技術的連続性の有無を基準とする分類 (伝統的なイノベーション分類)
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イノベーションによる企業の存続・非存続を基準とする分類 (クリステンセン独自のイノベーション分類)
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先行の有力企業も成功 ← → 先行の有力企業が失敗 | |||
持続的イノベーション (sustaining innovation) 対応可能なイノベーション |
破壊的イノベーション (disruptive innovation) 対応困難なイノベーション |
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技術的 |
抜本的イノベーション (radical innovation) 従来の技術と抜本的に 異なる不連続な 技術革新 |
[HDDの読み取りヘッドに関するイノベーション] HDDのフェライトヘッド技術→薄膜ヘッド技術 HDDの薄膜ヘッド技術→MRヘッド技術 |
ケーブル式掘削機→油圧式掘削機 メインフレーム技術→ミニコン技術 ミニコン技術→デスクトップ・パソコン技術 ガソリン自動車技術→電気自動車技術 高炉技術→ミニミル技術(電炉技術) コピーセンター向け普通紙コピー機技術 →小型卓上コピー機技術 |
漸進的イノベーション (incremental innovation) 従来的技術の延長線上 にある改良型の 技術革新 |
[HDDのアーキテクチャに関するイノベーション] 14inchHDD→8inchHDD 8inchHDD→5.25inchHDD 5.25inchHDD→3.5inchHDD |
破壊的イノベーションは自らの成長に適した市場を
新規に「発見」または「創造」する必要がある
破壊的イノベーションはその誕生期においては上位市場で通用するほどの性能をもたないことが多い。そのため破壊的イノベーションは自らの再生産のための社会的認知や、自らの改良=改善を目的とした連続的イノベーションの持続に必要な資金を「稼ぐ」ための市場をどこかで「発見」する必要がある。
既存技術は上位市場により適応するための連続的イノベーションの
結果として、下位市場での技術競争力を低下させる
破壊的イノベーションは一般には既存技術よりもコスト競争力が高い。その一方で上位市場で主流となっている既存技術は、上位市場への「適応」を高めれば高めるほど、それによって製造される製品に高い利益率が要求する。そのため既存技術は、上位市場に対応するための連続的イノベーションを持続すればするほど、確保可能な利益率が小さい下位市場におけるコスト競争力を低下させる。
コスト競争力の高い破壊的イノベーションは下位市場における既存技術との競争を
通じてS字カーブ的に自らの技術的競争力を高める
その結果として、そうした既存技術に比べて相対的にコスト競争力の高い破壊的イノベーションは、まず下位市場で既存技術との競争を開始することになる。下位市場での既存技術との競争を通じて、操作性の改善、性能改良、信頼性の向上などを目的とした連続的イノベーションをおこなうことで、破壊的イノベーションは上位市場でも既存技術と対抗できるだけの技術的競争力を身につけることになる。
[出典]クリステンセン(伊豆原弓訳)『イノベーションのジレンマ ---- 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社,2001,p.10
組織の能力は一方では組織の無能力を意味する・・・組織ネットワークと技術システムの「一対一」的対応
クリステンセンによれば、技術システムを管理する組織ネットワークをネットワークたらしめているものがValue Networkである。すなわち、Value
Networkという一群の価値意識によって組織ネットワークは支配されている。そのため、あるValue
Networkに適さないイノベーションは組織的に排除され、実現されない。特に組織ネットワークが能力の高いマネージャーによって合理的に管理されていればいるほど、新しい破壊的イノベーションが組織内の個人から提案されたとしても、そのValue
Networkと矛盾する限り受け入れられないことになる。
クリステンセンによれば、破壊的技術が既存企業で最初に開発されることも多いが、マーケティング部門や主要顧客の反対によって既存企業はそうした破壊的技術への技術投資を継続しないという決定を下すのである。[クリステンセン『イノベーションのジレンマ』翔泳社,p.76]
技術システムの管理に最適化された組織的ネットワークは、異なるValue Networkによって最適に管理可能な技術システムの管理には失敗する。すなわち次世代の破壊的イノベーションは、既存の主流のValue
Networkによって成功の見込みがないとされるイノベーションの中から登場することになる。
このようにクリステンセンの理論的前提は、ある技術システムを合理的に管理可能な組織的ネットワークは一つに限られるというものである。一つの組織ネットワークが、二つの異なるValue
Networkに適した技術システムを同時に管理することはできないのである。
クリステンセンのValue Network理論は、クーンのパラダイム論と極めて似た論理構造を持っている。異なるValue Networkは互いに共約不可能なのである。その両者の対応関係は図式的には下記のように露わすことができる。
クーンの パラダイム論 |
パラダイム | 科学革命 (異なるパラダイムへの 非連続的=非累積的発展) |
通常科学 (同一パラダイムの中での 連続的=累積的発展) |
↑ ↓ |
↑ ↓ |
↑ ↓ |
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クリステンセンの Value Network論 |
Value Network | 破壊的イノベーション | 持続的イノベーション |