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『老子』抄

第一章より
 「道」とみなせる道は、本当の道ではない。名づけることのできる「名」は、本当の名ではない。名が無い状態が天地の始めであり、名が有る状態が万物の母である。まことに「永遠に欲望が無い者には『妙』が見えるが、永遠に欲望にしばられる者には末端しか見えない」。この両者は同じものから出てくるにもかかわらず、名を異にする。この同じものを「玄」と言う。玄のまた玄なるものは、衆妙の門である。

[Taoism、非即の論理・即非の論理、etc]




価値観と差別の起源

第二章より
 天下の人がみな美が美であることを知る。これこそ、みにくいことだ。みなが、善が善であると知る。これこそ、不善なことだ。まことに、有無は互いに生じ、難易は互いに生まれ、長短は互いにあらわれ、高下は互いにはっきりし、音声は互いに和し、前後は互いにくっついている。それゆえに聖人は、無為の事におり、不言の教えを行うので、万物は働かされても労苦を厭わない。聖人は作っても所有せず、為しても恩を着せず、功を立てても居座らない。そもそもはじめから居座らぬからこそ、その地位を去ることもないのだ。

[ヒトに於ける『美人』の発生、ゾロアスター教と善悪の概念の発生、etc]




不仁の仁

第五章より
 天地には仁がない。万物をワラで作ったイヌのようにあつかう。聖人には仁がない。人民をワラで作ったイヌのようにあつかう。天地のあいだは、ちょうど、ふいごのようなものと言えよう。空虚であると同時に無尽蔵であり、動けば動くほど出てくる。多言であるとしばしば窮する。「中」を守るのが一番である。

[現代科学の真空観、トルストイの寓話、Let it be、人間原理の宇宙観、etc]




谷の神

第六章より
 谷神(こくしん)は死なない。これを玄牝(げんぴん)と言う。玄牝の門、これを天地の根と言う。綿々と存続するようであり、いくら用いても尽き果てることはない。

[ヨニ/リンガ信仰、陰陽石、etc]




身の引きぎわ

第九章より
 満ちた状態を持続させるのは、やめた方がよい。刃を鋭くしても、その状態は長くは保てない。黄金や宝玉が堂宇に満ちれば、守りきれない。富貴で傲慢になれば、おのずと咎(とが)を残すことになる。功を遂げたら身を退けるのが、天の道である。

[豊臣秀吉・毛沢東の晩年、美しく老いる、etc]




道徳発生の原因

第十八章より
 大道が廃れ、仁義があらわれる。知恵が出て、大偽があらわれる。六親が不和のとき、孝子があらわれる。国家が混乱するとき、忠臣があらわれる。

[ブレヒトの英雄論、etc]




宇宙誕生以前の自然

第二十五章より
 ある「物」が混成し、天地に先だって生じた。それは寂寞(せきばく)寥々(りょうりょう)として、独立不変、周行しても力が衰えることはなく、この世界の「母」となることができた。私たちはその名前を知らないが、仮に「道」というあざなを付ける。しいて名前をつければ「大」と言う。「大」は「行く」ことであり、「行く」ことは「遠ざかる」ことであり、「遠ざかる」ことは「反る」ことである。それゆえ、道は大、天も大、地も大、「王」も大である。世界に四つの「大」があり、「王」はその一つを占めている。人は地にのっとり、地は天にのっとり、天は道にのっとり、道は「自然」にのっとる。

[創世記、「周行」=うずまき宇宙観、自然=ジネンとシゼン、etc]




戸外に出ることなく

第四十七章より
 戸外に出ることなく天下を知り、窓からのぞかずに天道を見る。出てゆくことが遠ければ遠いほど、知ることは少なくなる。それゆえ聖人は行かずに知り、見ずして名づけ、為さずして成る。

[情報戦、etc]




無為を為せ

第六十三章より
 無為を為せ。無事を事とせよ。無味を味わえ。小を大とし少を多とせよ。怨みに報いるのに徳をもってせよ。困難は安易なところで解決を図れ、大事は細部で成し遂げよ。天下の難事は必ず簡単なことから起り、天下の大事は必ず些細なことから始まる。それゆえに聖人は、最後まで大事を為そうとせず、だからこそ大事を成し遂げる。およそ軽々しく承諾する者は必ず信用が少なく、安易に考えることが多いと必ず困難が増す。それゆえ、聖人でさえ困難とすることがらはある。かつ、だからこそ、最後は困難がなくなるのである。

[蒋介石の対日賠償請求放棄宣言、etc]




柔よく剛を制す

第七十六章より
 生まれたばかりの人は柔弱であり、死ぬと堅強である。生きている草木は柔脆(じゅうぜい)であり、死ぬと枯れて固まる。ゆえに堅強なものは死の仲間であり、柔弱なものは生の仲間である。これゆえに、兵器は強すぎると勝てないし、木は強すぎると折れる。強大なものは下にあり、柔弱なものは上にある。

[五重の塔の重構造、M4シャーマン戦車のエンジン・シャフト、etc]




小国のすすめ

第八十章より
 国を小さくし民も少なくしよう。軍隊の兵器はあっても使わないようにさせ、民に死を重んじて遠くに移動させぬようにしよう。舟や車はあっても乗ることがなく、鎧や兵器があっても陳列する機会もないようにしよう。結縄(けつじょう)を復活させ人間を無文字時代に帰らせ、自分の食事をうまいと思い、自分の服を美しいと思い、自分の居場所に満足し、自分の日常を楽しむようにさせ、隣の国どうしが互いに見えて鶏や犬の声が互いに聞こえても、民が死ぬまで国境を往来することがないようにさせよう。

[ユートピア、縄文の矢じり・弥生の矢じり、etc]




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