シェフィールド便り(4)全館禁煙のホテル!

   西川伸一  * 投書で闘う人々の会『語るシス』第4号(1998年10月)掲載

 シェフィールドとマンチェスターの間をペナイン山脈(Pennine Chain・注)が貫いていて、この地方一帯を「ピークディストリクト(Peak District)」という。国立公園に指定され、ちょっとした観光地である。7月中旬、そこを訪れた。

 着いてさっそく観光案内所で、イギリスおなじみのB&B(Bed and Breakfast・朝食付きの民宿)を捜すことにした。予算やベビーベッドの有無を確認した結果、「ローズリース・ホテル」というB&Bを紹介してもらった。

 そのやりとりの中で印象深かったのは、案内所の職員が喫煙について尋ね、「吸わない」というと、さらに、禁煙の客室があるホテルと全館禁煙のホテルがあるが、どちらにする、ときいてきたこと。「えっ、全館禁煙のホテル?」残念ながら、そのときどう答えたか記憶にないが、結局、全館禁煙のホテルに泊まることになった。それが先のホテルである。

 とはいえ客商売、喫煙コーナーくらいあるのだろう、とタカをくくっていた。が、掛け値なしの全館禁煙であった。そのホームページ(URL:www.roseleighhotel.co.uk / E-MAIL:enquires@roseleighhotel.co.uk)にも「We are a no-smoking establishment.」と出ている。この国の「禁煙文化」の厚さに気づくきっかけになった。その日英比較をしてみると、、。

 日本のタバコには、箱の肩のところに「あなたの健康を損なうおそれが/ありますので吸いすぎに注意しましょう/喫煙マナーをまもりましょう」(/で改行)と小さな字で書いてある。一方、こちらでは、空き箱をいくつか集めてわかったことだが、箱の正面の下にズバリ「TABACCO SERIOUSLY DAMAGES HEALTH(タバコは健康に大変有害です)」と刷り込まれている。裏面の下にも「タバコを吸うとXXになります。」このXXの部分が箱ごとにまちまちで、ガンだったり心臓病だったり致命的疾病だったりする。これをみながら紫煙をくゆらすとどんな気分だろうか。

 公共交通機関での禁煙は徹底している。ロンドン行きインターシティ(都市間特急)の場合、8両編成で喫煙車両は最後尾の普通車1両のみで、その他は一等車を含めて全席禁煙である。デッキもだ。バスでの禁煙は当然。タクシーにも「NO SMOKING」というステッカーがはってあるのをときどき見かける。

 他の場面ではどうか。こちらの友人によると、人前で吸うときはその許可を求めるのが礼儀だし、会議での禁煙は当たり前。妊婦の前では絶対に、また食べ物が置かれているところでもまず吸わない。テレビ、ラジオでのタバコのCMは法律で禁止されている。

 タバコの値段は高い。たとえば、「マールボロ」は10本入り一箱が1ポンド73ペンス(約400円)もする。買うにもパブを例外として自動販売機はなく、対面販売。レジには決まって「16歳未満にタバコ類を売ることは法律で禁止されている」と掲示がある。イギリスでは、日本でいえば高校1年生が合法的にタバコをふかせるのだ。これには違和感を覚えてしまう。

 いずれにせよ、「禁煙文化」も民度の反映にちがいない。わが勤務先の会議風景を思い出してしまった。嗚呼!


 注・日本の高校生が使う地図帳では「ペニン山脈」となっているが、誤読である。現地ではみな「ペナイン」と発音している。教科書でもこの記述のあるものはやはり「ペニン」。文部省はなにを「検定」しているのだ。

 *脱稿後、成田エキスプレスは全席禁煙であることを知った。やればできるじゃない!


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