コンピュータ2000年問題の法的論点

by 夏井高人


初出:法律のひろば vol.52 no.6 p.4


1 コンピュータ2000年問題の所在と一般的な定義

 一般に,コンピュータ・システムには,時計(クロック)が組み込まれており,その時計によって当該システム内における複雑な電子処理のタイミング合わせがなされている。この内蔵時計は,一定時間の経過を示す電子信号を発生させ続けるだけであるが,このマイクロ秒刻みの電子信号を利用して,年月日計算や時刻計算等の処理がなされる。そして,経理や人事管理のように年月日という要素が処理対象データに直接に含まれるものだけではなく,表面上は年月日処理が必要ではなさそうなものも含め,かなり多くの場合に年月日等の時的要素を用いた電子的処理がなされている。このことは,パソコンのような独立したコンピュータ装置だけではなく,他の機械装置に埋め込まれた電子部品としてのマイクロ・チップ(embedded chip)でも同じである。

 これらの年月日や時刻の計算処理では,桁上り処理が発生することがある。たとえば,金融機関における預金・債権データ処理,国や地方自治体の税金管理処理,企業の人事データ処理,大学の学生在籍データ処理のようなタイプの電子データ処理においては,かなり大きな桁数の年月日処理や時間処理を要することが珍しくない。そして,データの桁数として予め十分に大きな領域が確保されていない限り,10年毎,100年毎,1000年毎に新たに年データの桁上り処理をしなければならない時期が到来する。

 ところで,年データを処理対象とする場合,観念的には,10進数で2桁の領域が準備されていれば100年間の利用に耐えるはずである。しかし,現実には,西暦その他の社会一般で用いられている年計算の基準(暦)に準拠してシステムやプログラムの設計がなされていることが多く,たとえば,西暦1985年に運行開始したシステムでは,初年度の値は「00」ではなく,1985年の下2桁を意味する「85」になる。すると,本来,初期値が「00」であれば1985年からの100年間すなわち2084年まで利用可能であるはずのものが,この例では,「85」から利用開始されるために,わずか15年しか利用できない。なぜなら,西暦2000年にこのデータ領域に入れられる数字は「00」となるのであるが,この「00」が西暦1900年の下2桁なのか西暦2000年の下2桁のいずれを示すものなのかを入力されたデータそれ自体から一義的に確定することができないからである。

 これは,机上の空論ではない。比較的最近まで,コンピュータ装置を構成する電子技術が未熟であり,利用可能なリソースも限られていたことなどから,多くのコンピュータ・システムにおいて,年処理のためのデータ領域が10進数で2桁しか用意されていなかった。このため,現在に至るまでの間に,そのデータ処理に関して何らの修正・補正・交換等もなされていないコンピュータ・システムでは,西暦2000年1月1日の到来または1999年12月31日の経過と同時に,年の桁上り処理に不具合が発生し,それに起因して様々なシステム・トラブルとか人身被害が起きてしまう可能性が指摘されている[1]。俗に「コンピュータ2000年問題」(Year 2000 computer problem : Y2K)と呼ばれているのは,この年データの桁上り処理の失敗に起因する様々なトラブル,そして,そこから派生するさまざまな社会的被害を意味する[2]。これは,「コンピュータ2000年問題」は,単に「2000年問題」と呼ばれることもあるし,西暦2000年がちょうどキリスト教における至福千年すなわち千年期に該当することから「ミレニアム問題」と呼ばれることもある[3]。本稿では,便宜,以下「2000年問題」と呼ぶことにする。

 なお,一般に,2000年問題に含まれる問題としては,西暦2000年1月1日(西暦1999年12月31日の経過)の桁上り問題のほか,現行の暦計算ルール上の400年に1度の閏年問題(西暦2000年には2月29日が存在する。),会計年度としての2000年問題(西暦2000年3月ないし4月に2000年が到来する。)等の問題をも含めて考えるのが通例であり[4],アメリカ合衆国の2000年問題関連法案等でもそのような定義が用いられている[5]。

2 2000年問題対策と現在の状況

 さて,現在,実用に供されている銀行[6],証券[7],クレジットカード,原子力発電を含む電力プラント,鉄道,高速道路等のシステムは,すでに2000年問題処理をクリアしており,西暦2000が到来しても何らの支障なしに業務遂行を続けることが可能であろうと予測されている。たしかに,日本国における2000年問題への対応は,世界と比較して必ずしも低いレベルにあるわけではなく,とりわけ,インフラに属する業種ではテストも含め相当程度高いレベルでの対応がなされている。

 だが,プログラムそれ自体で流通するアプリケーション・ソフトウェアのようにバージョンアップによる対応が可能なものとは異なり[8],自動車その他の機械製品に組み込まれたマイクロ・チップ等については,リコール等によって,そのチップに記録されているプログラムを修正したり,チップそれ自体を交換したりすることが現実には不可能である。

 また,問題のあるプログラムやシステムの修理・交換のための費用を捻出する余力のない企業では,2000年問題の対応をしたくても実施できないことがある。

 さらに,インターネットをはじめとするコンピュータ・ネットワークで相互接続されたシステムでは,当該特定のシステムについてバグの修正とかソフトウェアの交換等の対応を完全に実施したとしても,そのシステムにネットワークで接続された他の未対応システム上で何かトラブルが発生すれば,その余波を受けて,対応済みであったはずのシステムまでダウンしてしまう可能性を皆無にすることができない。

 これらのことから,2000年問題は,先進国首脳会議でも重要な話題として取り上げられ,世界各国が協調して対処すべき課題であるとされた[9]。日本国でも,内閣及び関係各省庁[10]や業界団体等が比較的早い時期から啓蒙活動を始め[11],必要なガイドライン等を提案し[12],あるいは,世界に先駆け,零細な中小企業向けに,プログラムの修正等のための資金支援計画も実施されている[13]

 にもかかわらず,2000年問題は,少なくとも法学の世界では,必ずしもメジャーな話題とはなってこなかった。法学者や弁護士の中で電子技術や情報通信技術に精通している者が非常に少ないという現実を考慮してもなお,このことは,若干奇妙なことであった。ところが,ここ数ヶ月来,新聞記事や法律雑誌等において,2000年問題が取り上げられる機会が多くなってきた。それは,おそらく,西暦1999年が到来し,現実に西暦2000の到来まで1年を切る時期となり,多くの企業において,万が一にでも何かトラブルが発生した場合の法的責任問題への事前検討が極めて現実味を帯びた検討課題となってきていることによるものであろう。また,その背景には,日本の損害保険各社が,2000年問題に起因して発生する損害については「付保しない」との方針を次々と打ち出し[14],会計監査法人[15]を含め,2000年問題に関係しそうな個人,組織,団体等のいずれもが何らの法的責任も負わないように露骨に動き始めたことと無関係ではないようにも思われる。すなわち,日本国では,損害保険を含め,損害・危険の事前分散を合理的に期待することができず,原則として,メーカーやベンダーが自前で2000年問題とそこから派生する様々な法的問題に対処しなければならないのである。

3 日本国法における2000年問題の特殊性の有無

 日本国においては,2000年問題に関連して,いわゆる2000年バグの情報公開に関する法令[16],損害賠償責任の限定や訴訟制限等を含む2000年問題関連の特別法というものが存在しない。また,そのような立法がなされるべしとの機運・政策提言とか強い社会的要請のようなものがあるとも思われない。これらは,いずれも行政指導によってなされてきたのである[17]。したがって,日本国の法律の解釈論において,形式的には,特に「2000年問題」の定義を検討する必要はない。強いて言えば,仮に2000年問題に関連する国家賠償訴訟や行政訴訟が提起された場合には,関連する行政指導や通達等との関係で2000年問題の定義が必要になるという程度のことである。

 他方で,西暦2000年の処理に関連するバグにまつわる法律問題は,民事関係では,不法行為責任,契約上の履行責任,債務不履行責任,製造物責任,瑕疵担保責任その他の一般的な法律問題の中の具体的事例の一つとして出現するであろう[18]。刑事関係でも,業務上過失致死傷事件の中の一類型を構成するのに過ぎない。要するに,2000年問題関連事件は,仮に発生したとしても,そのようなものとして法的に対処することが可能であり,また,対処すべきものでもある。したがって,日本法に関する限り,実質的な意味においても,「2000年問題」の定義を検討する必要はない。

 そして,技術論的な面を重視してみても,2000年問題は,多種多様なものが存在し得るプログラムのバグの中の一つのパターンであるのに過ぎない。ただ,2000年問題は,そのトラブル発生のメカニズムが素人にとっても比較的理解しやすいものであるために,たまたま注目を集めているだけなのかもしれない[19]

 結局,日本法に限定する限り,2000年問題について何か法的な特殊性があるということはできない。たしかに,2000年問題によるトラブルは,もし仮に発生するとすれば複数の原因が競合して発生する可能性があり,そして,これらのいずれもが電子技術や機械工学等の専門家ではない素人にとっては理解し難い事柄であることから,事実的因果関係及び損害の範囲に関する立証に大きな困難がもたらされるかもしれない。しかし,これもまた程度問題であり,同様のことは,工場や鉱山の爆発事故事件,公害事件,医療過誤事件,薬害事件等でも言えることである。

4 2000年関連訴訟で問題となりそうな事項

 2000年問題関連訴訟において議論の対象となりそうな事項について若干触れておく。

@ 2000年問題における因果関係立証の軽減の必要

 複数の異なる部品や機械,ソフトウェア等に含まれる2000年バグがいくつも競合して損害を発生させるような事案においては,その事実的因果関係のすべてを細部まで厳密に主張・立証することは不可能または著しく困難である。その立証の負担を全部被害者に押しつけてしまうことは正義に反すると言えよう。そこで,かかる場合には,いわゆる疫学的手法による因果関係の認定手法[20]を応用するなどし,それらの各部品等に2000年バグが含まれていること,それらの各部品等が結果の発生に対して何らかの関係を持っていること,それらの部品に含まれるバグの競合により当該結果が発生するということが合理的に説明可能であることまでを主張・証明すれば足り,あるいは,これをもって一応の証明ができたものとし[21],そして,個々具体的な部品等が関与していないことは個別の反証のための資料を所持している各被告においてなすべきものと解する解釈論の構成が考えられる。

A 2000年問題における複数関与者間の寄与度に応じた責任分担

 複数の部品や機械,ソフトウェア等に含まれる2000年バグがいくつも関与して損害がを発生させような事案,とりわけ全体としての損害額が巨額に及ぶ事案では,その各部品等の製造者が個別に全部責任を負うと理解するのは,被害者の救済のためには良いかもしれないが,2000年問題の本質的部分が産業政策的な観点を加味した上での社会全体での負担の分配方法にあることを考えると,必ずしも合理的ではなく,実質的な公平にも反する[22]。そこで,かかる事案では,損害賠償責任それ自体は,共同不法行為等として不真性連帯の関係になるが,賠償すべき義務の範囲は,各被告の結果に対する寄与度に応じて限定され,その寄与度を証明するための反証が許されるというような解釈論の構成が考えられる。ただし,この考え方は,現在の民法719条1項の規定には反するので[23],抜本的には立法論として考慮すべきものであり,責任限定を許容する特例法の立法が望まれる。この点で,アメリカ合衆国の関連立法の動きには注目に値する。しかし,純然たる解釈論としても,たとえば,被害者である原告が,自ら当該製品を他に転売して利益を得ているような場合(中間業者等)には,過失相殺の規定の趣旨を転用するなどして寄与度に応じた責任限定を認める解釈論が可能ではないかと思われるのである。

B 2000年問題に関する免責約款の有効性

 一般に,免責約款に関してその効力を一般的に否定する見解は存在しない。しかし,特定のソフトウェア関連製品等のライセンス契約ないし売買契約において,その製品が2000年問題対応であることを明示している場合など品質の保証が明記されており,かつ,実際には品質保証ができないことについて故意・重過失が認められるような場合には,実質的な公平の観点から,2000年問題に関する品質保証に反して発生した損害につき免責約款の効力を否定ないし限定するための解釈論を構成すべきであろう[24]。

C 少額事件への対応

 2000年問題により発生する損害は,一方では驚くべき巨額になるパターンの出現を想定すべきであると同時に,他方では,非常に少額の消費者問題的な様相を示すパターンの出現も想定すべきである。これらへの対応としては,一方では(弁護士にとっても裁判所にとっても)集団訴訟に対する対応・準備が必要であると同時に,他方では(訴訟費用さえ賄うことのできない少額事件にあっては特に)民事調停や民事仲裁の活用を検討・準備すべきである。1997年の民事訴訟法の改正により,現在の簡易裁判所には少額訴訟制度も導入されているが(民訴法368条以下),そもそも訴額の制限が低額過ぎるために利用可能ではない場合が多いと予測されるだけではなく,現在の簡易裁判所の予算,施設及び事件処理能力等を総合的に勘案すると,2000年問題関連少額訴訟の全部を簡易裁判所で処理するのは明らかに不可能である。日弁連及び裁判所の迅速な対応を期待したい[25]。また,裁判外紛争解決手段(ADR)の一層の拡充も期待したい。

5 グローバルな企業展開と法務部等の役割

 2000年問題に何らかの関係を持ちそうな企業では,海外へ事業展開しているところが少なくなく,海外駐在員や現地採用従業員の数も莫大なものとなっている。これら海外事業地は治安状態の良い地域にあるとは限らない。暴動やパニックを起こそうと機会をうかがっている者達にとって,2000年パニックは格好の口実となるに違いない。そのような暴動の発生という事態に対応すべく,アメリカ合衆国各州やカナダ等の諸国では,軍隊の出動を検討し,既に配置済みの国さえある。しかし,数ある国々の中には政情不安定のところもあり,結局,進出企業は,自分で自分の従業員等を守らざるを得ないだろう。そして,暴動発生等の危険を予期・察知しておりながら,何ら有効な対策を講じない場合には,安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことになろう[26]。この場合,適用される法令が現地の法律であることもあり得る。ほかにも,たとえば,製造物責任に関して,日本法では「動産」のみが製造物であるが(製造物責任法2条1項),アメリカ法ではソフトウェアやサービスも「製造物」に含まれるなど,一見同じものように即断しがちな法制度であっても,適用法域によってその法律要件の内容が異なっているという例がある。無論,適用されるべき実体法だけではなく,国際的裁判管轄権も外国の裁判所とされることなども十分に予想される。最悪の場合,日本の企業は,アメリカの裁判所において,2000年問題に関連する巨大なクラス・アクションと何年間にもわたって格闘しなければならないかもしれない[27]

 これらの問題に対応すべく,法令・判例調査等に関し,2000年問題に最初にそして直接に関係する可能性のある企業法務部,法務課その他関連セクションの果たすべき役割・責任は非常に大きい[28]。そして,そのような役割を果たし,必要な職務を円滑に推敲するために,関連諸学の研究者,海外の法令・裁判実務に精通した内外の弁護士等との相互連携も積極的に進められるべきであろう。

6 むすびに代えて

 2000年問題は,基本的には,一般的な法律問題中の一つのパターンに過ぎない。発生するであろう個々の法律問題も,個別に分解し,伝統的な法解釈論の中で解決可能なものが多い。

 しかし,この問題に関係して影響を受けるかもしれない業種ないし職種は,非常に多種多様かつ広範である。また,この問題に起因して発生するかもしれない損害は,予想に反して著しく大きなものとなるかもしれない。そして,1個の出来事が多くの法領域(カテゴリー)にまたがる複雑な法的問題を発生させるであろうことも疑いがない。したがって,2000年問題にまつわる諸々の法的問題は,いわば総合的な問題解決能力を直接に評価するための重要なテストとして立ちはだかっていると認識すべきものであろう。このテストは,企業だけではなく,司法・立法・行政,法律実務家,研究者を含むすべての者にとっても同等のシビアさをもったテストであり,それぞれの問題解決能力を露骨に評定してしまうものとなるのに違いない。

 西暦2000年が到来するまで残り半年余りとなった現在,関係するすべての者において,残された時間の中で対応可能なすべての努力が継続して尽くされるべきである。

[1999年4月28日脱稿]


<脚注>

[1] 時間的要素の処理が常に何かの問題を発生させるというわけではない。たとえば,家庭用の電子レンジでは,1日以上の長時間にわたって食品を温め続けるためのメニュー,そして,そのための時間計算プログラムなど準備する必要はない。ここでは,たかだか60秒×60分程度の要素が処理できれば,ほぼすべての種類の調理に対応可能である。自動的にメンテナンス期間を診断する自己診断装置でも,たいていの場合,1年とか6ヶ月といった比較的短い期間の経過が認識・処理可能であれば足りる。この程度の処理では,桁上り処理の失敗が現実化し問題となることはまずないと言ってよい。

[2] 2000年問題を扱う多数の書籍中でも,エドワード・ヨードン,ジェニファー・ヨードン(武舎広幸,武舎るみ訳)『時限爆弾2000−世界大恐慌を引き起こすコンピュータ2000年問題』(プレンティスホール,1998),公文俊平『緊急提言コンピュータ2000年問題』(NTT出版,1999)は,参考になる。Webサイトとしては,日経BP社による<http://bizit.nikkeibp.co.jp/it/y2k/> が最も詳細なリンク・サイトでである。このほか,多くのメーカーが2000年問題対応情報を提供しているが,日本IBMのサイトである「西暦2000年」<http://www.ibm.co.jp/ad2000/> や富士通のサイトである「2000年問題関連記事」<http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/link/2000.html> からも有益な情報を得ることができる。

[3] 2000年問題を発生させるバグ(プログラム・ミス等)を「ミレニアム・バグ」と呼ぶ例もある。たとえば,カレン・L・ハグバーグ,シェーン・Y・カオ(長谷川俊明訳)「コンピュータ2000年問題の法的課題」金融法務事情1537号15頁がその例である。

[4] 2000年問題と類似する日本国固有の問題として,昭和100年問題の存在が指摘されている。これは,元号が平成に移行した際にプログラムの変更・修正を行わず,しかも,2桁で年処理をしているシステムにおいて平成37年に発生する可能性のある問題である。また,インターネットの基礎をなすunixシステムでは,グリニッジ標準時からの相対値として年月日情報を取得している関係で,2038年1月19日午前3時に年月日処理ができなくなるということである。ちなみに,西暦622年を元年とするイスラム歴,西暦紀元前660年を元年とする皇紀を用いて2桁で年月日処理をしているコンピュータ・システムでも西暦2040年までの間に同様の問題と直面することになる。

[5] アメリカ合衆国における立法動向については,久保田隆「コンピュータ西暦2000年問題を巡るアメリカの法的対応とわが国への示唆」ジュリスト1154号106頁が詳しく紹介している。そこでも引用されているアメリカ合衆国下院法案H.R.775(Year 2000 Readiness and Responsibility Act)のSection 3(13)は,2000年問題関係訴訟の定義として,西暦1999年及び2000年に始期及び終期を持つ日付データの処理の失敗のほか,西暦2000年が閏年であることの処理の失敗等を対象事項とする訴訟と定義している<http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/doc/code/bill-1999-c.htm>。

[6] 全国銀行協会連合会「銀行システムの「西暦2000年問題」への対応状況に関するアンケート調査結果について」<http://www.zenginkyo.or.jp/news/news1.htm>

[7] 日本証券業協会「コンピュータの西暦2000年問題の対応について(理事会決議)」<http://www.jsda.or.jp/html/2000/ketsugi.html>

[8] ただし,理論的に可能であるということと実際に補正がなされるかどうかとは無関係である。たとえば,新バージョンのソフトウェア製品が存在する場合における旧バージョン製品の(とりわけ無償の)補正・交換請求の成否は,必ずしも簡単な法律問題ではない。また,当然のことながら,いわゆる海賊版については正規のバージョンアップや補正等もあり得ないことになるので,そのようなソフトウェアは,2000年バグをかかえたままで,しかも,(おそらく大量に)社会内で流通・放置されているのであろう。

[9] 1998年に開催されたバーミンガム・サミットのコミュニケ25は,「コンピュータが2000年への変化を如何に処理するかに起因する2000年(あるいは千年期)問題は,国際社会に対して,特に,国防,運輸,電気通信,金融サービス,エネルギー及び環境各セクターにおいて,甚大な影響をもたらす重要な課題となっており,また,我々は,あるセクターは他のセクターに死活的に依存していることに留意した。我々は,更なる緊急の行動をとり,短期的かつより長期的に混乱の予防に資する情報を,我々自身の間で及び他の諸国と共に共有することに合意した。(以下略)」としている。

[10] 日本国の政府関係の情報サイトとしては,内閣の「コンピュータ西暦2000年問題」<http://www.kantei.go.jp/jp/pc2000/> があるほか,関係各省庁も関連情報をWeb上で提供している。

[11] 全省庁参加の「コンピュータ西暦2000年問題関係省庁連絡会議」が設置されたのは,1997年12月である。もっと早くから対応できたのではないかとの批判もあり得ようが,しかし,他の諸国における対応と比較しても必ずしも遅いわけではない。

[12] 日本国の政府は,2000年問題に対応すべく,1998 年9月には「コンピュータ西暦2000年問題に関する行動計画」<http://www.kantei.go.jp/jp/pc2000/980911action.html>を,1999年4月には「[コンピュータ西暦2000年問題]企業のための危機管理計画策定の手引き」<http://www.kantei.go.jp/jp/pc2000/990409kikikanri.pdf>をそれぞれ公表している。

[13] 中小企業庁平成11年2月1日『「コンピュータ西暦2000年問題」対応のための新しい中小企業支援策のご案内』

[14] J&H Marsh & McLennan Japan Ltd.「Y2K/損害保険」毎日新聞社主催コンピュータ2000年問題シンポジウム資料

[15] 日本公認会計士協会監査委員会報告59号「コンピュータ西暦2000年問題に係る監査人としての対応について」<http://www.jicpa.or.jp/n_topics/index.html>が参考になる。

[16] アメリカ合衆国では,1998年に「Year 2000 Information and Readiness Disclosure Act(IRDA)」が成立した。<http://www.glocom.ac.jp/proj/y2k/y2kbill.html>

[17] アメリカ合衆国においてさえ,2000年問題について,新規立法のみで対応することには限界があることから,政府機関による行政指導的な対応も目立って増えてきていることは,注目すべきことである。

[18] 2000年問題に関連する日本法上の法的責任に関して,これまでに公表された研究成果では,飯田耕一郎「2000年問題の法的責任」NBL656号44頁,658号19頁,659号20頁,660号38頁,玉上信明「「コンピュータ西暦2000年問題」と金融法務」銀行法務21 559号12頁,情報サービス産業協会2000年問題委員会「西暦2000年問題法的問題Q&A」等が参考になる。Web上のものとしては,日野修男「2000年問題における法的責任」<http://www.pc.mycom.co.jp/pcwork/column/security023.htm>が非常に有益である。

[19] Mervyn E. Bennun, 'Computers, Artificial Intelligence and the Law', 1991, Ellis Horwoodは,巡航ミサイルなどの兵器にも組み込まれている人工知能プログラムのバグに基づく推論トラブルによって人身被害その他の損害が発生した場合の法的責任について論じている。このタイプの問題は,もし万が一にも発生するとすれば,それこそ2000年問題どころではない大きな災禍をもたらし得るものではあるが,一般人にとっては問題の所在それ自体が理解しにくいため,話題の一つにさえならない。

[20] 名古屋高裁金沢支部昭和47年8月9日判決・判時674号25頁

[21] 中野貞一郎『過失の推認』(弘文堂,1978)1頁以下

[22] 交通事故と医療過誤の競合の場合に関してであるが,稲垣喬『医療過誤訴訟の理論』(日本評論社,1985)105頁以下が参考になる。

[23] 損害額の認定それ自体について,権利等の寄与度を考慮することができるとするのが判例である。たとえば,最高裁昭和52年3月25日判決・裁集民120号329頁,東京地裁平成7年10月30日判決・判時1560号24頁等がある。しかし,加害者の寄与度は,加害者毎に分担すべき損害額を減額する要素にはならず,加害者相互間の求償割合に過ぎないと解するのが通説・判例である。たとえば,仙台高裁昭和60年4月24日判決判タ567号195頁等がそうである。

[24] 吉田正夫「コンピュータ2000年問題−想定される法的問題とその対応」毎日新聞社主催コンピュータ2000年問題シンポジウム資料

[25] 一般に,ほぼあらゆる出来事について,日本はアメリカの数年後を歩んでいると言われており,銀行倒産や消費者破産関連の法的問題の処理を見ていると,たしかにそのように感ずることがある。実際,現在の裁判所は,激増する個人自己破産事件への対応に忙殺されているようである。もしそうであるとすれば,数年ずつずれながらも先行するアメリカ合衆国の様子を見て対応をしていけばどうにか持ちこたえることができそうである。ところが,2000年問題だけは,破産事件処理の波が落ち着いた後にやってくるのではない。アメリカ合衆国その他の国々で発生するのと同時に競合してやってくるのである。すなわち,破産事件処理の波と2000年問題関連事件処理の波とが競合し,いわば津波のようになって怒濤のごとき大量の事件処理未済滞留状態が発生するかもしれない。

[26] 関連する問題につき判示する裁判例として,最高裁昭和56年10月16日判決・民集35巻7号1224頁,横浜地裁横須賀支部平成6年3月14日判決・判時1522号117頁がある。

[27] 前掲H.R.775をはじめとする連邦及び各州の2000年問題対策法及び法案の多くは,クラス・アクションの制限や損害賠償額の限定に関する規定を持っている。しかし,他方では,このような制限については,裁判を受ける権利を侵害するものとして違法であるとの主張もまた強く唱えられつつあると報道されており,今後の立法及び憲法訴訟の動向が注目される。

[28] いわば,グローバル経済の時代には,法的問題の発生及びその解決もグローバルなものとならざるを得ない。そして,ネットワーク社会においては,電子の転送速度と同じくらいの速さをもって,かつ,問題解決のためのブレーンのネットワークを合理的に形成しつつ,必要な対応をしなければならない。しかし,これらのハードルは,乗り越えていかなければならないハードルである。


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Last Modified : Jul/05/1999