デジタル世紀著作権拡張法案
(仮訳)
(1998/05/20改訂版)
翻訳:夏井高人
これは,アメリカ合衆国の著作権法の一部改正法案である「デジタル世紀著作権拡張法案」[H.R.3048]を大急ぎで仮訳したものです。誤訳もあるかもしれません。この点,ご注意ください。
この仮訳は,1997年11月に下院に提出された当初の法案の仮訳です。
なお,この法案のオリジナル・テキストは,
http://thomas.loc.gov/home/c105query.html
でキーワード検索(キーワード:digital copyright)することにより入手することができます。
第105議会第1セッション
H.R.3048
21世紀における著作権法を更新し,バランスを維持するための,遠隔学習を通じて教育の機会を増進するための,WIPO著作権条約 (World Intellectual Property Organization Copyright Treaty) 並びにWIPO実演及び音楽レコード条約 (World Intellectual Property Organization Performances and Phonograms Treaty) を実施することその他の目的のための法案 (BILL)
Section 1 Short Title 略 称
この法律は,「デジタル世紀著作権拡張法 (Digital Era Copyright Enhancement Act)」として引用することができる。
Section 2 FAIR USE フェア・ユース
a) 合衆国法典 (United States Code)タイトル17の107条の第1文は,「本条で規定するその他の手段によって」の次に「並びにアナログ送信もしくはデジタル送信によって」を挿入して改正される。
b) 合衆国法典 (United States Code)タイトル17の107条は,同条の末尾に次の文を付加して改正される。
「フェア・ユースの判断をするに際しては,次の各事項の重さを考慮してはならない。
(1) 当該著作物が,その著作権者の許諾の下で実施され,表示され,または,配付される手段;あるいは,
(2) 当該著作物に対する(1021条(c)項で規定する)有効な技術手段(effective technological measure)の適用」
Section 3 Liberty/Archive Exemption 図書館・公文書館の免除
合衆国法典 (United States Code)タイトル17の108条は,次のとおりに改正される。
(1) (a)項の始めの「にかかわらず(Notwithstanding)」を削除し,「他に規定がある場合を除き,〜に拘わらず(Except as otherwise provided and notwithstanding)」を挿入する。
(2) 「(a)項(3)号の著作権」の後に「本条の規定に基づいて複製されたコピー(copy)または音楽レコード(phonorecord)上に当該告知(notice)が表示されているときは,」を挿入する。
(3) (b)項において,
(a) 「1のコピーまたは音楽レコード」を削除し,その代わりに「3のコピーまたは音楽レコード」を挿入する。
(b) 「ファクシミリ形式で」を削除する。
(4) (c)項において,
(a) 「1のコピーまたは音楽レコード」を削除し,その代わりに「3のコピーまたは音楽レコード」を挿入する。
(b) 「ファクシミリ形式で」を削除する。
(c) 「剽窃された」の後に「剽窃にかかる存在形式が陳腐なものとなっているときは,」を挿入する。
Section 4 First Sale ファースト・セール
合衆国法典 (United States Code)タイトル17の109条は,その末尾に次の新しい項を追加て改正される。
「 (f) (a)項に規定する利用権は,本タイトルの下に適法にデジタル形式で作成された特定のコピーもしくは音楽レコードの保有者または当該保有者から権限を与えられた者が,著作物を,1人の受領者に対する送信という手段によって実演,表示もしくは配付する場合において,その者が実質的に同時に当該コピーまたは音楽レコードを削除または破棄するのであれば,適用される。当該著作物の実演,表示,配付に必要な範囲内の複製は,権利侵害(infringement)ではない。」
Section 5 Distance Learning 遠隔学習
(a) タイトルの変更−合衆国法典 (United States Code)タイトル17の110条 のタイトルは,次のとおりに読み替えて改正される。
「110条 排他的な権利の制限:一定の行為の例外」
(b) 著作物の実演,表示,配付−合衆国法典 (United States Code)タイトル17の110条(2)は,次のとおりに読み替えて改正される。
「(2) 次のいずれかの場合における,アナログもしくはデジタル送信の手段による著作物の実演,表示,配付
(A) 政府組織もしくは非営利の教育機関の組織的な教育活動における通常の部分としての実演,表示,配付
(B) 送信教育コンテンツに直接関連し,または,その物質的補助としての実演,表示,配付
(C) 著作物の受領者が次のいずれかである場合
(i) それが提供されるコースに正規登録された学生
(ii) 公的義務もしくは公的労働に従事する者としての公務員または政府機関の労働者」
(c) 著作物の一時的記録(Ephemeral Recordings of Works)−合衆国法典 (United States Code)タイトル17の112条(b)項は,「の実演または表示の送信」を削除し,その代わりに「実演,表示,配付」を挿入して改正される。
Section 6 Limitations on Exclusive Rights 排他的な権利の制限
(a) タイトル−合衆国法典 (United States Code)タイトル17の117条のタイトルは,次のとおりに読み替えて改正される。
「排他的な権利の制限:コンピュータ・プログラム及びデジタル・コピー」
(b) デジタル・コピー(Digital Copy)−合衆国法典 (United States Code)タイトル17の117条は,「に拘わらず(Notwithstanding)」の前に「(a)」を挿入し,次の新しい(b)項を挿入して改正される。
「(b) 106条の規定に拘わらず,当該複製が次の場合に該当するときは,デジタル形式による複製(copy)は,権利侵害(infringement)ではない。
(1) 本タイトルの下に適法とされる場合以外において,著作物の使用に際してなされる装置の操作のうち重要ではないものであり,かつ,
(2) 著作物の標準的な利用と矛盾せず,かつ,著作者の正当な利益を不当に侵害するものではない場合」
Section 7 Preemption
合衆国法典 (United States Code)タイトル17の301条(a)項は,その末尾に次のとおり加入して改正される。
「著作物が交渉不可能な許諾条件に基づいて公衆に配付される場合に,当該許諾条件は,次のいずれかの範囲内において,コモン・ロー(Common Law)及び制定法(statutes)の下では効力を有しない。
(1) 102条(b)項その他の法律によって著作権を付与されていないマテリアルの,送信その他の方法による,複製,改作,配付,実演または表示
(2) 本タイトルの107条から114条並びに117条及び118条に規定される排他的権利の制限の廃止または限定」
Section 8 Copyright Protection and Management System 著作権保護管理システム
合衆国法典 (United States Code)タイトル17は,その末尾に次の新しい章を加入して改正される。
「第12章 著作権保護管理システム
条 項
1201 特定の技術的方法の迂回
1202 著作権管理情報の完全性
1203 民事救済
Section 1201 特定の技術的方法の迂回
(a) 迂回行為(Circumvention Conduct)
何人も,侵害行為(an act of infringement)を容易にしまたはこれに加担(engaging)する目的で,故意に,著作物の全部もしくは部分(portion)の複製を排除または制限するために著作権保有者によって用いられた有効な技術的措置(effective technological measure)の適用またはオペレーションを削除(remove)し,無効化(deactivate)し,または,その他の方法で迂回(circumvent)してはならない。
本条において用いるときは,「行為 (Conduct)」という用語は,装置またはコンピュータ・プログラムの製造,輸入及び配付を含まない。
(b) 他の章において規律される行為行為(Conduct Governed by Separate Chapter)
(a)項の規定に拘わらず,本条の規定は,本タイトルの他の章によって規律されるサービスの実行(conduct),提示(offer),実演(performance)については適用されない。
(c) 有効な技術的措置の定義 (Definition of effective technological measure)
本条において用いるときは,「有効な技術的措置 (effective technological measure)」という用語は,本タイトルの下で著作物の全部または一部につき著作権を保有する者の権利を保護するために,デジタル形式で送信された著作物またはその複製物の中に含まれているデータの変更であって,次のいずれかを意味する。
(1) 著作権保有者からの情報提供なしになされる当該著作物の全部または一部の暗号化またはスクランブル化,あるいは,
(2) 著作物の全部または一部の品質を劣化させないではそれを削除し得ないようなアクセス状態または記録状態(access or recording status)に関するアトリビュート(attributes)を含ませること
Section 1202 著作権管理情報の完全性
(a) 虚偽の著作権管理情報 (False Copyright Management Information)
何人も,侵害行為を誘発させ,これを容易にし,隠蔽する目的で,故意に,虚偽の著作権管理情報を提供し,あるいは,故意に,虚偽の著作権管理情報を公衆に配付し,または,配付の目的で輸入してはならない。
(b) 著作権管理情報の削除または変更 (Removal or Alternation of Copyright Management Information)
何人も,著作権保有者または他の法的権限を有する者からの許諾なしに,故意に,侵害行為をミス・リード(mislead)し,これを誘発させ,または,容易にする目的で,次の行為をしてはならない。
(1) 著作権保護情報を削除(remove)または改変(alter)すること
(2) 著作権保有者その他の法的権限を有する者からの許諾なしに改変された著作権管理情報を含む複製物または音楽レコードを公衆に配付し,または,配付の目的で輸入すること
(3) 著作権保有者その他の法的権限を有する者からの許諾なしに著作権管理情報が削除された複製物または音楽レコードを公衆に配付し,または,配付の目的で輸入すること
ただし,本項の行為は,装置の製造,輸入,配付を含まない。
(c) 著作権管理情報の定義 (Definition of Copyright Management Information)
本条で用いるときは,「著作権管理情報 (Copyright Management Information)」という用語は,デジタル形式のものを含め,コピーまたは音楽レコードの中に含められて移転するものとしての,もしくは,コピーまたは音楽レコードと随伴するデータとしての電子的形態による,次のとおりの情報を意味する。
(1) 著作権表示の中にある情報を含め,タイトルその他の著作物を識別するための情報
(2) 名前その他の著作物の作者を識別するための情報
(3) 著作権表示の中にある情報を含め,名前その他の著作物の保有者を識別するための情報
(4) 著作物使用の条件及び期間
(5) 当該情報を参照するための,または,当該情報へリンクするための,番号または記号の識別
(6) 著作権の登録 (Register of Copyrights) のような他の著作権識別情報については,規則によって定めることができる。
ただし,「著作権管理情報」という用語は,1002条,1201条(c)項,または,本タイトル中の第1章ないし第9章以外の章に規定する情報を含まない。さらに,プライバシーの保護を確保するため,「著作権管理情報」は,著作物の使用者の名前,アカウント,住所その他の連絡情報または著作物の使用者に関連する情報を含め(これらに限定されるわけではない。),著作物の使用者に関する個人識別情報を含まない。
Section 1203 民事救済
(a) 民事訴訟 (Civil Actions)
1201条(a)項または1202条の侵害による被害を受けた者は,当該侵害行為をした者を相手方として,適宜の合衆国連邦地方裁判所(United States district court )において民事訴訟を提起することができる。
(b) 裁判所の権限 (Powers of the Courts)
(a)項に基づく民事訴訟においては,裁判所は,
(1) 合理的と思料する期間内で当該侵害行為を禁止または制限するための暫定的または永久的な禁止命令(a temporary and a permanent injunction)を発することができる。
(2) 適切であると思料する他の衡平法上の救済措置(equitable relief)を講ずることができる。
(3) (c)項に基づいて損害賠償を命ずることができる。
(4) 合衆国 (United States) もしくはその公務員以外の当事者に対し,訴訟費用の弁償を命ずることができる。
(5) 勝訴当事者のために合理的な範囲内での弁護士費用の支払いを命ずることができる。
(c) 損害賠償 (Award of Dameges)
(1) 一般規定
裁判所が1201条(a)項または1202条の侵害が存在すると判断したときは,原告は,(2)号に基づいて算出される実質損害額または(3)号に定める法定損害額のいずれかを選択することができる。
(2) 実質損害額 (Actual Damages)
判決期日前に原告が法定損害額ではなく実質損害額を選択したときは,裁判所は,原告に対し,当該侵害行為によって被った実質的な損害額,侵害行為に関与した侵害者が得た利益で実質損害額の計算に入れられないものについて,損害賠償請求を認めることができる。
(3) 法定損害賠償額 (Statutory Damages)
(A) 判決期日前に原告が実質損害額ではなく法定損害額を選択したときは,裁判所は,原告に対し,1201条(a)項の侵害行為に対する損害賠償額として,250ドル以上2,500ドル以下の範囲内において,裁判所が適切と思料する額の損害賠償請求を認めることができる。
(B) 判決期日前に原告が実質損害額ではなく法定損害額を選択したときは,裁判所は,原告に対し,1202条の侵害行為に対する損害賠償額として,500ドル以上20,000ドル以下の範囲内において,裁判所が適切と思料する額の損害賠償請求を認めることができる。
(4) 再度の侵害行為 (Repeated Violations)
当該侵害者が別の機会の同種侵害行為による判決期日から3年以内に1201条(a)または1202条の侵害行為をしたものであると裁判所が判断したときは,裁判所は,(2)号または(3)号に基づく損害賠償額の2倍を超えない金額の範囲内で,裁判所が適切と思料する額まで損害賠償金額を増額することができる。
(5) 意図的でない侵害行為 (Innocent Violation)
被告が1201条(a)項または1202条の侵害行為となることを認識せず,もしくは,そのように信ずべき合理性を有していなかったことを証明し,裁判所がそのように判断した場合においては,裁判所は,(2)号または(3)号により認めることのできる損害賠償額の総額を軽減し,または,免除することができる。
Section 9 Conforming Amenndments
a) 合衆国法典 (United States Code)タイトル17の第1章の条項目次を次のとおり改正する。
(1) 110条に関連する項目を次のように読み替える。
「110 排他的な権利の制限:一定の行為の例外;」
(2) 117条に関連する項目を次のように読み替える。
「117 排他的な権利の制限:コンピュータ・プログラム及びデジタルコピー」
b) 合衆国法典 (United States Code) タイトル17の章目次を次のとおり改正する。
「著作権保護管理システム (Copyright Protection and Management Systems)
-- 1201」
Section 10 Effective Dates 発効日
a) 一般規定 − 本法の1条から7条までの規定及び9条(a)項の規定,並びに,本法の1条から7条までのの規定及び9条(a)項の規定により改正された規定は,本法の成立の日に発効する。
b) WIPO 条約 − 本法の8条及び9条(b)項の規定,並びに,本法の8条及び9条(b)項の規定により改正された規定は,世界知的所有権機関著作権条約 (World Intellectual Property Organization Copyright Treaty) ,世界知的所有権機関実演及び音楽レコード条約 (World Intellectual Property Organization Performances and Phonograms Treaty) の両方が合衆国においてその効力を発生させる日に発効する。
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最終更新日:May/20/1998