ドイツの「テレサービス・データ保護法」

(仮訳)

翻訳:夏井高人

1998/01/31 改訂版


これは,1997年8月に施行されたドイツのいわゆる「マルチメディア法:情報通信サービスの枠組みとなる諸条件の規律に関する法律Gesetz zur Regelung der Rahmenbedingungen fur Informations- und Kommunikationsdienste」の中の一部分として,「テレサービス法」及び「デジタル署名法」と共に話題を呼んでいる「テレサービス・データ保護法」の全文仮訳です(ドイツの「マルチメディア法」は,ほかに他の法律の一部改正法等の多数の条項を含んでいます。)。
非常に大急ぎで翻訳したので,誤訳もあるかもしれません。ご注意ください。また,適当な日本語が見つからない部分と条文が何を指しているのか明確でない部分については,理解の助けとなるように注記を付けました。この注記の部分の文責は,夏井にあります。

この法律のオリジナル・テキストは,

http://www.iid.de/rahmen/iukdgk.html

で入手することができます。このオリジナル・テキストは,ドイツ語で記載されていますので,ブラウザの表示フォントを欧文に設定して閲覧しないと文字化けを起こします。なお,

http://www.mainichi.co.jp/hensyuu/jiken/gazo/0725.html

に日本語による簡単な解説記事があります。


テレサービスにおけるデータ保護に関する法律(テレサービス・データ保護法−TDDSG)

 

 

第1条 適用の範囲

(1) 以下の各条項は,テレサービス法の意味でのテレサービスにおける個人情報データの保護について適用される。

(2) この法律において他に特段の定めがない限り,そのデータが実際に使用されていない場合またはそれが利用されていない場合であっても,個人情報データの保護に関する各該当規定が適用される。

[注記]
郵政省の翻訳では,「情報通信サービス」となっている。意味としては,この訳語でも良いと思われるが,テレサービスには,情報通信サービスとデータ通信サービスの両方が含まれることと,言文の雰囲気を残すために「テレサービス」としておく。なお,言文は, Teledienstであり,直訳すると「遠隔地間役務提供」となる。

第2条 用語の定義

この法律においては,

 「サービス提供者」とは,自然人もしくは法人または人的団体であって,利用に向けられた自己もしくは他人のテレサービスを実施し,または利用へ向けられた接続を媒介するものを意味する。

 「利用者」とは,テレサービスを求める自然人もしくは法人または人的団体を意味する。

[注記]
郵政省の訳文では,「サービスプロバイダー」としている。通常は,インターネットのプロバイダを想定すれば足りると思われるが,この法律では,それ以外のサービス提供者をも含む趣旨と思われるので,この仮訳では,「サービス提供者」と訳することにした。

第3条 個人情報データに関する基本規定

(1) サービス提供者は,本法または他の法令が許容している場合または利用者が同意している場合に限り,テレサービスの実施に際して,個人情報データを調査し,使用しまたは利用することができる。

(2) サービス提供者は,本法または他の法令が許容している場合または利用者が同意している場合に限り,テレサービスの実施に際して調査したデータを他の目的に用いることができる。

(3) サービス提供者は,利用者がそのテレサービスとは異なる接続をし,もしくはそのテレサービスが予定していない方法で接続をする可能性があるときは,利用者のデータを他の目的で使用または利用することについての利用者の同意がなくとも,そのデータに依拠してテレサービスの提供をすることができる。

(4) 個人情報データを調査し,使用しまたは利用することを目的として,テレサービスの技術設備の形成及び交換をしてはならない。

(5) 利用者は,個人情報データの調査,使用または利用に関する方法,範囲,場所及び目的について,事前に報告を受ける権利を有する。
自動処理によって,利用者の同一性の事後的確認をし,または利用者の個人情報データの調査,使用もしくは利用がなされるときは,利用者は,その処理の実施前に,その旨の報告を受ける権利を有する。
利用者は,いつでも報告の内容を閲覧することができる。
利用者は,報告請求権を放棄することができる。
報告請求権及びその放棄は,プロトコル化されていなければならない。
報告請求権の放棄は,第1項及び第2項の同意を意味しない。

(6) 利用者は,いつでも,将来に向かって同意の意思を撤回する権利を有することを,その同意の前に告知されなければならない。
この場合,第5項第3文が準用される。

[注記]
 「調査し,使用しまたは利用」を「収集し,処理しまたは利用」等々と翻訳している例もある。しかし,「収集」は,必ずデータのダウンロードや保存等を伴う行為であるが,ここでいう「調査」には単なる「閲覧」も含むものと思われるので,「収集」ではなく「調査」が適当だと考えた。また「使用」には電子的処理だけではなくデータ収集等も含まれるので,「処理」ではなく「使用」が適当だと考えた。
 ここでいう「同意」とは「個人情報データの調査,使用または利用の同意」を意味する。
 本条は,利用者が一旦それを同意したとても,いつでも同意の撤回をすることができる撤回権を有し,その権利を有することを事前に告知されていなければならないことを規定する。なお,撤回の効力は,将来に向かって生ずるものとされているので,撤回前になされた個人情報データの調査,使用または利用が無効になることはない。

(7) 利用者の明白かつ意図的な行為によってのみ電子的な同意が発生し得ること,利用者の意図しない変更がなされ得ないこと,利用者本人が認識可能なこと,同意がプロトコル化されていること,及び利用者が同意の内容をいつでも撤回できること,以上をサービス提供者がいずれも保障するときは,電子的に同意をすることができる。

[注記]
 ここでいう「同意」とは「個人情報データの調査,使用または利用の同意」を意味する。

第4条 サービス提供者のデータ保護義務

(1) サービス提供者は,技術的に可能であり期待可能である限り,匿名または仮名で利用者がテレサービスの使用及び料金支払をすることができるようにしなければならない。利用者は,この可能性を通知されなければならない。

(2) サービス提供者は,利用者がいつでもサービス提供者との接続を切断でき,課金の目的で長期記録をする場合を除き,サービス要求もしくはサービス獲得もしくはその他の利用の履歴として蓄積された個人情報データが,それらの終了後直ちに削除され,これらのデータの結合が禁止されるように,技術的または組織的な予防手段を確立しなければならない。

(3) 他のサービス提供者への接続拡張は,利用者に対して通知されなければならない。

(4) 利用プロフィールは,仮名による利用の場合に限り,許容される。
仮名で記述された利用プロフィールは,その仮名を使用する者のデータと結合してはならない。

第5条 契約データ

(1) サービス提供者は,テレサービスの利用に必要な契約関係の証明,その内容の形成またはその変更のために,利用者の個人情報データを調査し,使用しもしくは利用することができる(契約データ)。

(2) 相談目的,市場調査目的または適法なテレサービスの形成を目的とする契約データの使用もしくは利用は,利用者の明示の同意がある場合に限り,することができる。

[注釈]
 「テレサービスの形成」とは,テレサービスの物理的・内容的なメンテナンスや拡張等のことを指すものと思われる。

第6条 利用データ及び課金データ

(1) サービス提供者は,利用者がテレサービスを使用できるようにするためのデータ(利用データ)またはテレサービスの利用に対して課金するためのデータ(課金データ)が必要な場合に限り,テレサービスの使用に関する個人情報データを調査し,使用しもしくは利用することができる。

(2) サービス提供者は,課金データに関連しない利用データについては,可及的速やかに,遅くともいずれかの利用が終了した後直ちに削除し,課金データについては,課金の目的にとって必要でなくなったら直ちに削除し,利用者から求められた特定のサービスの利用に関する利用明細書を第4項の規定に従って作成するための課金データについては,その利用明細書を発送した後遅くとも80日以内に削除しなければならない。
ただし,支払請求がこれらの期間内になされ,または支払の催告がなされたのにもかかわらず,その支払がなされない場合は,この限りでない。

(3) 利用データまたは課金データを他のサービス提供者または第三者に譲渡してはならない。
刑事訴追官庁の権限は,失われない。
テレサービスの利用への接続を媒介するサービス提供者は,テレサービスを提供するサービス提供者を利用者が変更する場合,匿名化された利用データ及び課金データを市場調査の目的で譲渡することができる。ただし,情報収集の目的にとって必要だと認められる範囲内に限る。

[注記]
 ここでは,原則として利用者のデータが譲渡不可であるとしつつ,刑事訴追官庁(検察庁及び警察)によるデータの差押・押収等の場合には,例外的にデータの交付を可能としている。逆に言えば,テレサービスのサービス提供者は,刑事訴追官庁に対しては,利用者の個人情報データの提供に関する一般的義務を負っていることになる。

(4) 第三者と課金計算に関する契約を締結したサービス提供者は,課金計算契約の目的にとって必要な場合に限り,その第三者に対し,課金データを交付することができる。
その第三者は,通信の秘密の保持すべき義務を負う。

[注記]
郵政省の翻訳では「かかる第三者は,通信の秘密の義務を遵守する義務を負わない。」となっているが,原文は,Der Dritte ist zur Wahrung des Fernmeldegeheimnisses zu verpflichte.であり,これを直訳すると,「その第三者は,通信の秘密の保持を義務付けられなければならない」となるので,この郵政省の訳文は,何らかのミスタイプではないかと思われる。

(5) テレサービスの使用に対する課金は,利用者の求めによって提供されたテレサービスを特定する提供者,利用開始時点,利用期間,利用方法,利用内容及び利用頻度を認識させるものであってはならない。
ただし,利用者が課金明細書を要求する場合は,この限りでない。

第7条 利用者の報告請求権

利用者は,サービス提供者に対し,いつでも,無償で,実名または仮名によって記録されたデータの閲覧を請求することができる。この報告は,利用者の請求があれば,電子的になされなければならない。利用者の報告請求権は,連邦データ保護法33条2項5号の意味における短期の記録保存期限後には,連邦データ保護法第34条第4項によらずに消滅する。

第8条 データ保護の監督

(1) データ保護に関する規定違反行為を停止させる方法が存在しないときは,連邦データ保護法第38条を準用し,検査に着手することができる。

(2) データ保護に関する連邦委員会は,テレサービスにおけるデータ保護の進捗状況が,BDSG第26条第1項の規定による業務報告書の中に取り入れる。


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最終更新日:1998/01/31

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