」は,直接的な意図として解釈されなければならない。

(14) 説明用報告書では,「真正な」 という用語は,データの内容が真実であるか否かにかかわらず,最小限度,データの発行者を示すものであることを明示しなければならない。幾つかの国においては,データの真正性を示すこともできる。

[訳注] 日本国では,「真正」という概念は,特定の文書が作成名義人によって作成されたものであることを意味しているので,前段の定義と同じである。後段の「データの真正性」とは,データ内容が真実と合致していることを意味している。「幾つかの国では」というのは,加盟国又は締約国中に,文書偽造罪や虚偽文書作成罪に関して,法理論及び法制度が異なる国家が存在し得ることを前提とする言及である。

(15) PC-CY委員会は,コンピュータ・システムを通じてなされる人種差別主義者の宣伝頒布行為のように,第9条で定義されたもの以外のコンテントに関連した犯罪を含めることができるかについて討議した。後者を刑事犯罪に含めることに大多数が賛成したが,詳細に議論をするには時間が限られていた。PC-CY委員会は,欧州犯罪問題委員会(CDPC)に対して,現実的可能な限り早期に,この問題に関し,現行の本条約に対する追加議定書を起草するよう勧告すること,が合意された。

[訳注] ここで,「後者」というのは,英文(原文)における最初の文の後段部分を指し,要するに,「コンピュータ・システムを通じてなされる人種差別主義者の宣伝頒布行為」のことを指す。ここでの議論は,いわゆる「ヘイト・サイト」の問題を含むものと推測される。

(16) 説明用報告書は,「権利なく」という用語が特定の状況の下では責任を負わせないものとする法律上の防御,免責事由又はこれと同様の関連諸原則を排除しないということを明示しなければならない。したがって,芸術的な目的,医療目的又はこれに類する科学的な目的で行われた行為は,「権利なく」ではない。「権利なく」への参照は,たとえば,第2項b号に関して,加盟国が,もし描写された者が未成年者ではないことが証明されれば,描写した者に刑事責任を負わせないと規定することができる,ということをも許容する。

(17) 説明用報告書は,この条項が,いかなる意味においても,たとえば,児童ポルノグラフィの頒布行為がコンピュータ・システムを使用してなされる場合でも犯罪とすることを制限することを意図するものではなく,本条約は,最低限の基準のみを規定するものであり,加盟国は,そして,それより以上の規定を設ける自由を有すること,を明示するものでなければならない。

(18) 説明用報告書は,「提供」が児童ポルノグラフィのサイトへのハイパーリンクに関する情報を与えることも含むことを明示するものでなければならない。

(19) 「調達」という用語は,そのマテリアルが,それをダウンロードする者によって所有されることになるものであるか又は他の者によって所有されることになるものであるかを問わず,本条中に規定するマテリアルのダウンロード行為をカバーしようとするものである。

(20) 当該サービス・プロバイダが,たとえば,特定のWebサイト,チャットルーム,ニューズグループ又はこれに類するその他の蓄積サービス又は通信サービスを通じて,児童ポルノグラフィが提供されつつあり,利用可能にされ,頒布され,伝送され,制作され,調達され又は保有されることについて,少なくとも,現実の認識を持っているのでない限り,サービス・プロバイダは,本条に基づいて刑事責任を負うことはない。たとえば,サービス・プロバイダは,当該メッセージが児童ポルノグラフィを含んでいることについて現実の認識を持っているのでなければ,仮に電子メール・メッセージ等の伝送のためのコンジット(conduit)を提供した場合であっても,刑事責任を負うことはない。本条のいかなる規定も,サービス・プロバイダに対し,刑事責任を免れるためにコンテントをモニタすべきことを要求するものではない。

[訳注] 「蓄積サービス又は通信サービスを通じて」の中にある「蓄積」は,storageの訳である。このstorageは,本条約文の他の箇所では,媒体上へのデータ記憶又はデータを記憶させることを意味しており,データ記録を意味するrecordという用語と識別する必要があるために「記憶」と訳した。しかし,ここでの文脈では,データベース等のような情報蓄積サービスのことを指しているので,「蓄積」と訳した。

[訳注]「コンジット」とは,配線用の線渠のことである。表には見えないが電子メールの送受信のためには不可欠な物理ネットワーク媒体の役割を果たすことを比喩した表現である。

(21) 説明用報告書は,「ポルノ・マテリアル」という用語は,当該マテリアルが猥褻であり,公序良俗に合致せず又はこれらと同様に堕落的であるという分類に関する各国の基準によって規律されること,を明示するものでなければならない。

(22) 説明用報告書は,「あからさまに性的な行為」が,少なくとも,現実又はシミュレーションによるa) 同性又は異性の未成年者間,成人と未成年者間,及び性器と性器,口と性器,肛門と性器,口と肛門を含む性交行為,b) 獣姦行為,c) 自慰行為,d) 性的な状況下での嗜虐的又は被虐的行為,又は未成年者の性器又は人目に触れる部位の挑発的な展示をカバーすること,を明示するものでなければならない。

(23) 説明用報告書は,「写実的な画像」は自然人の合成画像をも含むことができることを明示するものでなければならない。

[訳注] この「合成画像」とは,たとえば,いわゆる「アイコラ」を含め,自然人の画像の一部を組み合わせて合成したコラージュ画像のようなものを意味するものと思われる。

(24) 説明用報告書は,本条が,いかなる方法によっても,著作者,実演家,レコード製作者,放送機関又はその他の権利保有者に対して認められた保護を,国内法又は国際協定に基づく適格性を持たない者にまで拡大すると解釈してはならないということ,を明示するものでなければならない。

(25) TRIPS協定(犯罪行為化する義務を規定する)第61条において「故意に(wilfully)」が使用されていることから,第10条では,第1項及び第2項の両方で「故意に(wilfully)」という用語が「意図的に(intentionally)」の代わりに使用されている。

(26) 説明用報告書は,加盟国が,本条第1項及び第2項に基づいて刑事責任を課さないようにすべく,貸与権及びWeb放送に関連した状況のように,状況の種類の例を幾つか含むものとしなければならない。

(27) 説明用覚書は,犯罪実行の目的を共有しない個人又は法人(サービス・プロバイダを含む。)が責任を負うことはないということを示さなければならない。

(28) 第12条は,当該法人の利益のために実行された場合には,当該法人の内部で指導的な地位にある者によって実行された犯罪行為について,会社,社団,組織又はこれらに類する法人に対し,責任を負わせようとするものである。第12条は,顧客,利用者又はその他の第三者の行為について,法人に責任を課すものではない。また,第12条は,そのような指導的な立場にある者が,当該法人の代理人を監督し管理することを怠り,そのことが,当該代理人が本条約により設けられる犯罪のいずれかを実行することを助長した場合についての責任も予想している。第12条に基づいて刑事責任,民事責任又は行政上の責任のいずれを課すかについては,加盟国の国内法に委ねられている。

(29) 説明用報告書は,これらの国際的文書には,人権及び基本的自由の保護に関する1950年欧州条約及びその議定書,並びに,市民権及び政治的権利に関する1966年国際条約を含むことを明示するものでなければならない。

(30) 措置の釣合いがとれているかどうかの判断においては,加盟国は,措置の経済的な影響をも考慮に入れることができる。この点に関して,加盟国は,採られた措置の結果として,サービス・プロバイダのような無実の第三者に発生した経済的負担を軽減する方策の実施を考慮しなければならない。

(31) 説明用覚書は,「特に滅失又は改変を受けやすい」という用語が短期間記憶されるデータを含むことを明示するものでなければならない。

(32) 説明用覚書では,この規定が,刑事犯罪に関連する特定の事件において,個別のデータを入手し,それを開示する措置をとるまでの間,その保全を要求する権限のみを規定するものであることを明示しなければならない。この規定はサービス・プロバイダ又はその他の主体が自己の活動の過程で収集したあらゆるデータの保全を義務づけるものではない。説明用覚書では,トラフィック・データの保全及び特定のトラフィック・データの保全は別個の概念であることを明示するものでなければならない。

[訳注] ここで「特定の事件において」という「特定の」という用語は,「具体的な」又は「個別の」というニュアンスを含むものとして使用されていると理解すべきである。また,「個別のデータ」という表現も同じであり,個々のデータの保存(保全)のみを前提とする記述であると理解すべきである。

(33) 加盟国は,この権限を国内法で制定することにより,「命令によって指定する方法で」のように,付加的な基準「及び/又は(and/or)」要件を求めることができる。

[訳注] この部分の記述は,不完全である。要するに,コンピュータ・データの提出命令に関する権限根拠規定の細目を,法律だけではなく政令等の下位規範の定めによるものとすることも許容する趣旨と思われる。

(34) その措置の「合理」性についての指示は,それらの者に対し,それらの者にとって既に入手可能な情報以外の情報の収集を強制するものと解釈してはならず,かつ,当該コンピュータ・システムと直接的な関係を持つ者以外の者に対する助力を強制すべきものと解釈してもならない。

(35) 「現存する技術的能力」という句は,サービス・プロバイダに対して,加盟国の求めに応じて,データを収集し記録するための新たな技術的可能性を獲得又は開発し又はその他の関連する活動を行うことを要求するような方法で,本項(及び第21条第1b号)が実施されてはならないということを示している。

(36) 加盟国が,「司法妨害」の禁止のような他の国内法の規定に基づいて,サービス・プロバイダによって保持されているデータの機密性を確保することができる場合には,本条の施行に関してはそれで十分である。

(37) 説明用報告書は,措置の機密保持を命ずることができる期間を,国内法で定める必要があることを明示するものでなければならない。

(38) 脚注36参照。

(39) 説明用覚書は,通信の当事者(人間又はコンピュータ)の一方がそこに所在している場合には,国の領土上に通信が存在するということを明示するものでなければならない。

(40) 脚注37参照。

(41) 説明用報告書は,措置の機密保持を命ずることができる期間を,国内法で定める必要があることを明示するものでなければならない。

(42) 機関の指定は,外交上のチャネルを使用できることを排除するものではない。この規定は,関係加盟国間に有効な引渡条約が存在しない場合に限定されている。関係加盟国間において,(1957年の引渡に関する欧州条約のような)2国間又は多国間引渡条約が有効に存在する場合には,当該加盟国は,登録要件の負担を負う必要なくして,誰に対して引渡又は仮逮捕の要請をなすべきかを知ることになるであろう。

(43) 説明用報告書では,要請を受けた加盟国の法制度上ではそのような手続が知られていないという事実のみでは,要請をする加盟国が要請した手続の適用を拒絶するのに十分な理由とはならない,ということを明示するものでなければならない。

(44) この規定の原文は,現行の原文に完全な意見の一致がないため,さらに改善を要する。

(45) 多くの国の基本原則において,提供されたマテリアルが訴追された者の無罪を証明する証拠である場合には,被告人又は司法機関にそれを開示しなければならないとされている。この状況の下では,共助を求められた犯罪捜査又は刑事手続について機密保持又は限定した使用を確保することは不可能である。加えて,共助という枠組みの中で提供される資料の大半が,通常は,陪審公判での使用のような公開の裁判手続上で,さらに広く流布されることが予期されているものである。いったんそのような開示が行われると,要請をした加盟国の機関は,基本的には公開領域に移されるそのマテリアルの使用についての支配力を失うことになる。また,現実的かつ政策的な問題として,この状況下では,さらに制限を課す根拠がないように思われる。このような2つの状況の下では,本条の使用制限は適用しないことが合意されている。

[訳注] ここでは,捜査情報の機密保持の必要性と裁判の公開の要請との比較考量を述べていることになる。そして,少なくとも,起草者の間では,裁判の公開を優先し,捜査上の機密保持等の利益を優先させることはできず,そのための理論的根拠も見いだせないという点で合意ができているということを明言するものである。

(46) 説明用注解の中では,本条が第27条を損なうものではないということが明示されるであろう。[本条が適用される場合でも,情報の使用に関する制限が共助を実質的に阻害する効果を持たせてはならないということが理解される。第27条の2は,第27条第6項に基づいてデータ保護の性質に他の要件を追加することができることを排除しない。]

(47) 説明用覚書では,連邦国家である加盟国の国内法及び法律実務の結果として発生し得るものであるが,第41条の適用範囲に若干のバリエーションが存在することを容認しようとするものであることが示されるであろう。このようなバリエーションは,中央政府及び構成国又は領土主体の間の刑事関連事項における法律上の権限の分担に関する憲法その他の基本原則に基づくものでなければならない。たとえば,合衆国においては,その憲法及び連邦制度の基本原則に基づき,連邦の刑事立法は,一般的に,行為が州際取引又は外国貿易に対して及ぼす影響を根拠として当該行為に対する規制がなされ,他方において,微細な事項又は純粋に地域的な利害関係を持つ事項に関しては,伝統的に,連邦を構成する州によって規制されている。連邦制度へのこのような取組みは,合衆国連邦の刑法に基づく場合であっても,なお,本条約に包含される違法行為を広くカバーするものであるが,単に軽微な影響を持つ行為又は純粋に地域的な性格の行為について,連邦を構成する州が規制しようとすることを容認するものである。連邦法ではなく州によって規制される狭い行為カテゴリーの範囲内にあるのでなければ,連邦を構成する州が,本条約の範囲に入ると思われる措置について規定することはできない。たとえば,スタンド・アロンのパーソナル・コンピュータ又は一個の建物内で相互に接続されたコンピュータ・ネットワークに対する攻撃は,その攻撃が行われた州の法律で規定されている場合にのみ犯罪となる;しかしながら,インターネットの使用は,連邦法に含まれるべき州際取引又は外国貿易に影響を及ぼすのであるから,この攻撃は,コンピュータへのアクセスがインターネットを通じてなされた場合には,連邦犯罪となり得る。以上に記述したように,米国連邦法を通じて本条約を履行することは,第41条の要件に適合するものとなるであろう。


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Published on the Web : Apr/03/2001

Error Corrected : May/01/2001 (Rev. 1.7)