韓国の「1999年電子商取引基本法」

(仮訳)

翻訳:近藤佐保子

監修:夏井高人


これは,大韓民国の電子商取引基本法(法律第5834号:1999年2月8日制定)の仮訳です。誤訳もあるかもしれません。ご注意ください。

なお,この法律のオリジナル・テキストは,

http://www.moleg.go.kr/

で入手することができます(ハングルによるキーワード検索)。


第1章 総 則

第1条(目的)

 本法は,電子文書によって行われる取引の法的効力を明確にし,安全性及び信頼性の確保並びに取引の公正を期して健全な取引秩序を確立し,電子商取引を促進して,国民経済の発展に寄与することを目的とする。

第2条(定義)

本法で使用される用語の定義は以下のとおりである。

1.「電子文書」とは,コンピュータ等の情報処理能力を持つ装置(以下「コンピュータ等」という。)により電子的形態で作成され,送受信または保存させる情報をいう。

2.「作成者」とは,直接にまたは代理人を通じて,電子文書を作成し伝送する者をいう。

3.「受信者」とは,作成者が電子文書を伝送する相手方をいう。

4.「電子商取引」とは,財貨や役務の取引において,その全部または一部が電子文書によって処理される取引をいう。

5.「電子署名」とは,電子文書を作成した作成者が誰であるか及び当該電子文書がその作成者によって作成されたことを示す電子的形態の署名をいう。

6.「サイバーモール」とは,コンピュータ等と情報通信設備を利用して財貨または役務を取引できるようにするために設定された仮想の営業場所をいう。

7.「認証機関」とは,申請に基づき,電子署名の使用者の身元確認その他の関連業務を取り扱うものをいう。

8.「公認認証機関」とは,第16条の規定により指定を受けた認証機関をいう。

第3条(適用範囲)

本法は,電子文書によってなされるすべての取引に適用する。

第4条(電子商取引当事者の約定による変更)

 第9条から第12条までの規定は,他の法令に特別な規定がある場合を除き,作成者及び受信者間の約定によって作成者を変更することができる。

第2章 電子文書

第5条(電子文書の効力)

 電子文書は,他の法律に特別な規定がある場合を除き,電子的形態であるという理由で文書としての効力を否認されることはない。

第6条(電子署名の効力)

第1項

 第16条の規定による公認認証機関が認証した電子署名は,他の法律にその効力を否認する規定がある場合を除き,関係する法律が定めた署名または捺印とみなす。

第2項

 第1項の規定による電子署名がある電子文書は,作成者が署名をした後,その内容が変更されていないものと推定される。

第7条(電子文書の証拠能力)

 電子文書は,裁判その他の法的手続きにおいて,電子的形態であることを理由に,その証拠能力を否認されることはない。

第8条(電子文書の保管)

第1項

 電子文書が次の各号の要件を満たす場合には,その電子文書の保管をもって,関係する法律が定める文書の保管に替えることができる。

1.電子文書の内容を閲覧することができること。

2.電子文書が作成及び送受信された時の形態で,またはそれと同様に再現され得る形態で保存されていること。

3.電子文書の作成者,受信者及び送受信に関する日時に関する事項が含まれている場合には,その部分が保存されていること。

第2項

 電子文書の送信または受信のみに必要な部分に関しては,第1項の規定を適用するに際し,これを電子文書とみなさないことができる。

第9条(送受信の時期ならびに場所)

第1項

 電子文書は,作成者以外の者または作成者の代理人以外の者が管理するコンピュータ等に入力される時点で送信されたものとする。

第2項

 電子文書は、次の各号の一に該当する時点で受信されたものとする。

1.受信者が電子文書を受信するコンピュータ等を指定した場合には,指定されたコンピュータなどに入力された時。但し,指定されたコンピュータ等ではないコンピュータ等に入力された場合には,受信者がこれを出力した時をいう。

2.受信者が電子文書を受信するコンピュータ等を指定しない場合には,受信者が管理するコンピュータ等に入力された時。

第3項

 電子文書が作成者と受信者がそれぞれの営業場所の所在地で送受信したものとされ,営業場所が2箇所以上の場合には,当該電子商取引と最も関係が多い営業場所の所在地で送受信されたものとする。但し,作成者または受信者が営業場所を有しない場合には,その主たる居住地で送受信されたものとする。

第10条(作成者が送信したとみなされる場合

 作成者の代理人または作成者にかわって自動的に電子文書を送受信するように構成されたコンピュータ・プログラムその他の電子的手段によって送信された電子文書は,作成者が送信したものとみなす。但し,以下の各号の一に該当する場合にはこの限りでない。

1.受信者が,当該電子文書の受信と同時または相当な期間内に,作成者の意思に反してその電子文書が送信された旨の通知を受けた場合。

2.受信者が所定の確認手続きに従うかまたは相当な注意を払えば,電子文書が作成者の意思に反して送信されたことを知り得た場合。

第11条(受信した電子文書の独立性)

 受信した電子文書は,各文書ごとに独立したものとされる。但し,受信者が所定の確認手続きに従うか,または、相当な注意を払えば同一の電子文書が反復して送信されたことを知り得た場合には,この限りでない。

第12条(受信確認)

第1項

 作成者が受信者に送信した電子文書に対して受信確認通知を要求しておきながら通知方法を指定しなかった場合には,受信者は作成者が十分に知りうる方法により、その受信の事実を通知しなければならない。

第2項

 作成者が受信確認を効力の発生条件として電子文書を送信した場合には,受信確認通知が作成者に到達するまでの間は,その電子文書が送信されなかったものとみなす。

第3項

 作成者が受信確認を効力の発生条件とは明示せずに受信確認通知を要求した場合において,相当な期間(作成者が指定した期間または当事者が約定した期間がある場合にはその期間とする。)内に作成者が受信確認通知を受信できない時には,その電子文書の送信を撤回することができる。

第3章 電子商取引の安全

第13条(個人情報の保護など)

第1項

 以下の各号の一に該当する者(以下「電子商取引当事者等」という。)は,その電子商取引または役務提供と関連して,個人情報を収集する場合には,その目的を本人に明示しなければならない。

1.電子商取引の当事者

2.認証期間

3.情報通信設備またはコンピュータ等の利用に関する役務を提供する者

第2項

 電子商取引当事者等は,本人の同意がある場合または他の法律に特別な規定がある場合を除き,電子商取引によって収集された情報を,収集目的以外の用途に使用しまたは第三者に提供してはならない。但し,財貨または役務の配達を依頼する者に対して配達に必要な情報を提供する場合は,この限りでない。

第3項

 電子商取引当事者等は,処理,伝送または保管された情報に対する不正アクセス,不正利用または情報の流出を防止し得るように安全対策を施しておかなければならない。

第4項

 電子商取引当事者等は,自らが管理している個人情報に対して本人が閲覧を要求した場合には,遅滞無くその要求に応じなければならず,かつ,誤った情報に対して証憑資料を提示してその訂正または削除を要求した場合には,迅速に必要な措置を取らなければならない。

第14条(コンピュータ等の安全性)

第1項

 電子商取引当事者等は,電子商取引に使用するコンピュータ等の安全性を確保するために,必要な保護措置を取らなければならない。

第2項

 電子商取引当事者等は,コンピュータの運用を他人に委託する場合には,安全性を十分に確保できる者を受託者としなければならない。この場合,受託者の過失によって障害が発生した時には,電子商取引当事者等は,これを相手方に告知し,迅速にその障害を除去しなければならない。

第15条(サイバーモールの運営者)

第1項

 サイバーモールの運営者は,サイバーモールの運営・管理に必要な施設を備えなければならない。

第2項

 サイバーモールには,その運営の商号(法人の場合には代表者の氏名を含む。)・住所・電話番号等を利用者が容易に知り得るように表示しなければならない。

第16条(公認認証機関)

第1項

 政府は,電子商取引の安全性及び信頼性を確保し,健全な電子商取引の促進のために,電子署名法第4条の規定に従い,公認認証機関を指定することができる。

第2項

 公認認証機関は,電子文書作成者の身元その他取引に関連する重要事項を確認するために,認証を行う。

第17条(公認認証機関の管理)

 政府は,電子商取引の利用者を保護し,電子商取引を促進するために,公認認証機関の業務に関して必要な施策を検討しなければならない。

第18条(暗号製品の使用など)

第1項

 電子商取引当事者等は,電子商取引の安全性及び信頼性を確保するために,暗号製品を使用することができる。

第2項

 政府は,国家の安全保障等のために必要であると認めた場合には,暗号製品の使用を制限することができ,暗号化された情報の原文または暗号技術へのアクセスに必要な措置をとることができる。

第4章 電子商取引の促進

第19条(電子商取引の促進のための施策の樹立)

 政府は,電子商取引の促進のために,民間主導による促進,政府規制の最小化,電子商取引の信頼性の確保,電子商取引分野の国際協力強化等の原則に従い,必要な施策を整えなければならない。

第20条(電子商取引促進計画の樹立・施行)

第1項

 政府は,電子商取引を促進するために以下の各号の事項を含む計画(以下「電子商取引促進計画」という。)を策定・施行しなければならない。

1.電子商取引促進施策の基本方向

2.電子商取引に関連する国際規範に関する事項

3.電子決済制度に関する事項

4.知的所有権の保護に関する事項

5.消費者保護,個人情報保護,紛争調停など電子商取引当事者等の権利保護に関する事項

6.電子署名,認証,暗号化など,電子商取引の安全性及び信頼性の確保に関する事項

7.電子商取引に関する技術の開発及び標準化に関する事項

8.電子商取引の促進に必要な環境形成及び需要創出に関する事項

9.電子商取引に関連した国際協力に関する事項

10.電子商取引の促進に必要な基盤形成の資源に関する事項

11.超高速情報通信網の構築及び利用促進に関する事項

12.その他,電子商取引の促進のために必要な事項

第2項

 関係中央機関の長は,第1項の各号の事項に関する所管別の部門計画を策定し,主用政策の策定とその執行において,これを考慮しなければならない。

第3項

 産業資源部長官が電子商取引促進計画を策定するにあたっては,関係中央行政機関別の部門計画を総合し,第21条の規定による電子商取引政策協議会の審議を経て,情報化促進基本法第8条の規定による情報化推進委員会においてこれを確定する。

第21条(電子商取引政策協議会)

第1項

 電子商取引の促進に関する事項を審議するために,電子商取引政策協議会(以下「協議会」という。)を置く。

第2項

 協議会は,以下の各号につき審議する。

1.電子商取引促進計画に関する事項

2.電子商取引促進計画の推進実績の評価に関する事項

3.電子商取引を促進するための政策や関係中央行政機関の事業の調整に関する事項

4.その他,電子商取引を促進するための主要政策事項として委員長が附議した事項

第3項

 協議会の構成及び運営などに関して必要な事項は,大統領令で定める。

第22条(韓国電子商取引振興院)

第1項

 電子商取引の促進のための事業を効率的・体系的に促進するために,韓国電子商取引振興院(以下「振興院」という。)を置く。

第2項

 振興院は,法人とし,主たる事務所の所在地で登記することによって成立する。

第3項

 振興院は,電子商取引に関する以下の各号の業務を行う。

1.国内外の調査研究及び出版・広報・振興事業

2.制度の研究及び環境形成事業

3.標準の研究開発及び普及事業

4.技術開発支援事業

5.国際標準化会議への参加及び国際交流・協力事業

6.第23条第2項の規定による韓国電子文書交換委員会の事務処理

7.その他,関係中央行政機関の長等の委託する事業

第4項

 電子商取引当事者等は,振興院の事業の遂行に必要な経費に充当するために,振興院に出資することができる。

第5項

 振興院は,大統領令が定めるところに従い,振興院が開発した標準の使用者から使用料を徴集することができる。

第6項

 振興院に関しては,本法に規定めるところを除き,民法の財団法人の規定を準用する。

第23条(電子商取引の標準化)

第1項

 政府は,電子商取引を促進し,関連技術の互換性を確保するために,関係法令に従い以下の各号の事項を推進しなければならない。

1.電子文書に関する標準の制定・改正・廃止及び普及

2.電子商取引と関連する国内外の標準の調査・研究・開発

3.その他,電子商取引の標準化に関して必要な事項

第2項

 第1項第1号の規定による電子文書の標準に関する事項を調査・審議するために,大統領令が定めるところに従い,韓国電子文書交換委員会を設置する。

第3項

 政府は,第1項各号の事項を効率的に推進するために必要な場合は,関連する研究機関及び民間団体に代行させることができる。この場合においては,大統領令が定めるところに従い,必要とされる費用を支援することができる。

第24条(技術開発の推進)

 政府は電子商取引の促進に必要な技術の開発と技術水準の向上のために,関係法令に従い,以下の各号の事項を推進しなければならない。

1.電子商取引に関する技術水準の調査,技術の研究開発,開発した技術の実用化に関する事項

2.電子商取引に関する技術協力及び技術移転に関する事項

3.電子商取引に関する技術情報の円滑な流通に関する事項

4.その他,電子商取引に関する技術開発と関連して必要な事項

第25条(電子商取引に関する国際協力の促進)

 政府は,電子商取引に関する国際協力を促進するために,関連する技術的・人的な国際交流,国際標準化,国際共同研究開発等の事業を支援することができる。

第26条(電子商取引支援センター)

第1項

 産業資源部長官は,電子商取引を促進するために電子商取引と関連する教育訓練,技術指導,情報提供などを支援する事業を遂行する機関を,電子商取引支援センター(以下「支援センター」という。)として指定することができる。

第2項

 政府は,支援センターに対し,電子商取引に関する事業に必要な経費の全部または一部を,予算の範囲内で支援することができる。

第3項

 支援センターの指定及び指定の取消の基準,経費支援等に関し必要な事項は大統領令によって定める。

第27条(電子商取引に関系する法人・団体に対する支援)

第1項

 政府は,電子商取引の促進を目的として設立した法人または団体が,電子商取引促進計画によって電子商取引の促進に必要な基盤造成事業を実施する場合,予算の範囲内において,当該事業費の一部を支援することができる。

第2項

 国及び地方自治体は,電子商取引の促進のために,租税特例制限法・地方税法その他,租税関系の法律が定めるところに従い,租税の減免などの税制上の支援をすることができる。

第28条(電子商取引に関する紛争の調停)

 政府は,電子商取引による被害を救済し公正な電子商取引の慣行を定着させるために,紛争調停機関の設置・運営その他電子商取引に関する紛争の調停に必要な施策を検討しなければならない。

第5章 消費者の保護

第29条(消費者保護の義務)

 政府は,消費者保護法などの関係法令の規定に従い,電子商取引に関連する消費者の基本権益を保護するために必要な施策を整えなければならない。

第30条(消費者への情報提供など)

第1項

 政府は,消費者に対し,消費者の利害に関連する電子商取引についての主要な施策及び主要な決定事項等を周知しなければならない。

第2項

 電子商取引当事者等及びサイバーモール運営者等は,消費者保護団体から消費者保護業務の推進に必要な資料の提供の要求があった場合には,積極的に協力しなければならない。

第31条(消費者被害の救済)

第1項

 政府は電子商取引に関連する消費者の不満ならびに被害を迅速かつ構成に処理し得るよう,必要な措置を整えなければならない。

第2項

 消費者保護法第12条第2項の規定による消費者被害補償基準は電子商取引にこれを適用する。

第32条(被害補償機構の設置)

 電子商取引当事者等及びサイバーモール運営者等は,電子商取引に関連して消費者が提起する正当な意見や不満を反映して,その被害を被害補償処理する適切な機関を設置・運営しなければならない。

第6章 補 則

第33条(権限の委任・委託)

 本法による産業資源部長官の権限は,大統領令が定めるところにより,その一部を所属機関の長もしくは地方自治体の長に委任し,または,関係中央行政機関の長に委託することができる。

第34条(相互主義)

 外国人及び外国法人は,本法または大韓民国が加入もしくは締結した条約に従い保護される。但し,大韓民国国民ならびに大韓民国法人に対して本法に準じた保護をしない国家の外国人及び外国法人に対しては,それに相応して,本法または大韓民国が加入もしくは締結した条約に従い,外国人に対する保護を制限することができる。


附  則

第1条(施行日)

本法は1999年7月1日から施行する。

第2条(財団法人韓国電子商取引標準院に関する経過措置)

第1項

 本法の施行時において,民法第32条の規定により設立された財団法人韓国電子商取引標準院(以下「標準院」という。)は,理事会の議決を経て,第22条第1項の規定により設立される振興院が標準院のすべての権利義務を承継し得るよう,産業資源部長官に大使,これに関する承認を申請することができる。

第2項

 第1項の規定に基づく申請によって承認を得た標準院は,本法による振興院の設立と同時に,民法の法人の解散ならびに清算に関する規定に拘わらず解散したものとし,標準院に属していたあらゆる権利義務は本法によって設立された振興院がこれを承継する。

第3条(電子文書の標準に関する経過措置)

 本法の施行の時において,産業技術基盤造成に関する法律第7条第6項の規定による韓国産業情報電子文書交換委員会が審議・制定した電子文書に関する標準は,第23条第2項の規定による韓国電子文書交換委員会が審議・制定したものとみなす。

第4条(電子商取引支援センターの指定に関する経過措置)

 本法の施行の時において,産業技術基盤造成に関する法律第7条の2の規定に基づいて電子商取引支援センターとして指定を受けた機関は,第26条第1項の規定によって支援センターとして指定されたものとみなす。

第5条(他の法律の改正)

 産業技術基盤造成に関する法律を以下のとおり改正する。

 第2条第5号・第7条第6項ならびに第7条の2を削除する。


Copyright (C) 2001 Sahoko KONDO and Takato NATSUI, All rights reserved.

Published on the Web : Feb/19/2001

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