ドイツの「刑法一部改正法」

(仮訳)

翻訳:夏井高人


これは,1997年8月に施行されたドイツのいわゆる「マルチメディア法:情報通信サービスの枠組みとなる諸条件の規律に関する法律Gesetz zur Regelung der Rahmenbedingungen fur Informations- und Kommunikationsdienste」の中の一部分として,「テレサービス・データ保護法」及び「デジタル署名法」及び「テレサービス法」に付随して立法された他の法律の一部改正法のうち,「刑法一部改正法」の全文仮訳です。
非常に大急ぎで翻訳したので,誤訳もあるかもしれません。ご注意ください。また,条文理解の助けとなるように注記を付けました。この注記の部分の文責は,夏井にあります。

この法律のオリジナル・テキストは,

http://www.iid.de/rahmen/iukdgk.html

ドイツの刑法典(Strafgesetzbuch)の条文オリジナル・テキストは,

http://sunsite.informatik.rwth-aachen.de/Knowledge/germlaws/stgb/index.html

でそれぞれ入手することができます。このオリジナル・テキストは,ドイツ語で記載されていますので,ブラウザの表示フォントを欧文に設定して閲覧しないと文字化けを起こします。


1987310日に公布された布告 (BGBl. I S. 945, 1160)の中にある刑法典は,次のように改正される。

 

1 11条第3項は,次のように理解される。

「(3) オーディオもしくはビデオ,データ記憶,録音テープその他の表現物は,本項を指示する規定においては,文書と同様に扱われる。」

[注釈]
ドイツ刑法
11条は,「人」及び「物」に関する定義規定である。
郵政省の翻訳では,「本項に関連する条項では,」となっているが,ドイツ刑法では,明確に11条を「指示」する条項があり,かつ,その場合にのみ意味のある規定なので,このように訳するのが正しい。

2 第74dは,次のように改正される。

(a) 第3項の「文書」の後に「(第113項)」を挿入する。

(b) 第4項の「もし,少なくともその一部が」を「もし,文書(第113項)または少なくともその一部が」と改正する。

[注釈]
74条は,文書の没収に関する規定である。

3 86条第1の「を輸出し」の後に「もしくは公然とデータ記憶し」を挿入する。

[注釈]
84条から第89条までは,ドイツ基本法のに違反するものとしてドイツ連邦憲法裁判所によって宣言された反民主主義的な組織(ナチスなど)の結成,結党,運動,宣伝等を禁止し,それらの違反行為に対する処罰を規定している。このうち,第86条は,反民主主義的宣伝活動を禁止し処罰する規定である。

4 第184条を次のとおりに改正する。

(a) 第4項の「実際の」の後に「もしくはほとんど現実に近い」を挿入する。

(b) 第5項第1文の「実際の」の後に「もしくはほとんど現実に近い」を挿入する。

[注釈]
第184条は,ポルノグラフ的な文書の取締及びその処罰に関する規定である。


<参考 : 1779年マルチメディア法による改正後のドイツ刑法>

第11条 人及び物の概念

(1) 本法においては,次の意味とする。

1.  親 族

以下に属する者をいう。

(a) 直系の血族及び姻族,夫婦,婚約者,同胞,同胞の夫婦,夫婦の同胞。その関係が婚姻によって結ばれたのではない場合,婚姻が既に基礎を失っている場合,または,血族関係もしくは姻族関係が解消している場合でも同様である。

(b) 養親及び養子

2.  公務担当者

ドイツの法律における

(a) 公務員または裁判官

(b) 公法上の公務関係にある者,または,

(c) その他,官庁その他の官署において公務に従事すべき者,あるいは,その委嘱を受けて公務に従事すべき者

3.  裁判官

ドイツの法律における職業裁判官及び名誉裁判官

4.  公的サービスについて特に義務を負う者

公務担当者以外の者であって,

(a) 官庁もしくは公法上の任務を遂行するその他の官署において,または,

(b) 官庁もしくは公法上の任務を遂行するその他の官署のために公的任務を行う団体その他の集合体,経営体もそくは企業において,

雇用された者もしくは活動している者であって,法律の規定によって,誠実な義務の履行が義務付けられている者

5.  違法行為

刑法上の構成要件を実現する行為のみをいう。

6.  犯罪行為

未遂行為及び既遂行為をいう。

7.  官 庁

裁判所を含む。

8.  処 分

矯正または保安のためのすべての処分,追徴,没収,使用不能処分をいう。

9.  報 酬

財産的利益に対するすべての反対給付

(2) 法律上の構成要件上の行為が故意行為の場合であって,その行為から生ずる特別の結果については過失で足りる場合には,本法上は,故意行為である。

(3) オーディオもしくはビデオ,データ記憶,録音テープその他の表現物は,本項を指示する規定においては,文書と同様に扱われる。

第86条 憲法に反する宣伝活動の禁止

(1) 次のいずれかの団体の宣伝手段を,国内で頒布した者,頒布目的で国内もしくは国外で製作し,輸入し,輸出しもしくは公然とデータ記憶した者は,3年以下の自由刑または罰金とする。

1. 連邦憲法裁判所によって,憲法に違反すると宣告された政党,または,そのような政党の代用組織であるこことが疑う余地なく確定された政党もしくは団体

2. 憲法上の秩序もしくは国際協調主義と対立するものであることを理由に,疑う余地なく禁止された団体,または,そのような団体の代用組織であるこことが疑う余地なく確定された団体

3. 本法の適用領域外において,本条第1号及び第2号に規定する政党もしくは団体を目的として活動している政府,組織または団体,あるいは,

4. その内容において,かつての国家社会主義組織の傾向を持つものと認められる宣伝手段

[注釈]
国家社会主義組織とは,「ナチス」のことを指す。

(2) 第1項の意味における宣伝手段は,自由民主主義的な基本秩序と対立する文書,または,国際協調主義に対立する文書(第11条3項)のみをいう。

(3) 宣伝手段または宣伝行為が,国民の啓蒙,憲法違反の企ての防止,芸術もしくは学術研究,調査もしくは教授,その時代に起きた事件もしくは歴史の報道,その他これに類する目的でなされるときは,第1条の規定は,適用されない。

(4) 責任が軽微であるときは,裁判所は,本条の規定による刑罰を免除することができる。


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最終更新日:1998/01/31

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