新刊図書の紹介

by 夏井高人


 

タイトル 法律学のためのインターネット2000
著者名 指宿 信,米丸恒治
ISBN ISBN4-535-51211-6 C3032
出版社 日本評論社
出版年月日 2000/01/30
ページ数 219ページ
価  額 3,800円
コメント         この本は,『法律学のためのインターネット』(1996,日本評論社)の改訂版です。
しかし,本書は,誤植の訂正や新規事項の追加などだけの単なる改訂版ではなく,旧版からわずか3年の間に起きた様々な驚くべき変化に即応して,その有用性を維持するだけではなく,現時点での問題を明確に指摘することに成功し続けているという意味で,インターネット時代における書籍のあり方についても大きな示唆を与えるに違いない1冊です。
そしてまた,本書は,法情報学のあり方についても大きな示唆を与え続けるに違いないと信じます。
法情報も情報の一種である以上,それが「シンボル+評価」という論理構造を持つことを逃れることができません。そして,この「評価」の部分は,まさに特定のシンボルを一定の体系に従って評価する者の真の実力によって左右されるのであり,その実力の中には,世界認識という一番大きな枠組み(マップ)がどのようなものであるかが最も大きく左右することになるでしょう。この点において,本書が非常に大きな成功を収めている理由の一つは,2人の著者の洞察力の凄さと学識の深さにあることは言うまでもありませんが,何よりも,行間からほとばしり出るヒューマニズムにあることを指摘しておきたいと思います。知識は,情報のデータベース又はその構成部分に過ぎません。しかし,そのデータベースをどのような構造をもったものとし,誰が何のために用いるのかという視点を忘れて構築されたデータベースは,機能を果たすことができません。そして,その「誰」が生きた人間であり,しかも,少しだけの幸せを求めて普通に精一杯暮らしている一般市民なのだという感覚を忘れて構築されたデータベースは,圧制のための装置ともなり得るものですし,少なくとも,世界の人々の幸福の実現のために存在するものであるとはいえないでしょう。
本書は,この意味でも,法情報学の分野において最高峰たる位置にある1冊であると考えます。
必読書として推薦します。
旧版へのコメント この本は,法情報検索とその活用という切り口から,徹底して法情報学のツールとしてのインターネットというものを追求した労作であす。
この本では,インターネットの基本構造の解説から始まり,インターネット上で法情報をキャッチするための基本事項の解説,具体的に法情報を獲得するための方法,法律情報,判例情報,政府情報などの法情報が存在するドメインの一覧など,有用性という観点からは,非常に価値ある情報がふんだんに,しかも,よく整理されて盛り込まれています。なお,電子データ化されたURLがFDとして付録に付いてきます。
インターネットは,日夜変動し続けており,この本に掲載されたURLの中には既に消滅してしまったものもないわけではありませんが,基本的な情報,たとえば,判例や政府情報などについては,現在でもほとんどそのまま使用可能であり,さすがに精選されたURLばかりであると感心させられます。
法情報学にとりくむ者にとって,インターネットを活用した法情報の検索と整理,分析・検討の能力の獲得は,避けて通ることのできない重要な関門です。この本は,初心者にとっても非常に有益な技術情報を提供していると同時に,専門研究者にとっても多くの示唆を与え続けているという意味で,基本書として紹介するのがふさわしいものと評価できるでしょう。
必備の1冊だと考えます。

 

タイトル インターネット術語集
著者名 矢野直明
ISBN ISBN4-00-430667-1 C0255
出版社 岩波新書
出版年月日 2000/04/20
ページ数 217ページ
価  額 660円
コメント         この本は,用語集の体裁をとった優れた文明批評であり,同時に,洒落たエッセイ集でもあります。
実は,夏井は,本書の草稿段階で,著者から「目を通して欲しい」との依頼を受け,読ませていただきました。一読して,著者の思索の深さと謙虚な姿勢とを窺い知ることができ,きっと多くの人々に読まれる本になるに違いないと直感しました。実際,完成し出版されたものを読んでみても,その直感が正しかったことが証明されていると思います。
本書の構成は,インターネット全体に関する部分,インターネットにおけるコミュニケーション論に関する部分,サイバー犯罪を含む法的問題に関する部分,インターネットと文明の変容に関する部分という4つの基本的な大項目の中に,それぞれ小項目的に様々な用語がちりばめられ,その説明と関連用語への(紙媒体の中での!)リンクという体裁をとりながら,いわば,音楽の世界におけるフランクの循環形式を思われせような,美術の世界におけるアラビアのアラベスクを彷彿とさせるような,しかも,全体として見るとゴシックの教会建築のようにがっちりとした構成美を保ちながら執筆されており,文学という面から考えても意味深い1冊であるように思われます。
個々の用語の記述も平易かつ適切であり,しかも,単なる単語帳的なものには終わらない鋭い文明批評をすべて箇所で感じ取ることができます。
インターネットと文化,あるいは,インターネットと法に興味を持つすべての人に推薦したいと思います。
なお,巻末に収録された文献ガイドは,非常にコンパクトなものではありますが,インターネットを考える場合に読んでおくべき良質な書籍を網羅的に紹介するものであり,その有用性はいうまでもありません。
必読書として推薦します。

 

タイトル サイバースペース法
著者名 サイバーロー研究会(編)・指宿 信(編集代表)
ISBN ISBN4-535-51197-7 C3032
出版社 日本評論社
出版年月日 2000/04/10
ページ数 302ページ
価  額 3,800円
コメント         この本は,鹿児島大学の指宿信氏が代表者となっているサイバーロー研究会のメンバーによる現時点でのサイバー法の鳥瞰図とでもいうべき1冊です。
サイバー法がカバーする領域はあまりにも広く,しかも,変化が早いため,1人の研究者だけでそのすべてを完全にフォローすることは最初から不可能です。そのため,この分野では,インターネットを媒体とする共同研究が盛んであり,夏井が主催するサイバー法研究会と同様,指宿氏が主催するサイバーロー研究会は,この分野における最も優れた研究者集団の一つとなっています。
本書において特筆すべき点は,サイバー法のほとんど全領域に関する研究成果が,日本の内外の優れた研究者らの共同作業によってなされているという点にあると言えましょう。本書の各パートの執筆者は,それぞれの分野において最も適切な研究者が配置されており,サイバー法のスター的存在とも言えるローレンス・レッシグをはじめ,充実した布陣であり,指宿氏の人脈の広さには驚嘆させられます。また,その翻訳者もすべて優れた研究者ばかりです。その中には,まだ若い研究者も含まれておりますが,サイバー法の将来を考えると,非常にたのもしい限りと評価すべきでしょう。
本書の中では,非常に多くの示唆に富む指摘が含まれています。悪い意味での概念法学から脱却し,真の法学を再構築するためのヒントも含まれています。それと同時に,これからの法学研究者が単なる文字操作技術者であってはいけないということも思い知らされ,そして,世界規模での法学の広がりと深みとを実感させられもする1冊です。平易な記述の中に多くの真理をちりばめることは容易なことではありません。しかし,本書は,その意味でも成功していると評価することが可能でしょう。
少しだけ難点を指摘するとすれば,昨今の出版事情もあるのでしょうが,これだけ良い内容の書籍であるならば,もう少し多くの頁数を許容しても良いのではないかということです。日本では,一般に,アメリカ合衆国のWEST社の書籍のような大きな書籍を出版することは不可能ではないにしても非常に困難です。しかし,真に良い本というものを模索するのであれば,出版業界の未来を賭けるという意味でも,書籍出版のあり方に再考が求められるのではないか,という感想も持ちました。日本でも,世界中の最も優れた研究者達が協力して研究・出版することが可能になってきているのに,それを紙媒体で提供する出版業界が対応できていないことには,残念だという気持ちを持ちます。マーケティングやプロモーションの基本の見直しも含め,熟慮と再考と決断とが求められるべきだと思います。
いずれにしても,サイバー法の分野の研究を進める研究者だけではなく,企業法務にたずさわる人々にとっても有益な書籍であり,必読書として推薦します。

 

タイトル デジタル世紀のプライバシー・著作権 − 新聞・出版はどう対応するのか
著者名 松浦康彦
ISBN ISBN4-535-51232-9
出版社 日本評論社
出版年月日 2000/04/20
ページ数 267ページ
価  額 2,300円
コメント         本書の著者は,朝日総研の主任研究員のかたわら,日本大学法学部の講師としても活躍している方です。
本書は,内容に従って大きく分けてみると,おおむね3つの部分から構成されています。最初の部分は,個人情報保護やプライバシーの問題について,インターネットをはじめとするネットワーク環境では,それらの問題がどのような意味を持ってくるのかを丹念に検討しています。2つ目の部分は,アメリカ合衆国のデジタル・ミレニアム著作権法の例に見られるような知的財産権とりわけ著作権の最新動向のレポートであり,デジタル・コンテントを著作権によって保護しようとする動きの背後にあるものを鋭く指摘するものである。最後の部分は,メディア論です。ネットワークの拡大によって,新聞や雑誌のような在来のメディアがどのようになっていくのかについて,著者ならではの問題意識に満ちた論述が展開されています。
本書は,著者が長年のテーマとして研究を続け,朝日総研レポートなどによって発表してきた成果をまとめたものであり,著者の研究者としての集大成とでもいうべき1冊として評価できます。論述は平易でありながら深い論点を丁寧にフォローしており,また,参照文献としての紙媒体情報とWeb上の情報とが適切に用いられており,この点でも好感が持てます。
参考図書として推薦したいと思います。

 

タイトル 変わりゆく情報基盤 −走る技術・追う制度−
著者名 名和小太郎
ISBN ISBN4-87354-306-1
出版社 関西大学出版局
出版年月日 2000/03/31
ページ数 407ページ
価  額 3,500円
コメント         本書は,ネットワーク環境における法制の変化を追い続けた著者の過去10年間の業績をまとめたものです。
名和氏の業績については,特に言及するまでもないと思われますが(巻末の文献目録には圧倒されます。),「まえがき」の中に面白い記述があります。すなわち,「著者は学会の厳しい「専門性」を知らなかったので,多くの分野にわたって発言することができた」というものです。名和氏の発言が,その「専門性」の厳しい諸学会に対しても大きな影響を与え続けてきたことは周知のところですが,このことをどう考えるかが問題だと思います。どの分野でも,深く掘り下げた専門性が要求されることは当然ですし,それがなければ専門家とは言えないでしょう。しかし,そのような専門性を持たない人が何も発言権がないというのでは,学問研究の存在意義から考えても本末転倒というべきでしょう。まして,広範な領域にわたって深い研究をし,的確に意見を述べることのできる人の意見には謙虚に耳を傾けるべきなのは当然です。しかも,その専門領域における専門性の基礎となっている社会基盤そのものが揺らいでいる領域においては,そもそも過去の専門性が現在の専門性を基礎づけることにはならないのだから,誰も専門家のいない世界(専門学会の存在しない世界という意味ではない。)として認識すべきですし,そのような世界では,すべての人間に発言権があると理解するのがむしろ正しいのではないかと思います。
本書では,時間軸という縦軸を設定し,隣接する領域をいわばネットワーク構造とした上で交差する横軸を設定し,この縦軸と横軸との間の3時限空間に縦横無尽に示唆に富む思考が展開されています。とりわけ,デジタル・コンテンツの法的保護の問題や学術情報の取り扱いの問題などにはとりわけ強い関心に基づく深い考察がなされており,多くの人にとって傾聴すべき見解が展開されています。
できるだけ多くの人に読んでいただきたい参考図書として推薦したいと思います。

 


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最終更新日: May/25/2000

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