講義展開における方法論的視座
--- 講義における議論展開で前提しているモノの見方・考え方
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「なぜ、授業で歴史的事実というデータをこまかく教えるのか?」「なぜ、授業でコンピュータの構造に関する事実というデータをこまかく教えるのか?」という疑問を持つ人もいるかと思いますが、学問的考察は下記のように「データから出発して、データに帰る」ということを何度も繰り返すことが基本です。
すなわち、「データに基づいて理論的仮説を立てる」ことからはじめて、次に「その理論的仮説がどの程度まで正しいのか、あるいはまったく誤っているのかをデータに基づいて判断する」ということを無限に繰り返すことで正しい科学的理論を形成することができます。(「データから理論へ」の上向過程と、「理論からデータへ」の下向過程という二つのプロセスの無限循環が学問的営みです。)
経営科学の授業では、「企業がどのような技術戦略をとっているのか?」ということに関してデータに基づいて解明する(データから技術戦略という構造を仮説的に導き出す)とともに、「どのような戦略がどのような状況の下で有効なのか、あるいは無効なのか」ということに関する理論的仮説をデータに基づいて検証するということを行う予定です。
I.<データ>から<構造>へ・・・データ←→一次的連関←→構造
(1)諸データの形成(歴史+現状に関する生データ)
ex.天体観測データ
物体の運動に関するデータ
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(2)諸データ間の1次的連関の生成(生データの分類など、生データ間の類似度や親近度などによる区分)
ex.1 「恒星」(fixed stars)・「惑星」(planet)・「太陽」・「月」(地球の衛星)・「彗星」という天体間の分類、および、恒星間の1次的連関としての「星座」
ex.2 「抵抗を受ける運動」と「抵抗のない運動」の区別
理想化された運動としての「抵抗のない運動」・・・その具体的な現象形態としての、「放物線」運動」、「投げ上げ」運動、「自由落下」(初速度ゼロの自由落下、初速度がある自由落下)
運動
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(3)1次的連関の中の存在的諸構造の発見(1次的構造=データとしての構造)
ex.1 地動説による太陽系の構造
(公転=公転面の存在、および、公転半径に関する水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星という順番の惑星)
ex.2 初速度ゼロの自由落下運動に関するガリレオの法則s=1/2gt2
上記で注意すべきポイント[実際には上記のような単線的流れではなく、下記のように循環的構造が存在する]
(1)と(2)の間の循環的作業[(1)→(2)→(1)→(2)→(1)・・・]によるデータおよび1次的連関の相互的生成
(2)と(3)の間の循環的作業[(2)→(3)→(2)→(3)→(2)・・・]による1次的連関および構造の相互的生成
II.<構造>から<理論>へ
(1)存在的諸構造の間の連関や構造(2次的連関、2次的構造)=データとしての連関・構造
ex.1 ケプラーの三法則
- 「惑星の公転軌道は太陽を一つの焦点とする楕円軌道である」(まず最初にケプラーは火星の公転軌道の観測データからこのことを導出した)
- 「惑星の面積速度の値は時間的に変動しない」(面積速度一定の法則、ケプラーは各惑星の公転軌道に関する観測データからこのことを導出した)
- 「惑星の公転周期の2乗と軌道半径の3乗の比は太陽系内の惑星に関して同じ値となる」(ケプラーは太陽系内の惑星の公転周期と公転半径の値に関する観測データからこのことを導出した)
ex.2 X=X0+V0t+1/2gt2
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(2)連関や構造から理論の「発見法」的導出
ex.1 ケプラーの第三法則と遠心力に関する公式F=mrω2という二つの事柄から、「万有引力が距離の二乗に反比例する」ということが歴史的には導かれた。
ex.2 ガリレオの自由落下の法則X=1/2gt2より、速度V=dX/dt=gtということが微分により導出できる。次に、V=gtということから、自由落下する物体の加速度の大きさがa=dV/dt=gであることが微分により導出できる。すなわち、地表面における地球の重力加速度がgであることが、ガリレオの自由落下の法則X=1/2gt2という構造的データから理論的に導出できるのである。
III.<理論>による<データ>や<構造>の説明・予測
理論に基づく連関や構造の説明・予測
ex.1ニュートン力学理論(慣性の法則、F=ma、作用反作用の法則)による、「天体の運動」と「地上の物体の運動」の統一的説明
リンゴの放物線運動(自由落下運動と水平運動の合成運動としての放物線運動)と、地球を中心とした月の回転運動(地球中心に向かっての自由落下運動と水平運動との合成運動としての回転運動)との間に成り立つアナロジー