ドイツの「青少年に有害な図書の流布に関する法律一部改正法」

(仮訳)

翻訳:夏井高人


これは,1997年8月に施行されたドイツのいわゆる「マルチメディア法:情報通信サービスの枠組みとなる諸条件の規律に関する法律Gesetz zur Regelung der Rahmenbedingungen fur Informations- und Kommunikationsdienste」の中の一部分として,「テレサービス・データ保護法」及び「デジタル署名法」及び「テレサービス法」に付随して立法された他の法律の一部改正法のうち,「青少年に有害な図書の流布に関する法律改正法」の全文仮訳です。
非常に大急ぎで翻訳したので,誤訳もあるかもしれません。ご注意ください。また,条文理解の助けとなるように注記を付けました。この注記の部分の文責は,夏井にあります。

この法律のオリジナル・テキストは,

http://www.iid.de/rahmen/iukdgk.html

で入手することができます。このオリジナル・テキストは,ドイツ語で記載されていますので,ブラウザの表示フォントを欧文に設定して閲覧しないと文字化けを起こします。


1985712日に公布された青少年に対する有害図書の流布に関する法律(BGBl. I S. 1502)は,次のとおりに改正される。

 

1 法律の名称を「青少年に有害な図書その他のメディアの流布に関する法律」と改正する。

2 第1条第3項を以下のとおり改正する。

(3) オーディオ,ビデオ記憶メカニズム,データ記憶メカニズム,画像その他の表現は,文書と同様に扱われる。放送国家契約(Rundfunkstaatsvertrag)第2条に基づく放送は,この法律の意味における文書ではない。1997120日−27日のメディア・サービス国家契約(Mediendienste-Staatsvertrag)第2条に基づくコンテンツ提供及び接続サービスは,それが主として一般大衆の意見形成に重きを置いた編集物である限り,同様である。

[注記]
 ドイツは,ラント(州)が結合した連邦国家であり,連邦を構成する各ラントがそれぞれ各ラント内に適用される法律の固有の立法権を有している。したがって,すべてのラントに対して適用される連邦法の形式は,ドイツの憲法である「基本法」に定めがない限り,条約という形式をとることになる。このため,
Staatsvertragは,「条約」と翻訳されるのが通例である。しかし,このことは,連邦国家という国家形態を持たず,日本国の国会で成立した法律が各都道府県と日本国との間の契約や承認手続等がなくてもそのまま全国民に適用される日本の国民にとっては,なかなか理解し難いことだと思われる。そこで,ここでは,ドイツとドイツ以外の国(ラントを除く)との間の条約との混同を避けるため,Staatsvertragを「国家契約」と訳することにした。
なお,郵政省の翻訳では,「メカニズム」を「装置」と訳しているが,ここでいうメカニズムとは,機械装置だけではなく,ソフトウェア的なものも含む趣旨であるので,「メカニズム」のままにすることとした。

3 第3条を以下のとおり改正する。

(a) 第13号の最後のピリオドをコンマで置き換え,その後に次の第4号を追加する。

「4 電子的な情報サービスもしくは通信サービスによって,流布をし,もしくは接続可能にした場合」

(b) 第2項に次の文を追加する。

「ドイツ国内における提示または流布が成人のみに限定され得るような技術的措置が講じられている場合には,第1項第4号は適用されない。」

[注記]
 追加された第
2項は,青少年に有害なコンテンツについては,それが「成人向」であることを表示するだけでは足りず,青少年がそのコンテンツにアクセスできないように,技術的ないし電子的な仕組みを持っていなければ,電子情報システムを通じてそれを流布することができないことを規定している。

4 第5条第3項を以下のとおりに改正する。

「(3) 次のいずれかの場合には,第2項を適用しない。

1 関連する商取引の中でそれがなされる場合

2 技術的な方法その他の手段によって,青少年もしくは未成年者への流布またはこれらの者による閲覧が排除されている場合」

5 第7条の後に次の第7aを追加する。

「第7a 青少年保護官(Jugendschutzbeauftragte)

電子情報通信を基盤に持つような電子的な情報サービスもしくは通信サービスを業として利用しようとする者は,そのサービスが通常公衆に提供され,そして,未成年者にとって有害なコンテンツを含んでいる限り,青少年保護官を指定しなければならない。青少年保護官は,利用者の利益の代表者であり,サービスの提供者に対して,青少年保護上の問題点の助言をする。青少年保護官は,サービス提供のプラン及び一般的な利用条件の形成に関して,サービス提供者の相談相手となる。青少年保護官は,サービス提供者に対して,サービスに法律違反があることを指摘することができる。サービス提供者は,本項2文ないし4文の機能を果たすことができる任意の自主規制団体と契約することによって,本項第1文の義務を尽くすこともできる。」

[注記]
 第
5文の「任意の自主規制団体」とは,日本における「映倫」とか「ビデ倫」のようなものを指すものと思われる。第21aも同様である。しかし,このような任意団体に任せることが,結局はインターネット上のポルノグラフィを野放しにすることになり,実質的にはポルノグラフィ・コンテンツの提供者に対してフリーハンドを与えることになるとの批判が出ているようである。

6 第21条第1項第3号の後に,次の第3aを追加する。

3a 3条第1項第4号に違反して,流布をし,もしくは接続可能にした場合」

7 第18条を次のように改正する。

「(1) そのコンテンツがリストに搭載された図書と全く同じものである場合,もしくは実質的ににリストに搭載された図書と同一である場合は,そのコンテンツがリストの中に搭載されておらず,もしくは報告されていないものであったとしても,第3条ないし第5条の規定に違反する図書である。裁判所が,その図書をポルノグラフ的であるとの判決をし,または刑法第1302項もしくは第131条が適用されるコンテンツを含んでいるとの判決をしたときも同様である。

(2) 1条の要件が満たされているかどうかが疑わしいときは,議長は,連邦審査所(Bundesprufstelle)の審査に付することができる。この申立(第1121文)は,必要的ではない。また,第12条が同時に適用される。

(3) リストに搭載されている図書については,第19条が同時に適用される。」

[注記]
 ここでいる「リスト」とは,有害図書のリストのことである。図書等がリストに搭載されると,その図書等は,青少年に有害な図書として扱われる。本条は,インターネット上のコンテンツ等は,印刷された図書等とは異なる変形可能性を有するが,それが実質的にはリストに搭載された図書等と同じ場合とか,同じであるかどうかが疑わしい場合に対する対処について規定している。

8 第18aを削除する。

9 第2条を次のとおり改正する。

(a) 現在の条文を新しい第1項とする。

(b) 次の第2項を追加する。

「(2) 作成されたリストが明らかに適切でないときは,議長は,手続を終了させることができる。」

10 第21aを次のとおり改正する。

「(1) 次のいずれかの者は,秩序違反法違反として有罪である。

1 第4条第2項第2文に違反して,顧客に対し流布制限の指摘を怠る場合

2 第7a1項第1文に違反して,青少年保護官の指定を怠り,または,青少年保護官と同様の機能を果たすことができる任意の自主規制団体との契約を怠る場合」

[注記]
 本条違反の罪は,秩序違反法違反として処罰されるのであるから,その刑の種類は,過料(
50ドイツマルク以上1000ドイツマルク以下)であることになる。


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最終更新日:1998/01/31

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