レイモンド・カーヴァーの未刊の作品
越川芳明
1988年にカーヴァーが50歳であの世に逝ってしまったとき、「あまりに早すぎる死」と書いたことがある――数年後に中上健次も、46歳の若さで亡くなったのだ。ふと気づくと、あれからもう10余年がすぎ、自分もその年齢に近づきつつある。他人事ではない。おまけに、こちらは残すべき仕事もやってないので、背筋がぞっとする。
それはともかく、こんど10年ぶりに、カーヴァーの未収録の作品を集めた本が出た。"Call If You Need Me: The Uncollected Fiction and Other Prose by Raymond Carver"(Vintage Books)である。
こんど初めて収録されたのは5つの短編で、面白いのは、その発見のプロセスだ。詩人で妻のテス・ギャラガーによる「まえがき」によれば、テスは1999年に『エスクァイア』誌のベテラン編集者にわざわざワシントン州ポート・エンジェルの自宅まで来てもらい、机の中にしまい込まれた原稿やメモを整理したのだという。テスはカーヴァーが死んでから10年間、机の中をまったくいじらなかったようだ。それで、このときふたりは未刊の短編を三つ見つけた。すなわち、"Kindling"と"Vandals"と "Dreams"である。これらはベテラン編集者の当初の計画どおり、まずカーヴァーの10周忌の特別企画として『エスクァイア』に掲載された。七〇年代後半にカーヴァーが辣腕編集長ゴードン・リッシュに見い出されブレークするきっかけとなったのが同誌だったことを思えば、何かの因縁というしかない。
一方、同じ年に、カーヴァー狂いの学者夫妻ウィリアム・スタルとモリーン・キャロル(このおたく夫婦は気合の入りかたがホンマにすごいで)がアイオワ州立大学の図書館で、箱に入った原稿を調べていて、やはりカーヴァーの未刊の2編――"Call If You Need Me"と"What Would You Like to See?"を発掘した。こちらは、テスによれば、80年代の初めに書かれたもののようだ。
さすがにこの5編だけでは商品にならないので、出版社はすでに出版済みの初期の頃のエッセイやら書評などを一緒に収録した。これって、けっこうおいしい商売やね。 『エスクァイア』2001・05