研究紹介
研究紹介
固体物理学研究と核磁気共鳴
• 固体物理学とは?
我々の身の回りにある物質は様々に異なっています。電気的性質に注目すれば、銅のように電気をよく流す「金属」や、ガラスやプラスチックのように電気を流さない「絶縁体」まで様々です。こうした物質ごとに異なる性質はどのようにして現れているのでしょうか。これをミクロな視点から明らかにするのが、固体物理学(solid state physics)と呼ばれる物理学の一分野です。
物質は全て、原子や電子といったミクロな粒子によって構成されています。これらの粒子は勝手気ままに運動している訳ではなく、1023個にも上る多数の粒子が互いに力を及ぼし合いながら複雑に絡み合って運動しています。 こうした多数のミクロな粒子の振舞いの違いが物質の持つ様々な「個性」の起源です。 固体物理学とは、電気が流れる・流れない、磁石に付く・付かないといった、我々が目にすることのできる物質のマクロ(巨視的)な性質が、原子や電子といったミクロ(微視的)な粒子の状態とどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とした学問です。
• 物質の磁気的性質 ~鉄が磁石に付くのはなぜか~
• 核磁気共鳴(NMR)とは?
物質の磁気を調べるための実験手段はいろいろありますが、我々の研究室では核磁気共鳴 (nuclear magnetic resonance, NMR)と呼ばれる手法を利用しています。
原子の中心に存在する原子核も実はミクロな磁石であり、磁気モーメント(核磁気モーメント)を持っています。 核磁気モーメントは電子の持つ磁気モーメントに比べて極めて小さく、物質のマクロな磁気にはほとんど寄与しません。しかし、電子磁気モーメントとの間に存在する相互作用のために、電子の状態によって原子核の状態が変化します。(磁石の近くに別の磁石を近づけるとその向きが変わるのに似ています。)これを利用して物質中の電子の状態を調べるのがNMRです。
共鳴条件の式 ω = γH から次の2つのことが分かります。1つ目は、核磁気回転比γが原子核の種類(元素)によって異なるため、磁場Hが一定であれば吸収される電磁波の角振動数ω(NMR周波数)も原子核の種類によって異なるということです。このことを利用すれば、物質に何種類かの元素が含まれていても、調べたい元素の共鳴条件に電磁波の周波数を合わせれば、物質中のその元素近傍の状態だけを選択的に観察することができます。固体のように隣の原子が約0.3 nm (1 nm = 10-9 m)という近接した距離にあっても大丈夫です。これがNMRの特徴の一つです。
もう1点は磁場Hの内訳を考えることで理解できます。磁場Hは外部から加えた磁場(外部磁場)と、電子と原子核の相互作用の結果生じる「内部磁場」と呼ばれる寄与からなります。電子の状態が変われば内部磁場も変わり、それに応じて共鳴周波数 ω も変わります。したがって、共鳴周波数 ω の変化を観察することで、電子の状態や環境の変化を追跡することが可能になります。 NMRではこのことを利用して物質中の電子の状態を探っているのです。(以下随時加筆の予定)