インターネットによる情報化の今後の方向
明治大学 阪井和男
sakai@isc.meiji.ac.jp
http://www.isc.meiji.ac.jp/~sakai/
インターネットによる情報化の進展は、どんな社会を実現しようとし、組織に対してどんな影響をもつのか。その意味を生物とのアナロジーで位置づけ、イントラネットシステムが果たす役割と考慮すべき点について考察する。
1. インターネット社会の意味
インターネットはよく高速道路のアナロジーがとられるが、道路とは工業社会におけるインフラでありその上に物流システムが発達し工業社会を支えていたものである。ここでは道路網を生物における循環系と対比しつつ、循環系発生の必然性から生物消費エネルギーの飛躍的増大とその意味を考え、神経系の発生による生物進化の質的変化からインターネットの意味を推測する。さらに、イントラネットが協調的な活動をになう基盤となるための要件を検討し、標準化の重要性と社会システムとしての支援体制・制度の重要性を議論し、情報化が社会に浸透するシナリオを提示する。
ゴア副大統領の情報スーパーハイウェイ構想以来インターネットを高速道路にたとえることが多いが、本報告では生物における神経系とのアナロジーを採用する[大岩他、1996、pp.
60-63]。 高等生物にとって重要な系統は (1)循環系 (2)神経系――の二つである。インターネットを神経系にたとえるとすると、現実の社会のシステム要素の何が循環系に相当するのだろうか。循環系の機能とは栄養素や酸素などを体の隅々まで運搬することだから、これに相当するシステム要素は「物流システム」といえそうである。物流システムは、インフラとしての道路網上でトラックなどが原料や工業製品を運搬する。ちょうど生物における循環系に相当する機能を工業社会における物流システムが果たしている。
生物と社会システムの対応
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生物
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システム要素
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社会
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循環系
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物流システム
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工業社会
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神経系
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インターネット
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情報社会
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まず物流システムが社会に与える影響を検討しておこう。物流システムは高度に発達したシステムとなっている。貨物列車、自動車、船舶、航空貨物などと種類も多いなかで、特に自動車による物流は高速道路の充実に伴って日本の高度成長を支える立役者であった。
物流システムに支えられた工業社会を、そもそも社会を形成していない場合と定量的に比較する方法があるだろうか。この問いに生物学の立場から答えたのが本川達雄氏[本川、1992、第3章・第8章]である。まず工業社会における一人当たりのエネルギー消費を評価し、人間の標準代謝量と比較しよう。石油や石炭など1次エネルギーの日本での需要は5,129億ワット(1986年)であった。1億2千万人の人口で割って国民一人当たりのエネルギー消費になおすと4,274ワットになる。これを人間の標準代謝量と比べるとなんと約63倍にもなる。ここで標準代謝量とは、個体が生命を維持していくのに必要な基本的なエネルギーのことで、絶食させて暑くもなく寒くもない状態で安静にしているときのエネルギー消費量に相当する。
日本人のエネルギー消費量が、他の恒温動物や人間が個体として生きていくのに比べて一桁大きいということは「現代人という生き物が、他の動物とは質的に違った生き物になったことを意味するのではないだろうか」[本川、1992、第3章・第8章]。ちなみに国民一人当たりのエネルギー消費量を、生物に広く適用できる標準代謝量対生物サイズのグラフに当てはめると4.3トン、つまりゾウのサイズになる。人間は工業社会を構成することによって、生物学的な個体としてのエネルギー消費より一桁大きい消費を行う別種の存在になっているのである。
生物においてエネルギー消費が一桁大きくなるのは、単細胞生物から多細胞生物へ、変温動物から恒温動物へという進化上の大ジャンプを起こすときである。これを循環系の発生を例に説明しよう。サイズが小さければ肺も心臓も必要ではない。栄養素や酸素も拡散によって体中に行き渡らせることができる。しかしサイズが大きくなると拡散だけでは不十分になる。このため生物はサイズを飛躍的に大きくするために、体液をかき回し循環させる循環系を発達させる必要があったのである。これを物流システムにたとえると、ちょうど生物進化の過程で循環系が生まれ発達してきたように、工業社会を発達させるために循環系としての物流システムの発展が不可欠であったといえよう。
それでは神経系としてのインターネットがもたらす情報社会はどんな姿になるのだろうか。これに答える前に、表1に示した生物とのアナロジーによって生物にとっての神経系の意味を再検討しよう。生物は神経系の獲得によって何を得たのかを表2にまとめる。
「神経系」により獲得される器官と機能
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システム要素
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神経系をもつ生物
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情報社会
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脳
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機敏な判断力
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分散協調型の新しい社会的意思決定 |
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筋 肉
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すばやい行動力
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?
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感覚器官
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的確な知覚力
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地球的規模による知覚情報の共有化 |
ここで特に強調すべきことは、(1)システム要素が高度に機能分化していること、(2)それらが神経系によって互いに協調的に活動すること――の2点である。このようにただサイズが大きいだけの生きものから、機敏に行動できる質的にまったく異なった新しい生物へと画期的な進化を果たしている。神経系が果たす役割がいかに大きいかが分かろう。
情報社会とのアナロジーを考えると、神経系としてのインターネットの発達は、工業社会を次の新しい「生きもの」へと進化させることに相当していることが分かる。情報社会における「脳」の役割が十分に果たされるには情報公開が不可欠であるが、その上でひょっとして新タイプの直接民主主義の可能性があるかもしれない。「感覚器官」は、バーチャルリアリティによって視覚・聴覚・触覚のデジタル化が可能になってきた。味覚と嗅覚は化学的な技術と情報技術との融合が図られない限りデジタル化される見込みはないだろう。しかし視聴触覚は地球的規模で情報の共有化が可能になっていることに注目したい。
神経系に相当するインターネットの発達は、互いに自律的に活動していた人や組織が太い「神経網」で結ばれることによって、もっと大きな規模で協調的な活動を可能としグローバルな意思決定への道を拓くものである。この意味で、さまざまな既存のボーダーが次第に意味をなくすボーダーレス化は、協調的活動へと向かう兆候として捉えられる。
2. 組織の特性とコミュニケーション
2.1 組織の3つの指標
ここでは組織の定義を次のように行うことにする。
自律的に活動する主体が集まって、互いに協調・競合的な活動を行う結果、全体として自律性をもって回りの環境から区別されるもの。
そもそも組織が存在していることが分かるのは、回りの環境と区別されるからである。
つまり組織にはその回りの環境との間に何らかの境界があることが前提となる。境界がある以上、境界の内側と外側では組織の活動の見え方が異なっているはずである。次に、その違いをまとめよう。
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組織の外部からみると、環境から得た入力を処理し再び環境へと出力する変換機能(「入力−処理−出力」システム)が姿を現す。
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組織の内部からみると、構成要素が活動するための適切な内部環境を提供しその内部環境を保つための保護機能が姿を現す。
外部からみえる変換機能は、組織の機能的側面に光を当てたものであり、第2.2節で述べる組織の強さという指標にかかわる。一方、内部からみえる保護機能は、組織の構成要素や構成要員にとっての環境を与えることから、組織の固さに関わるものである。
組織を特徴づけるには、次の3つの指標がある[堺屋、1996、p.
91]。
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大きさ
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組織の規模をいう。
堺屋は、組織を構成する3つの要素であるヒト、モノやカネと、情報を挙げ、それぞれ量と質、フローとストックを区別している。
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固さ
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組織としてのまとまりのよさをいう。
堺屋は、組織への帰属意識と情報共通性からなるとし、両者の間の競合関係を議論し、固さの追求には両者を同時に達成すべきと言及している。
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強さ
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組織の目的達成能力の強さをいう。
堺屋は、意思決定の迅速さ、命令の実行の確実さ、目的達成のための能力集中の3つを指摘している。
堺屋が指摘したこれらの3つの指標のうち「大きさ」は広い意味で組織の規模のことを指しており分かりやすい。「固さ」と「強さ」については、次の観点からまとめ直すことができる。組織は自律的な存在としての定義(第1.1節)により、回りの環境との境に境界をもつ。この境界を境にして、内側から見たときと外側から見たときの二つの見え方があることになる。外側から見たときの組織の指標は、組織としての機能である目的達成能力の強さである。目的達成能力は組織の外から見たときに組織を評価する基準となるからである。一方、内側から見たときの指標は、組織としてのまとまりのよさである固さとなる。なぜならまとまりのよさを評価するのは、主として組織の内側の構成員だからである。
組織を境界の内側から見るか外側から見るかによって二つの指標、内側から見た固さと外側から見た強さによって特徴づけられる。組織によっては、固さと強さのうちどちらかが突出して大きいものがある。極端に固さが大きくて強さが小さい組織を考えてみると、外部から期待される機能よりも内部のまとまりのよさ、すなわち構成員の満足の方を優先する組織になる。これは共同体(ゲマインシャフト)に相当する。逆の場合は、組織として外部から期待される機能を優先する組織であるから、機能体(ゲゼルシャフト)である。一般には、これらの極端な場合だけではなく、中間的なあらゆる場合がありうるため、組織はその規模以外に固さと強さという二つの指標によって分類される。
2.2 組織の形成原理
組織の形態と規模はいったいどのようにして決まるのだろうか。
これは構造を決定する要因と規模を決定する要因の二つに分けられる。
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「組織運営・管理上の要請」から、階層構造の傾向が生じる。
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「コミュニケーションの制約」から、下位要素(下位者)の統括数と、階層の深さが決定される。
階層型組織とネットワーク型組織の比較の議論から容易に想像がつくことは、大規模な構成要素をもつ組織が完全にネットワーク型組織として収まるとは考えられないことであろう。小規模の場合には、構成員が互いに対等な地位を保つことは可能である。しかし構成員の数が増えるにつれて互いの連絡経路の数は膨大に増える。連絡経路数の増加はコミュニケーションの増加をもたらす。対等性を保つためには対等なコミュニケーションが前提になることを考えると、コミュニケーションをもちつづけることが物理的に不可能になってしまい、もはや対等な地位を保つことが困難になる。このため構成要素の規模が大きい組織においては、組織運営・管理上の要請によって、自然発生的に構成要素の対等性が破れて構造化が促進される。はじめは核となる小さな集団が形成され、次第にその回りに集まり始めていくつかの集団にまで成長する。この創発的なプロセスが繰り返されることによって、階層的な構造が生じるようになる。これは主として組織運営・管理上の要請からくる効果である。
この効果は、組織が共同体であるか機能体であるかにかかわらず、規模の拡大とともに生じるものである。組織の中で階層構造が自発的に現れてくるという意味では、まさに自己組織的な発生現象といえる。こうして多重的に自己相似的な階層構造が現れると、結果として大量の構成要素を収容する能力をもつことになる。
2.3 組織内におけるコミュニケーション
階層型組織の形態は、次の二つの特徴量 (1)上位者ひとり当たりの下位者の統括数、(2)階層の深さ−−によって決定される。これらの二つの要因を決定付けるのは、コミュニケーションの制約である。これには次の二つの特性が関わる。
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構成要素(構成員)のコミュニケーション能力の特性
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組織内で用いられるコミュニケーション媒体の特性
コミュニケーション能力の特性には、言語能力や会話能力などの基礎的なリテラシー能力のほか、問題把握能力や問題発見能力、問題解決能力、プレゼンテーション能力などの総合的な知的能力などが挙げられる。コミュニケーション能力の中に総合的な知的能力を含める理由は、コミュニケーションとは決して刺激-反応的な応答ではないからである。相手との知的なキャッチボールによる関係からなるのがコミュニケーションである。もちろんこれらに構成員の認知的な特性であるマジカルナンバー7によって基本的な制約を受けることは言うまでもない。
これまでのコミュニケーション媒体は、大きく分けると次の二つ (1)対面による音声、(2)書類などの記録を記す紙−−からなる。ここで、対面しての音声によるコミュニケーションには、五感のうち味覚を除いて視覚・聴覚が主たるものとなるが、場合によって触覚(肩をたたく)・嗅覚(二日酔いが臭う)も重要な情報を提供することもある。赤ちゃんとのコミュニケーションや政治家の対面コミュニケーションは極度に近づいて行うものがよく見られるが、これらは五感をもっとも生かしたコミュニケーションの例として挙げられる。
階層型組織が成立すると、トップダウンによる指示系統(あるいは指揮命令系統)とボトムアップによる報告系統が明確化される。いずれも階層構造によって結ばれる上位と下位との統括ルートに沿って行われる。このルートをはずれて指示や報告がなされることは、階層構造そのものを無視することを意味し、それぞれの権限を犯すことになる。このため、組織内では一般に指示系統や報告系統を守らなくてはならないという不文律が存在し、構成員の組織文化として共有されているのが通常である。指示系統や報告系統が容易にしばしば破られる組織は、その当該部署が目指すなんらかの目的を達成するためには合理的ではあるが、組織全体の目的にとっては有害であり組織そのものを損なうものとなる。なぜなら部分の目的は全体の目的とは合致せず、互いに対立する場合が多いからである。一方で、指示系統や報告系統があまりに厳格に守られる組織では、それぞれの権限に縛られすぎてかえって組織全体の目的を損ねてしまうことになる。これらの問題点が発生するのは、階層構造が言ってみればラインしか視野に入れていないことによる。これらを組織の観点から解決するには、組織全体の目的に添った二つの機能
(1)トップに対してブレーンとなるスタッフとしての参謀を配置すること、(2)トップが行う総合調整役を事前にこなす補佐役を配置すること−−が必要である。すなわち、組織管理の観点からは、(1)ラインのトップとしての部門長、(2)部門間調整を担う補佐役、(3)ブレーンとしての参謀−−の三つの機能を明確に区別してそれぞれに適材を選ばなくてはならない[堺屋、1996、pp.
140-142]。
組織において階層構造を保つ役割を果たしているものに、階層構造に付随する権限と情報の量と質のバランスがある。報告系統を例に取って説明しよう。階層構造を上位に進むにつれて多くの部門の報告が集まるため多種多様な情報が上がることになり情報の種類は増える。一方で、詳細な内容は集約されて報告されるため浅い情報となっている。このように上位の方が広く浅い情報であるのに対して、下位では狭く深い情報となっている[堺屋、1996、pp.
257-259]。これと組織上の権限とのバランスが階層構造を保つ要因のひとつである。
紙という媒体が組織におけるコミュニケーションに採用され文書コミュニケーションとして登場してからと、それ以前の対面コミュニケーションだけの時代とそれ以降とでは、組織内コミュニケーションのあり方が革命的に変化した。紙媒体の特性をもっとも有効に活用した組織こそ官僚組織であろう。それまでの標準的なコミュニケーション手段であった対面コミュニケーションの問題点は、その場にいない人に内容が正確に伝わらないことである。これは一言で言うと人間が情報を伝達するからである。情報の伝達は人による情報の解釈プロセスを経てからなされる。このため、あいまいな部分や非合理的とみなされた部分については情報が補われることになり、元の情報とのずれが必然的に生じる。伝言ゲームを思い出せばよい。単純な文でもわずか数人の間を伝達しただけで、似ても似つかぬ情報に変わってしまうことが頻繁に生じる。紙媒体をもちいる文書コミュニケーションを採用することによって、紙媒体の特性である記録性を生かすことができるようになった。これによって文書がフォーマルな指示書・報告書として位置づけられる。そして、指示を明確に記述した文書を伝達することによって、情報の消失や変質、変更を防ぎつつ末端まで正確に情報を伝える[船津、1996、pp.
106-109]ことを可能にしたのである。ここで留意すべきことは、新しい媒体の登場によって古い媒体が一掃されてしまったわけではないことである。新しい媒体の特性によって、新しい組織内コミュニケーションのあり方が生まれ、従来の組織に加えて新しいタイプの組織を生み出すことを可能にしたのである。情報環境による新しいコミュニケーション媒体の獲得は、新しい組織のあり方を拓くものと期待される。
2.4 コミュニケーションにおける物理的制約とその解放
コミュニケーションにおける情報化の役割を物理的な制約という観点から見ると、時間と空間の制約を超えることとみなせる。コミュニケーションの基本的な形を対話や会話によるものとすると、会話のための媒体=音声の伝達に伴う物理的な制約が入り込む。会話が成立しうるのは、せいぜい数メートルから十メートルくらいのものだから、この程度の広さの中にいる人としかコミュニケーションが取れない。これは空間的な制約である局在性を与える。局在性という制約を乗り越える手段としてもっとも親しみのあるのは、電話とテレビである。電話はもっぱら一対一のコミュニケーション手段であるため、マスコミュニケーションとは決定的に異なっているが、同じ場所で集まっていなくても会話ができるところに特徴がある。一方、テレビは代表的なマスコミュニケーションであり一対Nのコミュニケーション手段を提供している。テレビは電波という媒体を用いて、空間的に離れたところへの一斉放送を実現している。コンピュータの利用でこれら両者の特徴を同時に実現しているのが、テレビ会議システムである。一対一でも一対Nでも、双方向的に顔を見ながら会話ができる。
ここまでの例は、付加的な機器を用いない限り同時でなければコミュニケーションできないものであり、時間的な制約として、同時性(同期性)が要請されるものである。。ビデオデッキやカセットデッキなどの付加的な機器を用いることで、同時性の制約を破ることができる。電話の例で言うと、留守番電話がこの機器に相当する。電子メールやホームページなどのインターネットによって実現されてきたインタラクティブコミュニケーションは、まさに局在性という空間の制約と同時性という時間の制約の両者を超えるものである。これらの関係を、コミュニケーション手段の時間・空間による分類として表にまとめる。
コミュニケーション手段の時間・空間による分類
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局在的 |
非局在的 |
| 同時的 |
対話、会話
会議(会話を基本とし、補助手段として文書を用いる) |
電話、テレビなどのマスコミ、テレビ会議システム
集まっていなくても打ち合わせができる |
| 非同時的 |
電子メール
協調すれども会話せず |
ファックス、留守番電話、
電子メール、WWW、インターネットニュース
WWWやグループウェアによる情報共有・協調 |
表の横の「局在的」から「非局在的」への向きは空間の制約を超える方向であり、縦の「同時的」から「非同時的」へは時間の制約を超える方向である。
表でまとめたうち、局在的かつ非同時的に相当するコミュニケーションは、考えづらいものがある。コミュニケーションの観点からいうと範疇には入らないが、協調性をまったく必要としないものとしては、自習室や図書館の閲覧室のように、一緒にいながら別々に作業を行うものが考えられる。協調的な作業を行う場合に限定すると、電子メールを日常的に用いている場合に見られる次のようなことがありうる。同じ部署で同じ部屋で隣り合わせで仕事を協調的にしているが、ほとんどの連絡を会話によらずに電子メールに頼っている場合である。仕事上のコミュニケーション手段の比重が、電子メールに偏りすぎ、対話コミュニケーションによる煩わしさを意識するようになると、このような奇妙なコミュニケーションが見られることがある。
3. 情報環境が及ぼす組織への影響
情報環境が及ぼす組織への影響は、主としてコミュニケーションの特性の変化とそれがもたらす物理的な制約からの解放によって生じる。情報環境によって、コミュニケーションの手段が画期的に広がる。これまでのコミュニケーションの中心であった会話と文書に加え、インタラクティブコミュニケーションが導入される。インタラクティブコミュニケーションによる物理的制約からの解放は、組織にどんな影響を及ぼすかを明らかにする。
はじめに、これまでのコミュニケーションのあり方は対面コミュニケーションが基本である。同じ時刻(同時性)に同じ場所(局在性)に集まって行われる会議を繰り返すことで、現状認識の共有化や問題把握、問題発見、問題解決を行ってきた。この会議によるコミュニケーションには、あまり意識されていないが、かなりのコストが伴うものである。なぜなら、会議は会話と文書によるコミュニケーションを基本としているからである。まず、会話が成立するためには同時性と局在性が要請される。すなわち会議の出席者が同じ時間に同じ場所に集まる必要がある。これらによる目に見えないコストを次にまとめる。
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同時性の要請
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同じ時間を確保するためには、互いのスケジュールをあらかじめ調整する必要がある。これによって参加者の仕事時間を分断し、本来の集中すべき業務の仕事の流れを中断することによって、集中力を低下させ仕事の効率を落とすことになる。ひどい場合には、自宅で徹夜作業をしなくては仕事をこなせなくなってしまう場合が生じる。
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局在性の要請
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同じ場所に集まるためには、移動時間を確保する必要がある。同じフロアやビルの場合ならこの時間的なロスは無視できるが、交通機関を利用しなければならない遠隔地の場合には、数時間から数日のロスになる。これによって上記の同時性の要請による時間の分断による非効率性がいっそう加速される。
これらの問題を解決するには、組織的な対応と個人的な対応とがある。
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組織的な対応としては、意思決定・調整機構を簡素化することであり、
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個人的な対応は、構成員の個人的な犠牲に頼ることである。
いずれもできなければ組織本来の機能が多かれ少なかれ果たされにくい状況に導き、ひどい場合にはマヒさせる結果を生む。これらの非効率性は、単にひとつの会議だけの問題ではなく、組織全体の意思決定そのものの効率と速度を決定付ける重要な要因である。なぜなら、一般に組織における意思決定や調整は、次のように会議の下準備とともに複数の会議によって段階的になされるからである。
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事務局を中心とした下打ち合わせ
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関連部署との予備的な折衝
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会議による検討
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他の会議体への検討へ
以上のように、同時性と局在性の要請からくる仕事効率の低下と移動時間のロスは、会話コミュニケーションを基本とする意思疎通には付き物のコストである。現実には、これらのコストと、組織的な対応と個人的な対応とのバランスによって、組織そのものの問題処理能力が決定付けられている。したがって、インタラクティブコミュニケーションの導入は、同時性と局在性が弱められればこれらのコストが減ることによって、組織としての問題処理能力の増大が期待される。ここで注意しなければならないことは、同時性と局在性の要請からくるコストは表に現れず意識されることがなかったため、その効果が非常に測りづらいということである。
なお、会議を補助する文書コミュニケーションの問題点は官僚組織に特徴的に現れている。これについては[船津、1996、第5章第2節]にまとめられている。
3.1 意思決定の高速化
組織がもつ情報の処理の速度は何によって制約されるのだろうか。
ここでは変換機能において処理速度に大きな影響をもつ情報の創造プロセスを取り上げて考察する。情報の創造プロセスでは、組織内部の構成要素相互が競合・協調的に活動している。このプロセスには、(1)逐次プロセス、(2)並列プロセス−−の二つの種類がある。逐次プロセスとは時間順にしたがって逐次的に進めるプロセスであり、並列プロセスとは分散して各々が並列的に進めるプロセスである。それぞれの特徴と問題点を次にまとめる。
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逐次プロセス
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ひとつひとつの仕事が時間順にしかできないため、完成までの時間を短くするには、仕事の処理スピードそのものを上げるしか方法がない。
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どの仕事からどのような順番で進めるかという戦略をあらかじめ決定しておく必要がある。
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仕事の処理順をうまく決めておかないと完成に至らない場合がある。
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すべて必要な仕事ばかりだとすると論理的には仕事の順によって完成までの時間が変わることはないはずだが、必要な仕事だけを切り出すことができない場合が多いため、現実には仕事の順によって完成に至らないこともよくある。
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途中で仕事が完結しなかった場合、全体の完成度は一般に低くなってしまう。
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並列プロセス
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もとの仕事を複数に分割してそれぞれ別々に処理するため、分散の数を多くするとそれぞれの処理スピードが速くなくても仕事がスピードアップできる。
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仕事をどのように分割するかという戦略をあらかじめ決定しておく必要がある。
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分散して仕上げた仕事を最後にうまく統合する必要がある。
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分割した仕事のどれかが実行困難な場合でも、他の仕事を遂行していくなかで解決策が得られる場合がある。
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途中で仕事が完結しなかった場合も、他の仕事は進められるので、全体の完成度は一般に高い。
現実には、これらのプロセスが混在している場合が多いが、どちらの特性がより生かされているかで情報の創造プロセスを特徴づけることができる。また、ここでは組織の機能のうちで情報の創造プロセスしか扱わなかったが、全プロセスで逐次的に連結されているため、逐次プロセスそのものがもつ問題点が全プロセスにおいても反映されることに留意すべきである。たとえば、情報の解釈プロセスで手間取って時間が取られれば、情報の創造プロセスを高速化しても、全体のパフォーマンスは低下することになる。
組織の処理機能における処理速度の性能を決定づけるのは、情報の創造プロセスにおける並列性である。どれだけ並列性がうまく生かされるような構成になっているかが決定的に重要である。並列性が生かされるためには、複数の構成要素間の情報連携の緊密さが不可欠である。この緊密さを決定付けるのは、情報流通の性能である。したがって、処理速度は構成要素間の情報流通の性能によって決定付けられる。
人の組織の場合には、これまでは情報流通が主として対面コミュニケーションにほぼ限定されていた。対面コミュニケーションを組織内活動で用いると、かなり強い逐次性によって制約される。この制約を解かない限り処理速度の向上は図れない。組織内活動における対面コミュニケーションの問題点を挙げると次のようになる。
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時間的制約
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発言そのものが一度にひとりしかできないことから、この逐次性によって時間順にしか発言できないという時間的な制約を生み出す。このため、会議などで緊密なコミュニケーションを図るには、すべての構成員が発言したいときに発言できる人数で会議が構成されている必要がある。
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空間的制約
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対面コミュニケーションの主たるメディアは生の音声である。生の音声は、せいぜい数メートルしか伝達範囲がない。したがって、会議などで人が集まる場合には、数メートルの範囲で集まれる規模、すなわち数十人までが限界である。
これらの制約のために、従来は組織内におけるコミュニケーションにおいては、すでに指摘したように次のような逐次性が必然的に導入されていた。
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会議室に集合して議題を提示し、意見交換をして、議論の結果、調整し、意思決定を行う。
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構成員は、それぞれの部署や担当場所に分散し、会議における調整結果に基づいて仕事を行う。
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問題が発生すれば、再び会議を招集し、上記のプロセスを繰り返す。
ここで、会議のために集合することが逐次性を持ち込む最大の原因となる。これらの対面コミュニケーションによる制約を取り除く鍵は、対面コミュニケーションにおけるこれらの制約を超越できるインタラクティブコミュニケーションの活用である。
3.2 ストック情報とフロー情報の融合化
ネットワークというインフラが作られることによって、そこには情報が流れる。この意味で、ネットワークとは生物における神経系としての役割に相当する。さてネットワークに流れる情報とはどんなものだろうか。それは文書化され紙やフロッピーディスクで保管されていたストック情報がフロー化してネットワーク上を流れるものと、文書化されずにノウハウなどとしてフローでしかなかった情報がネットワーク上にストックされる情報である。
はじめにネットワークがなければ情報はどうなっているかを考えてみよう。
広い意味で情報ネットワークのない組織においては、会議などによる情報交換以外は、それぞれの部署のなかで情報が局在化している。仕事に関わるさまざまな情報は、担当者の頭の中とワープロのフロッピーディスク、印刷した紙などの資料という形で、当該部署に置かれたままである。もちろんこのうち一部の情報は、会議資料や報告書としてある範囲で公開される。しかし、業務に必要とされるほとんどの情報は、当該部署のなかで保持されたままである。他部署がその情報を必要とした場合は、もっぱら人を介して問い合わせが行われ、口頭や紙資料の提示によって情報交換が行われることになる。ここでも同時性が要請される。担当者がその場にいなければ再び問い合わせをし直さなければならないからである。担当者が下位者の場合にはこの限りではない。伝言によって担当者から連絡をもらうという方法がある。しかし上位者の場合は、伝言は失礼に当たると考えられるため、再度問い合わせざるを得ない。
ここでの情報は、(1)文書として記録保管されるストック情報、(2)文書化はされず担当者の頭の中にノウハウとして収まっているフロー情報−−の二つに分類できる。ストック情報としての文書は、会議資料や報告書などの形で当該部署から出る以外は、基本的には内部情報として扱われる。これに対して、原則として文書化されないフロー情報は担当者固有のノウハウとして属人的なものである。情報化は、ストック情報とフロー情報の双方を電子化しネットワーク上で共有することを可能にする。フロー情報のストック化の例としては、FAQ
(Frequently Asked Questions) などのノウハウのデータベース化による共有化、ストック情報のフロー化には文書の共有化が挙げられる。
ここでストック情報のフロー化における必要条件を検討し、イントラネットにおいて配慮すべき点を議論しておく。現在のストック情報はほとんどがワープロを用いて清書された文書である。これはすでに電子化されているが、共有できるようにはなっていない。残念ながら担当者のフロッピーディスクに保存されているだけである。情報として共有されるためには、次のことが満足されていなければならない。
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文書を作成する構成員がすべてコンピュータを用いること。
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データの形式が標準的なもので他部署の人たちにも扱えるものであること。
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ネットワーク上に蓄積され公開されていること。
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そのデータを検索したり取り扱ったりすることが容易であること。
第1点目は、ひとり一台のコンピュータ環境が整備されていることの必要性である。第2は、データ形式の標準化が必要であることを意味する。それぞれがバラバラのワープロソフトを用いていたりすると、データ形式を変換する必要が生じる。第3点はネットワークのインフラストラクチャが整備され、日常的に作業するコンピュータがネットワークに接続されていることと、それらのデータの公開範囲が定められていることが必要である。第4点は、蓄積されたデータやファイル群の容操作性の保証である。情報へのアクセスの容易性、特に、読み出しとともに編集や更新の容易さが重要となる。インターネットの標準的な技術は、WWW
(World Wide Web) の登場とホームページ閲覧ソフトの開発によって、情報の読み出しを画期的に容易にした。しかし、編集や更新の容易さについては、ホームページ作成と出版の煩雑さをみれば分かるように、そのままではワープロのように簡単には使えない。容易に使えるような仕組みが必要である。したがって、インターネットの標準的な技術を組織内において展開するイントラネット構築においては、第4点目の容操作性への配慮が不可欠である。以上のことがクリアされて初めて、ストック情報がスムーズにフロー化されるようになる。
インターネット技術においては、フロー情報の代表は電子メールであり、ストック情報の代表はホームページといえる。フロー情報としての電子メールをストック化して共有化するには、たとえば特定のメールアドレスに送信した内容を自動的にホームページ化して蓄積させる機能が考えられる。これはCGI
(Common Gateway Interface) によって実現可能である。逆に、ストック情報としてのホームページをフロー化させるには、プッシュ技術の活用がある。これはこれまでのホームページが見に行かないと情報を取れないプル型であることに対して用いられるようになった新技術である。
このようにしてネットワークがあたかも生物における神経網のごとくに進化するためには、ネットワークという神経網の上を、フロー化したストック情報とストック化したフロー情報の両方が流通することによって、組織における情報の共有化が実現されていることと、そのための仕組みとしてイントラネットを構築することが必要である。
3.3 インフォーマルコミュニケーションの拡大
インタラクティブコミュニケーションは、対面コミュニケーションの時間的・空間的な制約を解放する。これは、組織の階層性を壊す効果をもたらす。組織の階層性は、(1)トップダウンの指示系統、(2)ボトムアップの報告系統−−の二つが上位者に集約されていることで保たれていた。これらは、対面コミュニケーションと文書コミュニケーションの制約によって決定付けられてきたものである。ところがインタラクティブコミュニケーションによる制約の解放によって、もはや身近にいる上位者だけとのコミュニケ−ションに限定されることがなくなる。階層型組織における指示系統と報告系統においてなされるコミュニケーションを組織のフォーマルコミュニケーションと呼ぶことにすると、階層秩序の破壊のもっとも顕著な原動力は、インフォーマルコミュニケーションの拡大として現れる。インフォーマルコミュニケーションの拡大には、共同体化を強める向きと、機能体化を強める向きの二つの方向の効果がある。これは、組織の目的に添ってはいるが指示・報告系統から外れるか、組織の目的に必ずしも添うとは限らないプライベートなコミュニケーションかによって決定される。
機能体化(組織の強さ)を強める方向としては、上位者が統括している下位者以外とのインフォーマルコミュニケーションによって、組織の目的に添った組織横断的なプロジェクトなどの活動を可能にすることが挙げられる。動的に機敏な対応を可能にする点で、組織の機能、すなわち目的達成能力の向上が期待される。生物にたとえると、高度で柔軟な情報処理能力を獲得することに相当するため、頭脳の進化に当たるものである。
一方で、共同体化(組織の固さ)を強める方向は、プライベートなインフォーマルコミュニケーションの拡大である。電子メールを例に取ると、メーリングリストを用いて登録者同士の間で頻繁に連絡を取り合い不満をぶつけ合ってある種の合意形成ができてしまうことが挙げられる。この種のメーリングリストでのやり取りは、相手の顔が見えず反応がすぐに返ってこない分、文字コミュニケーションの欠点である過激で思いやりのない表現や一方的な思い込みによる誤解が生じ易いため、組織内で利益を共にするもの同士のひどく偏った合意形成に至る危険性がある。
インタラクティブコミュニケーションの活用においては、これら二つの効果をバランスよく育てる必要がある。電子メールを活用する場合には、特に注意すべきである。そもそも電子メールは個人に付与してきた歴史をもつため、ひとりに一つのメールアドレスしか割り振られないことが多いがこのことは問題を引き起こす。組織の強さを強めることを期待して電子メールの活用を促進しても、ひとり一IDのままでは、指示・報告系統にもとづくフォーマルな発言なのか、まったくプライベートなインフォーマルな発言かが区別されい。これが進むと機関決定に至ったのか愚痴を言い合ったのかが分からなくなってしまう。この弊害を取り除く方法は、電子メールのアドレスを次の二つに分けてそれぞれをひとり二つずつ付与することである。
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フォーマルID
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指示・報告系統で用いるIDであり、組織の構成員としての職責上の立場での公式の発言を行う。
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インフォーマルID
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プライベートな会話に用いるIDであり、公式の発言ではないため発言内容は必ずしも職責には縛られない。
これらのIDは、必ずしもユーザ登録のレベルでひとり2IDを振る必要はなく、エイリアスやメーリングリストでフォーマルIDを設定しておき、インフォーマルIDへ転送する方法でも十分である。
4. 組織の進化の方向
4.1 組織「体格」の進化
対面コミュニケーションの時間的・空間的な制約からの解放は、組織の大きさを拡大することを可能にし、より複雑な組織構成への道を拓く。これを説明するに当たって、はじめに電話が組織の大きさを飛躍的に大きくすることに役立っていることを振り返ってみる。
電話がない組織を考えてみよう。組織の大きさが小さい間は、すべての構成員をひとつの部屋へまとめておくことから始まる。この規模なら、机の間を動き回って対面で情報交換が可能である。組織の複雑化にともなって規模が拡大し始めると、大部屋への移転、同一フロア内へと拡大していくことになる。構成員同士の対面コミュニケーションの制約を考慮すると、最大でも同一ビル内までが限界であろう。ここで電話が導入された場合を考えると、他のビルへの分散が可能になるこtが容易に想像できる。つまり、新しいコミュニケーション手段を獲得することによって、組織の大きさが格段いに成長することが可能になるのである。ちなみに現在の組織の多くは、対面コミュニケーションと文書コミュニケーションに加えて、電話やファックスなどの遠隔コミュニケーションによる制約で、組織形態と組織機能、そしてそこで処理される情報量も含めた組織の大きさが決定付けられている。
インタラクティブコミュニケーションは、対面による同時性・局在性と、電話やファックスによる遠隔コミュニケーションによる同時性の制約を解き放つ。これによって、組織内に流れる情報の質や量の拡大とともに構成員数などの組織規模の拡大を可能にする。さらに硬直的な階層構造だけではなく必要に応じた柔軟でフラットなネットワーク構造によるプロジェクト組織も包含し、組織構成の複雑さの点からも格段に進んだ形態と規模となりうる。これらを生物にたとえるとまさに体格の進化と呼ぶにふさわしいものである。
このようにインタラクティブコミュニケーションの導入は、組織の階層性を壊す傾向をもち、組織の階層構造とネットワーク構造の融合化を促進する。その結果、従来の階層構造は質的な変化を迎えざるを得ない。しかし、階層構造にはやはり必然性がある。組織の大きさが大きくなるには階層構造の収容力が不可欠だからである。すなわち、質的な変化を許しつつも階層構造を形態としては保つための工夫が必要となる。
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指示系統の維持
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プロジェクト的なネットワーク型小組識においても責任者は必要である。ここへの指示系統を保つことで、責任と権限の所在を明確にしておく必要がある。
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報告系統の維持
報告系統を流れる情報へのアクセス権を階層構造にしたがって設定すること。
第2点については、下位者のフォーマルコミュニケーションのすべてを報告系統に流れないように配慮すべきである。たとえフォーマルコミュニケーションであってもそのすべてを報告系統によって上位者がアクセスできるようだと、フォーマルコミュニケーションに本当の意味での形式的な報告しか流れなくなり、実質的なコミュニケーションがインフォーマルコミュニケーションの方へ逃げてしまうことになるからである。つまり、上位者には広く浅い情報、下位者には狭く深い情報となるように、複数のメーリングリストなどで情報の質と量をバランスさせておくべきである。
4.2 組織「頭脳」の進化
情報環境の整備によってインフォーマルコミュニケーションの拡大が進展すると、組織の強さとともに固さも大きくなる可能性をもつ。ここでは強さに着目すると、従来の階層構造で包含していた以外とのフォーマルコミュニケーションによって、より幅広い情報の共有化が図られる。情報の共通性が高まることによって、これまで単一の部署や一担当者に局在していたノウハウの共有化も可能になる。これは問題解決能力を向上させる可能性をもつ。
さらに問題解決能力の前提として重要なことは問題発見能力である。これは現状をどう認識できるかという能力に関わっている。現状認識の能力は次の二つのプロセスからなる。
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現状の分析から問題の発見
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現状の分析を行い、問題を発見するためには、情報をさまざまな観点から捉えて扱う能力が必要である。
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問題の発見から問題の再構成
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問題を把握することとは、みずからの問題意識に基づいて問題を整理しなおして再構成することである。
第2の点は、そもそも経験に基づいた問題意識の要請が前提となるため、ここでは第1の点について、能力を高めるための支援方法を考える。情報をさまざまな観点から捉えて扱うためには、柔軟に情報を取り扱える必要がある。ここではイントラネットにおける情報の容操作性に限定して検討してみよう。
イントラネットにおいてホームページを情報共有の基盤と考えた場合、ホームページ上で柔軟な情報の操作性が実現されている必要がある。このためには現在のようなHTML
(Hyper Text Markup Language) によるハイパーリンクの設定だけでは不十分である。なぜならハイパーリンクによるページへの記入は編集時に固定されてしまい閲覧時に柔軟に変更できないからである。たとえば、あるディレクトリにリンクが貼られていた場合を考えると、そのディレクトリのなかに収納されているファイル群を任意のファイル属性でソートしなおすだけの柔軟性が求められる。Java言語などによる実装を期待したい。さらに、文書ファイルの場合は、その中の構造を検知して任意のレベルで閲覧できる柔軟性が望ましい。このような文書構造にまで踏み込んだ閲覧操作を行えるためには、XML
(eXtensible Markup Language) などの文書構造の標準化技法が有効であろう。
このようなイントラネット上での容操作性が実現され、問題発見能力を支援する仕掛けがあってはじめてエンドユーザコンピューティング(EUC)による問題解決能力にまで高めることができるだろう。これらの能力を獲得したあかつきには、生物でいう頭脳の進化に匹敵する事態に相当しよう。
4.3 組織「知覚」の進化
生物は内的な能力だけをいくら進化させたとしても有効に機能することなくすぐに退化してしまう。組織においても同様である。回りの環境からいかに刺激を得るかが重要である。このためには次の二つの段階で環境との相互作用を考慮する必要がある。
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内から外へ情報を公開する。
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外から内へ情報を収集する。
ここで外部の環境とのチャネルとインタフェースが重要である。対外的にどれだけ適切な働きかけができるか。外部からどれだけ敏感に情報を取り込めるか。このためには、(1)情報公開の原則と規律を組織内部であらかじめ確立しておくこと。公開の規律に従えば、公開レベルを設定するだけで簡単に公開できる手軽な仕掛けが実装されることが必要である。現在のホームページの出版操作のような面倒な手続きを経なくても手元で電子化した情報がホームページ上で一元化され、さらにフロッピーディスクに保存する程度の手軽さで公開できることが望まれる。(2)情報を収集するためのあらゆるチャネルを増やすこと。批判をも甘受して批判にさらされる覚悟を決めた上で、ご意見箱や投書などのネットワーク版の機能を実装して運用することが必要であろう。これらの経験を通してはじめて生物でいう知覚の進化に相当する機能を持ちうる。
これらによって問題発見能力の増大に寄与するものと期待される。
5. 最後に
高等生物は体格、頭脳、知覚が三拍子揃って進化している。組織においても生物と同様にこれらの三つがバランスよく成長するよう十分な配慮が必要である。その結果、次のような効果を生み出すことができれば、生物が進化するように組織も進化的な大ジャンプを果たし新しい種類の組織へと成長することになろう。
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機敏な意思決定ができる。
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環境変化に機敏に対応できる。
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質の高い支援業務が展開できる。
組織の進化には、神経網に相当するインフラストラクチャとしてのネットワーク設備と、神経網に流れる質の高い情報を保証するイントラネットシステムが不可欠であろう。
参考文献
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[本川、1992] 「ゾウの時間 ネズミの時間(サイズの生物学)」、本川達雄、中公新書、No.1087、中央公論社、1992年。
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[大岩他、1996] 「知の技法のための人間・社会・コンピュータ」、大岩幸太郎・阪井和男・二宮智子、弘学出版、1996年、1,800円、ISBN4-87492-092-6。
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[堺屋、1996] 「組織の盛衰(何が企業の命運を決めるのか)」、堺屋太一、PHP文庫、PHP研究所、1996年、580円、ISBN4-569-56851-3。
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[船津、1996] 「コミュニケーション入門(心の中からインターネットまで)」、船津
衛、有斐閣アルマ、1996年、1,700円、ISBN4-641-12019-6。
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[阪井、1997] 「情報文化におけるインターネットの意味と方向」、阪井和男、情報文化学会第5回全国大会講演予稿集、pp.
32-35、1997年11月8日、情報文化学会第5回全国大会、東京工業大学。 http://www.isc.meiji.ac.jp/~sakai/res/academy/jics/jics97-article.html
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[山下、1998] 「マルチメディア時代の人間と社会」、山下利之編、日本出版サービス、1998年。