家族小説の形を借りて米国社会の病理に迫る

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』

 

これはブラックユーモアの毒をたっぷりまぶした、抱腹絶倒の"家族小説"である。 と同時に、グローバリズムの時代における米国の社会的病理に迫る小説でもある。 ひと世代上の作家で言えば、アップダイクとバースを足して2で割った感じだ。 登場人物やプロットを重視する伝統的なリアリズム小説とポストモダンの技巧とが加味されていると いう意味で。

物語としては、最も保守的といわれる中西部の白人の中流家庭をモデルに、親子の世代間ギャップ、 夫婦の不和、嫁姑問題、子育てのトラブル、老後の病気と介護などが浮き彫りにされる。たとえば、 中西部の田舎町に住む老人アルフレッドとその妻イーニッドの抱えている問題は、夫の病気 (パーキンソン病、うつ病、痴呆症)と、妻の強迫観念(クリスマスのパーティを自宅でひらき、 孫たちと過ごしたい)であるが、一方、東部の都会で暮らす長男ゲイリーの抱えている悩みは、 妻と母の確執であり、料理や子育てや休日の過ごし方をめぐる夫婦間の意見の不一致であり、 かれ自身が気づいていない病気(アルコール依存症、うつ病)である。どれもややこしい問題ばかり だ。

著者は、夫婦や親子といった社会の最小の構成単位を使いながら、米国社会の全体の病巣を もえぐりだして見せる。たとえば、金銭や性に関する倫理観では"堅物"といえるほどに潔癖な アルフレッドだが、癒しがたいほどの人種差別的な先入観に毒されているとか、米国社会特有の 拝金主義(消費主義中心の社会では、金がないといかに惨めであるかということ)の悪弊も、 父の特許を安くだましとったベンチャー企業にインサイダー取引まがいの手口で投資して儲け ようとする、なりふり構わない息子のゲイリーの姿などに見てとれる。

これは笑って読める米国社会の物語だが、ランバート一家と似たような問題を抱えているのは白人 層だけでなく、日本人も同じなのではないか。だから、これを他人事といって済ませられないぞ、 とぼくは考えた。

『時事通信』12月20日、『山口新聞』2002年12月30日ほか。