『電車男』を耽読した正月休み

   西川伸一  *『Quest』第35号(2005年)編集後記

☆本号より編集長を務めることになりました。ふつつか者ですがよろしくお願いします。前々編集長の池田祥子さんの指摘どおり、「相乗的」に豊かにしあえる場、「民主主義」の深化の場に本誌がなることを念じています。それはまた、平岡厚さんの言葉を借りれば、「さまざまな立場の人たちが(中略)討論を行う」文化を尊重することだと考えます。

☆正月休みには「今世紀最大の恋愛小説」として売れまくる『電車男』(新潮社)を読んで初笑い。年齢=彼女いない歴の22歳の青年がインターネットの掲示板に恋の指南を求め、「仲間たち」の熱血(?)指導のもと、ついに彼女をゲットするというストーリー。

☆掲示板上のことゆえ、「電車男」も「仲間たち」もお互いの本名はおろか、顔や素性も一切わからない。赤の他人のために、必死で書き込みをするおかしさ。「電車男」のデート報告に「キター」と即応し、「次の一手」をいっしょに考えてやるのである。

☆書き込み特有のことばづかいには辞書が必要なほど。「濡れ」は「俺」、「乙」は「お疲れ」、「毒男」は独身男性など。「互助」の精神といい独自の言語といい、掲示板には、すでに独自の文化をもつ「公共空間」が形成されているのではないか。「便所の落書き」との評もあるが、このパワーは軽視できない。ネットへの情報発信強化を求めるゆえんだ。ノシ(またね、という意)


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