step04 脳と心の化学 脳内物質について

step03 人間における情報処理 伊藤正男の脳科学の単元で学んだように、人間のは複雑な神経回路網によって構成された一種のデジタルコンピュータと考えられる。ただし、それだけでは実は、脳の一面を捉えたに過ぎない。脳はそれと同時に、さまざまな化学物質の働きによって作動する一種の化学プラントでもあり、さらに、化学プラントとデジタルコンピュータをつなぐアナログコンピュータとしての性格も併せ持っている。要するに私たちの脳はそれぞれ性格の異なる仕組みからなる3層構造なのである。しかもどの仕組みにおいても、化学物質(分子)の働きが決定的に重要である。したがって、この単元では、脳内で働き、私たちの知・情・意に影響を及ぼす脳内物質または神経伝達物質の視点から、化学的に(科学的にではなく)脳を解き明かすことによって、私たちのの根源に迫る。前の単元と併せてこの単元を学ぶことで、私たちの脳の理解はますます精密になるはずだ。
そこで、化学的視点から脳と心を語った、図4-1のテキストを元に、著者の論旨を再構成して、講座資料として用いる。

図4-1: 大木幸介『脳と心の化学』(裳華房・1993年)
本書は、以下のように3章から構成されている。この講義では前章を取り上げるが、伊藤正男先生の著書に比べ、同じ内容が各章に登場したり、関連する事項が離れたところで扱われるなど、引用した文章をページ順に配列しただけでは、趣旨が分かりにくい。そこで、テーマを3つだけに絞り、それぞれのテーマに関わる内容を順不同に引用した上で、文章を一部改変していることをお断りしておく。


目次

第1章 脳と心の化学
(テーマ:心は原子、分子から化学的に創られる)
第2章 心の病気の化学とその薬
(テーマ:心の病気は分子病であり、多くは薬で治療できる)
第3章 脳と心の化学とトレーニング    
(テーマ:分子レベルから脳と心はトレーニングできる)
現代に生きるわれわれが脳内物質について知っておいた方がよいのは、純粋にの問題だと考えがちなことも、多くは物質的なメカニズムによって起きていることを理解するためであり、さらには心や気分をかなりの程度まで物質的な手段でセルフコントロールできるようになるからである。そもそも、身体とまったく関係のない「純粋な心の問題」など存在しないだろう。

第1章 脳と心の化学

テーマ:心は原子、分子から化学的に創られる

私たちの脳は、図4-2に示すように3層構造をなしており、協調しながらも、それぞれの層が独自の仕組み、独自の化学物質(以下、単に分子と呼ぶ)によって動作している。この単元の内容を、あらかじめ表4-1にまとめておく。

図4-2: 脳の3層構造

表4-1: 3層の脳の役割と仕組み

働き 構成/部位 神経細胞 神経伝達物質 内容
デジタルコンピュータ
大脳新皮質
有髄神経
秒速100m
アミノ酸
(グルタミン酸、GABA)
神経回路網がを構成する
アナログコンピュータ
大脳辺縁系
無髄神経
秒速1m
カテコールアミン
(DA、NA、A)
脳幹と全脳をつなぐAB神経系がを構成する
化学プラント
側坐核そくざかく扁桃体へんとうたい・視床下部
ホルモンを分泌するを兼ねた肉の脳 ペプチド、脳内麻薬 3つの特別な脳が意(やる気・根性など)を構成する

本章の内容(1-7節 まとめの要約)
人間の心は知・情・意からなる。知・情・意を創る化学物質は、人体を構成するタンパク質が分解していったものである。つまりペプチド(短いタンパク質)、アミノ酸アミン(アミノ酸を1工程分解した毒物)である。
そしてはアミノ酸によって、はアミンによって、はペプチドによって創られる。
知・情・意が創られる場所と仕組みは? まずは、大脳辺縁系に属する3つの特別な脳

が創る。これらは心の源泉であり、上位の大脳で昇華され、意欲、意志となって人間の心を主導する。
つぎには、脳の全体的なムードだが、脳の中心部の脳幹から全脳のすみずみにまで広がった、原始的な無髄神経(AB神経系)によって、全脳的に醸成される。
最後には、大脳新皮質の神経回路網(ニューラルネットワーク)の配線によって、つまり学習によって創り出されるので、原則的に化学の問題から離れる。

以下は、第1章からの引用である。


脳幹にはその中上前部に、視床下部(ヒポタラムス)という原始的な特別な脳があって、食欲、性欲など欲一般を出す。
しかし次章で詳しくのべるが、脳幹から全脳へ整然と、広く細部にまで分布している原始的な特別な神経(AB神経系)があって、脳幹を中心に全脳的に情を出させている。
pp.8

しかし、小脳は運動機能だけ、すなわち筋肉の収縮運動だけを正確、厳密に微調整する脳である。
pp.9

この大脳新皮質の部分が人間の心を創り出すのであるが、直接心を創り出す部分は大脳新皮質の前部で、前頭葉といわれる部分の前2/3(前頭連合野)である。
pp.14

大脳辺縁系は情動すなわち喜怒哀楽を出し、情や感情の源を作るという重要な脳であり、心の源泉になるムードを作る。一方、大脳辺縁系と全く同じ性質の脳、大脳基底核は大脳の運動系に属し、運動系の情動すなわちムードというものを出させる。
pp.15

さらに快感、特に人間だけの至高の快感もこのようなAB神経系の一つA10神経によって創られ、人間も動物も、本能的に楽しく幸福に、行動し、生活していけるのである。
pp.16

無髄神経の電流速度は速くて約1m/s程度であるが、有髄神経になると約100m/sにも達するようになる。
pp.23

シナプスは神経の情報を変換し、脳コンビュータの活動性、作用性を決定する重要なところである。しかも、脳の病気を生じるところであり、同時に脳の薬が効くところでもある。
pp.29

このようなことから、人体の場合、原始的な無髄神経の神経伝達物質としては猛毒のアミンが使われ、
進化した有髄神経の神経伝達物質としては、主として最もありふれたアミノ酸、グルタミン酸と、それを酵素によって1工程分解した変形のアミノ酸いわゆるGABA(γアミノ酪酸)が使われる。
グルタミン酸は興奮性に、GABAは抑制性に働くだけである。 pp.30 心の根源として重要なDA=ドーパミンNA=ノルアドレナリンA=アドレナリンはまとめて化学名でカテコールアミンと呼ばれる。 pp.47 この人間を人間たらしめ、心の源になる重要な分子はドーパミンといわれ、DAと略称される。
特に情の中でも重要な快感、すなわち気持ちがよいということはこのDAで作られる。その上、人間の創造性も、後でのべるようにこのDAで作られる。創造するということは気持ちがよいのである。 pp.34 激怒したときにはNAが脳や全身で多量に分泌され、NAは怒りのホルモンといわれる。これに対して、驚いて強い恐怖を感じたときにはAが多量に分泌され、Aは恐怖のホルモンといわれる。 pp.45 [NA]の第ーの作用は、人間でも動物でも、微量分泌され、脳を覚醒させて活動、行動させることである。
もしNAの脳内での分泌が減少すれば、元気を失い、憂鬱ゆううつになり、うつ病となる。逆にNAが脳内で分泌されすぎると、元気になりすぎて、騒がしい躁病となる。 pp.48

本章の最後に、神経細胞(ニューロン)の基本構造の図を4つ、まとめて掲げておく。


 A)神経細胞(ニューロン)   B)シナプス部分の拡大図

 C)興奮(インパルス)伝導の仕組み    D)有髄神経と無髄神経の違い
図4-3: 神経細胞(ニューロン)とシナプス部分の構造

第2章 心の病気の化学とその薬

テーマ:心の病気は分子病であり、多くは薬で治療できる

本章の内容(2-6節 まとめの要約)
心の根底は、分子によって化学的に活動することがわかり、この分子の活動異常が心の病気であり、それは薬という分子によって治療される。むしろ薬によって心の病気が治療できることから、心の根底が分子の活動であることがわかってきたのである。
人間の脳の活動、その中でも精神系の活動を全体的に、アナログ的に活動させるA10神経を人間の脳の神経の代表として選ぶ。その末端部シナプスはヴァリコシティ構造を作る(図4-4参照)。そこには、再吸収をするトランスポーターと、神経伝達物質の負のフィードパック・コントロールに働くオートレセプターがある。

図4-4: 無髄神経に特有のヴァリコシティ構造
(図で省略されているオートレセプターは余分な
神経伝達物質DAを末端部に回収する仕組み)
この場合、アナログコンピュータに属するA10神経は、デジタルコンピュータに属する抑制性のGABA神経に接続し、簡単に言えば、心と前頭連合野の創造性とをつないでいる。
興味あることは、GABA神経の末端部に麻薬レセプターがあることである。この麻薬レセプターに麻薬モルヒネや脳内麻薬が結合して作用すれば、GABA神経による抑制を取り、A10神経が自由に活動し、快感、覚醒を生じる。創造性が飛躍的に高まる一方で、麻薬中毒を生じる危険もある。
こうした図4-4のような脳内神経のシステムが脳内には各種あって、脳を駆動し、心を醸成している。そのうち、A10神経とギャパ神経の系は精神系に局在し、心、なかでも情の醸成に重要な働きをする。
このシステムに生じた異常が、ある種の精神病ストレス病である。だが、基本的には神経伝達物質の分泌異常だから、薬という分子で治療できる(ただし対症療法)。
心の根底は、人間の脳だけに多く働くドーパミン(DA)というベンゼン環そのものともいえる神経伝達物質によって醸成される。そしてその異常が心の病気を生じさせ、それゆえドーパミン分子に似たベンゼン環やそれに似たヘテロ環(異項環)をもった分子が良好な薬になるのだ。
以下は、第2章からの引用である。


このようなことから、情の異常による病気、たとえば精神病、ストレス病は、脳内分子の行動異常によって生じる一種の分子病である。したがって、このような病気は、分子である薬によって治しやすい。
pp.56
    
神経の細胞部分である細胞体(セル・ボディ)は数万個(通常は2万個)が集まって、神経核という径数㎜の小さい脳ともいえる集団を作っている。この神経核が数十個、脳幹に沿って上下に4列、整然と並んでいるのが発見されたのである(図4-5参照)。
pp.58

図4-5: AB神経系とその細胞体の分布
(後に発見されたC1~C3も含めてAB神経系と呼ぶ)
きて、AC系列は全脳へカテコールアミンを分泌し、覚醒、快感を生じさせ、全脳を活動させる覚醒中枢である。一方、B系列はAC系列の覚醒による抑制のきかない急激な活動を抑えて調節する調節系であり、最後には睡眠に導<睡眠中枢でもある。
ここでは,これらの神経をまとめて、AB神経系と呼んでいくことにする(このうち、人間精神にとって最重要なA10神経の経路を、図4-6に示す)。 pp.60
図4-6: A10神経の通過経路
(情を司る脳幹から出発し、知と創造性を司る
前頭連合野や大脳新皮質をくまなく通っている)
まずA10神経の異常な過剰活動DAの過剰分泌を生じ、精神分裂病(統合失調症)を生じる。
興味あることは、人間だけの特徴ある優秀性、創造性も、次章でのべるようにDAの過剰分泌によって生じる。
このことは、精神分裂病と創造的な天才の深い関係、すなわち天才と狂人は紙一重ということを示している。実際、精神分裂病まで進まない精神分裂病的な気質、分裂気質の人に創造的な天才、創造的な芸術家が多いといわれている。 pp.63 は化学物質であり、分子である。一方、神経において分子が主として作用するところはシナプスであり、そこで情報伝達に働く分子が神経伝達物質である。 pp.65 また、最も原始的な脳である視床下部(欲の脳)では神経伝達物質として、主としてタンパク質を分解したペプチドといわれる小型のタンパク質が使われる。しかもこの場合、神経がペプチドをホルモンとして分泌する。この現象は神経分泌(ニューロセクレション)といわれる。 pp.68 精神病は今までのべてきたように、人間の脳における原始的な裸電線の無髄神経であるAB神経系の過剰活動、あるいは活動不足によって生じる。したがって精神病の治療薬は、AB神経系の活動異常を補正すればよいことになる。 pp.74 標的細胞の表面細胞膜にあるレセプターに薬が直接結合し、神経伝達物質、たとえば、カテコールアミンの作用を遮断し、強力精神安定剤として効くことがわかった。 pp.76 ストレスとは異常な刺激によって脳と心のバランスが崩れることであって、人間の脳が人類発祥の時代にあわせて作られている以上、現代とのズレを生じることは仕方のないことである。 pp.80 脳全体としてアナログ型コンピュータが組まれている。それによって、人間の精神系では心の中の情、感情が作られる。したがって、情はデジタル型の言語では表現しにくい。 pp.84 一方、ギャバ神経は抑制性神経であり、全脳を微妙に抑制し、コントロールしている。それが脳内のところどころで不足すると、抑制不足で異常放電を生じ、てんかんを生じる。したがって、睡眠剤(バルビツール酸誘導体)もBZ剤も、よい抗てんかん薬となる。
このようにストレス病や不安と治療薬の関係が分子レベルで解明されてくると、これから逆算して、現在、不安を生じる不安物質(たとえばカルボリン化合物)まで、ある程度推測できるようになりつつある。 pp.89 このようなペプチドが現在20種ほど発見されている。このような分子はその作用から体内麻薬、体内麻薬様物質、脳内麻薬、脳内麻薬様物質などと呼ばれるようになった。 ここでは、簡単に脳内麻薬と呼ぶことにする。 pp.94 覚醒剤は第二次大戦中、兵士が覚醒し、戦意高揚させるために合成された簡単な化学構造の薬である。 pp.96

第3章 脳と心の化学とトレーニング

テーマ:分子レベルから脳と心はトレーニングできる

本章の内容(3-5節 まとめの要約)
人間の脳と心の働きが大部分、化学物質、すなわち分子の働きによるものであると分かった。したがって、有用な分子をより多く分泌し、有害な分子をより減らすような脳のトレーニングを考えることができる。
人間の3つの脳のトレーニングとは、

である。 知的トレーニングは、知が大脳新皮質の神経回路網の配線によって形成されているのであるから、つまり教育の問題であり、化学だけでは解決しない。
分子的トレーニングは、人間の脳内の細胞に分子的記憶をさせるトレーニングであり、創造的トレーニングは、人間の脳だけにできる創造性を高めるトレーニングである。

分子的トレーニング

これこそ、いわゆるトレーニングであり、訓練であり、鍛練である。常に、繰り返し錬成する必要があるのは、それは分子的記憶によるからであって、分子的記憶は、常に訓練を続けていないと忘れてしまうからである。これが分子的トレーニングの辛いところであり、苦しいところである。
また、分子的トレーニングはなるべく幼少時からおこなわなければならない。このことは現在の飽食の時代には難かしいことである。それに応じるように最近、ハングリー精神がしきりに叫ばれている。

創造的トレーニング

特別な創造ができる人間だけのトレーニングであり、快感・覚醒を生じさせる特別なA10神経によって賦活ふかつされる。このため創造は常に快感を伴い、創造と快感は表裏の関係にある。
しかも、この創造は人間だけに、人間だけの大脳が急激に発達して、巨大化し、人間の脳全体のバランス、負のフィードバック系、すなわちホメオスタシスが失われ、生じたのである。したがって、創造は異常な過程であり、常に危険を伴っている。
創造性のトレーニング 5カ条
心が知・情・意で一体のように、これら3つのトレーニングは一体としてトレーニングされることが重要である。
知的トレーニングが長い教育の過程によって十分におこなわれるのに対して、情的・創造的トレーニングと意的・分子的トレーニングは、それほど特別におこなわれてはいない。これをどうするかは、脳の解明とともに、それを基礎にして緊急に考えていかなければならない問題である。 以下は、第3章からの引用である。


それゆえここでは、この遺伝的記憶が分子の表面に記憶されるということから、分子的記憶(モレキュラル・メモリー)と呼ぶことにする。そして、これはまさしく化学的過程である。
これから具体的にのべるように、人間の精神力といわれる根性でもやる気でも、すべてはこの分子的記憶に依存して合成されてくる。
pp.105

とにかくPOMC(プロオピオメラノコルチン)というタンパク質分子が合成され、適当な酵素によって分解されると、鎮痛作用が強しあらゆる面で精神的ストレスをとるエンドルフィンと、炎症・アレルギーをおさえ、あらゆる面で身体的ストレスをとるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が同時に、等量合成されてくる。
(それによって)忍耐力から根性ができるのである。 pp.110 神経細胞だけは他の細胞と異なり、胎児のうちに分子的記憶がない予備の細胞を何百億個と多数作っておき、成長とともにそれに分子的記憶を作り、それぞれの個性を作って使っていくのである。 その神経細胞は一生かかっても、1割ほどしか使われないといわれる。したがって神経細胞だけはトレーニングしなければ、無意味な細胞であり、それだけに神経細胞にとって分子的トレーニングは重要である。 pp.112 人間の脳を含めて脳を覚醒させ、活動させるためには、まず全身的な筋肉を収縮、緊張させ、運動させる必要がある。 pp.114 やる気の素といえるペプチド(小型タンパク質)のホルモンがある。TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)といわれる。
TRHを小動物(マウスやヒヨコ)の脳内に微量(1マイクログラムほど)、直接注射すると、軽い麻酔で眠らせていた小動物はむっくりと起き上がり、まっしぐらに走り出す。 pp.115 以上のようにやる気から根性、精神力は脳内のペプチドホルモンによって、強力に醸成されることがわかった。そこで、このような精神力をどのようにして活動させるか、そのトレーニング、特に分子的トレーニングについて考えよう。 さて、やる気にしても根性にしても、精神力を根底的に活動させるものはペプチドホルモンであり、トレーニングはそれを増加させるだけでよい。TRHが増えればやる気はでるし、POMCが増えれば根性ができる。 pp.121 その理由はこれから詳しくのべるように、前頭連合野の活動を最適に調節し、コントロールしているフィードバック(正しくは負のフィードバック)の歯止めが外れてしまったからである。
1981年、アメリカのエール大学医学部の精神薬理学者ロバート・H・ロス教授を中心とした研究グループは画期的な実験結果を発表した。
この実験結果は、心を直接つくり出す前頭連合野と、その近傍の脳(前部帯状回と側頭葉)だけへ向い、快感、覚醒を生じるA10神経だけに、オートレセプター(自己受容体)を欠くという画期的な実験結果であった。
このことから著者は、過剰活動によって試行錯誤し、創造性の発揮ができると考えたのである。ではどうして、この人間を人間たらしめる最も重要な脳だけにオートレセプターが欠け、過剰活動できたのであろうか。 pp.127 このことは前にのべたように、天才と狂人は紙一重ということであり、天才的芸術家に分裂気質の人が多い。そしてこの事実から、人類は多少の危険を伴わないと、進歩できなかったのではなかろうか。 pp.130 各種の運動競技のような勝つという目的をもった場合には、それに引きずられて、人間の脳は勝つための特別な活動をしてしまう。このため、ゆっくり落ち着いて、何でも考える肝心な創造的トレーニングができなくなってしまい、創造性については、かえってマイナスな効果になってしまう。 pp.130

付録:主な神経伝達物質

グルタミン酸
  • 非必須アミノ酸の1つ。体のどこにでもある。
  • 有髄神経で使われる。
  • 興奮性の神経伝達物質。
ギャバ(GABA: γ-アミノ酪酸)
  • 有髄神経で使われる。
  • 抑制性の神経伝達物質。
ドーパミン(DA)
  • カテコールアミンに属し、猛毒。
  • 楽しい気分のとき分泌され、前頭葉を刺激する。
  • 前頭葉は創造性と深く関わっており、独創性のあるアイデアが生まれやすくなる。
  • 減少すると、パーキンソン病になりやすい。
ノルアドレナリン(NA)
  • カテコールアミンに属し、猛毒。
  • 副腎から血液に放出される神経伝達物質兼副腎皮質ホルモン。
  • ストレス・ホルモンの 1 つであり、脳幹で解放され、脳に影響を及ぼす。
  • 怒りのホルモンと呼ばれ、激怒したときには脳や全身で多量に分泌される。
アドレナリン(A)
  • カテコールアミンに属し、猛毒。
  • 副腎から血液に放出される神経伝達物質兼副腎皮質ホルモン。
  • 恐怖のホルモンと呼ばれ、驚いて強い恐怖を感じたときには多量に分泌される。
アセチルコリン
  • カテコールアミンに構造が似ているため猛毒だが、すぐ加水分解されて無毒になる。そのため、無髄神経でも有髄神経でも使われる万能性を持つ唯一の神経伝達物質である。
  • 運動神経(有髄神経)と筋組織との接続部でも使われている。
  • 副交感神経を刺激し、脈拍を遅くしたり唾液の産生を促す。
セロトニン
  • 人体に約10mg 存在し、うち2%が脳内に分布している。
  • 脳波がα波(アルファ波)やθ波(シータ波)の状態に入る手助けをする。
  • 減少すると、うつ病になりやすい。うつ病の治療薬にSSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害剤がある。
β-エンドルフィン
  • 快楽物質の別名で知られる。
  • モルヒネに似た作用を持ち、哺乳類の脳や膵臓などに存在する。
  • ランナーズ・ハイは、β-エンドルフィンの作用であると考えられている。

参考: