by 夏井高人
§1 情報倫理
タイトル | エシックス 高度情報化社会のネチケット | |
著者名 | 武藤 佳恭 | |
ISBN | ISBN4-320-02811-2 | |
出版社 | 共立出版株式会社 | |
出版年月日 | 1996/06/01 | |
ページ数 | 128ページ | |
価 額 | 1,200円 | |
コメント | 著者は,慶応大学環境情報学部助教授(1996年当時)です。 この本は,インターネットの普及・拡大に見られるようなネットワーク環境の一般化・社会化によって起こるさまざまなトラブルの防止のために,今後,ネットワーク上のエチケット(ネチケット)の必要性が増大するとの認識を前提にして,ネチケットの具体的な中身を非常に分かりやすくイラストをまじえながら説明しています。 この本の基礎となっているのは,IETF(インターネット技術特別調査委員会)のワーキング・グループがまとめた各種ドキュメントのうち,ネチケットに関するRFC1855です。この本では,RFC1855の構成に従って,個人対個人のネチケット,個人対多数人のネチケット,管理者のガイドラインという順に説明・解説があります。 強制力を持った法というものが存在しないインターネット空間で各人が相互に快適なネットワーク・ライフを送るために考える材料がたくさんもりこまれており,しかも,あまり専門的になりすぎないようにさまざまな配慮がなされている好著です。 |
タイトル | コンピュータの倫理学 | |
著者名 | Tom Forester, Perry Morison | 久保正治 訳 |
ISBN | ISBN4-274-07727-6 | |
出版社 | 株式会社オーム社 | |
出版年月日 | 1992/08/25 | |
ページ数 | 333ページ | |
価 額 | 2,000円 | |
コメント | この本は,グリフィス大学のコンピュータ科学コースにおける著者らの講義経験等を踏まえて書かれたものです。 この本では,コンピュータ社会に特有のジレンマとしての「倫理」という問題提起から始まって,コンピュータ犯罪,ハッカー,ウイルス,コンピュータの信頼性,プライバシー,人工知能がもたらした新たな法的問題,労働環境など,執筆(原著:1990)から約7年を経た現時点で,まさに現実の問題となっているさまざまなできごととその原因を丁寧に分析しています。 そして,それぞれの場面における倫理の問題を指摘しており,全体として,非常にすぐれた社会批判書であり,かつ,情報倫理の基本書の中の重要な一冊となっています。特にハッカー問題については,必読の書と評価することができるでしょう。若干古くなっていますが,参考文献の引用も充実しています。 コンピュータ科学に従事する人だけではなく,すべてのインターネット・ユーザにお勧めしたい本です。 |
§2 情報セキュリティ
タイトル | コンピュータセキュリティの基礎 | |
著者名 | Deborah Russell, G.T.Gengemi Sr. | 山口 英 監訳 |
ISBN | ISBN4-7561-0299-9 | |
出版社 | 株式会社アスキー | |
出版年月日 | 1994/12/01 | |
ページ数 | 498ページ | |
価 額 | 4,800円 | |
コメント | この本は,情報セキュリティに関する総合的な考察と解説の書です。 この本の最初の部分では,なぜセキュリティの必要性を認識しなければいけないのかをわかりやすく解説し,アメリカ合衆国における法的規制(ただし,本書出版後にコンピュータ犯罪法が改正されていることに注意)の歴史を含めたセキュリティの歴史が述べられ,有名なオレンジ・ブックへ至る経過を理解することができます。 次に,この本では,さまざまなタイプのコンピュータ犯罪の分析・解説とその対策をオレンジ・ブックに依拠しながら取り扱っています。 巻末には,当時のコンピュータ犯罪関連法等の一覧とオレンジ・ブックの全文その他の貴重な資料が網羅されており,情報セキュリティに関与する者にとって,必備の一冊であるということができます。 |
タイトル | 殺人バグを追え | |
著者名 | Ivars Peterson | 伊豆原 弓 訳 |
ISBN | ISBN4-8222-4069-x | |
出版社 | 日経BP社 | |
出版年月日 | 1997/03/24 | |
ページ数 | 277ページ | |
価 額 | 2,472円 | |
コメント | この本は,通常,情報セキュリティに関する図書としては扱われていません。というのは,これまでの情報セキュリティ理論は,主として故意によるシステム犯罪等を前提に考えられてきたからです。しかし,人間に重大な危害を与えるようなシステム・トラブルやシステム犯罪は,過失によっても発生し得ます。 この本は,すべてのコンピュータ・ソフトウェアにおいて「その完全な除去は不可能である」と考えられているバグ(プログラム・ミス)が,人類社会にとってのどのような問題を抱えているかを鋭く指摘しており,情報セキュリティ理論に対して,解決されなければならない新たなそして重要な課題を投げかけています。 この本の叙述は(訳者の適訳もあって)非常に平易です。しかも,1992年ストラスブール空港でのエアバス事故,湾岸戦争当時のパトリオット・ミサイルの欠陥,いわゆる2000年問題その他非常に多数の事例を用いて,問題の本質が素人にも理解できるように述べられています。 単なるノンフィNション読み物としても飽きずに読み通せる一冊です。 |
タイトル | インターネットセキュリティ システム管理者のためのリスクマネージメント | |
著者名 | Larry J. Hughes, Jr. | 長原 宏治 監訳 |
ISBN | ISBN4-8443-4916-3 C3055 | |
出版社 | 株式会社インプレス | |
出版年月日 | 1997/02/21 | |
ページ数 | 394ページ | |
価 額 | 3,200円 | |
コメント | 著者は,アメリカ合衆国インディアナ大学の首席ソフトウェア技術者です。 この本は,インターネット上のハッキングやテロ対策等について,最新のコンセプトと技術情報を提供しています。 ところで,この本の読者対象は,主としてシステム管理者です。そして,この本の中の記述の非常に大きな部分がUNIXシステムの基本知識を前提にしています。そのため,技術的な事項に関する知識を持たない読者にとっては,非常に難しい図書の部類に入るかもしれません。 しかし,よく考えてみると,技術的な事柄に関する基本知識を持たないままでネットワークのセキュリティや法的問題を論ずるというのは,非常に滑稽なことですし,そのような者の立論がいかに論拠薄弱であるかも説明を要しないでしょう。 この本は,ネットワークと法を研究する者が最低限度知らなければならない技術的事項のインデックスとなるものですし,システム管理者にとっても,もちろん優れた手引き書となっています。その意味で,広くネットワーク法の研究者や法学部学生等にも紹介したい図書の一冊です。 |
§3 インターネットと法
タイトル | インターネットの法律実務 | |
著者名 | 岡村 久道,近藤 剛史 | |
ISBN | ISBN4-7882-4833-6 | |
出版社 | 新日本法規出版株式会社 | |
出版年月日 | 1997/05/15 | |
ページ数 | 448ページ | |
価 額 | 4,600円 | |
コメント | この本は,この分野のパイオニアであり,かつ,第一人者である2人の弁護士による,最も網羅的な実務書です。 この本の特徴は,インターネット上の法律問題について,法律の条文ごとではなく,問題群ごと(コンテンツ,情報発信,犯罪,電子商取引など)に,かなり詳しく丁寧に説明がなされていること,インターネット上で起きるできごとについて一般的な説明が準備されていること,そして,とりわけ,これまであまり注目されていなかった国際的裁判管轄の問題に関して非常に大きなスペースをさいていることです。 考えてみれば当たり前のことですが,インターネットは,地球上の複数の主権国家にまたがって存在するグローバル・インフラストラクチャそのものです。ですから,インターネット上の法律問題について,どの国のどの法が適用され,どの国のどの裁判所が裁判をする権限を持っているのか,という問題がインターネットでは露骨に顕れます。これまでのように日本の著作権法や刑法などだけでは対処できません。 この本は,この問題を,かなり具体的に説得力をもって提示したという意味で,高く評価されるべきだと思います。 ネットワーク管理の実務にたずさわる人だけではなく,インターネット上の法律問題に関心を持つすべての人にお勧めしたい本です。 |
タイトル | インターネット法 −ビジネス法務の指針− | |
著者名 | 内田 晴康,横山 経通 編著 | |
ISBN | ISBN4-7857-0775-5 | |
出版社 | 社団法人商事法務研究会 | |
出版年月日 | 1997/07/10 | |
ページ数 | 207ページ | |
価 額 | 2,400円 | |
コメント | この本は,サブ・タイトルにも示されているように「インターネット上でビジネスを遂行する事業者の視点で,実務的に対処するための体系的で網羅的な『ビジネス法務』のガイドブックをめざして」(はしがき)編まれた本です。 著者は,いずれも,この分野での最精鋭かつ実績のある弁護士ばかりです。 インターネット上の法律問題は,単に理論的な検討の時期を過ぎて,すでに現実的に解決されるべき日々の具体的課題となってきています。この本は,編著者が言うようなビジネス法務のガイドブックを超えて,インターネット上の法律問題を認識し,今後の検討のあり方を考えるための非常に多くの素材を提供しています。 比較的コンパクトな図書の割合には取り扱っている事項が豊富なため,それぞれの立論に関する論拠が必ずしも十分に記述されているわけではありませんが,じっくりと考えながら読み進むと,いろいろな視点が開けてきます。 現時点での基本図書として挙げるべき一冊だと思います。 |
タイトル | インターネット法学案内 電脳フロンティアの道しるべ | |
著者名 | インターネット弁護士協議会(ILC)+村井純 | |
ISBN | ISBN4-535-51116-0 | |
出版社 | 日本評論社 | |
出版年月日 | 1998/03/30 | |
ページ数 | 269ページ | |
価 額 | 2,400円 | |
コメント | この本は,インターネットにおける法を考えるときに必要な重要な素材を多数提供する本です。 2つの部分から成っています。第1部は,総論的な部分で,「インターネットを語る」と題して,村井純氏,立山紘毅氏,町村泰貴氏,寺中誠氏,牧野二郎氏の論説とバーチャル討論で構成されています。この部分は,法律論としても評価できますが,それよりむしろ,ネットワーク社会の文化構造を考えるための材料が豊富に含まれており,非常に興味深い意見も含まれています。 第2部は,いわば各論的な部分です。岡村久道氏の「電子商取引をめぐる諸問題」から始まって牧野二郎上によるエピローグまで,この分野における著名研究者・弁護士らによる珠玉の論文が収められています。インターネット巻末には便利な用語集もついています。 本書の「プロローグ」によると,これらの論文は,インターネット弁護士協議会(ILC)によるWeb上の討論とりわけ一般市民の方々との討論等から触発された部分が少なくないとのことです。従来,法学分野の研究者や法律実務家は,一般市民からは超越した特別の存在として考えられがちでしたし,現にそうであったのかもしれませんが,本書におけるような法律家と非法律家との相互意見交流を踏まえて,市民のものとしての法理論の構築が試みられるということは,まさにインターネットならではのことではないかと思われます。今後の,法学研究方法論のあり方という観点から考えてみても,本書の持つ意義は,非常に大きなものがあると評価しても過言ではないでしょう。 以上のような観点から,本書を必読書として紹介することにします。 |
タイトル | 判例国際インターネット法 サイバースペースにおける法律常識 | |
著者名 | 平野 晋,牧野和夫 | |
ISBN | ISBN4-938695-15-4 | |
出版社 | 株式会社プロスパー企画 | |
出版年月日 | 1998/04/24 | |
ページ数 | 304ページ | |
価 額 | 2,200円 | |
コメント | この本の著者である平野晋氏は中央大学講師,牧野和夫氏は,アップルコンピュータ法務部長です。 いうまでもなくアメリカはインターネット発祥の地であり,しかも,アメリカ合衆国という国が多数のそれぞれ主権を持った「州State」という国家が結合して存在している国家であるため,アメリカ合衆国国内だけの事件を見ても,インターネットの持つ超国家的な存在性というものが露骨に反映されることになります。たとえば,裁判管轄権の問題がそうであり準拠法の問題がそうです。加えて,インターネットの先進国であり表現の自由を最大限尊重する国であるだけに,インターネット上で発生するであろう様々なタイプの法的紛争がまず最初に登場してしまうということも事実であり,その結果,インターネットにまつわる裁判例も山のように積み重なることになります。 この本は,アメリカにおけるインターネット関連の主要な裁判例を素材に,インターネット上の法律問題を解説するものです。これまで,このような試みは,英文の専門書ではいくつもありましたが,日本語によるものは初めてではないかと思われます。貴重な1冊です。 ただ,頁数の関係等からでしょうか,判例評釈としては十分とはいえない点があることが惜しまれますが,今後,この分野における判例研究のための一つの指針となるであろう図書であることは疑いなく,その意味で必読の1冊としてお勧めします。 |
タイトル | 電子商取引とサイバー法 |
著者名 | 平野 晋 |
ISBN | ISBN4-7571-2019-2 C0032 |
出版社 | NTT出版株式会社 |
出版年月日 | 1999/08/05 |
ページ数 | 260ページ |
価 額 | 2,800円 |
コメント | 電子商取引について新たな法パラダイムを提供しようとする試みは幾つか存在するが,現在のところ最も有力・有望なアプローチは,サイバー法からのアプローチである。 サイバー法は,日本国の法学会では未だに認知度が低いとされているが,本書の第1部第2章などを読むと,21世紀の法学の基本を構成するのはサイバー法である可能性が高いことを理解することができる。また,この分野においてもアメリカ合衆国と日本国とで研究者の層の厚さに大きな相違が存在することを思い知らされる。本書の他の章なども読み進と,おそらく,アメリカ合衆国の経済政策及び国際戦略を背景にしながら,次のミレニアムにおいて,世界の法理論分野におけるアメリカ法曹の優位は否定できず,かつてのリアリズム法学の何倍かの圧倒的な勢いをもってサイバー法が押し寄せてきているということを実感することができるのである。 本書は,主としてアメリカ合衆国におけるサイバー法制論や判例理論をしっかりと踏まえた上で,説得力ある解説とシミュレーションを提供している。情報ネットワークを利用した電子商取引には国境が存在しないのである以上,電子商取引について,日本国の民法・商法だけで対応できないことは明らかだが,そこで事実上優先的に適用される可能性の高いアメリカ合衆国におけるサイバー法の動向を理解することには大きな意味がある。本書は,そのための道標としての役割を十分に果たしているということができよう。 なお,本書では,アメリカ合衆国だけではなく,OECDその他の国際機関の動向も十分に踏まえた記述が展開されており,この分野における問題点が立体的に理解できるようになっている。加えて,本書では,サイバー法分野における基本用語についても丁寧な解説が加えられている。 この分野に興味を持つ者すべてに対して推薦すべきものとして基本図書としたい。 |
§4 情報法
タイトル | 情報政策法 ネットワーク社会の現状と課題 |
著者名 | 木村順吾 |
ISBN | ISBN4-492-76109-8 |
出版社 | 東洋経済新報社 |
出版年月日 | 1999/03/18 |
ページ数 | 280ページ |
価 額 | 3,200円 |
コメント | 情報法領域における最も刺激的な図書の中の1冊である。 目下,情報技術の発展は,人類の技術開発史の上でも比類を見ないほどの高スピードで進展している。これに伴い,とりわけ技術によって支えられているインフラ部分の大規模な変動が継続的に起こっており,それによって社会そのものが根本から変動しつつあるのに,多くの法律学者はそのことを理解できないか,または,認識・理解できたとしても,それに対する対応ができないか,または,説得的な対応を示すことができていないというのが偽らざる実状であろう。 本書もこのような理解を前提に,情報社会というものの本質から深い考察を加え,伝統的な情報通信分野の法にまつわる諸々の議論をきちんと踏まえた上で,極めてシャープな切り口と遠慮のない語り口で,問題の本質を解明しようとしている。 本書は,極めて野心的な研究書であると同時に,情報法分野における新たな,そして,真に信頼できる基本書である。 |
タイトル | 1996年米国電気通信法の解説 - 21世紀情報革命への挑戦 - | |
著者名 | 郵政省郵政研究所 編 | |
ISBN | ISBN4-7857-0762-3 | |
出版社 | 社団法人商事法務研究会 | |
出版年月日 | 1997/01/07 | |
ページ数 | 353ページ | |
価 額 | 5,800円 | |
コメント | この本は,アメリカ合衆国の1996年電気通信法全条文の対訳とその解説を収めた情報法の基本書です。 この法律は,クリントン政権が推進する情報スーパーハイウェイ構想の法的バックボーンとして,鳴り物入りで成立したものですが,アメリカ合衆国憲法修正第1条に規定する「表現の自由」との関係で,世界的な注目を集める結果となりました。というのは,この法律の中の一部(502条)に取り込まれている通信品位法の「下品な」コンテンツに対する規制が憲法違反の判断基準の一つである「明確性の原則」に違反するのではないかとして裁判で争われたからです。 しかし,この法律は,コンテンツ規制に関連する条文だけではなく,広く,今後のネットワーク社会をにらんだ総合的な政策基準を明らかにするものであり,その対訳と解説である本書は,情報法の今後を考える上で非常に重要なものであることは,疑いがないものと思われます。 必読の一冊です。 |
タイトル | インターネットコマース 成功の秘訣と将来への展望 | ||
著者名 | Andrew Dahl, Leslie Lesnick | 吉田 望 監訳 | |
ISBN | ISBN4-8443-4910-4 C3055 | ||
出版社 | 株式会社インプレス | ||
出版年月日 | 1996/10/11 | ||
ページ数 | 369ページ | ||
価 額 | 2,980円 | ||
コメント | 著者は,いずれもネットワーク技術及びコンテンツ作成の専門家です。 この本は,インターネット上の電子商取引の実際を紹介し,電子商取引を安全に遂行するために不可欠な電子認証や電子暗号技術を分かりやすく説明しています。また,かなり実践的な観点から,電子ショッピングをWeb上に開設するための方法に関する説明もなされています。 これだけでもこの本の有用性は大きく,これによってこの本の価値も非常に大きなものとなっているのですが,さらに重要なのは,この本の最後の章で展開されているインターネットコマースの近未来予測の部分だろうと思います。ここでは,もしインターネットコマースが普及するとすれば当然に発生すると思われる様々な社会的コンフリクトが示唆されており,考えるべき方向性も示されています。 また,この本の付録についているURL集とその解説も便利です。 情報法を専攻する方だけではなく,ネットワーク社会に興味を持つすべての人にお勧めします。 |
§5 知的財産権
タイトル | 情報化社会の未来と著作権の役割 [IIP研究論集3] | |
著者名 | パメラ・サミュエルソン Pamela Samuelson | 財団法人知的財産研究所 訳 |
ISBN | ISBN4-7972-5525-0 C3332 | |
出版社 | 信山社 | |
出版年月日 | 1998/02/28 | |
ページ数 | 262ページ | |
価 額 | 6,000円 | |
コメント | この本は,カリフォルニア大学バークレイ校の教授である著者による
The Future of the Information Society and the Role of
Copyright in It の原文と日本語対訳であり,その付録である「文学的及び美術的著作物の保護に関連した特定の問題に関する条約」,「WIPO著作権条約」及び「WIPO著作権条約に関する合意文書」の原文と日本語対訳を収めた本です。 いうまでもなく,現在の情報社会は,国境を超えたグローバルな解決が求められるような法的紛争を多発させており,とりわけ知的財産権の領域ではそのことが顕著です。この問題については,WIPOだけではなく,WTOやUNCITRALなどの国際機関や複数の国家間の協議などの機会に議論され,調整がはかられ続けてきましたが,なお,今後の見通しが鮮明ではありません。実際,各国の経済的利害が露骨にからんだ事項に関しては,単に理想論や法的正義論ではどうにもならないことが少なくなく,その意味で,今後のあるべき法制度あるいは近未来の法状況を見通すこともまた困難な事柄に属しています。 この本では,情報化,互換性,標準化,オープン化,競争原理,著作活動の促進,文化的伝統の尊重等の場合によっては相互に矛盾し合うような要素に慎重に配慮しつつ,この問題に関する一つの見通しを提供しています。また,いわゆる「情報化社会」なるものが神話に過ぎないということを指摘しつつも,現実に存在する情報技術の発展とそれによる社会の変化を過小評価せずに率直な意見が述べられています。著者の見解は,若干楽観主義に偏りすぎているかもしれませんし,「情報政策」との関係で著作権をとらえようとする姿勢には,ある種の抵抗を感ずるかもしれません。しかし,傾聴すべきところが少なくありません。 また,本書の後半に収録されている前記付録は,知的財産権分野の研究に取り組む者にとって極めて有益な優れたものばかりです。必備の1冊として紹介します。 |
§6 情報文化
タイトル | 思想としてのパソコン | |
著者名 | 西垣 通 | |
ISBN | ISBN4-87188-497-X C0010 | |
出版社 | NTT出版株式会社 | |
出版年月日 | 1997/05/20 | |
ページ数 | 298ページ | |
価 額 | 3,300円 | |
コメント | この本は,ヴァネヴァー・ブッシュ,チューリング,リックライダー,エンゲルバート,テッド・ネルソン,テリー・ヴィノグラード,フィリップ・ケオーの代表論文の翻訳をまとめたものです。序章として著者による「思想としてのパソコン」という興味深い一文が付されています。 この本に収録されている論文は,ネットワーク社会ないし情報社会に関するもろもろの議論に興味を持つ人なら,一度は耳にしたことのあるものばかりです。しかし,これらの論文を探し出すのは,実際には必ずしも容易ではなく,また,その翻訳を探し出すことにはもっと多くの努力が要求されます。 周知のとおり,情報社会に関しては,積極的な見解と否定的な見解との間でずっと論争が続いておりますが,現実には,そのような論争を傍目にしながら,どんどん社会の情報化が進んできています。過去約50年間になされた議論を振り返り,何が解決され何が未解決のままなのか,何が実証され何が否定されたのかを考察するための素材集として,この本の持つ価値は非常に大きいと思われます。 是非とも一読をお勧めします。 |
§7 法情報学
タイトル | 法情報学要論 | |
著者名 | 石村 善助,良永 和隆,日高義博,井上 大 | |
ISBN | ISBN4-88125-050-7 C3032 | |
出版社 | 専修大学出版局 | |
出版年月日 | 1991/04/23 | |
ページ数 | 134ページ | |
価 額 | 2,500円 | |
コメント | この本は,現在のところ,「法情報学」という表題を持つおそらく日本で唯一の教科書です。 4名の著名な研究者による共著となっており,内容は,法情報学の概念及び方法論,法情報検索,コンピュータ犯罪,犯罪学における多変量解析の4つの部分に分かれています。前半2つの部分は,法情報学の内容とその手法に関するものであるという意味で総論に相当するものであり,後半2つの部分は,各論に相当する部分だと理解することが可能でしょう。 各論の部分は,執筆者が2名だけであることもあって網羅的なものということができませんが,内容的には現時点でも通用する非常に立派なもので,参考になります。 総論の部分は,法情報学の体系を理論的に構成する論考がほぼこれ以外にないということもありますが,一つの立場を示すものとして,今後,相当長期間にわたって参照されなければならないような内容を含んでいます。法情報学については,さまざまな立場やアプローチが可能なわけですが,法情報というものをさまざまな情報の中の一つとしてとらえること,法情報を情報としてキャッチし,分析すること,法情報の構造・機能を分析すること,これらについては,すべての法情報学者にとって不可欠の構成要素と思われ,そのことを示す内容であるという意味で,今日でもなお大きな重要性を維持し続けている1冊であると評価することができます。 是非とも熟読をお勧めします。 |
タイトル | インターネットで外国法 |
著者名 | 指宿 信 編著 |
ISBN | ISBN4-535-51126-8 |
出版社 | 株式会社日本評論社 |
出版年月日 | 1998/07/25 |
ページ数 | 186ページ |
価 額 | 2,800円 |
コメント | この本は,1996年から1年間にわたり「法学セミナー」誌に連載された同名のシリーズをまとめ,さらに同シリーズでは取り上げられなかった諸国に関する部分を加筆して単行本化したものです。 この本の特徴は,著者指宿信氏の前著『法律学のためのインターネット』をいわば総論的著作とすれば,いわば各論的な著作というべきもので,インターネット上で得られる世界12か国の法情報に関して,その調べ方や特徴などが丁寧に解説されているほか,各国の定番ともいうべき数々のサイトが詳細に紹介されています。 この本を読んで率直に思うことは,仮に日本以外の国の誰かが同様の書籍を著作すると仮定した場合,その中に「日本」という項目が設けられるのだろうか,仮に設けられるとして「定番」となるようなサイトがあると言えるのだろうか,ということです。アメリカ以外の諸国を含め,この本で紹介されている様々な法律サイトのひとつひとつをたんねんに追うにつれ,そのような思いを否定できなくなります。法情報の公開に関するひどい後進国としての日本の将来をどう考えるべきかについても,様々な意味で示唆多い書といえるでしょう。 また,この本の共同執筆者は,いずれも外国法の専門家であると同時にサイバー法の研究者としても知られている方々ばかりで,その記述の信頼性も高いということができます。インターネットによる法情報学の入門としても十分に需要に応える書でもあるので,基本図書として紹介することにします。 |
§8 ホームページ作成
タイトル | 超HTML入門 - HTML, CGI, Java, VRML - | |
著者名 | 私立大学キャンパスシステム研究会 編 | |
ISBN | ISBN4-274-13112-2 | |
出版社 | 株式会社オーム社 | |
出版年月日 | 1997/09/25 | |
ページ数 | 193ページ | |
価 額 | 2,500円 | |
コメント | この本は,これからホームページを作成して情報発信をしてみようと思っている人にとってだけではなく,現在のホームページをさらに魅力的なものにし,より説得力あるホームページをめざしたい人にとっても,非常に分かりやすく,しかも,重要な技術的事項がほぼ網羅的に説明されている解説書です。 この本では,大学のゼミでホームページを立ち上げるということを想定して,ゼミ員が会話をしているところから始まります。ここで登場するゼミ員は,もちろん架空の人物ですが,実は,この本の執筆者達が次々と登場します。内部事情を知っている人には,それも楽しめる事柄の一つですが,この会話それ自体も非常にうまく構成されております。これに続く解説では,インターネットの物理的な仕組みがよく分かるようになっており,将来上級ユーザになろうとする人のための良き道しるべ的な記述も多く含まれています。 実際にホームページを作り出してみると,いろいろとつまらないことで立ち往生してしまうことが少なくありませんが,この本は,インターネットの中に能動的に参加しようとするユーザにとって大きな助けになるガイドブックだと評価することができましょう。 一読をお勧めします。 |
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最終更新日: May/25/2000