書評 西川伸一著『楽々政治学のススメ』五月書房

  大久保健晴『明治大学広報』2007年10月1日号「本棚」欄

 本書は、国家論の観点から現代日本の政治構造に鋭いメスを入れてきた気鋭の政治学者による、政治学入門の書である。

 「明治大学の卒業生で、オリンピック男子マラソンで金メダルをとった『日本人』って誰? 」「なぜ今、日本のクワガタが危ないの?」「どうしてJR大船渡線の路線図はいびつな形なの?」

「小難しいばかりが政治学じゃない!」という副題の通り、身近な疑問やエピソードを題材にした、平易なエッセー風の文章を読み進めていくなかで、読者は知らず知らずのうちに政治学の基礎知識を身につけていく。

 しかし、独自の収集資料と深遠な国家論に裏付けられた本書はまた、単なる入門書の枠に止まらない広がりをも有している。そしてその反時代的ともいえる批判精神によって貫かれた現代国家分析の極北に、政治という名の「麻酔」に抗するための「政治的距離感」と「判断力」を我々はいかに身につけることができるかという普遍的な思想課題が立ち現れる。

 政治学を初めて学ぶ方はもとより、政治学の「今」を知りたい人にお薦めしたい好著である。

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