欧州評議会「サイバー犯罪条約 案(確定版)

[仮 訳]

(translation : version 1.1)

by 夏井高人


これは,欧州評議会のサイバー犯罪条約案(確定版)の公開バージョンに基づく仮訳です。

この条約案(確定版)の原文は,

Final Draft Convention on Cyber-crime

からダウンロードできます。

この条約案(確定版)の説明用報告書は,

http://conventions.coe.int/Treaty/EN/projets/FinalCyberRapex.htm

からダウンロードできます。

この条約案(確定版)についての,米国司法省によるFAQ

Frequently Asked Questions and Answers 1 : About the Council of Europe Convention on Cybercrime (Final Draft, released June 29, 2001)

に公開されています。


<仮訳全体についての注記>

 この仮訳は,まだ未完成です。

 この仮訳は,まだ暫定版であり,公式訳ではありません。誤訳部分が存在する可能性があります。あくまでも参考としてお読みください。 


 

サイバー犯罪に関する条約案

 


 

前文

欧州評議会の加盟国及び本条約の他の署名国は,ここに,

加盟国間のより強固な統合を達成することが欧州評議会の目的であることを考慮し;

本条約の他の署名国との協力関係を促進することの価値を認識し;

とりわけ,適切な法律を制定すること及び国際協力を促進することによって,サイバー犯罪からの社会の保護を狙いとする共通の刑事政策を優先して追求する必要性があることを確信し;

コンピュータ・ネットワークのデジタル化,集中化及び継続的なグローバル化によってもたらされた根底からの変化を重視し;

コンピュータ・ネットワーク及び電子情報が刑事犯罪行為を実行するためにも利用されるかもしれないというリスク,そして,そのような犯罪に関する証拠がこれらのネットワークによって蓄積され,伝送されるかもしれないというリスクを憂慮し;

サイバー犯罪との闘いに関する国家と民間業界間の協力の必要性ならびに情報技術の利用と開発における正当な利益を保護することの必要性を認識し;

サイバー犯罪と効果的に闘うためには,刑事問題について,より拡大された,迅速で良く機能する国際協力が必要であると信じ;

本条約に規定するようにこれらの行為を犯罪行為として法定すること,このような刑事犯罪と効果的に闘うのに十分な権限を規定すること,国内レベル及び国際レベルの両面において,このような刑事犯罪行為の探知,捜査及び刑事訴追を促進し,かつ,迅速で信頼できる国際協力のための協定を提供することによって,コンピュータ・システム,ネットワーク及びコンピュータ・データの濫用行為並びにそれらの秘密性,完全性及び可用性に対して向けられた行為を抑止するため,本条約が必要であると確信し;

何人も障害なく意見を述べることができる権利並びに領域にかかわりなくあらゆる種類の情報及びアイデアを探索し,受領し,伝達する権利を含む表現の自由の権利並びに私生活の尊重に関する権利を再確認する1950年の人権及び基本的自由の保護に関する欧州評議会条約及び1966年の市民的権利及び政治的権利に関する国際連合規約において表明されその他の適用可能な人権に関する国際条約に示されているような基本的人権の尊重と法執行の利益との間で適正なバランスを確保することが必要であることに留意し;

例えば,1981年の個人の情報の自動的処理に関する欧州評議会条約によって付与されている個人情報の保護にも留意し;

児童の権利に関する国際連合1989年条約及び最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃に関する国際労働機関1999年条約を考慮し;

刑罰分野における協力に関する欧州評議会の現行条約及び欧州評議会加盟国とそれ他の国との間に存在する同様の諸条約を考慮に入れ,そして,本条約は,コンピュータ・システム及びコンピュータ・データに関する刑事犯罪行為に関する犯罪捜査及び刑事手続をより効果的なものとし,刑事犯罪行為の電子的な証拠の収集を可能にするために,これら諸条約を補完することを意図するものであることを強調し;

国際連合,OECD,欧州連合及びG8の活動を含め,サイバー犯罪と闘うことについての国際的な理解と協力をさらに増進している最近の進展を歓迎し;

通信傍受のための書簡調査との関係で刑事問題の共助に関する欧州条約の運用実務に関する勧告N-R (85) 10,著作権及び著作隣接権の分野における海賊行為に関する勧告N-R (88) 2,警察分野における個人データの使用を規制する勧告N-R (87) 15,特に電話サービスについては,電気通信サービスの領域における個人情報の保護に関する勧告N-R (95) 4,一定のコンピュータ犯罪の定義に関する国内立法機関のためのガイドラインを提供するコンピュータ関連犯罪に関する勧告N-R (89) 9及び情報技術に関連する刑事手続法上の問題に関する勧告N-R (95) 13を想起し;

国内刑事法の規定を相互により近いものとし,サイバー犯罪に関する効果的な操作手段の利用を可能とするために,欧州犯罪問題委員会(CDPC)により実施されているサイバー犯罪に関する作業を支持するように,閣僚委員会に対して勧告している第21回欧州司法大臣会議(プラハ,19976月)において採択された決議N-1,並びに,可能な限り多数の国が条約加盟国になることができるようにするのに適切な解決策を見出すという目的をもって,折衝当事国が努力を尽くすよう促し,そして,サイバー犯罪に対する闘いの明確な要件を適正に考慮に入れて,迅速かつ効果的な国際協力システムの必要性を認めた第23回欧州司法閣僚会議(ロンドン,20006月)において採択された決議N-3を尊重し;

2回サミット(ストラスブール,1997101011日)において,欧州評議会の基準及び価値に基づき,新しい情報技術の開発に対する共通の対応を追求するために,欧州評議会各国政府首脳により採択された行動計画もまた尊重するものとして;

以下のとおり合意した。

 

 

1章 用語の使用

条 定義

本条約においては,

a. 「コンピュータ・システム」とは,何らかの装置又は相互接続され若しくは相互に関連する一群の装置であって,その中の一以上の装置が,プログラムに従って,データの自動処理を行うものを意味し; 

b. 「コンピュータ・データ」とは,コンピュータ・システムに機能を実行させるのに適したプログラムを含め,コンピュータ・システムで処理するのに適した形式による,事実,情報又は概念の表現を意味し;

c. 「サービス・プロバイダ」とは,

i そのサービスの利用者に対してコンピュータ・システムという手段によって通信をする能力を提供する公的な主体又は民間の主体,及び

ii その他,そのような通信サービスに代わって若しくはそのようなサービスの利用者に代わって,コンピュータ・データを処理又は保存するその他の主体

を意味し,

d. トラフィック・データ」とは,コンピュータ・システムという手段による通信に関連するコンピュータ・データであって,通信の連鎖の一部を構成するコンピュータ・システムによって生成され,その通信の発信地,受信地,経路,時刻,日付,サイズ,持続時間又はその背後にあるサービスのタイプを示すものを意味する。

 

2章 国内法レベルで講ぜられるべき措置

 

1節 刑事実体法

 

1款 コンピュータ・データ及びコンピュータ・システムの機密性,完全性及び可用性を侵害する犯罪行為

 

2条 違法アクセス

 締約国は,コンピュータ・システムの全部又は一部に対し,権利なく,意図的に,アクセスがなされた場合において,締約国の国内法上,刑事犯罪行為とするために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。締約国は,この犯罪が,セキュリティ措置の侵害によって実行されること,コンピュータ・データの入手その他の不誠実な意図で実行されること,又は,他のコンピュータ・システムに接続されているコンピュータ・システムとの関係において実行されること,を要件とすることができる。

 

3条 違法傍受

 締約国は,当該コンピュータ・データを伝送するコンピュータ・システムからの電磁的な放射を含んでいるコンピュータ・システムへ向けた,そのようなコンピュータ・システムからの,又は,そのようなコンピュータ・システム内部での,コンピュータ・データの非公開の伝送について,技術的な手段によって,権利なく,意図的に,傍受がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を講じなければならない。締約国は,この犯罪が,不誠実な意図で,又は,他のコンピュータ・システムに接続されたコンピュータ・システムに関連して,実行されることを要件とすることができる。

4条 データ妨害

1. 締約国は,権利なく,意図的に,コンピュータ・データの毀損行為,消去行為,劣化行為,改変行為又は抑制行為がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 締約国は,第1項に規定する行為が重大な危険をもたらしたことを要件とすることができる。

5条 システム妨害

 締約国は,コンピュータ・データの入力行為,伝送行為,毀損行為,消去行為,劣化行為,改変行為又は抑制行為によって,権利なく,意図的に,コンピュータ・システムが機能することに対する重大な妨害がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を講じなければならない。

6条 機器の濫用

1. 締約国は,以下の各行為が,権利なく,意図的に,なされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を講じなければならない。

a. 以下の物件の製造行為,販売行為,使用のために調達行為,輸入行為,配布行為又はその他利用可能にする行為

1. 主として第2条ないし第5条で設けられるいずれかの犯罪を実行する目的で設計又は採用されたコンピュータ・プログラムを含んでいる装置;

2. 第2条ないし第5条で設けられるいずれかの犯罪を実行する目的で使用されるとの意図をもってなれる,コンピュータ・システムの全部又は一部がアクセスされるようにするコンピュータ・パスワード,アクセス・コード又はこれに類するデータ;及び

b. 第2条ないし第5条で設けられるいずれかの犯罪を実行する目的で使用されるとの意図をもってなれる,上記(a)(1)又は(2)に示す物件の保有。締約国は,法律によって,保有される当該物件の数を,刑事責任を負わせるための要件とすることができる。締約国は,刑事責任を負わせるために,法律によって,保有されるべき物件の数を要件とすることができる。

2. 本条は,本条第1項に示す製造行為,販売行為,使用のための調達行為,輸入行為,配布行為又はその他利用可能にする行為又は保有行為が,コンピュータ・システムの権限に基づく試験又は保護のためになされる場合のように,本条約 第2条ないし第5条により設けられる犯罪を実行するためになされるのではない場合には,刑事責任を課すものとして解釈してはならない。

3. 締約国は,その留保が,第1項(a)(2)に示す物件の販売行為,配布行為又はその他利用可能にする行為に関するものでない限り,本条第1項を適用しない権利を留保することができる。

 

2款 コンピュータ関連犯罪

 

7条 コンピュータ関連偽造

 締約国は,当該データが直接に閲読及び認識可能なものであると否とを問わず,そのデータが,法律上の目的において真正なものとみなされ又は作用することを意図して,意図的に,権利なく,コンピュータ・データの入力改変消去,又は抑制をし,その結果として,真正でないデータをもたらした場合において,各締約国の国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。締約国は,詐取の意図又はこれに類する不誠実な意図を,刑事責任を負わせるための要件とすることができる。

8条 コンピュータ関連詐欺

 締約国は,権利なく,自己又は他人のために経済上の利益を得るという詐取の意図又はこれに類する不誠実な意図で

a. コンピュータ・データの入力,改変,消去又は抑制

b. コンピュータ・システムの機能に対する妨害

によって,他人に対し,財産的な損失を発生させた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

 

3款 コンテント関連犯罪

 

9条 児童ポルノグラフィ関連犯罪

1. 締約国は,意図的に,権利なく,以下の行為がなされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

a. コンピュータ・システムを通じて頒布する目的で,,児童ポルノグラフィを製造すること

b. コンピュータ・システムを通じて児童ポルノグラフィを提供し又は利用可能にすること

c. コンピュータ・システムを通じて児童ポルノグラフィを頒布又は伝送すること

d. 自己又は他人のために,コンピュータ・システムを通じて児童ポルノグラフィを入手すること

e. コンピュータ・システム内又はコンピュータ・データ記憶媒体上に児童ポルノグラフィを保有すること

2. 上記第1項においては,「児童ポルノグラフィ」は,以下のものを視覚的に描写するポルノ・マテリアル を含むものとしなければならない。

a. あからさまな性行為を行っている未成年者;

b. あからさまな性行為を行っている未成年者であるように見える人物;

c. 未成年者があからさまな性行為を行っているように表現する写実的な画像

3. 上記第2項においては,「未成年者」の定義は,18歳未満の全ての者を含むべきものとしなければならない。ただし,締約国は,より低い年齢制限を設けることができるが,16歳よりも低いものとすることはできない。

4. 締約国は,第1(d)及び第1項(e)並びに第2(b)及び第2(c)の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。

 

4款 著作権及び関連諸権利の侵害に関連する犯罪

 

10条 著作権及び関連諸権利の侵害に関連する犯罪

1. 締約国は,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に基づく1971724日パリ条約,知的財産権の商取引に関連した側面に関する合意及びWIPO著作権条約において約束した義務に従う当該締約国の法律で定義された著作権の侵害行為について,これらの条約によって付与された人格権を除き,その侵害が,故意に,商業的規模で,コンピュータ・システムという手段によって実行された場合,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 締約国は,ローマで締結された実演家,レコード製作者及び放送機関の保護のための国際条約(ローマ条約),知的財産権の商取引に関連した側面に関する合意及びWIPOの実演及びレコード条約において約束した義務に従う当該締約国の法律で定義された関連諸権利の侵害行為について,これらの条約によって付与された人格権を除き,その侵害が,故意に,商業的規模で,コンピュータ・システムという手段によって実行された場合,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 締約国は,他の有効な救済手段が利用可能であり,かつ,その留保が本条第1項及び第2項に示す国際文書中に規定する当該締約国の国際的義務から逸脱しない場合に限り,限定的な状況において,本条の第1項及び第2項に基づく刑事責任を課さない権利を留保することができる。

 

5 付随的責任及び制裁

 

11条 未遂及び幇助又は教唆

1. 締約国は,本条約2条ないし第10条により設けられる犯罪行為の幇助行為又は教唆行為が,意図的に実行された場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 締約国は,本条約の3条ないし第5条,第7条,第8条,第91(a)及び第91(c)により設けられる犯罪行為の試みが,意図的になされた場合において,その国内法上で刑事犯罪行為として処罰するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

12条 法人の責任

1. 締約国は,私的に又は法人組織の一部として行動する自然人であって,

a. その法人を代表する権限;

b. その法人に代わって意思決定をする権限;

c. その法人内での管理を実施する権限

のいずれかに基づいて,当該法人内の指導的な地位にある者により,法人の利益のために,本条約により設けられる犯罪行為が実行された場合において,当該行為の責任を当該法人に負わせることを確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 第1項で既に規定する場合を除き,締約国は,自然人により,その権限に基づいて,法人の利益のために,本条約により設けられる犯罪行為が実行された場合において,第1項で規定する自然人による監督又は管理の欠如によりそれが可能となった場合には,当該法人に責任を負わせることを確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 締約国の法律上の諸原則に従い,法人の責任は,刑事責任,民事責任又は行政上の責任とすることができる。

4. この責任は,その犯罪行為を実行した自然人の刑事責任を阻却するものではない。

13条 制裁及び措置

1. 締約国は,第2条ないし第11条により設けられる犯罪行為が,効果的で均衡し,かつ,抑止効果のある制裁によって処罰され得ることを確保するために必要な措置を採らなければならない。それは,自由の剥奪を含むものでなければならない

2. 締約国は,第12条により有責とされた法人が,効果的で均衡し,かつ,抑止効果のある刑事上又は刑事上以外の制裁又は措置(金銭的な制裁を含む。)を課されることを確保しなければならない。

 

2節 手続条項

 

1款 共通規定

 

14条 手続条項の適用範囲

1. 締約国は,特定の犯罪捜査又は刑事手続のために本節において規定する権限及び手続を設けるために,必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 第21条で特に別段の定めをする場合を除き,締約国は,

a. 本条約第2条ないし第11条により設けられる刑事犯罪;

b. コンピュータ・システムという手段によって実行されるその他の刑事犯罪;及び,

c. 犯罪行為の電子的な形式による証拠の収集

について,第1項で規定する権限及び手続を適用しなければならない。

3. 

a. 締約国は,その犯罪の範囲又は種類が,第21条に示す措置を適用する犯罪の範囲よりも狭く限定されていない限りにおいて,その留保中で指定される犯罪又は犯罪分類に限定して,第20条に示す措置を適用する権利を留保することができる。締約国は,第20条に示す措置を最も幅広く適用することができるようにするため,留保抑制するように配慮しなければならない。

b. 本条約の採択の時点で有効な自国の法律上の制限に従うと,第20条及び第21条に示す措置を,

i. 閉鎖的なユーザ・グループの利益のために運用されているシステム,及び,

ii. 公共ネットワークとして稼動しておらず,かつ,公共的なものと私的なものを含む他のコンピュータ・システムに接続されていないシステム

を有するサービス・プロバイダのコンピュータ・システム内で伝送される通信に対し適用できない場合には,締約国は,そのような通信に対しこれらの措置を適用しない権利を留保することができる。締約国は,第20条に示す措置を最も幅広く適用することができるようにするため,留保抑制するように配慮しなければならない。

15条 条件及び保障条項

1. 締約国は,その国内法に基づいて決定される条件及び保障に従い,本節に規定する権限及び手続の制定,施行及び適用がなされることを確保しなければならない。それは,人権及び基本的自由の保護に関する1950年欧州評議会条約,市民的権利及び政治的権利に関する1966年国際連合規約,その他の適用可能な国際人権条約の基づいて負っている義務に従い生ずる権利を含め,人権及び自由の適切な保護を規定するものでなければならず,かつ,比例原則を含むものでなければならない。

2. この条件及び保障は,関連する権限又は手続の性質をしかるべく考慮するものでなければならない。これは,とりわけ,司法機関又はその他の独立機関による監督適用を正当化する根拠,並びに,このような権限及び手続の適用範囲及び有効期限についての制限を含むものとする。

3. 公共の利益と一致する限り,特に,司法の健全な運営と一致する限り,締約国は,本節の権限及び手続が第三者の権利,責任及び適法な利益に対する影響を考慮しなければならない。

 

2款 記憶されたコンピュータ・データの応急保全

 

16条 記憶されたコンピュータ・データの応急保全

1. 締約国は,自国の権限ある機関が,そのコンピュータ・データがとりわけ滅失又は改変され易いと信ずべき根拠がある場合には,コンピュータ・システムという手段で記憶されたトラフィック・データを含め,特定のコンピュータ・データについて,その応急保全を命令し,又はこれに類する方法によって入手することを可能とするために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2.  ある者が保有又は管理する特定の記憶されたコンピュータ・データを保全するよう命令するという手段によって,締約国が,上記第1項の規定を有効なものとする場合には,当該 締約国は,その者に対し,90日を上限とする必要な期間内,当該コンピュータ・データの完全性を保持又は維持することを命じ,必要に応じ,権限ある機関がそのコンピュータ・データの開示を求める ための適法な権限を得ることを可能にするために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。締約国は,当該命令を更新することができる。

3. 各締約国は,コンピュータ・データの保全を命ぜられた者に対し, その国内法で規定する期間内,そのような手続がとられていることの機密を保つことを義務付けるために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

4. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

17条 トラフィック・データの応急保全及び部分開示

1. 締約国は,第16条に基づいて保全されるべきトラフィック・データに関して,

a. 当該通信の伝送の中に含まれるサービス・プロバイダが 1つであるか2以上であるかにかかわらず,トラフィック・データのこのような応急保全が利用可能であることを確保すること;

b. 当該通信が伝送されたサービス・プロバイダ及び経路を ,締約国が特定できるようにするため,当該締約国の権限ある機関又はその機関から指定を受けた者に対して,十分な量のトラフィック・データの応急開示 がなされること

を確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

[訳注] 第2項は,Web版の原文では,第3項となっているが誤記と思われる。

 

3款 提出命令

 

18条 提出命令

1. 締約国は,自国の権限ある機関に対して以下の命令をする権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

a. 自国の領土内に所在する者に対する,当該の者が保有又は管理し,コンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体中に記憶されている特定のコンピュータ・データの提出;及び

b. 自国の領土内でサービスを提供するサービス・プロバイダに対する,当該サービス・プロバイダが保有又は管理し,当該サービスに関連する加入者情報の提出

2. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

3. 本条においては,「加入者情報」とは,コンピュータ・データという形式又はその他の形式で含まれるあらゆる情報であって,サービス・プロバイダによって保持され,プロバイダのサービス利用者に関連し,トラフィック・データ又はコンテント・データ以外のもので,それによって,

a. 使用される通信サービスのタイプ,そのために用 いられる技術設備及びサービスの期間;

b. サービス契約又は合意に基づいて利用できる利用者の身元,郵便の宛先又は地理的な住所,電話番号その他のアクセス番号,請求及び支払に関する情報;

c. サービス契約又は合意に基づいて利用できる通信機器の設置場所に関するその他の情報

を確定することができるものを意味する。

 

4款 記憶されたコンピュータ・データの捜索及び押収

 

19条 記憶されたコンピュータ・データの捜索及び押収

1. 締約国は,自国の権限ある機関に対し, 自国の領土内において,

a. コンピュータ・システム又はその一部及びその中に記憶されたコンピュータ・データ ;並びに,

b. コンピュータ・データを記憶することができるコンピュータ・データ記憶媒体

を捜索し,又は捜索に類するアクセスをする権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 締約国は, 自国の権限ある機関が,第1(a)に従って ,特定のコンピュータ・システム又はその一部を捜索し又は捜索に類するアクセスをする場合であり,かつ,捜索するデータが,自国の領土内にある他のコンピュータ・システム又はその一部の中に記憶されていると信ず べき根拠を有しており,かつ,当該データに対して当初のシステムから合法的にアクセスすることが可能であるか,当初のシステムで利用可能である場合において,当該機関が当該他のシステムに対しても捜索又は捜索に類するアクセスを応急的に拡大することができることを確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 締約国は,自国の権限ある機関に対し,第1項又は第2項に従ってアクセスしたコンピュータ・データを押収 し又は押収に類する確保をする権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。これらの措置は,以下の権限を含むものでなければならない。

a. コンピュータ・システム又はその一部又はコンピュータ・データ記憶媒体の押収又は押収に類する確保;

b. 当該コンピュータ・データの複製の作成及び保持;

c. 関連する記憶されたコンピュータ・データの完全性の維持;並びに,

d. アクセスされたコンピュータ・システム中の当該コンピュータ・データにアクセスできなくすること又はその消去

4. 締約国は,自国の権限ある機関に対して,コンピュータ・システムの機能に関する知識又はその中に含まれるコンピュータ・データを保護するために適用される手段に関する知識を有する者に対し,第1項及び第2項に規定する措置をとることを可能にするため,合理的な範囲内で,必要な情報を提供させる命令を発する権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

5. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

 

5款 コンピュータ・データのリアルタイム収集

 

20条 トラフィック・データのリアルタイム収集

1. 締約国は, 自国の権限ある機関に対し,自国の領土内においてコンピュータ・システムという手段によって伝送される特定の通信と関連するトラフィック・データを,リアルタイムで,

a. 当該締約国の領土内で ,技術的手段を介して,収集又は記録し,並びに,

b. 現存の技術的能力の範囲内で,サービス・プロバイダに対し,

i. 当該加盟国の領土内で技術的手段を使用することによって,収集又は記録 させ,又は

ii. 収集及び記録に際し,権限ある機関に協力・援助させる

権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 当該 締約国は,自国の国内法体系において確立された諸原則を遵守すると,第1(a)に 示す措置を採用することができない場合には,これに代えて,自国の領土内で,技術的手段の適用を介して,特定の通信と関連するトラフィック・データのリアルタイムの収集 又は記録を確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 締約国は,サービス・プロバイダに対し,本条に規定する権限が行使されていることについての事実及び情報に関し,機密保持を義務づけるために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

4. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

21条 コンテント・データの傍受

1. 締約国は,国内法によって規定される重大犯罪の範囲内で, 自国の権限ある機関に対し,自国の領土内においてコンピュータ・システムという手段によって伝送される特定の通信と関連するコンテント・データを,リアルタイムで,

a. 自国の領土内で,技術的手段を使用することによって収集又は記録し,並びに,

b. 現存の技術的能力の範囲内で,サービス・プロバイダに対し,

i. 当該締約国の領土内で,技術的手段を介して,収集又は記録させ,又は

ii. 収集及び記録に際し,権限ある機関に協力・援助させる

権限を付与するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

2. 当該 締約国は,自国の国内法体系において確立された諸原則を遵守すると,第1(a)に 示す措置を採用することができない場合には,これに代えて,自国の領土内で,技術的手段の適用を介して,特定の通信 と関連するコンテント・データのリアルタイムの収集又は記録を確保するために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

3. 締約国は,サービス・プロバイダに対し,本条に規定する権限が行使されていることについての事実及び情報に関し,機密保持を義務づけるために必要となり得る立法及びその他の措置を採らなければならない。

4. 本条に規定する権限及び手続は,第14条及び第15条に従わなければならない。

 


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Published on the Web : Oct/15/2001

Error Corrected and Updated : Apr/13/2004