- 20世紀中頃における<科学技術計算>ニーズ vs <事務計算>ニーズに対応するコンピュータの開発 ---- 科学技術計算用計算機 vs 事務計算用計算
初期のコンピューターでは、科学技術計算用と事務計算用とで演算処理装置に関わる技術的性能の限界のためその設計を変える必要があった。科学技術計算用コンピュータでは浮動小数点演算の高速化に、事務計算用コンピュータでは整数演算の高速化に重点を置いた設計がなされていた。
こうした区別が相対的にさほど問題にされなくなるのは、論理素子にICを用いた第3世代コンピュータ以後の時期である。第三世代コンピュータでは科学技術計算用にも事務計算用にもそれなりに対応した演算処理装置の設計が可能になったのである。科学技術計算用にも事務計算用にも強いコンピュータということを売り物にして販売されたのが、IBM社の「汎用」計算機IBM360であった。
- 現代のスパコンにおける浮動小数点演算速度を重視したコンピュータ技術の開発
現代でも、気象予報や製品のシミュレーションなど特に高度な科学技術計算においては浮動小数点演算能力がより高い機種が求められる。そうした社会的ニーズに対応するコンピュータがスーパーコンピューターである。
- ゲーム専用機における浮動小数点演算速度を重視したコンピュータ技術の開発
画像や音声などのマルチメディア処理が重視される現代のゲーム専用機においては、整数演算能力を重視するのか、それとも浮動小数点演算能力を重視するのかといった演算処理装置の設計に関わる技術的戦略的な判断が問題になる。20世紀中頃と同じく現代においても、整数演算と浮動小数点演算に対しては相対的に独立な技術開発が必要とされる。そのためインテル社のマイクロプロセッサーでは、ワープロなどのアプリケーションを快適に動かすために必要とされる整数演算能力の確保と、マルチメディア処理能力の向上を両立させるために、マルチメディア処理用にはSSEやSSE2といったそれ専用の命令を実装する設計をおこなっている。またPentium4ではPentium3よりも浮動小数点演算能力を重視した設計になっている。
またグラフィック処理性能の向上を特に重視するゲーム機用のマイクロプロセッサーでは、SONYの「プレイステーション」用の演算処理装置Emotion Engine(SCEと東芝の共同開発)に見られるように、整数演算能力の向上よりも浮動小数点演算能力の向上に重点を置いた技術的設計がなされている。実際、Emotion
Engineの整数演算能力はPentiumVに劣るが、浮動小数点演算では動作周波数300MHzで6.2GFLOPSに達するなどPentiumVよりも優れたものとなるように設計されているのである。
- GPU(graphics processing unit,グラフィックス・アクセラレータ用プロセッサ)における浮動小数点演算速度を重視したコンピュータ技術の開発
ゲーム専用機では一つのマイクロプロセッサーでデータ処理が行われる設計になっているのに対して、パソコンでは大量の浮動小数点計算を高速に処理することが求められる三次元のカラー動画像処理などをパソコン本体のマイクロプロセッサーに代わって処理するGPU(graphics
processing unit,グラフィックス・アクセラレータ用プロセッサ)を使用する設計になっている。
これにより、パソコン・ゲームやCADソフトなどにおいて3次元のカラー動画像データを高速に処理できるようになっている。このGPU市場で65%とおおきなシェアを占めているのがnVIDIA社である。(「米IT新たな旗手(3)
---- エヌビディア、GPUで高成長――インテルに挑む」『日経産業新聞』2003年6月6日参照)
- マイクロプロセッサーの開発における整数演算処理と浮動小数点演算処理に対応する技術開発
- アップル社の「世界で初めて64ビットプロセッサを搭載した」パソコンPower MacG5の比較広告におけるパフォーマンステストの意味
Power MacG5というパソコンで使用されているマイクロプロセッサPowerPC G5(駆動周波数2GHz)は、インテル社のXeonプロセッサ(駆動周波数3.06GHz)やPentium4(駆動周波数3GHz)との性能比較において、デュアルプロセッサ構成においては整数演算能力においてはほぼ同じであるが、浮動小数点演算能力ではかなり上回っている。(ただしシングルプロセッサ構成においては、SPECint_base2000というベンチマークテストによる整数演算能力はPowerPCG5の800に対して、Xeonプロセッサ(駆動周波数3.06GHz)は836、Pentium4(駆動周波数3GHz)は889という値であり、PowerPCG5は少し劣っている。SPECfp_base2000というベンチマークテストによる浮動小数点演算能力はPowerPCG5の840に対して、Xeonプロセッサ(駆動周波数3.06GHz)は646、Pentium4(駆動周波数3GHz)は693という値であり、PowerPCG5がかなり優れた値となっている。)
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シングルプロセッサ・テスト |
デュアルプロセッサ・テスト |
整数演算能力
SPEC int_base2000 |
浮動小数点演算能力
SPEC fp_base2000 |
整数演算能力
SPEC int_rate_base2000 |
浮動小数点演算能力
SPEC fp_rate_base2000 |
PowerPC G5(駆動周波数2GHz) |
800(0.900) |
840(1.21) |
17.2(1.67) |
15.7(1.9) |
Xeonプロセッサ(駆動周波数3.06GHz) |
836(0.940) |
646(0.93) |
16.7(1.62) |
11.1(1.4) |
Pentium4(駆動周波数3GHz) |
889(1.00) |
693(1.00) |
10.3(1.0) |
8.1(1.0) |
http://www.apple.co.jp/powermac/pdfs/PowerMacG5_Perf_WP.pdf・・・詳細な説明
http://www.apple.co.jp/powermac/performance.html
・・・簡略な説明