近赤外光を増強するナノ粒子の合成と細胞内物質センシング

金属をナノサイズまで小さくすると、物性が大きく変化します。金色である金を粒径5nmのナノ粒子にすると、写真のように赤くなります。金属の自由電子の平均自由行程(数十nm)よりも粒径が小さいので、物性が変化することは分かると思います。金ナノ粒子が赤く見えるのは、ナノ粒子に閉じ込められた自由電子の振動が緑色の光の周波数と一致して、緑色の光が吸収されるからです。共鳴する光の光電界と、自由電子の振動による電界が重なり合って、金属ナノ粒子表面に局在した増強電界が生じます。この現象を表面局在プラズモン共鳴といい、光電界の増強率は数十〜数百倍になります。このような金属ナノ粒子を、間隙を空けて配置すると、更に増強電界同士が強め合い、数万倍の増強率を示すホットスポットが形成されます。


金ナノ粒子分散液の写真と電磁波と金属ナノ粒子の電子の共鳴振動.


近赤外光を増強する粒子の構造とヘモグロビンと水の吸収スペクトル.

表面に局在した増強電界を利用したバイオセンサーの開発が行われていますが、それらは可視光を用いたセンサーです。図のようにポリスチレンナノ粒子表面に、ホットスポットが形成されるように金属ナノ粒子を敷き詰めると、近赤外光が増強されます。近赤外領域は、ヘモグロビンと水の光吸収スペクトルの谷間に位置して、比較的生体透過性の良い波長域です。近赤外光は、X線ほど透過性は良くないですが、光毒性が低く、生体に優しい電磁波です。このような近赤外光を増強する金属ナノ粒子の集合体を粒子表面上に形成することで、その粒子を細胞内や生体内に導入することができます。そして、生体透過性の高い近赤外光を用いて、細胞内や生体内の特定の物質量を、リアルタイムで光センシングすることを目指しています。

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