井田正道 書評・西川伸一『官僚技官』(五月書房、2002年)

      * 『明治大学広報』2002年4月15日号「本棚」欄

 本書は著者の『知られざる官庁・内閣法制局』(五月書房)に次ぐ官僚制研究の第二弾である。官僚というと、一般に事務方のイメージが強く、技官を連想することは少ない。ところが、国家1種試験で採用される者のうち、技官は事務官のおよそ1・5倍にものぼっている。省庁の中でも技官の数がとりわけ多いのが農林水産省と国土交通省であり、両省で採用されている「土木技官」は「技官の中の技官」ともいわれている。著者はとりわけ技官と公共事業の関係に注目する。事務官はゼネラリストであるのに対し、技官はスペシャリストであり、換言すればつぶしがきかない。各省の技官は他者の干渉を決して許さない「独立王国」を形成し、いわば「専門家支配」を確立しているという。また、技官は組織の既得権益が奪われそうになると体を張った抵抗を見せ、これが無駄な公共事業の一因となっていると論じている。最近よく使われる「抵抗勢力」という言葉が連想される。著者は官僚制のなかでも国民からみえにくい内閣法制局や技官に焦点を当て、一般向けの書を著した。行政国家といわれるこんにちのわが国においては、国民からは中央省庁のベールに包まれた部分が多く、昨年来の外務省に対する国民の強い憤りをみると、行政不信が政治不信をも上回っているのではないかとさえ感じさせる。他方で行政の情報公開が一つの潮流であるが、本書を読んで研究者も行政脳実態を情報公開する役割を担っていることを認識させられた。



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