PIVのピークロッキング

PIVでは、受光系によって粒子画像をハードウェア的に取得したのち、次段階としてその画像をソフトウェア的に解析し、粒子(群)移動量を算出する。このとき、画像における粒子径やCCD素子の開口比、速度勾配などに依存した誤差を生ずる。そこで、誤差の定性的・定量的性質を調べるために、粒子疑似画像を用いたモンテカルロ・シミュレーションによる精度評価を行ない、得られる粒子移動量に含まれるバイアス誤差および偶然誤差を推定した。


1.疑似粒子画像の作成

疑似粒子画像における粒子の輝度分布は正規分布を仮定し、以下の方法で作成した。物理座標系(x, y)の点(xc, yc)を中心とする呼び粒径の粒子輝度Iを次式で仮定する。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・(1)

ここで、である。この粒子をCCD素子に結像したとき、ピクセル座標 (i, j)における画素輝度は

 ・・・・・・・・・・・・・・・・(2)

ここで、F f をCCD素子の画素開口率 (Fill Factor)とする。なお、Ff=0は開口非無限小、すなわち画素の大きさが点であるものとする。疑似粒子画像を作成するにあたり、粒子位置(xc, yc)を乱数で与え、式(2)より得られる輝度分布を粒子個数分重ね合わせる。図1は種々のおよびFfにおける疑似画像の例である。


図1 粒子像

2.粒子群移動距離の推定におけるサブピクセル誤差

粒子群移動距離を相互相関法で推定する際に発生する推定誤差を明らかにする。ここでは、2画像の相関関数の極大値を中心としてx方向3点、y方向3点に正規分布を当てはめ、1ピクセル以下の精度(サブピクセル精度)で移動量を推定する。

(1) 粒子径に依存する誤差


図2 推定された移動量の平均値、標準偏差;粒子径による影響;ρ=10, Ff=0.6, s=0

図2は、与えた移動量に対する推定された移動量の平均値および標準偏差を示している。ここで、与えた移動量は2.0画素から0.1画素ごとに2.9画素までの10条件としたが、図中の横軸は2.0を差し引いた値を表示してある。各移動量・条件における疑似画像の大きさは512画素×512画素で、x,y方向に16画素間隔で算出した。相互相関法のパラメータである解析領域サイズは32画素×32画素、探索領域サイズは粒子移動距離以上の大きさに設定した。粒子密度ρ、すなわち、相互相関法における解析領域サイズ内の粒子個数はr=10とした。開口比はFf=0.6とした。呼び粒径=1および2では、推定された移動距離は与えた移動距離に対してS字を描くようにバイアスしており、その傾向は粒子径が小さくなるほど顕著である。=3で線形性は極めて高く(最大偏差0.02画素)、標準偏差も極めて小さい(最大0.01画素)。

(2) 開口比に依存する誤差
 図3は呼び粒径=1における推定移動量の変化を各開口比Ffについて表したものである。他のパラメータは図2で示したものと同じである。開口比Ffが大きくなるほどS字バイアスは軽減され、その標準偏差も減少する。市販されている一般的なCCDカメラの開口比は0.2程度であるが、受光セルにレンズを取り付け実質的な開口比を高めたカメラ(開口比0.6程度)を用いることが精度の向上につながる。


 

図3 推定された移動量の平均値、標準偏差; 開口比による影響;ρ=10,=2, s=0.

(3) 粒子画像のせん断変形に依存する誤差
流体のせん断変形に伴い、粒子画像が2時刻間でせん断変形することによる推定移動量に誤差を生ずる。ここでは、疑似粒子画像に図4に示されるようなせん断を与え、推定移動量を算出した(図5)。せん断率sが増加するに伴って推定移動量は少なく見積もられ、標準偏差も大きくなる。この結果から、s=0.05以下程度とすることが望ましいといえる。

図4 せん断率sの定義

図5 推定された移動量の平均値、標準偏差;  せん断による影響;ρ=10, Ff=0.6,=4.0.

(4) 粒子数密度に依存する誤差
図6は各粒子密度ρにおける推定移動量の変化を示したものである。ここで、=2、Ff =0.6、s =0である。平均移動量のバイアス誤差はρ に依存しないが、標準偏差はρ の増加に伴い減少する。相関法では解析領域における複数の粒子の推定移動距離を平均化することで精度を高めており、粒子が多いほど精度が向上する。図7に推定移動量の標準偏差の粒子数密度に対する変化を示す。推定移動量の標準偏差はρ^(-1/2)にほぼ比例している。このことは、標本数Nの平均値の標準偏差がN^(-1/2)に比例することから推測される結果である。



図6 推定された移動量の平均値、標準偏差; 粒子数密度による影響; Ff=0.6,=2.0, s=0.



図7 推定された移動量の標準偏差; 粒子数密度に対する変化; Ff=0.0,=2.0, s=0, Given Displacement=0.5.

3.ピークロッキング

図2に示したように、真の粒子移動量に対して計測される移動量は線形とはならず、整数移動量に偏るようにバイアスする。そのため、速度の確率密度分布(あるいはヒストグラム)もそれに応じて変異する。図7(a)は、円管内乱流を2成分PIVで計測し、全域にわたる速度ベクトルの管軸方向成分のヒストグラムを、粒子像の拡大図とともに示したものである。 本来はスムースな釣鐘状の形状となるべきところが、整数移動量にピークをもつ鋸刃状になっている。これはピークロッキングと呼ばれており、PIV計測におけるバイアス誤差として測定結果から容易に知ることができる。図2に示したように、バイアス誤差は粒子像径に依存するので、レンズのF値を上げて回折によって粒子像径を大きくした場合のヒストグラムを図7(b)に示す。明らかにピークロッキングが軽減されている。

図8 粒子移動量のヒストグラムと粒子像