サイバー法研究会の概要

(文責)研究会代表  夏 井 高 人


初出:判例タイムズ984号71頁


 インターネットを中心とするサイバー・スペースにおいては,立法分野及び司法分野を含め,新たな法現象が次から次へと,しかも常に大規模な社会的変化を誘発させながら生起しつつある。これに伴い,伝統的な法のジャンルだけでは対処できないサイバー・スペースにおける法すなわち「サイバー法」の重要性も著しく増大し続けている。

 このような環境変化と時代の要請に鑑み,19986月,非営利かつボランティア・ベースの学術研究団体として,サイバー法研究会が発足した。

 この研究会は,会員相互のバーチャル・ベースの討論・研究を通じて,サイバー・スペースにおける法的問題を発見・検討・考究し,その成果をネットワークを通じて広く公開し,サイバー法に関する情報提供を積極的に推進し,これらの活動を通じて,サイバー法に関連する知識の普及を図るとともに,サイバー法に関する事項についての興味関心と問題意識の喚起を図ることを主たる活動目的としている。

 この活動目的を実現するために,代表者が所属する明治大学のサーバ上にサイバー法研究会のメイン・ホームページが設置・公開されている。このホームページは,研究会会員各自のホームページにある豊富なコンテンツと密接にリンクして構成されたものである。たとえば,文献目録は岡村久道会員の所有するサーバ上に本体があり,これとサイバー法研究会ホームページ及び各会員の個別ページとが相互リンクする構造となっている。さらに,研究会での討議や意見交換は,原則として,電子メールとりわけメーリング・リストを用いた電子的なものとなっている。このメーリング・リスト上の討論履歴は,研究会ホームページ内に保存されており,会員であればいつでも閲覧できる状態にある。加えて,研究会の研究活動の過程で集められた素材や資料等は,研究会ホームページ上で一般に公開され,研究会の会員であると否とを問わず,広く研究素材として自由に活用できるようになっている。これらの点において,バーチャル・ベースで共同して研究を進めるという研究会の基本方針が徐々に実現されつつある。

 研究会では,目下,2つの種類の研究を進めている。一つは,サイバー・スペースに関連する海外の判例の紹介である。これは,海外の判決文の翻訳とその解説文の執筆を分担して行い,メーリング・リストを用いて研究会としての分析・検討を加えた上で,順次,判例タイムズ誌上で公表していこうというものである。目下,平野晋会員及び相良紀子会員が中心となって鋭意作業を進めており,研究会の最初の成果として間もなく公表できる見込みである。もう一つは,サイバー法関係の文献目録の作成である。これは,デジタルのものも印刷されたものも含め,サイバー法に関する文献のデータベースを作成し,インターネット上で自由に利用できるようにするという計画である。現在,岡村久道会員が中心となって,会員のサイバー法関係の業績目録からはじめて,ジャンル別に整理された文献目録を順次整備しつつある。

 他方,研究会では,デジタル・ベースのものだけではなく,紙ベースでも積極的に研究成果を公表すべく複数の企画が進行中である。たとえば,目下,サイバー法関係の論文集を定期的に編集・刊行すべく鋭意準備中である。これは,会員各自の研究成果の発表の場とすることを主たる目的としているが,会員以外の研究者の執筆・投稿も含め,今後,これを発展させていきたいと考えている。

 サイバー法研究会の概要は,以上のとおりである。発足後間もないとはいえ,すでに,公開されたホームページを持つサイバー法関連の本格的な研究会としては,その会員の陣容,研究内容,基本的な研究方法,今後の研究計画及び予想される研究成果ともに,すでに日本でもトップ・クラスの学術研究団体となっていると自負する。今後,サイバー法研究会の存在及びその研究成果がサイバー法に対する興味・関心を増大させるきっかけとなり,そして,来るべき21世紀のネットワーク社会へ向けて,本来あるべき法の研究と法の実践とが明確に認識され,真になされるべきことが着実になされるようになることを期待したい。