参考図書の紹介

by 夏井高人


 

タイトル ネットワーク共和国宣言  パソコン通信のいま・これから
著者名 山根 一眞 (編)
ISBN ISBN4-480-86301-X
出版社 筑摩書房
出版年月日 1997/04/15
ページ数 243ページ
価  額 1,600円
コメント         この本は,1995年にニフティ株式会社が主催した「ニフティサーブ会員100万人突破記念論文コンテスト」の応募作品の中から,審査委員石田晴久氏,久保田達也氏,国分明男氏,森岡正博氏,山根一眞氏によって選ばれた23編をまとめた書籍です。
世の中は,インターネットの時代になっており,パソコン通信といえば既にネットワークの花形ではなくなっているかもしれませんが,日本でもアメリカでも,ネットワーク文化の基礎を形成しているのはパソコン文化であったのであり,また,日本においては,ネットワーク上のさまざまな問題を具体的に論ずることのできる素材の多くがパソコン通信の中に含まれています。
職業的なネットワーク評論家や研究者ではないユーザから寄せられたこれら論文は,非常に貴重なもので,今後の研究のための資料集としても大きな意味を持つものと思われます。また,上記論文の選者らの手による小文も付されており,いずれも興味深いものです。
なお,収録されている論文の執筆者は,次のとおりです(敬称等略)。
塚本水樹,森川俊生,篠田 靖,斎藤孝光,松本 肇,萬野裕彦,矢野善郎,中島勝己,明瀬和弘,金沢正裕,福井信一,池田正行,安部由貴子,玉津幸政,井口茂夫,入江秀和,古屋野素材,沼本 久,巽 政明,小幡安信,今関誠次,趙 貞愛,山本重夫

 

タイトル パソコンボランティア
著者名 JDプロジェクト (編)
ISBN ISBN4-535-56046-3
出版社 日本評論社
出版年月日 1997/08/10
ページ数 204ページ
価  額 1,700円
コメント         この本は,情報ネットワークを利用した障害者支援の実例を紹介する本です。
この本で紹介されている実践例は,ネットワークを活用することによって初めて可能になった障害者支援のあり方というものを的確に示しています。移動に関する肉体的障害を有する人にとって,情報ネットワークは,空間を超えた「自己」の移動手段であり,また,その支援もまた空間を超越することが可能になります。さらに,個々ばらばらな障害者だけでは不可能だった人間のネットワーク化やコミュニティの形成もまた,情報ネットワークを活用して初めて可能になるものといえましょう。これらは,もちろん健常者であっても同様に言えることですが,障害者にとっては,とりわけ大きな意味を持つものだと思います。
一般に,人間は,現時点で満足されているものについては,その重要性を認識せず,ないものねだりをしたがる動物だろうと思います。たとえば,足があってきちんと歩行することのできる人は,そのことがいかに大きな意味を持っているかを深く考えたりしません。しかし,歩行障害のある人にとっては,自由な物理的移動が確保されていないということが,生きることそれ自体に対して極めて深刻な障壁となってしまうこともあるわけです。
科学技術は,人間が生物として持つ機能を肉体の外側に拡張するものだと一般に考えられておりますが,身体機能が一応揃っている者にとって拡張される余地が残されているのは,どす黒いものも含めた「欲望」の機能だけかもしれません。しかし,何らかの身体的障害を抱える人にとっては,まさに,その障害のある機能を補完し拡張するために科学技術が機能し得るわけです。
我々が情報技術を含む科学技術を一体何のために使おうとしているのか,それが人間にとってどのような意味を持つのかを反省させられるという意味でも,この本は貴重であり,広く読まれるべきものだろうと考えますので,紹介します。

 

タイトル 天才ハッカー「闇のダンテ」の伝説
著者名 ジョナサン・リットマン 桑原 透 訳
ISBN ISBN4-16-353540-3
出版社 文芸春秋社
出版年月日 1997/11/20
ページ数 439ページ
価  額 2,095円
コメント         この本は,ケビン・ポールスマンという実在の人物を取材して書かれたドキュメンタリー”The Watchman” (原著タイトル)の翻訳書です。
ハッカー問題に関しては,周知の議論があり,ケビンがFBIに逮捕され,刑務所に服役し,コンピュータ使用禁止命令を受けたことについて,アメリカ国内にも数多くの批判があったようですし(「悪いのは国家と電信会社のほうだ」),また,他方では,しわゆる正統派ハッカーから,「ケビンは,犯罪者であって,ハッカーではない」という主張もなされているようです。
「ハッカー」という言葉の定義の問題は一応おくとして,社会的事実の問題としては,この本で扱われている事件は,実際にあった事件であり,しかも,事件のマスコミ報道や裁判等を通じて,コンピュータ犯罪の重要性が社会的に承認されることとなった一連のネットワーク侵入事件の中でも特に重要なものの一つです。
この本は,単に興味本位で書かれたものではありません。著者は,綿密な取材を通じてケビンという一人の人間を見事に描ききっていますし,随所に,法とは何かを考えさせられる記述があります。ケビンから主観的に眺められている外の世界と外から見える彼の姿とが上手に対比されているなど,文章構成にも工夫がなされております。訳文もスリル感あふれる立派なもので,単なる読み物としても非常におもしろいものです。しかし,こういう具体的素材を通じて,ネットワークにおける自由と規制の問題を考えるということも需要なことであり,その意味で,非常に参考になる図書であると思われますので,ここに紹介することにします。

 

タイトル 電子決済と銀行の進化
著者名 木下 信行,日向野 幹也,木寅 潤一
ISBN ISBN4-532-13149-9
出版社 日本経済新聞社
出版年月日 1997/11/17
ページ数 267ページ
価  額 2,500円
コメント         この本は,電子マネーを含むネットワーク上の電子決済について,経済学の観点から取り組み,新たな視点を提供する意欲作です。
とかく,この分野の議論は,技術的側面に関するものか,それとも,法的観点からの検討等に偏る傾向がありました。しかし,電子決済は,まさにネットワーク上での財の移転そのものなのですから,当然のことながら,経済学的な観点からの分析・検討も必要かつ重要なわけです。
この本は,このような意味での知的需要を満たす最初の一冊であると評価することができます。
内容は,ややマクロ的な立場から,経済取引における電子決済の優位性について論ずるところから始まり,順次,電子商取引や電子金融等に関連する個々の具体的な問題の検討に進んでいます。
記述は,経済学を専攻する者でなくても十分追いついていけるように工夫されており,考えさせられるところの少なくない一冊といえると思います。
重要な新刊書として紹介します。

 

タイトル 電縁交響主義
著者名 Nifty ネットワークコミュニティ研究会
ISBN ISBN4-87188-540-2
出版社 NTT出版
出版年月日 1997/11/25
ページ数 375ページ
価  額 2,400円
コメント         この本は,日本で最大かつ世界でも有数なパソコン通信ネットワークであるニフティ・サーブの創立10周年記念行事として始まったNifty ネットワークコミュニティ研究会の「中間報告書」的な書籍です。とは言っても,内容・体裁は,さすがに現代の電子コミュニティを扱う図書らしく,随筆,小論文,座談会,シンポジウム記録など,さまざまなものが混合していて,まさにニフティのフォーラムの森をそのままプリント・アウトしたかのようなすばらしいものとなっています。
ネットワークに関連する文明批評や文化論的な図書は,近年,非常に多くなってきています。しかし,残念なことに,真の意味でのネットワーカーによるものや1次資料を重視するものは,まだまだ比較的少ないのが実状です。このため,非常にゆがんだ問題意識に基づく本とか見当はずれの文化論などもないわけではありません。
そうした現状の中で,この本の持つ意味は,おそらく執筆者ら自身が自負しているよりも遙かに大きく深いものがあると思われます。
今後,ネットワークを研究しようとする方だけではなく,日本においてネットワークが持ってきた社会的意味とか今後のネットワーク社会について考えようとする人すべてにお勧めしたい一冊です。

 

タイトル 経済交渉と人権  欧州復興開発銀行の現場から
著者名 山根 裕子
ISBN ISBN4-12-101393-X
出版社 中公新書
出版年月日 1997/12/10
ページ数 280ページ
価  額 800円
コメント         この本は,1991年から1995年まで欧州復興開発銀行(EBRD : European Bank for Reconstruction and Development)に勤務し,人権尊重の観点から融資資格の審査をする仕事を担当していた著者(現立命館大学法学部教授)が,その実体験に基づいて書かれたものです。
この本を一読して感ずることは,「人権」や「民主主義」といった法的概念が,他の様々な法的概念と同様に,徹頭徹尾政治上の手段的な道具概念であるということを実感させられるということです。日本の法学教育では,社会の実相や政治・経済等とは一応切り離されたものとして,抽象的・観念的な法が講じられることがあるわけですが,現実の国際社会では,どのように法が意味を持つのかを思い知らせるという意味で,この本は,注目に価するものだと思います。他方では,EBRDの活動に関する記述を通じて,EUとは一体何なのかを具体的に考えるための素材も数多く提供されています。
事実経過に関する貴重な記述も多く,「ひとつの道徳的観点から何事も一刀両断にとりあつかう『人権の闘士』的人物」(24頁)としてではなく,冷静な観察者であり真に法を求める者としての著者の考えがよく伝わってきますし,全体として,骨太のすばらしいものとなっています。
是非とも一読をお勧めします。

 

タイトル サイコロとExcelで体感する統計解析
著者名 石川 幹人
ISBN ISBN4-320-01584-3
出版社 共立出版株式会社
出版年月日 1997/12/25
ページ数 137ページ
価  額 2,000円
コメント         この本は,Microsoft のExcel を使って何か計算や統計解析をやってみようと思っているユーザのための,真の意味での良き入門書です。
「真の意味」というのは,たしかに,Excel の入門書は,街の書店に山積みになっていますが,その多くが入門の入口までしか扱っていないからです。きれいな図や写真がたくさんはいっていも,結局,単純な合算の関数しか覚えないのでは,何の役にもたちません。他方で,きとんと理論的に解析や統計を勉強しようと思っても,実際にはとても難しい本が少なくなく,また,自習用に何かソフトウェアを使ってみようと思っても,解析の理論とソフトウェアとをうまく橋渡しするような本は,ほとんどありません。
この本は,このような意味での橋渡しを実に上手にやっているところが高く評価されるべきだと思います。
要所要所に写真等が入っており,素人でも困らないようになっています。練習問題も難し過ぎず簡単過ぎもせずに適切ですし,その解答も分かりやすいです。しかも,事項索引がミニサイズの用語辞典を兼ねているという気配りもなされており,これからExcel を実用的に利用しようとしているユーザにとっては,とても役に立つ本になっていますので,紹介します。

 

タイトル ハイテク事件の裏側
著者名 那野 比古
ISBN ISBN4-87188-550-X
出版社 NTT出版
出版年月日 1998/01/29
ページ数 244ページ
価  額 1,500円
コメント         人類が生み出した高度科学技術の持つ危険性を警告・告発する本は少なくありませんが,この本もその中の1冊に数えることができるかもしれません。その意味では,ありふれた類書の中の1つであるかもしれません。しかし,この本は,ネットワーク技術に限らず,現在問題となっていることを類型的にまとめ,具体的に多数の事例を整理・紹介しているという点で,他の類書よりもずっと多い検索機能的価値をもつものといえそうです。そして,問題意識を持つための導入的な本という意味で,とりわけ初学者には役に立つ本だろうと思います。
この本では,4つの類型に分けて,事例の紹介と分析がなされています。
1つ目は,病気関係です。バイオテクノロジーだけではなく,従来からあったローカルな病気が科学技術の進歩によって多くの人に感染する可能性を増加させた事例等が紹介されています。
2つ目は,原子炉事故です。
3つ目は,ネットワーク犯罪です。
4つ目は,電磁波によるコンピュータの動作障害です。
いずれも既に広く認識され,その問題性が指摘されている論点ばかりですが,こうして多数の事例を並べてみると,それが全体として非常に重大な事柄を含んでいるということが理解されると思います。一般向け参考書として紹介します。

 

タイトル 日本語ワープロからインターネットまで いまの生活「電子社会誕生」
著者名 赤木 昭夫,紀田順一郎,浜野保樹,名和小太郎(監修)
ISBN ISBN4-7949-6343-2
出版社 晶文社
出版年月日 1998/02/05
ページ数 338ページ
価  額 4,300円
コメント         この本は,パソコン通信からインターネット,ワープロから電子図書館,マルチメディア,CG,著作権,個人情報保護,情報倫理といったような,今日,ネットワークに関与する者すべてにとって興味のある,というよりも関心を持たざるを得ない諸事項について,日本人がどのようにかかわってきたかを,監修者4名に対するロング・インタービューと各界の関係者に対するインタービューとを縦横に織り交ぜながら展開している非常にユニークな本です。
本文の体裁は,各ページの上段に監修者に対するロング・インタビューがそれぞれの担当章ごとに延々と続き,下段には,各界の関係者に対する関連インタービューが次々と出現します。
この本の体裁だけでも興味をひくものがありますが,内容的にも,関連図書数十冊を集めた以上の豊富な情報が含まれており,この1冊を読むだけで,日本人は,どのように情報社会を作ってきたのかが理解できるように思います。
各インタビュー内容は,比較的自由で,発言者の個性もよく出ておりますし,そのことが問題の本質をよく浮かび上がらせてもいるように思われます。ただ,情報倫理に関連する部分の記述には,さまざまな相互に異なる立場からの批判等もあるかもしれません。
今後,情報社会がどのように進んでいくのかは,実際には誰にも分からないわけですが,この本からは,非常に大きな示唆を受けることができると思われますので,紹介することにします。
なお,インタビュー等に登場するのは,次の方々です(敬称略)。
室 謙二,津野海太郎,松岡裕典,村井 純,尾野 徹,佐村敏治,倉田勇雄,浜田忠久,南部英夫,東芝ワープロ営業部,神田泰典,中西秀彦,林 隆男,佐伯 胖,戸塚滝登,苅宿俊文,パイロット電子図書館,古瀬幸広,村瀬拓男,北村礼明,萩野正昭,江波直美,庄野晴彦,NHK SIM-TVグループ,宮本 茂,鈴木 裕,斎藤由多加,飯野賢治,藤幡正樹,岩井俊雄,合庭 惇,日本新聞協会,行政改革委員会,電子情報とネットワーク利用に関する調査研究会,電気通信における利用環境整備に関する研究会

 

タイトル 監視ゲーム プライヴァシーの終焉
著者名 ウィリアム・ボガード 田畑 暁生  訳
ISBN ISBN4-89366-981-8
出版社 アスペクト
出版年月日 1998/02/13
ページ数 318ページ
価  額 2,800円
コメント         この本は,The Simulation of Surveillance : Hyper in telematic societies (Cambridge Univ. Press, 1996) の翻訳書です。訳書のタイトルそれ自体からは何か危険な香りのようなものを感じてしまいますが,内容は,いわゆるポスト・モダンといわれるルーマンなどのシステム理論を機軸に,自己言及というものをシミュレーションの本質としてとらえ,そのシミュレーションを本質とするような情報ネットワークの中でのシミュレーション・プロセスを徹底的にシミュレーションしてみた本というスタイルを借用したシミュレーションそのものとでもいうべきものです。
といっても,単なるSFとか実験とかそういうものではなく,マルクス以来の「資本」のメカニズムに関する深い洞察をもとに,「資本」が「情報」へと転化した情報空間における「労働者の搾取からの開放=労働のサイボーグ化=資本家及び労働者の消滅=人間の不在」とか「セックスのバーチャル化=非接触化=性の日常化=性の消滅=人間の不在」などといった,極めて深刻な近未来的問題の考察がなされています。叙述の中には,フーコーやボードリヤールなどが頻繁に引用されており,一定の知識・経験があったほうが理解しやすいと思いますし,この本をきちんと理解するためには,マルクスから現在に至るまでの主要な経済理論を十分に咀嚼している必要もあるかもしれません。その意味で,この本は,必ずしも読破容易なものではありませんが,素人でも興味を持てる内容がふんだんにもりこまれているのも事実であり,とても興味を引かれる「シミュレーション」だと評価していいと思います。
この本で展開されているシミュレーション世界は,もちろんパラダイスでもユートピアでもなく,人間がシミュレーション・システムの部品になり最初からプログラムによって定められているようなやり方で再シミュレートされるという徹底した悲観論に基づくものです。しかも,オーウェルのような誰か人格を持った「ビック・ブラザー」さえ否定し,シミュレーション・システムそれ自体が自己目的化されてシミュレーションされていくような世界が想定されています。そして,この本の最終章では,そこからの脱出方法も書かれております。それは,一見拍子抜けするような結論でありながら,要するにシミュレーションはシミュレーションに過ぎないということを人間に再確認させるものです。
この本は,シミュレーションです。しかし,仮に現実に我々が生きているこの地上世界において,情報ネットワークの維持・存続それ自体が自己目的化し,すべての価値判断の基準点になるという一般的傾向があるとすれば,この本は,まさしくノンフィクションであることになります。今や,バーチャルとリアルとが相対化してしまったのでしょうか?

 

タイトル 市民力としてのインターネット
著者名 牧野 二郎
ISBN ISBN4-00-026271-8
出版社 株式会社岩波書店
出版年月日 1998/06/22
ページ数 252ページ
価  額 1,700円
コメント         この本の著者牧野二郎弁護士は,インターネット上の法律問題の専門家・実務家として広く知られている方です。この本は,牧野氏の新刊書であると同時に牧野氏のこれまでの思索の集大成でもあり,そして,インターネット上のカレントな法律問題をあくまでも市民とのかかわりにおいて考察し提供するものです。
いわゆるネティズン運動については,公文俊平氏の諸著作のほかハウベン氏の著作の翻訳も公刊されており,数年前に比較すると実にさまざまな書籍を入手することができるようになってきました。しかし,ネティズンは,もともと「理論」ではなくネットワーク上における「存在」または「生き方」そのものですので,そのようなものとして存在することがむしろ重要だと思われます。その意味では,牧野氏は,法律専門家としての立場からネティズンであり続けてきた一人であるわけで,インターネット上の諸問題に関する理論だおで市民の存在を無視した法律書もちらほらしているような現状の中で,これからもネティズンであり続けるであろう著者がこの本を著したということには,ひとつの大きな意味があるようにも思われます。
この本の中での叙述は,法律がらみの問題を多く扱っているにもかかわらず非常に平易で,素人にも法律家の苦闘がよく理解できるようになっていますし,付録のCD-ROMも貴重な資料の一つです。
一読をお勧めします。

 

タイトル 法律情報の検索と論文の書き方
著者名 田島 裕
ISBN ISBN4-621-04475-3 C3032
出版社 丸善株式会社
出版年月日 1998/06/25
ページ数 152ページ
価  額 2,100円
コメント         現在,インターネットを含む電子媒体から得ることのできる法情報の量は飛躍的に増大しつつありますが,しかし,紙媒体で供給される法情報が依然として非常に重要な役割を果たしていることも事実で,特に日本においてはそうです。したがって,法学研究者のみならず法情報の検索をしようとする者は,電子媒体だけではなく,紙媒体による法情報の所在を知り,それを獲得するための方法論を身につけなければなりません。
この本は,そうした意味での紙媒体を中心とする法情報の獲得の方法を説明し,獲得した法情報に基づいて法学分野における学術論文を作成するための手引きとなるものです。
この本の叙述内容は,堅実であり,学生だけではなく,法学分野の論述を仕事とする人には大いに役立つものではないかと思います。
著者は,筑波大学教授で,他に『法律情報のオンライン検索』などの著作があります。
今後,インターネット上でのアーティクルの公開が一般的になると予想されますので,ネットワーク環境での調査とドキュメント作成に関する研究が強く求められているところですが,そうした研究においても参考になるところが少なくないと思われますので紹介します。

 

タイトル 個人情報の管理と倫理
著者名 R.O.メイソン,F.M.メイソン,M.J.カルナン 坂野友昭 監訳
ISBN ISBN4-7670-0056-4 C3336
出版社 株式会社敬文堂
出版年月日 1998/06/25
ページ数 255ページ
価  額 2,000円
コメント         インターネットの商業化は,データベースを用いたマーケティングという手法を開発し実用的なものとしてきました。これに伴い,それでなくても脆弱だった個人情報あるいは私人のプライバシーが,商業目的で収集,管理,販売,再利用されるようになっています。また,普通の企業の中でも,従業員や顧客の情報がデータベース管理されるようになるにつれ,企業ないし組織のモラルとして,この種の情報とどう取り組むかということが問題となるに至っています。
この本は,このような観点から,情報管理上の倫理の問題を論じています。しかも,単に,個人の内心の問題としての倫理というのではなく,18世紀の啓蒙哲学の流れの中で,社会契約の再構成という枠組みで情報倫理の問題を扱っています。このような発想は,その当否は別としても,情報倫理の問題を単なるスローガンとして終わらせないためには必須のものと考えられます。
ざっと一読して,著者らは,情報管理の第一線にいる人たちらしく,非常に具体的な例に基づく考察と分析が丁寧に重ねられており,好感が持てます。
プライバシーと個人情報の保護に関心をお持ちの方にお勧めします。

 

タイトル ハイテク過食症 インターネットエイジの奇妙な生態
著者名 デイヴィッド・シェンク 倉骨 彰 訳
ISBN ISBN4-15-208177-5 C0000
出版社 株式会社早川書房
出版年月日 1998/07/31
ページ数 318ページ
価  額 2,200円
コメント         この本は,ワイヤードなどのライターとして知られる著者のData Smog - Surounding the information glut - を和訳したものです。
訳者の「あとがき」にもあるとおり,この本は,単に,「怖いですよ。気をつけましょうね。」というようなよくあるタイプの本ではありません。たしかに,問題点の指摘は,詳細かつ具体的であり,たとえば,第6章の「増える情報,萎える判断」なんかは,法律家の一人として,思わずうなってしまいました。しかし,この本は,個としての人間がどのように対処すべきか,というかなり骨太なメッセージに満ちておりますし,また,全体構造の把握の仕方にも感心させられるものがあります。特に第4部の部分は,読み応えがあります。
自分の視野を客観的に再確認し,問題の洗い出しをするためだけではなく,新たな構造を模索するという意味でも,一読をお勧めする一冊です。

 

タイトル シェアウェア
著者名 金子 郁容(監修),宮垣 元,佐々木裕一
ISBN ISBN4-7571-0000-0 C0030
出版社 NTT出版株式会社
出版年月日 1998/09/01
ページ数 241ページ
価  額 1,800円
コメント         ソフトウェアには,通常の商業販売経路を通じて流通する商業製品としてのソフトウェアだけではなく,パブリック・ドメイン・ソフトウェア(PDS),シェアウェアあるいはフリーウェアと呼ばれるソフトウェアもあります。特にシェアウェア等は,ネットワーク上で流通するソフトウェアとして極めて重要な存在です。
この本は,日本の主要なシェアウェア作家21のインタビュー集です。日常,シェアウェアやフリーウェアを利用していても,その作者がどんな人なのか,ということには無頓着でいることも少なくないし,どんな経緯でそのソフトウェアを作ることになったのか,ということなどについても意外と情報が乏しいというのが事実です。この種の情報は,同時代人がリサーチし,書きためないと,すぐに分からなくなってしまうという性質を持った情報ということが言えそうですので,その意味で,シェアウェア作家列伝としてのこの本の意義は少なくありません。
しかし,この本は,単にシェアウェア作家列伝という意味だけではなく,もっと大きな意味を持っていると思われ,そのことがこの本の持つ価値を非常に高いものとしていると思われます。すなわち,金子郁容氏によるプロローグにおいて明確に示されているように,シェアウェアというものが持つネットワーク上での特殊な経済取引形態の有効性が,まさに実際に存在するシェアウェアの在り方によって実証されている,それが,この本の持つ最大の価値であろうと思われます。
たしかに,高い代金を支払って購入したソフトウェアであっても,実際に使用してみるとバグだらけで実用に耐えないというようなものが,かなり高名なソフトでもしばしば存在しますし,相当高い機能がぎっしりとつまっていでも,その中のごくわずかしか利用していない(あるいは利用できない)というようなことも日常的に経験するところです。このように利用しない(または利用できない)機能のために一律の代金の支払を求められることが本当に正当なことかどうかは,根本から冷静に考え直されるべき問題でしょう。
これに対し,シェアウェアは,無料で流通し,それを実際に利用し愛用する者だけが進んで代金を支払うという非常にユニークな流通形態をとっています。しかも,経済行為としてきちんと成立している。このようなシェアウェアの存在形式それ自体が「人間と人間との結合」としてのネットワークを考える上では,非常に重要なものではないかと思われます。この本の第5章では,このような流通を,「プロダクト」に対する「対価」と対比して,「プロセス」への「参加料」と表現しています。さらに,「市場経済システムという,このたかだか300年ほどの歴史しか持たない考え方の枠内に,ディジタル・ネットワークまでをも無理やり押し込もうとしてしまう世間の頭の硬さ」とも表現しています。この部分は,現代の我々が常識だと思っていることすべてに該当するかもしれません。
さて,この本は,類書もないわけではない分野に属する本ではありますが,以上のとおり,内容とコンセプトの非常に優れた本であり,今後のネットワーク社会を考える上も多くの素材を提供するものですので,一読をお勧めします。

 

タイトル 法律業務のためのパソコン徹底活用Book
著者名 藤田康幸(編著)
ISBN ISBN4-925180-02-9
出版社 株式会社トール
出版年月日 1999/04/20
ページ数 343ページ
価  額 2,190円
コメント         本書は,編著者である藤田康幸弁護士が管理運営担当となっている日弁連のメーリング・リストbaccにおいて投稿された意見や情報などをもとに,同メーリング・リストの参加者である弁護士や法学者などがネットワークを介したコラボレーションによって完成させた注目すべき図書である。
これまでも電子メールを用いた編集や校正を経て出版がなされるということはよくあることであったが,本書の成り立ちほど劇的かつ効果的に電子ネットワーク媒体が用いられたことは,そう多くはないだろうと思われる。この経緯については,本書の「あとがき」で触れられているので是非とも参照していただきたい。その意味で,本書は,注目の1冊である。
また,内容についても,弁護士事務所や大学の研究室で実際にコンピュータやネットワークを使いこなしている弁護士や法学者が自己の体験を踏まえて分担執筆しているので,対象となる問題がとらえやすく,しかも,解説も平易である。これからサーバを立ち上げようとしている人々にとって大きな福音となるであろうヒントもあれば,アプリケーション・ソフトの利用の入口で困っているユーザにとっても,インターネットの情報の洪水の中でとまどっているユーザにも助けとなる情報が満載されている。
本書は,そのタイトルにもかかわらず,弁護士などの法律家のための本というだけではなく,広く,法学部の学生や社会人も含め,法とインターネットに興味を持つ者にとって非常に有益な図書であると思われる。
参考図書として紹介する。

 

タイトル INFOWAR インフォウォー
著者名 アルスエレクトロニカ・センター 岡田智博(監訳)
ISBN ISBN4-89369-756-0
出版社 尚美人間科学総合研究センター
出版年月日 1999/10/20
ページ数 350ページ
価  額 1,800円
コメント         本書の副題は,「あなたの知らないところで実際に紛争している,目に見えない情報戦争」という非常におどろおどろしいものとなっている。
本書は,1998年9月にオーストリアのリンツで開催されたアルスエレクトロニカ・フェスティバル98のシンポジウム「INFOWAR」のセッションで取り上げられたすべての論考と本書で追加された9項目の論文とを合わせたものである。たとえば,「サイバー戦がやってくる!」「電子的な死」「経済,コンピュータ,そして戦争マシーン」「アジア通貨危機−鮫の泳ぐプールに流れた血」「強制と対抗策:情報軍備競争」「邪悪な不可視性,さもなくば真理はどこかに・・・」など,非常に刺激的なテーマばかりである。
コンピュータを用いた情報ネットワークが究極の汎用装置であり,経済活動や娯楽あるいは教育研究活動だけではなく,軍事や諜報活動にとっても非常に大きな効用をもたらす道具であることを再認識させる1冊ではある。
本書の伊藤穣一氏による日本語版はしがきにもあるとおり,「私たちは,軍事アナリストが芸術家を理解しなければならない時代に生きている。芸術家はインターネットと軍事技術を理解しなければならない。また,全てが全てに影響を与えているのだ」ということを本書の読者も感じ取ることができるだろう。
情報分野の社会学に興味を持つ読者には特に強く一読をお勧めしたい。

 

タイトル 国際法務グローバル・スタンダード17ヶ条
著者名 河村寛治,舛井一仁,吉川達夫,牧野和夫
ISBN ISBN4-938695-33-2
出版社 プロスパー企画
出版年月日 1999/09/04
ページ数 403ページ
価  額 4,300円
コメント         グローバル・スタンダードなる用語が日本のマスコミ等でも頻繁に出現するようになって久しいが,その用語の正確な意味や用法はもとより,そもそも具体的には何がグローバル・スタンダードとして扱われているのかを知る手段は,極めて乏しいといわざるをい得ない。一部の評論家の意見やマスコミでの評価が(たとえ,それが意図的に,または,錯覚等により間違ってなされたものであって,何ら客観性を持たないものであったとしても)たちまちにして公理であるがごとく扱われてしまうことさえある。その意味では,現在の日本は,情報のグローバル化及び情報の評価に関するグローバル・スタンダードにはほど遠い環境にあると言わなければならないかもしれない。特に,国際法務に関連する情報に関しては,そうであると言えまいか。
本書は,そうした状況の中で,国際法務における「グローバル・スタンダードは何か」を追求した意欲的な労作である。執筆者は,いずれも国際法務に携わった実務経験を有する研究者であり,その意味でも実務的観点からの考察として有益な情報が多く盛り込まれている。
ただ,国際法務の分野に限らず,目下の国際環境の下では,すべてのことが非常に早い速度で変転しており,本書のそれぞれの部分の原稿が執筆された時点では最もホットと思われる情報が,出版された時点ではそうでもないことになってしまっている部分もある。たとえば,UCC2Bに関する記述(1999年11月現在ではUCITA及びUETAが話題の中心)や2000年問題(アメリカ合衆国ではY2K法が成立した。)本書の出版が1999年9月であることを考えると,これは非常に恐ろしいことである。その意味では,本書において示されているグローバル・スタンダードが必ずしも現在のそれではないということになり,それだけ割り引いて読まなければならないという点で気の毒な面もある。
しかし,本書において取り上げられている17項目に及ぶ重要事項それ自体は,現在でもなお重要課題であることに変わりはなく,それらの事項について本書から学び取ることのできる部分も決して少なくないどころか,大いに参考になることが無数に含まれているので,参考図書として推薦したい。

 

タイトル インターネットの法律相談 [改訂版]
著者名 第一東京弁護士会総合法律研究所
ISBN ISBN4-7561-3174-3
出版社 アスキー出版局
出版年月日 1999/08/21
ページ数 381ページ
価  額 2,400円
コメント         本書は,1997年9月に出版された同名書籍の改訂版である。
編集代表である出澤秀二弁護士の「はじめに」によれば,執筆を担当した弁護士は全員「インターネットを駆使して仕事に励んでおり,サイバースペース・ローヤーとしては先端を走っているものと自負」するとのことである。
本書は,Q&A方式により全部で101の設問とそれに対する解説が記載されている。第145回通常国会で成立したインターネット関連法令もサポートするなど最新の内容になっている。文章も比較的読みやすく,初学者でもとっつきやすいような工夫が随所に見られる。必要に応じて挿入されているコラムにも有益な情報が記載されている。
同種書籍は,他の弁護士会や関連団体あるいは弁護士個人により出版される機会が多くなってきているが,本書も,その中に貴重な1冊を追加するものであると評価することができるので,参考図書としたい。

 

タイトル 思考のためのインターネット − 厳選サイト800
著者名 アリアドネ編
ISBN ISBN4-480-05813-3
出版社 ちくま書房
出版年月日 1999/08/20
ページ数 238ページ
価  額 660円
コメント         かつて,アリアドネは,インターネットにおける人文科学・社会科学系の優れた情報検索インデックスとして有名になった『調査のためのインターネット』を出版している。本書は,その続編でもあり,また,別編でもある。
『調査のためのインターネット』と同様,本書においても収録されたサイトは,いずれもそれぞれの分野における最も優れたサイトを中心とするものであり,本書全体が特に洗練されたものとなっていることの多くは,その選択基準にあるように思われる。
収録されたサイトには,それぞれ簡潔な説明文が添付されている。この説明文も適切であり,本書をガイドとして情報検索を始める者にとっては,非常に役立っているに違いない。
本書のような書籍では,共通の悩みがある。それは,Web上のコンテンツが浮動的なものであることが決して少なくないということだ。原稿確定時には存在を確認し,せっかく収録しても,印刷・出版時には消滅してしまっていサイトやコンテンツもある。本書では,そのような問題を解決するために,最新情報を得るための最新サイト<http://ariadne.ne.jp/>が用意されていることも示されている。これは,現時点においては最も合理的な方法であろう。
印刷された図書とデジタル・コンテンツとの共存の未来を占う上でも,本書及び今後も出版されるであろう続編に大いに期待したい。

 

タイトル インターネット・電子商取引の法務と税務
著者名 根田正樹,矢内一好,青木武典,小倉秀夫
ISBN ISBN4-324-05839-3
出版社 ぎょうせい
出版年月日 1999/08/11
ページ数 152ページ
価  額 2,000円
コメント         インターネットなどの情報ネットワークを利用した電子商取引は,近年,ますます重要性を増加させている。その取引高の伸び率は,現実世界における取引高の伸び率よりも大きなものとなったとも報じられている。
電子商取引は,一面においては現実世界の取引と何ら変わりのない部分を有しながら,他面では電子商取引であることそれ自体からくる幾つかの特殊性を有している。この問題については,伝統的な民法・商法を固守する立場からの法解釈論というアプローチと,全く新しい法パラダイムを形成しようする立場からのアプローチとが存在するが,本書は,前者の立場で書かれた入門書ということができる。
記述は平易で,特に税務に関する事項の記述は分かりやすく,とりわけ初心者にとっては好著といえよう。
共著でありながら分担執筆部分の明確でないことが惜しまれるが,参考図書としたい。

 

タイトル デジタル・ミレニアムの到来 − ネット社会における消費者
著者名 名和小太郎
ISBN ISBN4-621-05291-8 C0255
出版社 丸善ライブラリー
出版年月日 1999/04/20
ページ数 201ページ
価  額 760円
コメント         1998年末,アメリカ合衆国連邦議会は,「デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)」を可決した。これからの1000年間(ミレニアム)におけるネットワーク上の知的財産権法制をリードするというアメリカ合衆国の並々ならぬ意気込みのこめられた法律だ。
本書は,DMCAの立法を受けて,デジタル・ミレニアムを仕切る基本原理を探求し,そして,そうした時代における消費者保護を模索するものである。
本書では,デジタル知的財産権に関連する(非常に錯綜し,混乱して,しばしば無用・有害でさえもある)様々な用語や概念の整理から始める。そこで導入されている整理のための基本概念は,「共有地の悲劇」というロジックであり,そのバックボーンとなっているのは,公衆電気通信事業とインターネットに関する正確な歴史認識と構造分析である。本書の読者は,ネットワーク・ビジネスをめぐって誕生し,もてはやされ,そして消え去っていった幾多の「言葉」や「スローガン」や「キャッチ・フレーズ」が実際にはどのような役割を果たしていたのかを知ることができるだろう。
そして,このような分析を踏まえ,本書では,来るべき時代に予測される様々な問題が明示・黙示に提示される。
非常に示唆に富んだ本である。
現代のように伝統的な法解釈論の多くが単なるレトリックの技術であるか,特定の者の利益だけを守るための詭弁にまで落ちてしまっている時代においては,もし正しい解釈論を提供しようとするのであれば,確実な現状分析と合理的な未来予測に基づく均衡のとれた政策論をベースにした正義に適った立法論を提案し,その提案に込められた基本理念を軸として整理し直し,法の空白部分を摘出していくような真の意味での体型的理解に基づく解釈論を再構築していく以外に適切な方法が見あたらないのだが,そのような解釈論の再構築のための貴重な示唆を与えるものだという意味でも,本書は,新鮮な一石を投ずるものと評価することができる。
地球規模での新たな「囲い込み(エンクロージャー)」の時代を考察するための最適書として推薦したい。

 

タイトル 法情報学 − ネットワーク時代の法学入門
著者名 加賀山茂・松浦好治編
ISBN ISBN4-641-02746-3
出版社 有斐閣
出版年月日 1999/11/10
ページ数 216ページ
価  額 3,200円
コメント         本書の「はしがき」によれば,本書は,1989年以来大阪大学法学部で複数の教員による共同授業として実施されている「法情報学」での経験を基盤として,実習科目としての基礎資料を提供するための書籍として企画されたもののようである。新日本法規が提供する「判例マスター」(体験版)を含むプログラム,各種ツールや多数の法律論文・資料等を含むデジタル・データ等は,添付のCD-ROMに収録されており,たしかに,初学者にとっては非常に便利であり,その価額からしても間違いなくお買い得なありがたい書籍である。
内容は,大きく分けて2つの部分からなっている。
前半部分は,「リーガル・リサーチ」を主体とする部分であり,インターネット上の法律情報だけではなく,印刷されたものも含め,およそ法律情報を検索する場合の目的や方法が詳述されている。
後半部分は,「リーガル・ライティング」を主体とする部分である。訴状や答弁書のような法律実務家の法律文書だけではなく,法律論文や電子メールによるコミュニケーションを含め,広く法律文書作成の目的と方法が論述されている。
日本の大学法学部では,法律情報検索及び法律文書作成に関する講義(実習を含む)が皆無に等しいほど乏しく,今後のロースクール・システムの導入を考えると,その下地としては悲惨というしかないような状況にあり,しかも,こうした「法律事務」とでもいうべき部分を多く含む学問領域は,レベルの低いものとして軽視される傾向さえある。本来,法学というものが徹頭徹尾「実学」でしかあり得ないことを考えると,嘆かわしいことである。そして,このような多くの大学における状況からすると,日本の大学法学部がロースクールに衣替えしたとしても,それだけによっては,有能な法律プロフェッショナルを大量に生み出すことができるようになるとは想像しにくいのである。このような状況を踏まえると,批判もあろうが,大阪大学における実験は大きな意味があるのであり,今後もその成果が公表され,多くの人々に利用可能となることを期待してやまない。
貴重な書籍であり,参考図書として推薦したい。

 


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最終更新日: May/25/2000

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